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第五十一話 だーく・ないとさん

「盗人、とは聞き捨てられぬな」


ギリナデス皇帝が、振動剣(ヴァイブロ・ブレード)を、魔王へ、じゃなかった、暗黒騎士(ダーク・ナイト)さんに、突き付ける。


「他人のものを、さも、自分のもののようにして振る舞うこと、これこそ盗人の所業と言わずしてなんといおうか」


ダーク・ナイトさんが、やれやれと肩をすくめるゼスチャーをする。


「余らを侮辱するか?」


「ふん。侮辱ではなく事実を指摘したまでだ。盗んだゴーレムと、魔法発動機(デバイス)はそこに置いて、どこへなりとも失せよ」


小者は相手にしない、という風な感じで、ダーク・ナイトさんがギリナデスを軽くあしらっている。

私はその隙に、倒れて意識を失っているカミーナのところに駆け寄り、その容態を調べる。

……ふう、よかった。気を失っているだけみたいだ。


私は周囲を見回した。

相変わらず、ダーク・ナイトの周りを四体のアイアン・ゴーレムが囲んでいる。

だが、ダーク・ナイトはなんら怖じ気づく気配を見せてはいない。


「我は慈悲深い。ゆえに、我の道具を間違って使用したものであれば寛大にも許そう。……そのような心持ちでそなたたちに接しておるつもりだが、我の好意を無にし、あくまでも我に楯突く、ということであれば、面倒ではあるが、そなたらの罪を処断せねばならぬ」


そういって、ダーク・ナイトはアイアン・ゴーレムたちを睥睨(へいげい)した。

その兜の隙間から、赤い鬼火のようなものがゆらゆらと揺らめくように感じたのは、その放つ闘気ゆえであろうか。


「そうか。あくまでも余たちを愚弄するのだな。……よし、やれ!」


声に怒気をはらませ、ギリナデスが部下達に命令をくだす。

今までは、あくまでも私たちが逃げないように見張っていただけの部下たちに命令を下した。

すなわち、遊びの時間は終わりだと判断したのだろう。

……だけど、もう、なにもかもが遅すぎる。


「ぐっ! なんだ!」

「おいっ! どういうことだ!」

「くそっ! くそっ!」


命令を受けたアイアン・ゴーレムたちが、ダーク・ナイトを始末しようと動きだしたものの、ダーク・ナイトに攻撃をしかけようとした直前、攻撃をしかけようとした、その動きを止め、皆、土下座をするかのような格好、駐機姿勢を取り、動かなくなってしまった。


「やはり、そこの真銀(ミスリル)のゴーレムは、制御装置を取り外しておったか」


ダーク・ナイトさんは、なにやらうむうむと頷いている。


「な、なぜだ! なぜ、余の装甲人形(アームド・ドール)たちが、そこの者にかしずいている」


「もともとオリジナルのゴーレムには、その制御用魔法陣の中に、(あるじ)を攻撃しないための機構が組み込まれているのだ。まあお前のゴーレムのように、完全にその制御装置が切られてしまっていては意味はないがな。……そして、制御装置がまだ使われているのであれば、その制約が有効なのは当然だな」


大剣を大地に突き刺し、腕を組みながら、ダーク・ナイトさんが優しくネタバレをしてやっている。


「……だが、『主』だと。こいつらの主ということは……ま、まさか……」


そこで、後ずさる、ギリナデス。


「き、貴様! ま、まさか、魔お」


「ダーク・ナイトだ」


待ったのジェスチャーをしながら、ダーク・ナイトさんが断乎とした声音で宣言をする。

そうですよね。あなたは、謎の暗黒騎士さんですよね。わかってますよ。


ダーク・ナイトさんがたまにこちらをちらちらと振り返るので、微笑みながら、サムズアップを返しておいた。


「……ふん。ダーク・ナイトだか、なんだか、知らぬが、部下が役に立たぬのであれば、余、自らが直々に引導を渡してくれる! 死ねえ!」


ギリナデスは振動剣を右から左からと、次々に繰り出す。

慣性があるので、大剣は扱いづらいはずなのに、なんらその重心を崩すことなく、左右から剣で切り続けている。

剣技も、ゴーレムの操縦技術にも、卓越したセンス、天性のものを感じる。

……だが、並みの人間相手ならば、そのアイアン・ゴーレムの力と、彼女の天才的戦闘センスとで、敵はいなかったであろう。

しかし、残念ながら相手はあの魔お、じゃなかった、ダーク・ナイトさんだ。

私は、ダーク・ナイトさんに、一つお願いをすることにした。


「ダーク・ナイトさん。人死にはダメですよ。そこに座っている赤い騎士さんは生かしておいてくださいね。あとで、色々と使えますので」


「うむ。承知した」


「もう、勝った気でいるのかあああっ!」


裂帛(れっぱく)の気合とともに、ギリナデスが振動剣を大上段に構え、振り下ろす。

そして、振動剣を振り切ったポーズで、残身(ざんしん)をとっている。


「……あきらめろ」


ダーク・ナイトの言葉と同時、振動剣が粉々に粉砕され、ギリナデスのゴーレムの両手が、その根本から大きな音を立てて、地面へと切り飛ばされ、落ちていった。

ダーク・ナイトの動きはまったく見きれなかった。


「……ふ、ふふ。……ふふふふ。……あはははは!」


「……」


頭のネジが、どこか緩んでしまったのか、ギリナデスが哄笑(こうしょう)を続けている。


「強い! 貴様、強いな! 余がここまで、苦戦をしたのは初めてであるぞ!」


ギリナデスが、アイアン・ゴーレムにて、器用にバックステップをして、ダーク・ナイトとの距離を開ける。


ダーク・ナイトは、肩に大剣を担ぐ感じで、ただ、それを目だけで追っている。


「そなたは強い。強すぎる。もう、そなたを人間の範疇にいるとは判断せず、ある種の化物と判断する」


そして、ダーク・ナイトから十分に距離をとったギリナデスのゴーレムは、ダーク・ナイトを正面に向け、右膝を立てた形で、その場にしゃがみこんだ。

そして、その真銀(ミスリル)の装甲が、乳白色に光りだす。


「個人相手に、ここで切り札を使う羽目になるのは、誤算であったが、もういい、死ね!」


ギリナデスが、咆哮をあげる。


ダーク・ナイトの方向には、私とカミーナ、それにギリナデスの部下たちもいる。


「あ、あんた、部下も一緒に巻き込んで殺すつもりなのっ!」


「無能はいらぬ。まとめて死ね!」


ギリナデスが、操縦席にて複雑な印を、両手を使って結んでいる。


「……天空をさ迷える星の子らよ。我の召喚に応じ、その姿を表せ! 粉砕せよ! 『隕石召喚(メテオ・ストライク)』」


ギリナデスの魔術が完成すると同時、真銀の光が眩いばかりに光輝き、アイアン・ゴーレムのお腹の辺りに、何重かの魔方陣が浮かび上がる。

そして、その魔方陣により、音速をはるかに越える速度に加速された隕石のかけらが、打ち出された。

あんなのが飛んできたら、直撃をせずとも、その衝撃波だけでも、致死のダメージが与えられそうだ。


「だ、ダーク・ナイトさん!」


「ふむ。なるほど。魔力が足りないのを、真銀を魔晶石がわりにして補っているのか。しかし、それだと、魔力総量は少なくなるとおもうのだが」


なにやら、ぶつぶつと呟いているダーク・ナイト。


「って、ま、マオールさまあああ! ど、どうにかしてええええっ!!」


沈着冷静に長時間の思考に入ってしまった魔王を正気に戻すべく、心の底から叫ぶ。

というか、ど、とうにかして!


「まあ、そうだなー。『解呪(ディスペル)』」


なんでもないかのように、ダーク・ナイトが手を伸ばし、隕石の弾丸に触れた瞬間、先程までの熱風や轟音が嘘であるかのように、森の中に静寂が充ちた。


「な、なん……」


ギリナデスのゴーレムは魔力が尽きたのか、膝を立てた姿勢のまま、ピクリとも動かなくなった。


「……だから、我はマオールではない。一介の騎士。ダーク・ナイトだ」


こちらを意味深に見つめてくるダーク・ナイトさん。

はいはい。もうそれでいいです。


戦意を喪失したのか、ギリナデスは、動かない。

そして、ギリナデスの部下たちも、両手をあげながら、地面に正座をしている。

まあ、あれだけのものを見せつけられて、まともに闘おうという気持ちは沸いて来ないだろうなー。


私は傍らのカミーナを優しく揺すってみた。


「う、うう……。あ、ソニ、むぐっ」


「まあまあ、カミーナ。落ち着いて。私はアインスでしょ。いくら、私が今回もソニヤ姫の影武者として活動しているからって、もういいのよ」


とりあえずカミーナの口を塞ぎ、目だけで会話をしておく。

い、い、か、ら、あ、わ、せ、て。

コクりと頷くカミーナ。


「……さて。ダーク・ナイト様。お助けいただいて、ありがとうございました」


そういって、ペコリと頭を下げる。

ダーク・ナイトは鷹揚(おうよう)に手をふってきた。


「なに、礼には及ばぬ。我の財物を回収にきただけなのでな」


なんとなく、声が弾んでいる。たぶん、今、どや顔で言ってる。


不躾(ぶしつけ)な話で恐縮なんですが、実は、ここにいるゴーレム以外にも百体以上まだいるみたいでして、なんとかならないものでしょうか?」


「百体……」


言外に面倒くさい、というニュアンスが漂ってくる。先程までのやる気はどこにいきました?


「……認めぬ」


「……え?」


どこからか声が聞こえてきたのだが、一瞬なんのことかわからなかった。


「……認めぬぞ!」


赤い騎士が、ゴーレムから飛び出してきて、ダーク・ナイトに斬りかかる。


「……ふっ」


だが、次の瞬間、赤い騎士の鎧と剣は全て消え去り、赤い髪の美少女が裸で、ダーク・ナイトに抱きかかえられていた。


「貴様のような可憐な女には、剣ではなく、花を愛でるが良かろう」


そんなキザなことをダーク・ナイトが言うと同時に、どこから取り出したのかわからないが、花を一輪、ギリナデスの手にそっと渡した。

さすがに、今、そんなことやっている暇は……。


「……はい」


頬を赤らめながら、全裸のギリナデスが、その花を受け取っている。

……って、あれ?


「ふっ。これを羽織るがよい」


ダーク・ナイトは懐から、外套と思わしきマントを取り出すと、ギリナデスにかけてやった。

ギリナデスは、ただ、ぽーっと、ダーク・ナイトを見つめ続けている。


「では、アインスよ。じゃなかった、女よ。我をナビゲートするがよい」


「あー、はい。わかりました」


目の端に、何人かの部下たちが帰ってきたのを確認する。


「じゃあ、カミーナ。あとのことは任せたわよ」


「承知いたしました」


「お待ち下さい、ダーク・ナイト様! 私も、私も連れて行っていただけないでしょうか」


ギリナデスが潤んだ目でダーク・ナイトを見つめている。

そして、ときたま、凄い目で私の方を睨み付けてくる。

え? ちょっと、怖いんですけど。


「……うむ」


そう、頷き、ダーク・ナイトが、左右の腕で、私とギリナデスを抱えた。

なんとなく、荷物として、持たれているようで釈然としない。


「では、行くぞ!」


「わわわわ……」


「はい! ご主人様♥️」


なんか、隣からえらく可愛らしい声が聞こえたぞ、と思ったところで、大空へと私たちは飛び立った。


なんとか、更新できましたー。

次回で、パプテス王国内乱編終了の予定です。たぶん。

来週更新できるといいなー、と。

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