表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/138

第四十六話 これってみずぎじゃないですか?

「なに? 陛下が参られただと?」


「はい。少数の部下だけを伴ったお忍びでの来訪ではございますが。……いかがいたしましょうか閣下?」


「構わん。通せ」


背丈の割に顔が大きい印象を与える男。王弟ダユン公爵は尊大に部下に許可をした。


パプテス王国東部。

王弟ダユン公爵の領地にある居城。

近隣諸侯の懐柔、籠絡を進め、現在、王国東部はほぼ王弟派の勢力圏に収まっている。

妻の出身地である東の大国ダライ・トカズマ帝国には、すでに義勇軍の派兵を願い出て、着々と内戦をしかける準備も整っている。

兄であるパプテス国王も西の隣国シュガークリーに応援を頼んでいるみたいだが、あそこの現状からして、ろくな応援部隊が来ることはないであろう。

国内での戦力は、兄と比べてまだ劣位ではあるといえ、帝国の後ろ楯を得た今。王位はまさに目の前に届くところにあるといえる。


……ついに、ついに、この手に王位を手に入れられる。


ダユン公爵の目に暗い炎がゆらゆらと揺らめく。


「……ダユン閣下。陛下がお見栄です」


「うむ」


部下の報告と同時、広間の扉が、どかっと、大きく開け放たれた。

そして間髪いれずに、勝ち気な表情の少女が、靴音をどかどかとたてて入ってきた。

少女のその燃えるような赤色の毛は、彼女が内包する熱気、苛烈さを表しているかのようだった。


「久しいの、ダユン。息災であるか」


「はっ。ギリナデス陛下も相変わらずでございますな」


「うむ。我が軍勢も、来週中には先遣隊を派兵できる体制を整えておる。そなたの方でも受け入れ準備を加速せよ」


「御意。……ところで、陛下が先にこちらにこられた理由をお伺いしても?」


上目遣いで、まるで忠犬が主人の顔色を伺うかのごとく、ギリナデス皇帝を見る。


「なに。城で退屈にしているよりも、準備運動がてら、こちらで一暴れしてやろうと思うてな。手頃な目標を教えるが良い」


「……なっ! へ、陛下。それは危険ですぞ!」


「ふん。心配するな、ダユン。そこいらの雑魚など、余にとってはなんでもない。とりあえずは、そなたの領内にてチョロチョロしている鼠を刈るところから始めてやるかの。くっくっく」


「へ、陛下。ま、まずは、城内にてごゆるりと滞在されては……」


「だーかーら、余は暇を持て余しておるのだ! そなたの部下たちを鍛えてやってもよいのだぞ!」


ギリナデスの肉食獣のような視線に射ぬかれ、ダユンは震え上がる。


「……で、では、近隣で我らが最も手こずっている、砦に駐留している銀輪騎士団についての情報を共有させていただきまする」


「そうそう。それでよいのだ。……我らが先行するゆえ、そなたたちはゆっくりとあくびでもしながらやって来るが良い。まあ、そなたたちがやるべきことは、死体の埋葬くらいだとは思うがの。くっくっく」


そういって、ギリナデスはニヤリと嗤った。


◆◇◆◇◆


「ふひひひひ。お、お久しぶりですね、ソニヤ。あ、間違えました、ソニヤ姫」


「……辺境伯も相変わらず元気そうね」


脂ぎった顔をこちらにずずいっと近づけてくるアラン辺境伯から、なるべく距離をとる感じで相対し、とりあえずなるべく視線を合わせないようにして明後日の方向を見ながら会話をする。

ごめん。あなたを直視するには、まだやや抵抗を感じるのよ。


「ふひひひひ。わ、私目のことはアラン、と呼び捨てにしていただければよろしいと、ま、前にも話させていただきましたぞ。ぜ、是非とも、アラン、と呼び捨てにしていただければ。はぁはぁ」


「あー、アラン……伯も、相変わらずね」


あはははは、と乾いた声音で生返事をした。


ここはシュガークリー王国の南部国境付近。

我が国からパプテス王国へと派兵される義勇軍の編成をここで完成させ、午後にはパプテス王国へと進軍する予定となっている。

泣いても笑っても、ここからは戦場である。

しかも、その戦場に私自身がいかなくてはならない状況になってしまい、とっても泣きたくなる。これで私がもし死ぬようなことがあったら、絶対に呪ってやる。絶対だ。


「ご安心くださいソニヤ様。一身に代えましても私が御身をお守りいたします」


「た、頼りにしているからね。カミーナ」


「お任せください」


カミーナは今日は、白を基調として赤色が所々に入った全身鎧(フルプレート)に身を包んでいる。

両腰にはゼクスからプレゼントされた曰く付きの刺突剣(レイピア)を佩き、背中には弓を担ぎ上げ、そして、手には長槍を持っている。

まさしく完全武装である。


「ふひひひひ。わ、私目も、ソニヤの盾となりて、その傍らにいるべき、お、漢であることを、此度の戦で証明いたしますぞ」


鼻息荒く、辺境伯がずずいっと、顔を近づけてきた。


「……ま、まあ、ほどほどにね」


彼も今日は鎧姿なのだが、その鎧は実用性よりも見栄え重視らしく、金や銀で飾り立てた、やけに薄っぺらな感じの印象の鎧を着込んでいる。

なんというか、どう贔屓目にみても張りぼて、という言葉が相応しいように思える。

鎧の上には赤や黄色の絹布を羽織り、飾り立てている。

腰に佩いているごてごてと宝石が飾り立てられている長剣(ロングソード)だけが唯一の武装だが、どうみても実用的ではない。


アラン辺境伯が、連れてきた手勢の二千名を見てみると、人数はたしかに十分であり、体格とかも申し分ないのだが、赤や黄色、緑色などでごてごてと飾り立てられた鎧や盾で武装しており、なんとも目立つ軍隊だ。

なんとなく、バチカン市国のスイス傭兵団みたいな出で立ちな気がする。


彼らはすでに準備を整えており、整列も終わっている。

また、シュガークリー王国の騎士団から選抜された千名もの騎兵や歩兵。それに、補給担当の輜重兵(しちょうへい)や、医師団、傭兵などで構成された千名もの人員。

合計四千名のパプテス王国への義勇軍がここに編成された。


……ところで。


「ね、ねえ、アラン伯。ところで、本当に私はこの格好じゃなくてはいけないの?」


「ふひひひひ。当然だよソニヤ。あ。失敬、姫。その格好で演説してこそ、兵士たちの士気が高まるというもの!」


「……そ、そう?」


我が身は今、アラン辺境伯が支給してくれた、指揮官用の全身鎧(フルプレート)で覆われている。

といっても、覆われているのは、胸部分と、腰の部分だけの所謂ビキニアーマーで、お腹が丸見えだ。

いちおう、全身に透け透けの布をマントのように羽織っているので寒くはないのだが、これのどこが、指揮官用なのかと、小一時間問い詰めたくなる。

だが、此度の戦の総司令官の推薦とあれば、無碍に断ることもできない。

たしかに上層部が揉めていたら、全軍の士気にも影響するし。


……しばらくして、編成式が始まり、あっという間に私の出番となる。

とりあえず、頭を切り替えて演台に登る。

そして眼下に整列している義勇軍へと語りかける。


「此度の戦は、我が国の友邦(ゆうほう)であるパプテス王国の危機に対し、義を示さんとするシュガークリーの国家意思を示すための重要なもの。兵士の皆様の奮戦をお願いいたします!」


「「おおーっ!」」


編成式での私の呼びかけに、集まった諸兵たちが、雄叫びをあげて応えてくれた。


ちなみに、少し前にアラン辺境伯も兵たちに訓示を垂れていたが、長い上に、早口で、よく聞き取れなかったのでその状況の描写は割愛させてもらう。あんまり記憶に残っていなかったしね。


「……では、出陣!」


私たちは、一路、パプテス王国へと向かった。


◆◇◆◇◆


「……くっ。我らパプテス王国『銀輪騎士団』の精鋭がこうもやすやすと……」


銀輪騎士団の指揮官の一人が悔しそうに呟く。


目の前で、また一人。騎馬ごと横殴りにされて、吹き飛んでいく。


指揮官は、先ほど国境の砦に奇襲をかけてきた「それ」に鋭い視線を向ける。

数は四体。

砦に駐在している五百という兵数と比べれば極めて少数だ。

そいつらの見た目は鎧に身を固めた巨人としか表現しようがない連中だ。

そのずんぐりとした鋼鉄の体は三メートルにはなろうかという巨体で、人間であるとはとても思えない。

そして、人間の頭がある部分には、鋼鉄の壁で補強されてはいるが、人間が座れるような(かご)が設置されており、そこに、鎧騎士が座っている。

その鎧騎士が叫ぶ。


「喜べ! 貴様たちは、我が愛機『黒竜号』のテスト目標に選ばれたのだ! せいぜい抵抗し、余を楽しませてくれ」


そういって、その鉄の巨人は、手に持っている、四メートルになろうかという長大な剣を横凪ぎにふるう。

そいつは巨体の割に俊敏であり、木造の砦の壁ごと、背後の弓兵たちを紙のように切り裂いていく。


「このーっ!」


背後から騎馬一体のランス突撃を騎士が敢行するが、ランスの一撃を受けても鉄巨人は微動だにしない。

そして、間髪いれずに、鋼鉄の巨人は振り向き様、長剣をふるい騎士をその馬ごと、叩き潰している。


「さあさあ。もう少しがんばるがよい! ははは!」


「弓兵! 巨人の頭に載っている騎士へと攻撃を集中させよ!」


司令官は、鋼鉄の化け物の頭部分に載っている騎士が化け物を魔導の力にて操っていると予測し、攻撃を集中させる。

火矢を次々と弓兵たちが射かける。


だが、射かけられた火矢は、鋼鉄の巨人にあたる直前、その向きをことごとく逸らされ、一つも当たらない。


「な、なんだと!」


「ふん。残念だったな!」


鋼鉄の巨人に騎乗している騎士、ギリナデスは、鎧の下で、獰猛な笑みを浮かべながら、装甲人形(アームド・ドール)の操縦桿を繊細に操り、縦横無尽にその殺戮人形を操る。


「よし。今回は『主砲』のテストもしてやろう」


そういって、ギリナデスは、魔術詠唱を始めた。

ギリナデスが紡いだ言葉の魔方陣が、装甲人形が備える魔術増幅陣により、拡大され、背中に保持されている魔昌石により、大量の魔力が供給される。これにより、術者のレベル以上の儀式魔術を行使できるようにしている、帝国の最新魔導技術である。


「初めての実戦テストの対象となったこと、光栄に思うが良い。……殲滅せよ。『隕石召喚(メテオ・ストライク)』!」


ギリナデスの詠唱が完成すると同時、装甲人形の胸のあたりに何重もの魔方陣が現れ、その魔方陣により加速された隕石弾が、マッハをはるかに超えた、加速度でもって、砦の中央へと発射された。


……爆音が轟いた。


あたり一面が、爆風でもって粉々となり、残った木材も悉く燃え上がっている。

直撃を受けた箇所は黒くクレーター状になり、何も残っていない。


「……ふん。とりあえず実験は成功みたいだが、他愛もないな。こんなものか」


「陛下。そろそろ、ダユンの手の者が到着しそうです」


「そうか。まあ、砦の防備もあらかたつぶし、騎馬隊や弓兵部隊も沈黙させてやったから、あとの掃除はやつらにまかせるか」


「御意」


「とりあえずテストとしてはこんなものだな。風魔法による弓矢への防御テストは有効のようだったし、『主砲』も問題なさそうだ。あとは、魔術防壁のテストくらいか」


「パプテス王国にはろくな使い手もいなさそうですし、そちらは我が国の手の者に、テストをさせるしかないでしょう」


「ふん。実戦テストはできんか」


そういって、ギリナデスはつまらなさそうにつぶやいた。


「どこかに、骨のある相手がいるとよいのだがな」


そういって、四体の巨人は悠々と撤退した。


今回は、結構悩んだんですけども、こんな感じになりました。

次回更新は、来週にできるようにがんばります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ