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第十三話 ぎるどのぬし

「ここが銀行ですね」


「ふむ。ここか」


魔王と連れだって商工組合(ギルド)が運営する銀行へとやってきた。

街の中心部からやや離れた民間区域の一つ。

ここの区域の大部分の用地を占めるのが、ここギルド会館だ。


まあ会館とは言うものの、その実態は、複数の建物の集合体であり、商人たちが商品を並べて小売りをするための建物から、商人同士がお互いに売買をするための市場としての倉庫、商品を加工する工場や、鍛冶職人の作業場、商人たちへの貸事務所、宿泊施設、それに食堂などなど、商工業のための各種施設の集合体である。

そして、銀行も、そのうちの一つの施設として、ギルド会館に併設されている。

なお、銀行業は割とギルドでもポピュラーな業務であり、各国において、ある程度の規模の街であれば、ギルド会館にだいたい併設されている。

そして、ギルドが運営する銀行の特徴であるが、どこの街の銀行であっても、会員ならば資金の預金や払い戻しができるという便利な施設である。

しかも、各国の為替については、ギルド発行の大金貨に連動して、各国で小金貨へと時価で換金できるので手軽だ。

ちなみに、為替レートをこの世界ではどうやって決定しているのかは不明である。

なお、銀行の会員になるには、最低限、小金貨一枚をデポジットとして預け、かつ、どこかの都市や国の市民権がないと、開設ができない仕組みとなっている。

つまり貧乏人や根なし草にとっては実にシビアなシステムではあるのだが、金貨の為替交換等は、特に銀行の会員にならずとも出来るので、今回は会員登録ぜすにシステムを利用することとする。まぁ、手数料は若干割高だが、そこは目をつぶるとしよう。

というか、(ソニヤ)の名前も、魔王の名前もこんなところで出すわけにはいかないだろう。


ちなみに私は、じゃなかった、俺は、ギルド会館自体へは、ソニヤ姫の公務として何回か来たことがある。

会館の本館建物は大理石などをふんだんに使った、意匠が立派な石造りの施設であり、ギルドの確かな財力が滲み出るものとなっている。

うちの王宮もそれなりに立派なものなのだが、ギルドのそれと比べると、どう贔屓目に見ても見劣りしてしまうのが悲しい。

やはり、商人たちは儲かっているみたいだな。

正直、がんがんと課税したい。


「マオール様。中に入りますがよろしいですか?」


「是非もない。入るぞ、アインス」


「はい。承知しました」


さてと。

俺は、メガネと帽子を念入りにかぶり直す。

このあたりは、どこに見知っている顔がいるかわからない危険地帯。

ばれたら即死級のダメージなので、面が割れないように警戒するに、し過ぎるということはなかろう。


俺と魔王は連れだって、ギルド本館隣の、銀行の建物の中へと入った。入り口のドアは総ガラス張りで、しかも、その明度がかなりクリアだ。

うちの宮殿の曇ったり、歪んだりしている窓ガラスとは、その質の違いが一瞬でわかるくらいには違う。くっ、悔しくなんかないもん。


俺たちが行内に入ると、制服に身を包んだ女性がすーっと近づいてきて一礼をしてきた。


「ギルド会館へようこそ。新規のお客様でございますか? 私は担当の……」


受付のお姉さんが懇切丁寧に応対してくれる。

なんだかまるで、受け答えの対応のやりとりが日本の受付嬢のそれと同じような気がするが。

まぁ、元がエロゲーだしな、細かいところは実に適当な設定だ。


「えーっと、すみません。今回はこちらの財物の鑑定と、可能であれば換金をしていただきたいのですが」


「鑑定、でございますか?」


不思議そうな顔をする受付嬢。


「一応、金貨なので質屋よりもこちらで見ていただいた方が良いかな、と思いまして」


「はぁ」


「この金貨、どこの国のものなのか我々もわかりません。そこで、これは法定の金貨なのかどうかの調査も含めて、可能であれば現在のレートでの換金をお願いしたいのですが」


俺が、一応、魔王との間にたって、銀行とのやりとりをすることにした。

魔王に任せると、明後日の方向へと話がいきかねないしな。


「左様でございますか。では、拝見させていただきます。あと、こちらに申請書類へのご記入をお願いいたします」


「ここに記入すればいいんですね」


俺たちは受付のお姉さんに、とりあえず現物を二枚ほど預け、持ち込み金貨の鑑定と換金をお願いすることした。書類には、アインスとマオールという偽名を書いておいた。

これについては、まぁ、特に問題はないだろう。

ちなみに、この世界の識字率だが、都市部は割と高いらしい。

ただ、田舎の村だとそうでもないと以前に聞いた。

やはり、為政者的としては国民の識字率は高めないとなー、とは思う。

王家の一員として、今後の国の課題としておこう。


「では、ロビーにて少々お待ち下さい」


そういって、受付のお姉さんは、奥にある仕切りの向こうへと行ってしまった。


「では、マオール様。我々もあちらのソファにて座って待っていましょう」


「そうだな」


俺たちはしばらく、ロビーのソファに腰掛けてゆっくりすることにした。

その間、魔王が、あちらこちらを観察している。興味深いらしい。


「ふむ。ここは、かなり魔術の品々で警護されているな。それに、ほれ。そこで、のんびりと座っているあの男は手練れだぞ」


次々と魔王がギルドのセキュリティを解析していく。

まぁ、魔王にとっては、この程度のセキュリティなど、紙切れ並みでしかないとは思うが。


しばらくすると、奥の方から、先ほどの受付嬢とともに、どっぷりと太った初老の紳士が現れた。


「あれ?」


ん? こいつ、見覚えがあるぞ。

……たしか、ここのギルド会館の責任者じゃなかったか?


「申し訳ございません。お客様。私、ここの支配人を任されているバステンと申す者ですが、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか? 私どもの主人が、あなた様方に是非とも、ご挨拶をさせていただきたいと申しているのですが」


「え? あいさつですか?」


「うむ。よかろう」


俺がまごついている横で、腕を組み鷹揚(おうよう)に頷く魔王。

さすが魔王様。どんなときにも動じないな。

少しだけ尊敬の念が浮かぶ。

しかし、このバステン。ギルド会館の責任者であり、ギルドでシュガークリー王家の関係者を歓待するときには、こいつがいつも応対している。

そういった意味で、こいつよりも上司がいるなんていう情報は俺にとって初耳である。


俺たちは、初老の紳士バステンに連れられて会館の奥へと案内された。

いままでに足を踏み入れたことが無いエリアだ。


会館の奥から中庭へと出ることができ、渡り廊下が続いている。

外からは見えなかったが、こんなにも立派な中庭があったのだなー、と心の中で感嘆の声をあげる俺。

中庭の向こう側に、本館に比べるとちょっと小さめだが豪奢(ごうしゃ)な屋敷が見えてきた。


屋敷の周辺には武器を持った警護の兵士が見え、やけに厳重な警備態勢だ。


「あれらは、それほどの手練れではないな。ただ、屋敷のあちらこちらから、数名のプレッシャーを感じる。ここは魔境だぞ」


何が嬉しいのか、くくくっと喉の奥で笑い出す魔王様。

怖いからやめてください。


俺たちが通された奥の屋敷は、落ち着いた華やかさだ。たぶん、建材にはうちの王宮よりも良い素材を使っていると思われる。

シュガークリーの王宮には、たまに、けばけばしい豪華さを若干感じることがあるので、やはり、成金と本物の金持ちの違い、というものをどうしても感じてしまう。

やや敗北感を感じるのは(ひが)みだろうか。


「よろしいですか、お客様方。今日お会いする方は王公貴族といえども、なかなか簡単にはお会いできないお方です。くれぐれも失礼のないようにお頼み申し上げますよ」


どうかお願いしますよ、と二回くらい念をおしてくる。

じいさん、やけに緊張をしている声音だな。


「ほう。これは見事だな」


隣で何に感心しているのかはわからないが、魔王様が感嘆の声をあげている。


こいつが嬉しそうな顔をするのはめずらしい。


「では、こちらにお入りください。また、何かございましたら、なんなりとお呼びつけください」


そういって、俺たちを残して支配人のバステンたちは扉を閉じて出ていってしまった。


「気配を隠すつもりはない、か。よかろう。余も歓待しよう」


と、同時に、魔王の方から、凄まじいプレッシャーが押し寄せてきた。


「……なっ」


魔術や、戦闘なんかの素人の俺でもわかるくらいの、圧倒的なプレッシャーだ。

そして魔王様は、圧倒的な魔力のようなものを纏いながら、迷うことなく、まっすぐに廊下をすすむ。


ガチャリ。


そして、突き当たりの立派な木でできた重厚な扉をひらいた。


部屋の中には、大きな机が真ん中奥にどんと設えており、入り口から入って左側にソファーが二つおかれた応接スペースとなっている。

一瞬、冷やりとする空気が流れてくる。


机の椅子には一人の優男が腰掛け、こちらを見つめていた。


銀髪で、細面。

俺と同様、眼鏡をかけている。

まぁ、色は銀縁なので、俺のメガネとはだいぶ印象は違うが。


優男の目付きはパッと見、優しげだが、眼光は鋭い。

だが一番の特徴は両目の色がちがうこと。

いわゆるオッドアイというやつだ。

漫画やアニメなんかでは、オッドアイを持っているキャラクターは、基本、強キャラだ。

俺は、警戒感をマックスにもっていく。


「ほう」


横にいる魔王様がまたもや感嘆の声をあげた。

どこかその顔つきは楽しげにみえる。


「……ようこそいらっしゃいました、お客様がた。私はギルドの顔役を勤めさせていただいている、ゼクスというものです。あ、偽名ですよ」


ゼクスと名乗った胡散臭い優男が、魔王のプレッシャーをものともせず、笑顔を浮かべながら、立ち上がり挨拶をしてきた。


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