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第三十六話 ひぎ! きっこうしばり!

「……」


奇っ怪な仮面を被った三名の不審者が、一人は剣を抜きはなち、一人は拳を構え、そして最後の一人は両手に小刀を構え、私たちの前にて対峙した。


……私の前に、カミーナがすーっと進み出た。

カミーナは、刺突剣(レイピア)を両手に構え、やや右側面を前に出すような感じで立っている。

その横顔は驚くほどに怖い顔をしていた。


やはり、油断を一ミリもしてはいけない相手みたいだ。

まあ、今回の相手はあの人類でも最強に近い『聖騎士(パラディン)』。カミーナがいかに強いといっても、そんな連中を三名も相手にしないといけないのだ。緊張するなという方が難しいか。


でも、私は何一つとして心配をしてはいない。

というか、強いて言えば一つだけ、あの人にだけはちゃんと注意喚起をしないといけないけども。

私はくるりと後ろを振り向いた。


「よろしいですか、マオール様。決して本気になってはいけませんよ。わかっておりますね?」


「む。手加減が必要か?」


「人死にだけは、決してダメですからね」


私は呑気に、背後に突っ立っている魔王の方へと向き直り、人差し指をたてて、注意をする。


「わかったわかった」


魔王がやれやれとばかりに両手を上げて降参のポーズをする。


「我らを相手に余裕だな……」


両手に小剣を構えた聖騎士が低く呟いた。

短く刈り込んだくすんだ金髪に仮面をつけている。そして、声から察するに男みたいだ。

……んー。しかし、この声、どこかで聞いた覚えがあるような?


「聖騎士の皆さん。今ならこちらは見逃してあげますので、そのまま後ろを向いて立ち去ってはいただけませんか?」


余計な面倒事を回避すべく、とりあえず撤退勧告を行ってやる。

私は面倒事が嫌いなのだ。


「ソニ! ……アインスさんは、後ろに下がっていてください」


カミーナが、聖騎士たちへとお気軽に声をかけた私を制止した。

やはり、カミーナとしては、なめて相手をしてはいけない相手だと、その技量からわかるのだろう。

いつもよりも、声の調子が険しい。


ちなみに、こいつら聖騎士たちは、エロゲー『鬼畜凌辱姫』の中で、囚われのソニヤ姫をいざ救い出さんと、魔物であふれかえっている、魔王の支配するガイコーク砦へと少人数で忍び込んでくる連中だ。


そしてその実態は『教会』子飼いのエリート暗殺者集団。

基本、魔を刈ることを生業としている、正真正銘の狂信者どもで構成され、サイコパスな連中しかいない。

でもまあ、ゲーム内での姫様(ソニヤ)視点として見ると、魔物があふれかえるガイコーク砦という死地の中へと、自らの危険を省みず、姫を助け出さんと特攻をかけてくる、なかなかに頼もしい連中でもある。


ただ、客観的に見ると、あんまりお友達にはなりたくはない人種ではあるが。


なお、ゲーム内では崇高な目的、かっこいい中二病的な名前とは裏腹に、あっさりと魔王に瞬殺されていた。


……ほら、今、目の前で繰り広げられている光景みたいに。


「ぼさっとしていると、その可愛い首が落ちちゃうよ!」


剣を構えた、赤茶毛で小柄な聖騎士が叫ぶと同時、ふっと目の前から掻き消えた。

声から察すると若い子みたいだ。


「ふべっ!」


そして、次の瞬間、公園の壁にめり込んでいた。

まさに目にも止まらぬスピードで、壁にめり込んだ。


「「……!」」


残り二人の聖騎士たちに動揺が走る。

どうやら、彼らにはなにが起こったのかわからなかったらしい。


「……ちっ!」


両刀を構えた聖騎士が、なにやら、ハンドサインを走らせると同時、辺りが光りに包まれた。


そして、光が晴れた後、寸分も変わらぬ姿で聖騎士たちが、突っ立っていた。

……何も起こらなかった。


「……なっ!」


ひょろりと背が高い、拳を構えていた聖騎士が、驚愕のためか、初めて言葉を発した。

どうやらこいつもしゃべることができるのね。


「魔法で逃げる算段をしたみたいだが、俺の近くでは無力だからな」


魔王がなんでもないようにしゃべる。


「……ぐっ!」


拳を構えた聖騎士の手足が光る!


「がっ!」


……と、同時に先程の仲間の聖騎士のお隣に仲良くめり込んだ。

いったい、こいつはなにがしたかったんだろう。


「……!」


最後の一人は、いきなり踵を返した。

この状況を見て、逃げの算段をしたみたいだ。

……が、もう遅すぎる。


「ぐはぁ!」


結局、次の瞬間には、他の仲間たちと同様に、仲良く壁のオブジェの仲間入りをしていた。

三人が壁にめり込んでいる姿はなかなかにシュールだ。


「あ、あのー、マオール様。この方たちは死んではおりませんよね?」


「まあ、お前が殺すなと言ったからな。手加減をしてやったぞ。あばらの何本かは折れてるかもしれんがな」


そういって、肩をすくめた。


「そ、そうですか。それはありがとうございます」


「……そに、アインスさん。もう大丈夫だと思います」


周囲を警戒していたカミーナがそういって、近くまでやって来た。


「……しかし、マオール様、本当にお強いのですね。ゼクス様から事前に少しだけお話を聞いておりましたが」


「……ん? まあな」


魔王がポリポリと頭をかいている。


「か、カミーナさん。ところで、この人たちどうしようか?」


とりあえず、カミーナにそれ以上突っ込まれると困るので、急いで話を反らした。

そして、全員で壁にめり込んだ聖騎士たちを見る。

うーん、このまま放置するしかないのか。


「……とりあえず、生きてはいるみたいですね」


壁際に近づいたカミーナが、慎重に聖騎士たちの様子を確認した。


魔王は、ああは言っていたのだが、とりあえず、全員ちゃんと生きているのをしっかりと確認してもらった。

全員生きていてちょっとだけホッとする。


「だから、俺が先ほど言っただろうが」


「ま、マオール様はやりすぎてしまう方ですから、少しだけ気になっていただけですぅ」


「俺だって、やろうと思えば手加減くらいできる……」


なにやら、ぶつぶつと呟いている魔王。


「しかし、このままというわけには参りませんので、とりあえずこの方々を縛り上げます」


「あ、よろしく」


伸びている連中をカミーナが、手際よく順々に縛り上げていく。

なんだか、その縛り方、亀甲縛りっぽくない?


「か、カミーナさん? その縛りかたは……?」


「これでございますか? 父直伝の捕縛術ですが何か」


「……あ、そうなんだ」


カ、カミーナの父親って……。

ま、まぁ、いいか。


そして、私は動けなくなった聖騎士さんたちの仮面を次々に剥いでいく。


若い顔立ちをしているもの、年季を感じさせるもの、そして、その中の一人に、見知った顔が。


「……この方は」


「お知り合いですか、そに、アインスさん?」


「……え? あ、うん。ちょっとね」


教皇本庁のオクトーバーだ。

さっきの声を聞いて、なんとなくそんな感じがしていたけども。

そうか。こいつの任務は、やっぱり堅気じゃなかったのね。

多分、魔王を、追ってきたんだろうなー。


……んー。でも、どうして魔王を狙ったんだろう?


私の疑問が視線から伝わったのかどうかはわからないが、こちらを向いていた魔王と、ばったりと視線がからみあう。


「む? 俺には襲われるような心当たりがない。きっと人違いだろう」


なんでもないことのようにさらりと言う。

魔王様。今日も鉄面皮ですね。


「それよりもアインスよ。お前こそ、なぜこいつらの素性を知っていたのだ?」


うーん。

どうやって誤魔化そうか。

……。


あまり良い案が浮かばない。

仕方がない。ここはこれでいくしかないか。


「乙女の秘密です♥」


とりあえず、首を傾けながら、人差し指を口許に当てて、いたずらっぽく言ってみた。ウインクのおまけ付きだ。


「……ふん。まあいいか」


なんとか、誤魔化せたと思う。


◆◇◆◇◆


「……しかし皆さん。本当にトラブルに愛されてますねえ」


聖騎士たちをどうしようかと悩んでいたところに、偶然なのか必然なのかはわからないが、ゼクスがふらりと現れた。


「あ! ゼクス様」


隣でカミーナが、顔を真っ赤にして固まってしまった。

おーい、帰ってこい。


「俺は別にトラブルには愛されてはいないぞ。アインスではないか」


自分のことを棚にあげ、魔王がすべてを私の責任にしてきた。

ちょっと失礼じゃない?


「えーっと、ゼクス様はこの方たちをご存知なのですか?」


「まあ、だいたいは。ただ、これだけの人数を……」


そこで、じっと魔王を見つめた。


「ん? どうした?」


「いえ、なんでもありません」


ゼクスが微笑んだ。


「ま、こいつらはどうにかしないといかんな。とりあえず、アインスとカミーナは帰ってもいいぞ。あとは、俺とゼクスとでなんとかしておくから」


「えーっと」


二人を見つめた後、オクトーバーたち聖騎士を見つめた。

自分がなんとかできるレベルの話ではない。

私は一つうなずくと二人に微笑みかけた。


「では、失礼いたしますね」


「ちょっ! よろしいのですか、そに、アインスさん」


「ん。私たちの手には負えないしね。やはり専門家の方々にお任せしないと」


「……わかりました」


何か、一瞬の間はあったが、深く頷くカミーナ。


「では、失礼いたしますね」


「おお。またな。気をつけて帰れよ」


「ではまた、お会いいたしましょう」


二人に挨拶をして、カミーナを連れて城へと戻ることにした。

さあ、早いところ、こんな死地からは逃げ出そう!


◆◇◆◇◆


「さて、どうしましょうか。この方々」


「そうだな。記憶を書き換えてしまうのが一番簡単なんだが」


しばし思案する魔王とゼクス。


「……わたくし目にお任せいただければ幸いに存じます」


そういって、二人の目の前に突如、燕尾服を着た少年が現れた。


「おや。あなたは……」


目をすーっと細めるゼクス。


「む。お前、ベリアルか」


魔王が気楽に話しかける。


「はい。姉がお世話になっております、陛下」


「ここでは、マオールという名前で通っているからな、お前も合わせよ」


「御意。現在、わたくしは故あって、シュガークリーに滞在しておりますが、あなた様に逆らうようなことは御座いませんのでご承知おきを」


「うむ。わかった」


鷹揚に頷く魔王。


「マオールさんが気にされないのであれば、僕から何も言うことはないのですが。……ところで先ほど、任せろ、とおっしゃっていましたか?」


「左様です。不肖、このベリアル。精神操作術には多少のこだわりがございます。この者共の記憶の操作などの些事はわたくし目にお任せいただければ」


「うむ。任せた」


即座に頷く魔王。


「……」


沈黙で肯定を示すゼクス。


「では、この者たちには、すべて首尾よく、うまくいったという記憶を植え付けさせていただきます」


「些事は任せる」


「御意。では、あとは、わたくしにお任せを……」


そして、ベリアルは、聖騎士たちとともに闇の中へと消えていった。


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