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第百十二話 まっさーじ

「……で?」


氷点下の声音で、美女、エルフのリート姫が、這いつくばる一つ目の青い肌の巨人、オライオン議員を詰問している。

リートはきらびやかなソファーベッドに身を横たえ寛ぎながら、手には葡萄酒が入ったグラスを遊ばせている。


「……あの下賎(げせん)なる者。どういった手品を使ったか、わかりかねますが、自らを魔王様の後宮へと入り込むための、不埒(ふらち)なる陰謀を張り巡らせ、あろうことか、議会においてそれを可決するという暴挙を行いまして」


さすがに魔王本人が議会へと出席し、強くソニヤの後宮入りを許可した手前、出席していた議員たちは、その魔王自身の許諾を、当然拒否することができるはずもなく、そのままなし崩し的に議案が通ってしまった。


あのときの、アップフェル長官の勝ち誇った顔といったら。エラをピクピクとさせ、こちらに向かってつんと、顎を突き出して挑発をしていた。


オライオンは、そのときのことを思い出し、怒りのあまり咆哮(ほうこう)したい気分にかられる。

だが、自らの主人の、その氷点下の声音の裏にある、煮えたぎる怒りの深さを思うと、ただただ、淡々と報告することに止める。


「私は、あの女の話なんて聞きたくないの。それこそ、この瞬間もね。……で、あなたたちの無能を、いったいいつまで私は、許し続けなければいけないのかしら?」


氷点下の声音で、淡々と詰問をしてくるリート。

その言葉を聞きながら、ただただ肩身を狭くして報告を続けるオライオン。


「……は。それは大変もうしわけなく。ただ、その、実働部隊のものたちも」


オライオンはそこで言葉を濁す。

オライオンにしても、ただ指を咥えて待っているだけではなく、何度もソニヤの暗殺の機会を設けた。

だがその都度、邪魔をされた。

特に目障りなのは、あのいつも微笑んでいる人間の議員、ゼクサイスの子飼いの連中と、ソニヤに引っ付いている悪魔だ。

あれらのガードが予想以上に固い。


「私は言い訳は聞きたくないの。ただ結果だけを聞かせてちょうだい」


「……は」


「もう、下がってよいわ」


「……御意」


オライオン議員が下がった後、リートは一人、爪をかみながらつぶやく。


「……まずいわね。とてもまずい状況だわ」


さすがの彼女でも、自らの計画の甘さに歯噛みをしたい感情に襲われていた。


「……姫。陛下の耳に入ってしまうやもしれませんが、『殺戮者(ダーク・ストーカー)』どもを動かしましょう。やつらであるならば、必ずやあの女狐を仕留めることができるかと」


獅子の顔をした、白色の燕尾服を着込んだ獣人、秘書官長が、部屋の影から進み出て進言する。

ダーク・ストーカーは、帝国軍の特殊作戦部隊の中でも最も秘匿性の高い作戦に従事する凄腕の者たちであり、その作戦成功率を考えれば最善の暴力装置だ。


「でもやつらを動かしたら絶対に陛下にばれるわ」


「はい。ばれましょう。……しくじれば、まず間違いなく、姫様が捕まるでしょうし、成功しても場合によれば、あやつらを動かした管理責任のためだけに、なんらかの処分がなされるやもしれません」


「……だけど、あの女を処分するにはそれしか方法がないのよね?」


「はっ」


「……」


しばし物思いに耽る、リート。

そして、いくばくかのときを、逡巡(しゅんじゅん)した後、しっかりした声音で、命じた。


「やりなさい」


「御意」


燕尾服をまとった獣人はただ、主の(めい)を承った。


◆◇◆◇◆


「……ん♥️」


「そうか、ここがええのか」


「……んはぁ♥️」


口から変な言葉がまろびでる。


「しかし、お主、あんまりこっておらんぞ」


「そうなの?」


「うむ。じゃが、この肌はすべすべしておるのぉ。うらやましいかぎりじゃ」


「ありがと。でも意外ね。ナレンにこんな特技があるなんて」


「一応、わしは皇族にのみ伝えられる格闘術の免許皆伝でな。その秘伝の一つに、このような技があるのよ」


「なるほど」


議院での大騒ぎのあと、私たちは後宮へと一旦逃走し、今はほとぼりが覚めるのを待っているところだ。

そんなとき、後宮長官のアップフェルから、後宮内に大風呂があると聞き及び、こうして、湯治にやって来ることになった。


湯船につかって、ゆっくりしていたときに、なんとナレンがマッサージをしてくれることになり、風呂場の近くの小部屋にて今、こうして極楽な感じですごしているのだ。

この世界だと、マッサージ師なんていう職業は存在せず、格闘術の奥義みたいなものという扱いみたいだ。


「……そなたの心持ちはわしにはわからぬが、わしら人間の共同の利益のために、そなたを人身御供みたいに差し出しておる、という自覚はあるよ。……そのことについては、いくらでも、わしを詰ってもらってもかまわぬぞ」


少し、声のトーンを落としたナレンがそんな殊勝なことを言ってきた。


「……ぷっ、あはははは」


私は一笑にふしてやった。


「笑い事ではないぞ、ソニヤよ」


ちょっとだけナレンが真面目な声音で私に注意をしてきた。


「ごめんごめん。でも、いいのよ。私だって、今、結構楽しいし」


私は笑顔でナレンの方を振り向いた。


「あなたが、私のことを思って動いてくれている。そんな気がするしね」


私は、一つウインクをしてやった。


というわけで、今回も更新が間に合いました。

話はあんまり進んでいないような。。。

次回も来週中には更新したいなー、と。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ナレンとの出会いを考えると随分関係が変わったよね [一言] 前世の記憶を思い出したときにそれまでを振り返って悶絶しそうだよね。
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