第百話 けいやくはき
「ソニヤよ。少しよいかな?」
「! んぐぐ。……は、はい。なんでございましょうか」
朝食の席。私がオムレツを口に頬張っているときに、父であるメルクマ国王に急に声をかけられた。
はて。こんなに朝早くから、私になんの御用でしょうか?
「お前にも非常に関係があることだから、今から会議に出席して欲しい」
「今からでございますか?」
しばし、目の前の食事に目を向け、意を決するや、急ぎ、オムレツを口の中に詰め込み、スープで一気に胃の中に流し込む。
そして、皿の上のチーズとベーコン、それに葡萄を口の中に放り込むや、父の方を向き、強く頷いた。
「……あー。朝食の後でも構わないので、ゆっくり食べなさい」
父の口から呆れたような声音が漏れた。
◆◇◆◇◆
メルクマ国王に連れていかれたのは、城の大会議室だった。
石壁に木製の床、その上には赤色のカーペットが敷かれ、中央には巨大なテーブルが設えてある。
テーブルの周囲に並べられた椅子には、国の主だった者たちが二十名弱、すなわち、王族に連なる者たちや、大貴族、それと軍の将軍たちといった、シュガークリー王国の政治を動かしている首脳たちがすでに勢揃いをして私を待っていた。
私は、皆からの注目を浴びつつ、テーブルの上座、つまり、国王の隣に座らされた。
??
私としては、なんでまた、このような場に連れてこられたのが、まったくわからず、ただただ狼狽するばかりだ。
「諸君。我が娘ソニヤを連れてまいった。……ここで話し合うべきことは、すでにこれまで散々に議論をし尽くしたことなので、もう撤回する気持ちは私にはない」
そういってメルクマは沈黙した。
「……」
周囲の人たちも誰一人として言葉を発しない。
そして、重い沈黙を破って、メルクマが言葉を発した。
「……我々は魔王軍に降伏する」
「……え?」
父の言葉の意味が全然わからなかった。
そういえば今、魔王軍と停戦中だ。
戦火を交えていない状況だけど戦争中ではあるので、一応、論理的には降伏することは可能か。
でも、なんだっていきなり、そんな話になるのかが、まったく理解できない。
というよりも、いったいいつからそんな議論をしていたのかしら?
「な、なぜですか……?」
無意味だとは思うが、一応、その理由を問うてみた。
「……」
じっと、父が私の方を見つめている。
「……簡単な話だよ。取引だ」
「取引、でございますか」
「うむ。……もう他の主だった大国、ザイス聖王国やダライ・トカズマ帝国なども、内々のうちに、帝国内の利権を見返りにすでに動いていると聞いておる。……それに我が国もこの地域の統治権を引き続き保証することを提案されておるのだ」
「それでしたら実際のところは……」
「そうだ。要するに実質、今とそう変わらない。だが、形式上は我らは魔法帝国の属国の地位となろうな」
……まあ、形式という名の名誉を差し出せさえすれば、身分と財産を保障してくれるわけだから、そんなに悪い話ではないのね。
「……それと」
そこで一旦言葉を区切り、父であるメルクマ国王は私を見つめた。
「ソニヤ。お前には魔法帝国の議員に就任してもらう」
「へ?」
父が何をいっているのかがよくわからなかったので、我ながら間抜けな声を出してしまう。
「我が国は、帝国の版図に組み入れられた後、西方諸国全体でも五席しか割り当てられていない帝国議会の議席を一席分、先の割当分とは別に、特例として認められたのだ」
「特例、でございますか?」
特例というからには、普通ではない状況のようだ。
「そうだ。その話を伝えに来た使者の話では、西方では他に、教皇猊下くらいしか思いあたらない、相当に破格の待遇らしい」
「そんな破格の待遇をなぜ我が国に? それと、私とどのような関係が?」
話が全然飲み込めない。特に政治力なんて欠片もない私が、なぜに議員ですか?
「条件としてな、ソニヤ、お前を指名してきたのだ」
「わたし、でざいますか?」
「うむ。ソニヤ姫を特例として帝国議員として受け入れる準備がある、とな。帝国議長たっての推薦とのことだ」
帝国議長の推薦?
……うーん、そんな人に知り合いがいたとは覚えがないけれど、もしかして魔王様がなにか裏で手を回した、とか?
私としては首をひねってしまう。
でも、それならば、私といるときに、少しくらい相談なり、話が出てもおかしくないのに、とも思う。
でも本当に誰の差し金かわからないし、その意図もよくわからない……。
「我が国の利益にもなるのだ。……この話、受けてくれるね、ソニヤ?」
私の拒否を許さない声音で、父が確認をしてくる。
私は、内心動揺しながら、しばし黙考をする。
まずこの提案が悪意があったとして、ここで断ったところで、あまり意味はないだろう。他に取りうる手はいくらでもあるだろうし。
では、逆に誰かの善意だとしたら、その善意を無下にすることは、その人の面子を潰すことに他ならない。
それに特別待遇ということならば、私自身が、人間族全体や西方全土、シュガークリー王国などに義務感を持つこともないので、都合がよいかもしれない。
私はじっと父を見つめ、首を縦にふった。
「……おお、受けてくれるか」
国王からの命令ならば、是非もないし。
ただ、一つだけ疑問があったので聞いてみることにした。
「け、結局。人間族の自治が続いて、これまでどおりに、やっていく、という話はどうなったのでしょうか……?」
魔王様はたしか、私達、人間の自治が続けることが出来るように一生懸命に裏で活動をしていてくれたはずなのだけれど。
「む? それについては、すでに結果が内々に伝えられておるぞ。やはり自治権は契約通りに消滅させると、な」
あ、あれー?
そこは、ちょっと意外な結末なんですけども……。
魔王様。結局、作戦失敗しちゃったんですかー!
今度、文句の一つでも言ってやろう。
そう、私は確信した。
ついに百話達成です!(閑話を入れると、もっと書いてますが)
リメイク前だと、ここからは、帝国編になって、さくっとエンディングまで持って行ったわけですが、今後の展開をどうしようか思案中。
完結だけ目指すならば、そのままアップデート分だけ書けば、あと10話かからずに完結です。
次回更新は、来週には書きたいなー、と。




