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第百十一話 ぎじょうでのつるしあげ

「ソニヤ議員を後宮へと推挙させていただきたく、陛下へと奏上申し上げます」


玉座に座った魔王に向け、魚人である後宮長官のアップフェルは、(ひざまず)きつつ述べた。


「……」


魔王は、その真意を読ませない、ポーカーフェイスのままじっとアップフェルを見つめる。そして、横に(はべ)っている秘書官に視線を向ける。


「陛下が、続けよと」


秘書官がアップフェルに向けて続きを促す。


「は。……新たに我が帝国の施政下へと戻りました人間族の自治領に対し、後宮への推薦者を打診したところ、ソニヤ殿の推挙がございました」


そこでいったん、アップフェルは魔王の顔色を伺うが、その顔にはなんらの感情も浮かんではいない。


「……ただ、過去に議員を後宮にいれる、という前例がございませんので、陛下に確認をいただきたく」


「……」


魔王はやはり同じようにポーカーフェイスでアップフェルを眺めつつ、秘書官に視線を向ける。


秘書官は頷きつつ、アップフェルに向けて言葉をかける。


「……ちなみに推薦人は?」


「はい。推薦人の筆頭は人間族のナレン議員、それに、ゼクサイス議員をはじめとする、人間族、ドワーフ族、妖精族と魚人族の議員や、有力な皇族の方々が名を連ねております。なお、ザッハーク議長、ヘイシル魔法監からも個別に推薦をいただいております」


「……」


目を瞑り、しばし物思いに耽る魔王。


「……『軍』はどうなっている?」


目を開き、刺すような視線を向けつつ、初めて魔王が口を開いた。


「はっ。表立っての反対はございませんが、リート姫をいまだ後宮にいれていないこととのバランスを欠く、という意見を頂戴しております」


「……」


そこでまた一旦、目をつむる魔王。


「……アップフェル」


「はっ」


アップフェル長官が頭を垂れる。


「議会へと承認をかけよ」


「御意」


そういって、アップフェルは退室した。


「……よろしいのですか? 陛下?」


心配そうな表情で、秘書官が魔王へと進言する。


「……」


魔王は心配顔の秘書官の方を一瞥しただけで、ただニヤリと嗤った。


◆◇◆◇◆


「……なんでこんなことに」


私としては納得できない。

議員としての仕事、ということで登院してみれば、なぜかドレスへとお着替えさせられた。

さらに、ごてごてと宝石なども着飾られ、(だん)上に一人だけであげさせられている。

これでは明らかな見世物である。


壇上の私には、敵意の視線、奇異の視線、さらには、歓迎の視線と、議場内の全ての者たちから注目がなされている。

居心地の悪さといったら格別だ。


「……では、第一万三千五十二回、帝国議会、第七十五号議案について審議を行う。発議者アップフェル公爵。議案の説明を」


議長席?と呼ぶべきかは悩むけど、議場の端に設けられた、巨大なスペースに縮こまるようにして鎮座しているレッドドラゴン、ザッハーク議長が口上を述べる。


「指名をしただきました、後宮長官のアップフェルでございます。此度は、ここにおられるソニヤ議員の後宮入りを承認いただきたく議案を提案させていただきます。ではまずはお手元の資料をご覧下さい」


椅子から立ち上がりアップフェルが声をあげた。

その後、アップフェルから長々と説明がなされた。

発言をかいつまんでまとめれば、議員職でも後宮にいれてもいいよね。特段、ダメという規則もないし、ということになる。


「発言をよろしいでしょうか?」


アップフェルの発言が終わった頃合い、答弁の時間に議員のゼクスが、いつもの微笑みを浮かべながら挙手をする。


「ゼクサイス議員。発言を許可する」


厳かにザッハークが述べる。


「議長、ありがとうございます。……では議員の皆様、僕の意見を述べさせていただきます」


そこで、ゼクスは一旦言葉を切り、周囲を見渡す。


「そもそも後宮入りに関しては、帝国法下においては、陛下の拒絶がなければ原則として受けいられる規則であるはずです。そうであれば、ここの議場にて審議をするまでもなく、ソニヤ議員の後宮入りを認めるべきであろうかと存じます」


その発言に対しては、次々に、異議なし、という言葉が続いた。

完全にやらせだ。


「……議長。発言をよろしいでしょうか」


「オライオン議員、発言を許可する」


ひとつ目の青い肌の巨人が、立ち上がり、朗々と演説が始まった。


「私は、議員の後宮入りには反対する。そもそも、議員職という神聖なる役職をなげうつ、ということが帝国への献身に背く行為であると思うからして……」


延々と自論を述べはじめた。

いかに、帝国が偉大であるか、皇帝が偉大であるか。

後宮制度などという前時代の制度に依拠(いきょ)することなく、皇帝が自由に妃を選ぶべきであり、帝国の臣民は、それに従うべきであろう。

後宮長官は、自らの職を賭して、その旨を宣命し、制度改革をすべきである。うんぬん。

オライオン議員の発言が終わると、多くの議員がスタンディングオベーションで応えた。

なんというか仕込みは完璧みたいだ。


ナレンの方を見てみると、苦虫を噛み潰したような顔をしている。


やはり、議会での主流派は私の後宮入りに反対するだけでなく、この機会に、この後宮制度を変えてしまい、アップフェルの権力を殺ぐつもりなのだろう。


……このままだと、私は完全にピエロだなあ。


そんな思いで、ついつい苦笑いをしたくなる。


「……静まれ! 陛下のご出座である」


「……」


ザッハーク議長の声に弾かれるようにして、皆、立ち上がり臣下の礼をとる。


魔王様が、自室の扉から現れ、議場内の簡易型玉座に腰かけた。


「……陛下からの下命がくだされる。議員諸君、傾聴せよ」


ザッハーク議長の言葉を受けて、議員は皆、立ち上がり、魔王様の方へと直立不動にて身体を向ける。


「……ソニヤ議員の後宮入りを許可する」


魔王様が立ち上がり、そう宣言した後、そのまますたすたと、自室へと戻ってしまった。


「……」


議場に残された私たちは、そのままの格好で、お互いに顔を見合わせた。


なんとか更新です。

次回も、来週には更新したいなー、と。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔王様の脳内がピンクになり始めてたり? [一言] 一瞬魚人が雑魚に見えてしまってえっ?ってなったw
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