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第百十六話 ひーろーとーじょー

……聖騎士(パラディン)のノーベンバーが、ナイフを仕込んだ鉄板入りの靴による後ろ回し蹴りを叩き込む。

だが、その必殺の蹴りを黒頭巾(ダーク・ストーカー)はとんぼ返りによって回避をした。


「こやつらの動きが素早い!」


さすがにノーベンバーも、愚痴が口をついて出た。


ノーベンバーによる攻撃を回避した黒頭巾に向けて、光る一筋の矢のように、何者かが飛びかかる。

パラディンのジャヌアリーは、光り輝く長剣を腰だめから、一気に前に突き出し、神速の突きを繰り出した。

並みの使い手であれば、みずからに何事か理解する前にその剣によって、身体が串刺しにされるであろう。

だが、バランスを崩しているはずの黒頭巾は、その突きを腰を捻るだけで、紙一重に回避をし、さらに、片手で床に手をつき、もう片方の手の鉤爪を、カウンター気味に突き出しジャヌアリーに襲いかかる。


「ぐっ」


その鉤爪を咄嗟に首を捻って回避するジャヌアリー。


「なんで当たんないのかなー!」


ジャヌアリーは突きから斬擊へと連擊を黒頭巾に加えつつ、それらがすべて避けられてしまい、思わず叫んでしまった。


黒頭巾は、一足飛びにジャヌアリーとノーベンバーから間合いを離し、お互いに対峙をする。


「強いな」


黒頭巾の者による、尖った刃が周囲に複数生えた投てき武器『手裏剣』を、その両手の短刀で防ぎきったオクトーバー司教が油断なく呟いた。

まずは現実を受け入れなければならない。

彼らパラディンよりも黒頭巾どもは強い、と。


だが、聖騎士複数名で個々に当たれば、勝てない相手ではない。

だが、不思議なことに、奴等も陣形を維持して、無理な攻撃をこちらに仕掛けてこない。


「くっ、貴様たちなど、このシルフィが成敗してくれる」


シルフィは一人で互角に黒頭巾と渡り合っている。

これは、自らに『精霊之加護(ブレスオブスピリッツ)』や『能力増強(エンハンス・アビリティ)』などを使いまくり、相当、戦闘能力を底上げしているからだ。

だが、そんな無茶苦茶な状況は長続きできず、間もなく限界が来るだろう。

そう、オクトーバーは見立ている。

あまり、良い状況ではない。


「……は?」


それは突然だった。

黒頭巾たちが、いきなり闇の中に姿を消していき、部屋内のプレッシャーが消え去った。


「か、勝ったのか?」


聖騎士の一人が呟いた。


ぐしゃっ。

隣でシルフィが膝から崩れ落ちるのをオクトーバーは見た。魔力の限界が来たのであろう。

だが、オクトーバーは、まだ、気を抜くわけにはいかない。


「動けるパラディンは俺についてこい。姫を救援に行くぞ」


そう言ってオクトーバーは駆け出した。


◆◇◆◇◆


「……なんだって、あたしがこんなことしなくちゃならないのよ」


「あなたのお兄さんからの命令でしょ。文句を言わないで。それに、ソニヤのところには、わ・た・しが一番乗りなんだから!」


その巨大装置の椅子に座った魔王の妹のエイミーが愚痴りつつ、目の前のコンソールを叩いて魔法装置をせかせかと動かす。

事前に魔王より預かっていた魔法鍵を組み込んだ宝玉(オーブ)を所定の箇所に嵌め込み、『人工精霊(オートマタ)』を起動させる。


「はあ……人工精霊魔法動力回路。一番から九番まで起動したわよ。各部との接続を開始」


エイミーは淡々と目の前の計器を読み上げる。

搭乗席に座っている教皇アンジェは舌舐めずりをする。


「人工精霊装置との接続確認したわ。魔法石からの魔力供給開始。……各部人工筋肉への魔力供給確認、金剛魔石装甲(アダマンタイト・アーマー)への魔力供給終了。……いいわね。妹さん。操作はわ・た・しがするわよ」


「……はあ、それでいいわよ。それじゃ、人工精霊の調整はあたしがやるわよ」


やれやれとエイミーが呟く。


「……あいつが私のご先祖だっていうのは不思議な感じだけど、ソニヤをわたしのものにできるならば、なんだって利用してやるわ!」


ハアハアと鼻息荒くアンジェは宣言する。


「……あんた病気ね。初めてあの売女に同情するわ」


エイミーは嫌そうに呟いた。


「転送ポイントは売女の位置に自動設定するわよ。こんなことを先に考えておくなんて、正直、魔法監(ヘイシル)って変態ね」


「あの人は変態だけど、この際なんだっていいわ。待っててねソニヤ、今からあなたの『騎士』が迎えに行くわ! ……魔導技術廠試製千式重魔動甲冑『バイブリオン』起動!」


そうして、魔導技術廠の片隅に鎮座していた、巨大な人形の白銀色のゴーレムが、空間を歪めつつ、消え去った。


◆◇◆◇◆


前方に二体、後方から四体の変態(くろずきん)

対してこちらは、私とカミーナ、それにナレンの三人の女の子だけ。


カミーナとナレンの実力は折り紙つきのものだと知っているが、彼女たちの顔の緊張具合から、相手はただの変態たちではないと判断できる。

というか、相当危険な状況なのかも。


「あ、えーっと。実は人違いでした、とかはないかなー、なんて。あはははは……」


一人だけ場違いに明るく喋ってみる。


「……そこにいるのは、ソニヤ議員、ナレン議員。それにその付き人である」


断言する黒頭巾。


「ソニヤ議員には死んでもらう。他の二人もわれらに出会ったので死んでもらう」


こちらがとれる選択肢が『死』しかないというのは、ちょっと困る。


「なんでそんな風に簡単に言うかな。そういった物騒なセリフを!」


ついつい、抗議の声をあげてしまう。


「!! 姫様!」


「へっ?」


カミーナが叫ぶと同時、私を下水道へと弾き飛ばした。

汚い汚水を身体全体に浴びて、私の中での不快度がマックスにはね上がる。

なんてことしてくれるの!?


と、怒りの顔をあげた先では、カミーナの肩に、いつの間にか近づいてきていた黒頭巾の鉤爪が刺さり、カミーナが苦悶の表情を浮かべていた。


「か、カミーナ!」


「お、お逃げ下さい。ソニヤ様!」


カミーナが叫ぶと同時、ナレンが叫んだ。


「『隕石召喚(メテオ・ストライク)』!」


召喚系の最上位魔術を目の前にいきなり叩き込んだ。


「さすがに、これは予測できなかったじゃろ! わしの、とっておき……じゃ……か……」


高らかに叫んでいたナレンが崩れ落ちた。

ナレンの近くには、血糊がべったりとくっついた鉤爪を持った黒頭巾が佇んでいる。


「では、おさらば」


私の耳元からそんな声が聞こえた。


「……あ」


私、死ぬの、こんなところで。


まだ、私、なにもしてない。


いや、キスはしたかな?


でも、もっと色々なことがしたいよ。魔王様。


嫌だ。


死にたくない。


嫌だ嫌だ。


死にたくない。


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


死・に・た・く・な・い。


「魔王様ぁー!」


叫ぶと同時、バランスを崩し、少しだけ後ろにつんのめる。


……これは時の偶然か神の奇跡か。

たまたま、バランスを崩したのかはわからないけど、結果としては、私の額、薄皮一枚を、鉤爪による死の斬擊が過ぎ去っていった。


「……あ」


だが、さすが殺しのエキスパート。

なんら、躊躇なく二擊目が振り下ろされる。


「……」


ぎゅっと、目を瞑る。


……。

…………。


だが、いつまでたっても、強烈な衝撃はやってこない。

もしかして痛みなく、死ねる、というやつだろうか。


「……あれ?」


不思議に思い目を開ける。

……目の前には巨大な白銀の甲冑が、その身を盾にして鉤爪の攻撃を受け止めていた。


「助けに来たわよソニヤ!」


甲冑の中から変態(アンジェ)の声が聞こえる。


「あれー、でも、ごめんね! さっきの攻撃で動力中枢に異常が発生したみたいで動かないのよね。ほほ。ほほほほほ……」


「……」


アンジェに期待した私がバカだった。


「……ま、本当の本命はこれなんだけどね」


つまらなさそうな言葉と共に、白銀の甲冑の頭のところが、パカリと開いて、魔王様の妹のエミーが顔を出した。


「え、エミー!」


「……これで貸し借りなしだからね。というか、貸しにしとくわよ」


そういって、手の中の魔法玉(オーブ)を空中へと放り投げた。


「くっ」


あたり一面光輝く。


「……まさか、本当にダーク・ストーカーどもを動かすとわな」


「……あ!」


光りが収まったところで、その人がこちらに向けて微笑んだ。


「すまんな。遅れた」


「魔王様!」


私は下水にまみれた顔に、精一杯の笑みを浮かべた。


というわけでぎりぎり更新です。

最近、いつも、ぎりぎりになって執筆しています。本当はもう少し余裕をもって書きたいんですけどねー。

私の頭の中のスケジュールによると、もう数話でこの物語も決着を見ます。

なんとか、ここまでやってきたなー、と感慨深いです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔導甲冑の名前がすごく操縦席にデ○ルド突き立ってそうな名前してる(ヘイシル作かな?) [一言] 感動的なシーンであるが汚物まみれである( ˘ω˘ )
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