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第百五話 ていとにて

「こちらが、ソニヤ様の執務室とのことです」


「ありがとう、カミーナ。お互い立場は変わってしまったけど、これからもよろしく頼むわね」


「こちらこそお願いいたします」


カミーナが優しく微笑んだ。

今は着なれたメイド服ではなく、黒を基調とした制服を着ている。

ちなみに私も細部は異なるが、似たような黒の制服を着込んでいる。

ここ、魔王城での人形の種族のユニフォームだ。魔法による保護がある服で、これ一着で、西側諸国の鉄鎧と同じくらいの物理的な防御力がある、というからすごい。

他にも、登録した術者との間で、電話みたいに連絡を取り合ったりすることもできる機能がついていたり、火を起こしたり、真水をだしたり、さらに光源をだしたりなどの簡単な魔法も内蔵しており、非常に便利だ。


私が皇帝秘書官に任命されたので、私の人事権を使って、補佐官として、カミーナを皇帝府に配属させることに成功した。

そして、私専用の執務室として、城の中にかなり立派な部屋を用意してもらった。


秘書官は、皇帝府の中には、それなりの人数がおり、それぞれ、独立して魔王様から仕事を与えられているみたいだ。

しかしながら、新米の私には、まだ正式な仕事は割り当てられていない。まあ、当然と言えば当然といえる。

強いて言えば、この宮殿に慣れるところから始めるべきだろうな、とは思う。


「それじゃ、カミーナ。視察に出掛けるわよ」


「承知いたしました」


そういうわけで、私はカミーナを引き連れて、宮殿の中を視察することとした。


……宮殿の壁や扉は、黒色が基調ではあるが、金属と陶器の中間みたいな素材で出来ており、光る石が天井や壁のあちらこちらに嵌め込まれているため、常に明るい。

まあ、夜になると、居住区の灯りは少なくしているとのことだ。


「やっぱり、シュガークリーの王宮と比べると、全然違うわね」


「そうでございますね。この壁など、一体、どういった材質でございましょうか?」


「ほんと、不思議よね」


そんなことを話しながら廊下を歩いていると、廊下の向こう側から、物々しい一団が歩いてきた。

城内であるにもかかわらず、黒色の鎧を着込んだ大柄な騎士風の一団だ。

だが、異質なのは、その先頭を歩いている華奢な令嬢が、まるで王者のように、それら屈強な鎧騎士たちを従えていることだろう。

そして、その華奢な令嬢、エルフのリート姫は、その顔に薄ら笑いを浮かべて、私の横を優雅に歩いていく。



「……」


「……」


私たちはお互いに声をかけるでもなく、黙って、視線だけを交差させた。


◆◇◆◇◆


いくつかの部屋を視察して、係りの者たちから説明を受けた。

やはり慣れない環境であるためか、少しだけ疲れたので、休息がてら中庭にて休もうと庭に面した回廊を歩いていると、後ろから声をかけられた。


「どうだ、ソニヤ。城には慣れたか?」


「あ、魔王様。ごきげん麗しく」


私は習ったばかりの帝国式の作法を真似て、略式の礼をする。

隣でカミーナも黙って礼をする。


「いや、そんな堅苦しくしなくても良いぞ」


魔王様は手をひらひらとさせる。

しかし、今日は供の者を一人も連れず、気軽な感じだ。仕事はないんですか?


「ところで、魔王様は、今、暇なんですか?」


「……う、うむ。まあ、そんなところだな」


明後日の方向を見ながら、魔王様が呟いている。

あ、これは、絶対に嘘をついているな。

たぶん、仕事を放ってきたのだろう。


「……えー、ごほん。……ところでだ。これから、お前はここで、色々と慣れていかないといかんのだから、せっかくだから俺が帝都を案内してやろうと思ったわけだが」


どや顔で魔王様がそんなことを私に提案してきた。

いや、そんな。魔王様も忙しいでしょう?


「で、でも、お忙しいのでは?」


「なに。大丈夫だ。なんとかなる」


良い笑顔で回答をしてきた。

まあ、たしかに、かなり長い間、魔王様はシュガークリーにもいたしなあ。本当に暇なのかもしれない。


「それでしたら、ソニヤ様。私は城に残り、お部屋の荷を片付けておきます」


「……あ」


「うむ、頼むぞ」


カミーナの提案に、私が返事をしようとしたところで、なぜか魔王様が返事をしてしまった。

あれ。私の意見は?


「よし、ではいくぞ」


「あ、ええと」


こうして、魔王様に(無理やり)連れられて、帝都の見物に行くこととなりました。


◆◇◆◇◆


帝都内の移動手段は、移動用の籠を四足歩行のゴーレムが決まったルートを運ぶ、半自動式のバスのようなものが実現しており非常に便利だ。

ほかにも、馬車に似た、動物型のゴーレムが牽く乗り物や、長距離の移動にはドラゴンを利用した、交通手段もあり、色々と移動手段がある。

さすがに、自動車のようなものはないみたいだけど。


そんなわけで、今はフードを被って、お忍びでゴーレムバスにて相乗りしている。何事も体験である。

バス内の周囲には、犬型の獣人とか、骸骨姿のゴーレムとか、人間やドワーフなんかの亜人、と本当に様々な人種(?)が平和な感じに乗っている。

すごい状況だ。


「あ、あのー。魔お、ーる様。今からどちらに行かれるのですか?」


周りににこれだけ人がいる状況なので、さすがに魔王様がここに乗っていると大々的に言うわけにいかず、いつもの使いなれている偽名を使っている。


「ん? ああ、とりあえず、適当に帝都をぶらついた後に、お前の帝都着任祝いとしてな、すこしばかり関係者に声かけをしておいた。内々のな」


「はあ」


「場所はヘイシルの所有する別邸の一つだが、まあ、あとで案内する」


「なるほど。ところで、マオール様も、結構、お忍びで街に出られるのですか?」


「ん。ああ、たまに、な。……ま、『転移』の魔法で移動することの方が多いんだが、せっかくの機会だからな。お前の社会勉強も兼ねて、こうして乗り合いゴーレムに乗っているわけだ」


そう言ってナチュラルに私の膝をポンポンと叩いてきた。

なるほど、私の見聞を広めるのに手を貸していただいているわけですね。


「よし、ここだ。降りるぞ」


そうしてしばらくバス?に揺られた後、私たちは籠から降りた。

道もやはり、びっしりと金属と陶器の間のような材質の板で舗装されており、非常に歩きやすい。


城や屋敷と見間違えるような通り沿いの街並みを歩いて、高級デパートみたいなところで、その珍しく美しい品々を眺めてみたり、湖もある広い公園を散策してみたりと、帝都のそのスケールの大きさに圧倒される。


「よし。これでも食べろ」


「あ、ありがとうございます」


途中で、白身魚のフライが挟まれたパンのサンドをテイクアウトで買って貰ったのだが、シュガークリーの固くてパサパサな黒パンと違い、もちっとした食べやすい、質の高い小麦で作られていると一目でわかるパンで、こういったちょっとしたところでも、シュガークリーと魔法帝国とのその実力の差を感じていた。


「どうだ、うまいか?」


「……」


パクつきながら、こくこくと黙って、首肯した。


「あと、これも飲んでおけ」


そう言って、プラスチックのような肌触りのボトルに入った、飴色の飲み物をくれた。

甘い紅茶に近い味だが、苦味とかもなく、クリアな味わいだ。


「……ありがとうございます」


私はただただ、その圧倒的な文明の力に気圧された。

それと同時に、すこしばかり懐かしい気持ちにもなっていた。

昔、どこかで、味わった空気に似ているような?

でも、どこでこの雰囲気を味わったのかは、あんまり覚えていない。


「よし、そろそろいくか」


「あ、はい」


私は魔王様に手を引かれて歩きだした。


というわけで更新です。

ここからは、オリジナル展開になってきますので、元の話がないため、更新がだいぶ遅れるようになることを、一応、お断りさせていただきます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 元の記憶や二人の恋?模様がどうなるか楽しみですね。 [一言] 了解です!
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