表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/138

第百十三話 ていえんでのかたらい

「……ご、ごきげんうるわちゅう」


ぬぐぐ。

し、舌をかんでしまった。

あんまり、馴れない口調をするものじゃないなあ。

ちょっとだけ反省をする。


「う、うむ」


目の前の魔王様も、少しだけ上の空で返事を返してきた。

目が若干泳いでいる。


今、私たちは、クリスタル製の小さな丸机を挟んで、一対一(さし)で対面しながら、外にて、お酒を飲んでいる。

金色に輝く不思議なお酒だ。


「……え、えと。ではもう一献(いっこん)どうぞ」


「う、うむ」


私が注いであげたお酒を、ひょいと一息に飲んでしまう。

そんなペースで飲まれますと、間がもたないんですけども。


場所は、後宮の一角にある庭園。

広大な敷地内であるためか人造の池や橋があり、中華風な印象を受ける。

今は、池のただ中に造営されている屋根だけがある建築物の下で二人で語らっている。


夜だというのに、あちらこちらで魔法の光が輝き、建物や、木々、それに池の縁がライトアップされており、さながら観光地に来ているような印象を受ける。

お金かかっているなあ。


そんな中、私が酒をお酌し、それを魔王様が飲んでいるわけです。

……でもまあ、椅子に座っている私たち二人の周囲には、ダース単位で付き人たちが(はべ)っているので、なんとなく私たちを被写体としたイベントの撮影会みたいな感じになってしまっており、若干、ムードもなにもないなあ、と思ってしまう。

むしろ、粗相をしでかさないか、という緊張感に包まれている。


遠巻きには、私以外の後宮の姫君たちが、野次馬のごとく、羨ましそうにこちらを眺めている。

見たところ皆、容姿は良い印象を受ける。

それと、人間形の種族が多いかな。


後宮にはいままで魔王様が寄り付きもしなかったのに、今回、いきなり現れたので、 周囲の姫たちは驚いている様子だ。

たぶん、後宮に入るときの挨拶くらいでしか、魔王様と直に会ったことがない姫たちも多いだろうなあと思う。

そんな娘にとっては、いきなり魔王様が後宮に現れたら、それは驚きもするだろうなあとは思う。


「……あー、いきなり、おしかけてきてすまなかったな」


意識を目の前の魔王様に戻す。


「……とりあえず、どうぞこちらを」


私はお皿の上の果物の実を一つとり、魔王様の口の中へと放り込んであげる。


「ん。うむ」


「……ここは、魔王様の家も当然な場所なのですから、自らの家に帰るのになんの気兼ねが必要でありましょうか。魔王様はなんの気にもとめることなく、こちらに遊びにこられてもよいのですよ」


少しだけ、芝居がかった風に笑う。

私個人としては、早いところ、ベッドの上に横たわりたいところだけれど。周り(というかアップフェル公爵)からの強い視線を感じ、少しだけ営業みたいなことをしてみる。


「ん、それもそうか」


一つうなずく魔王様。

わかっていますか、魔王様。

これは、周囲にいる者たちへのリップサービスですからね。

私の言葉を真に受けて、後宮でうつつをぬかすような暗愚な皇帝になるのは許されませんよ。

とりあえず、テレパシーで、私の心の声が届くように念じておく。


「どうした、変な顔をして?」


私の視線に気がついた魔王様が疑念を口に出した。


私はただ黙って首をふる。


「ふっ。相変わらずおかしなやつだ。……さて、俺は次の仕事があるから、そろそろいかねばならんが、ソニヤもいく……いや、お前はここでの暮らしに慣れた方がよかろうな。うむ」


一人で勝手に納得して頷く魔王様。


「うーん、そうですかね? 私としては、本当は仕事もしたいところですが」


私はちょっとあざとく、首を傾げてみる。


ここにきてから、後宮での御披露目のためなのかどうかはわからないけれど、微笑みながら、宮殿中を歩き回るという仕事?を、お腹の辺りがきついドレスを着ながらずっと行っており、そろそろ苦行の域に達してきている。

そろそろ、このドレス姿の苦行から、解放されたいところなのだけれど。


「まあ、ソニヤは、ここでの生活が長くなるやもしれんしな。……アップフェル。ソニヤについて、色々と教えてやってくれ」


「……承知いたしました」


魚人のアップフェルが、恭しく頭を垂れる。

エラのあたりがピクピクしている。


「では、俺はこれで失礼するぞ」


そういって、魔王様が立ち上がり、供のものたちを引き連れ、歩いていってしまった。


残された私には、周りから様々な視線が注がれた。


◆◇◆◇◆


「……オライオン将軍。こちらの作戦投入戦力ですが、第三百一中隊の四個小隊全て投入できます」


黒色の頭巾を被った人型のものが、一つ目の青い巨人、オライオン議員に報告する。

第三百一中隊。別名、『殺戮者(ダーク・ストーカー)』部隊と呼ばれる、潜入、潜伏、暗殺などの特殊作戦に従事する、帝国軍の暗部の切り札のような部隊だ。


「……うむ。陛下の予定はこちらでおさえておるから、大丈夫だ。それに、あの女狐に好意的な議長と、魔法監のお二方は予算折衝の名目で隔離できておることを確認しておる」


「左様でございますか。では、後宮内の警備については?」


黒頭巾が問いかける。


「そちらについても、ローテーションを少しだけ変えて、作戦時間には間隙ができるようにしておく。だが、作戦時間は半刻(一時間)しかとれんぞ」


オライオン議員は念をおす。


「我らに半刻もいただければ、ターゲットを少なくとも四回は処理できまする。その場合の最大の障害をお教えいただけますか」


「あやつの周囲に張り付いておる、人間族の護衛が十名弱、それに、悪魔公爵の一人ベリアルが護衛についているが……」


「……悪魔公爵」


黒頭巾の声に緊張が走る。

殺戮者部隊にとっても、ベリアルを相手にするのは荷が重い。

指揮官である黒頭巾は、部隊の四分の一の戦力である一個小隊を犠牲にする覚悟を決める。


「だが、幸運なことに、今はなぜかは知らぬが、弱体化しているとの報告がきておる。我らはこの機を逃すことはできん」


「……はっ」


「女狐を処理さえできれば、あとは、姫様がなんとかしてくださる。お前たちは、ただただ、あの女狐を狩ることだけを考えよ」


「……御意」


「作戦は計画通りに。では、ゆけ」


「……」


音もなく黒頭巾が、闇にとけて消えた。


「失敗は許されん」


オライオンは虚空に向けて、ぎりりと歯を食い縛った。


というわけで更新です。

そろそろ収束にむけて、話をまとめていかなければ、と考えております。

次回更新も、なんとか来週に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ソニヤさんは生き残れるのか( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ