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第四十八話 ごーれむってなに?

「む。襲撃された? どこがだ?」


「はっ。何者かがその。……中央研究所を。……その」


先日、パプテス王国の銀輪騎士団を圧倒的な力でもって屠り、装甲人形(アームド・ドール)の力、彼女が駆動する愛機『黒竜号』ーー皇帝専用の真銀鋼(ミスリル)にて強化された鋼鉄人形(アイアン・ゴーレム)ーーの力を見せつけたダライ・トカズマ帝国皇帝のギリナデスは、部下からの血相を変えた報告に対して、きれいな形の眉ねをよせた。


「中央研究所、か。被害状況は?」


「……申し上げにくいのですが」


「言え」


「……はっ。……ぜ、全滅です。特に痛かったのは、工作機械(マザー・マシン)が全て。……その」


「破壊されたのか?」


「はっ……」


力なく項垂れながら、報告をする部下。


「……そうか。わかった」


そこで、目をつむり、怒りを抑えるギリナデス。だが、抑えきれなかった怒りが、手の中で(もてあそ)んでいたペンをへし折る。


「どこの組織にやられた?」


「……申し訳ありません。陛下。その……実はまだ、しっぽがつかめておりません」


「馬鹿者! 急ぎ、調査せよ! それと、国に残している装甲人形師団は、ただちに残りの研究所の警護にあてろ」


「はっ、ははー」


そういって、脱兎のごとく部下は駆けていった。


「これで、我が国が所有する製造装置はおおよそ半分になったか。……このタイミングでの介入となると、『約定(プロトコル)』関係。最悪、魔王軍が動いているな。……こちらも牽制がてら、早いところ動かねば」


ギリナデスは素早く、現状での損得を計算し、まだ、計画に大きな破綻がないことに満足をした。


◆◇◆◇◆


「えーと。今のゴーレム部隊の話は本当?」


「はい。ソニヤ様。各地からもたらされる情報を纏めますと、間違いないみたいです」


「う、うーん」


各地に放った斥候からの情報を、カミーナがまとめて報告をしてくれた。

今回の内戦の規模としては、パプテス王国の国王側として、正騎士団に地方諸公の軍、それに傭兵を合わせて六万。それに私たちシュガークリーからの援軍が四千。

対する王弟軍は諸公の寄せ集め軍と傭兵とで二万、それにダライ・トカズマ帝国からの増援の第一波として、騎馬を中心とした一万らしい。こちらの増援の人数は時間がたつにつれて増えるみたいだ。

ここまでならば、まあ、私たちに有利な状況といえなくもない。


でも、耳を疑ったのは、その相手の軍隊の数ではなく、彼らが魔法人形(ゴーレム)を百体近くも従軍させていたことだった。


「ゴーレムっていうと、あれよね。魔法で動かす人形」


「そうですね。古代魔法帝国の時代の遺跡なんかで、たまに、遺跡を守護するモンスターとして出会いますね。よく見かけるのは、魔法によって自律的に動く石像人形(ストーン・ゴーレム)木造人形(ウッド・ゴーレム)などですね」


「じゃあ、今回相手をするのは、そういった、遺跡でよくみるやつなの?」


「それがどうも違うみたいなのです。今回報告がされたのは、どうやら人間が動かすゴーレムみたいです」


「人間が動かせるゴーレム?……って、すごい! うまくすれば重機みたいに使えるじゃない」


「重機?」


「あ。……いや、なんでもないわ。うん。でも、そうか、人間が操るゴーレム。ロボットね」


なんだか、頭の中に、ロボットアニメのワンシーンが浮かんでくる。


「で、私たちにそんなのを相手にできるの?」


「そうですね。私が父上の修行の一環として探索した、そういった遺跡程度のゴーレムならばまあ問題ないように思います。……しかし今回の相手は人間が動かし、武器を持ち。さらには、鉄の鎧まで着ているみたいでして、どのような戦いになるのかは、ちょっとよくわかりません」


なんとまあ。どこのガ○ダム、ボト○ズ、アヴ・○ムゥだ、と。

ロボットもののセオリーだと、こちらも同じものを用意できれば互角に戦えるし、相手の戦術を全部知っているような軍師がこちらにいればきっと弱点を教えてくれる。


「じゃ、じゃあ、どうやって対応するの? パプテス王国の皆さん、どうするって? こちらも何か用意する? ゴーレム用意できる?」


「……策は検討する、とのことでしたが、とりあえず必勝の信念による騎馬による突撃、巨大投石器などの攻城兵器を試す、とのことでした」


「……う、うぇ?……そ、そう」


根性で勝てるような相手ではないと思うけどなあ。それに、動く相手に攻城兵器って……。


「ね、ねえ。カミーナ。私たちは後ろの方にいてもいいのよね。ね?」


「? はい。もとより、私たちは本陣近くの警備が担当でございますが」


「あ。うん。それならそれでいいんだけど」


負けそうになったら、真っ先に逃げないと。

私がシュガークリーの威信を背負うにも限度がある。私はこういった荒事にはそもそも向いていないのだ。

そんなことばかり考えてしまう私は、やっぱり武人ではなく、文民だから仕方がないよね。ね。


◆◇◆◇◆


「お。今度の施設は鋼鉄人形(アイアン・ゴーレム)が入り口を護っているな」


「やはり、前回の教訓から護衛の戦力を高めたみたいですね」


魔王の何気ない感想にゼクスが頷きつつ答えた。

ダライ・トカズマ帝国の港湾都市の一角にある軍事施設。

近くには帝国軍の駐屯地もあり、事を起こすと兵士たちがぞろぞろとやってきそうだ。

施設を外側から覗きこみ、十体近くのアイアン・ゴーレムが警戒にあたっているのをみて、どうやら、事前情報は間違いはなかったことを確信する。


「ぜ、ゼクサイス様、いかがいたしますか? わ、私たちの戦力だけですと……」


シルフィが恐る恐る具申した。

彼女は今日は帝国内で諜報活動に携わっていた部下である特殊陸戦隊の隊員七名を率いている。


「大丈夫ですよ。僕たちが、彼らを引き付けますので、あなたたちは、内部の情報収集にあたってください」


「前のところは設計図面の情報ばかりだったからな。しかもショボい設計図ばかり。今回こそは、もうちょっと面白い情報が見つかるといいんだがな」


わくわくしたように言う魔王。


「我輩。そろそろ飽きてきたので帰りたいのであるが」


「そんなこと言わずに少しは手伝え。責任の一部には適当な管理をしていたお前のところの部署にも責任があるんだからな」


「なぜ、我輩が部下の尻拭いを……」


ぶつぶつと呟いているヘイシル。


「皆さん。よろしいですか?……では、行きます」


にこやかな笑顔のまま、ゼクスが、アイアン・ゴーレムに向かって疾走した。

凄まじい速度、まるで弾丸のようだ。


尋常ではないスピードで走ってきた影に気づいたアイアン・ゴーレムの操縦者が、警告の声を上げた。


「て、敵襲!」


叫んだアイアン・ゴーレムは、近づいてくる人影に向かい、その手に持つ、巨大な鉄製の戦斧を躊躇なく叩きつける。


ゼクスは手に持つ、巨大な両手持ちの戦鎚(メイス)でもって、その戦斧の一撃を受け止める。


「なっ!」


さすがに、ゼクスのその人間離れした芸当に、驚きの声を上げるアイアン・ゴーレムの操縦者。


「さて。どれだけの耐久力があるか、試させてもらいましょうか」


そういってゼクスは、笑みを浮かべたまま、くるりと一周身体を回転させると、勢いをつけつつ、戦鎚を両手でもって、ゴーレムに叩きつけた。


「うわぁぁ!」


すごい勢いですっ飛んでいくアイアン・ゴーレム。軍事施設の硬い壁にぶつかり、あたりにすごい音を轟音を鳴り響かせた。

だが、しばらくすると、壁からゆらっとと立ち上がる。


「なかなかに頑丈(タフ)ですねえ」


ゼクスは自らの折れ曲がった戦鎚をみて、少しだけ困ったような顔をした。


アイアン・ゴーレムは、装甲の一部がへこんだだけで、まだ動けるようで、戦斧を構え直した。


他のアイアン・ゴーレムたちも敵襲に対応すべく、二体一組になり、魔王や、ヘイシルに向かっている。


ゼクスにも、もう一体近づいてきた。


「アルファツー。こいつは危険だ。同時にしかけよう」


「アルファツー、了解」


戦斧を油断なく構え、じりっじりっ、と間合いを詰めていくアイアン・ゴーレムたち。


「……なるほど。物理的に破壊するのは、少々手間取りますね。まあ、仕方がないですが」


そういって、ゼクスはうっすらと微笑み、両手をぶらぶらさせながら、アイアン・ゴーレムたちに相対する。


「あなた方は少々おイタがすぎるので、少しだけ反省をしていただきましょう」


そういって、ゼクスが、その場から掻き消えた。


「なっ!」


アイアン・ゴーレムの操縦者は目の前から目標(ターゲット)が消え、困惑の声をあげる。


だが、その背後に音もなく立ったゼクスは、無慈悲に死神の鎌を振り下ろす。


「さて、死ぬ気で抵抗(レジスト)してくださいね。『粉砕消滅(ディスインテグレート)』」


ゼクスの魔法が発動するや、ゴーレムの本体が、瞬間、光の粒子となって消滅した。

まさに、瞬きをした瞬間に消えていた。


「わっ」


間抜けな声を上げながら、操縦席に座っていたアイアン・ゴーレムの操縦者が、座った格好のまま、空中に投げ出され、そのまま地面に落ち、しこたまお尻を打ちつけた。

まだ、若い少年だ。


「う、うう」


投げ出された操縦者である少年は、恐怖に打ち震える目で、ゼクスを見上げる。


「なるほど。魔力が高い人間を操縦者に選別しているのですね」


ゼクスは、一つ頷くと、もう一体のアイアン・ゴーレムに向き直った。


「そちらのゴーレムは調査のために無傷で手にいれたいところですが……」


そこで、ちらと、魔王とヘイシルの方に向き直ると、魔王へと向かったアイアン・ゴーレムは、手足がばらばらになった状態で、そこら中に転がっており、その上で魔王は暇そうに座っており、また、ヘイシルに向かったアイアン・ゴーレムは、ヘイシルが操縦を乗っ取ってしまったらしく、他のアイアン・ゴーレムたちと戦っている。


「どうやら。不要みたいですね。でも、一応、降伏勧告をいたしましょうか」


「……こ、降伏をいたします」


アイアン・ゴーレムは、両手両足を地面につき、土下座のような形で駐機形態を取った後、操縦席から、少女が泣きそうな顔をしながら、両手をあげつつあらわれた。


それをみてゼクスは微笑んだ。


「よい判断です」


なんとか更新できましたー。

次回更新も、一応、来週予定です。

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