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第九十.五話 閑話 いつものにちじょう

「我が一族の者がさらわれただと?」


体長が、二十メートルをゆうに越えようかという巨大な体躯を誇る、赤いゴツゴツした皮膚の古竜種(エルダー)に属する、レッドドラゴンである『議長』ザッハークが魔力がこもった怒りの声をあげた。

怒りのあまり、口の端より、炎がちろちろとはみ出し、もくもくと煙が立ち上っている。


「は。まだ生まれ出でて数百年の幼生ではありますが、山より飛行にて、遊んでいたところ、人間の一味に捕縛されたとのこと」


「おお。なんということじゃ!」


口から、断続的に炎を吐き出すザッハーク。


「ぎ、議長。落ち着いてくださいませ。今、救出部隊を組織して、探索に向かわせますので」


副官のリザードマンに諌められるものの、口の端から、堪えきれない炎が吹き出す。


「遅すぎる。もはや、一刻の猶予もない。こと、ここに至っては、わし自ら救い出すしかあるまいて!」


口から、一つ大きな炎を吐き出す。

あまりの高温に、魔王城(キャッスル・オブ・テラー)のホールの温度が数度上昇する。


「ぎ、議長! れ、冷静に! 冷静にお願いいたします」


「こうしてはおられんっ! 待っておれ!」


副官の叫びも虚しく、エルダードラゴンの優美な身体が、ホールからバルコニーへと飛び出し、そのまま大空へと飛び立っていった。


◆◇◆◇◆


「お兄様のばか……」


部屋の端の方で、ベットの上にて足を抱えて丸くなり、一人暗く落ち込む、魔王の妹エミー。


その傍らには、暗闇の中、うっすらと光り輝くいそぎんちゃくに似たモンスターが、ゆらゆらとその触手を揺らしていた。


「……お兄様ったら、次、私があの売女(ばいた)にちょっかいをかけたら、二度と会ってくれない、なんて言ったのよ。ひどいと思わない?」


「……」


ただゆらゆらと、揺らめくいそぎんちゃくのような触手のモンスター。

触手の先っちょから、ねばねばとした液体が溢れ、異臭を放っている。


「でも、お兄様の決意は本気っぽかったわ……。それに義姉様(リート)の動きも気になる」


ぎりっと、唇をかむエミー。


「このまま行くと、お兄様に義姉様がますます接近するかもしれないし。それは、現状、非常に不味いわね」


そこで、指の爪を苛立たしげに噛むエミー。


「……」


そばのいそぎんちゃく状のモンスターの触手も、ピンク色に仄かに光り、ゆらゆらとゆらぎ、徐々にその触手の振幅が大きくなっている。


「……そうね。ここは、私も広い心をもって、売女をうまく使うしかないかもね。それでうまく、義姉様を牽制できれば儲けものだし」


目を閉じ、しばし考え込むエミー。

そして、目を開けるや、ニヤリと微笑んだ。


「敵の敵は味方ともいうしね。そうね、私が動けない今は、暫くは、売女に頑張ってもらうのも一案かしら」


そう言って、エミーはいそぎんちゃく状のモンスターの、触手を優しく撫でるのであった。


◆◇◆◇◆


「……叔母上。お久しぶりでございます」


「これはべリアル。元気そうでなによりやえ」


燕尾服を着こなした美少年の姿をした悪魔べリアルが、とある古い城にて逗留している、叔母の悪魔ベルゼブブに声をかけた。

ベルゼブブは恍惚そうな微笑みを浮かべている。


「ところで、その格好はいったい? それに、なにをなさっているのですか?」


呆れたような声でべリアルが聞いた。

ベルゼブブは、艶かしい身体全体を、黒色の紐のようなもので亀甲縛りのような形に縛り上げられた格好で、天井に吊り下げられていた。

ところどころ、バニーガール姿の服が破れたりして、なんとも嗜虐心(しぎゃくしん)をそそられる姿格好をしている。


「……エミー様が呼び出したアザゼルは、まだこちら側での実体を持っているでありんすよ」


はぁはぁとあえぎ声をあげながら、ベルゼブブが説明をする。


「それで?」


「それでありんすから、折角なので、わきちの楽しみに使おうと思ったのでありんすよ」


「……なるほど。それで自らを縛り上げて、マゾヒストとしての悦びを楽しんでいる、と。……ところで叔母上。なぜ、ところどころ、服が破けているのですか?」


「ん。これでありんすか? まあ、見ていておくんなまし」


ベルゼブブは、器用に手首だけを動かして、黒色の紐のようなアザゼルを、鞭のようにしならせ、自らの身体中に叩きつけた。

叩きつけられたところは、衝撃のため服が飛び散り、その度に、甘美な叫びをベルゼブブがあげる。


「……はぁはぁ♥️ こ、これは癖になる痛みでありんす」


「……叔母上が非常に満足されたご様子で、私としても喜ばしい限りです。あ、ここに、地獄の炎を灯らせた蝋燭も用意させていただいたので、ご利用なさるのであれば、どうぞ」


「ああ、べリアル。あんさんは、実に気が利く甥御でありんすな」


にんまりとベルゼブブは嗤い顔を向けた。


「ついでに、鋸で、わっちの、首を切り落としたりはしてくれないでありんすか?」


「もうしわけありません、叔母上。私は別に用事がございますので、別の機会に」


「そうでありんすか。それでは、また今度よろしくでありんす」


そういって、ベルゼブブは恍惚そうな笑みを浮かべ、自らに鞭を叩きつけるのであった。


議長とベルゼブブはひさしぶりの登場ですね。

次回更新も、来週中には。

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