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第八十九話 どろーげーむ

魔王の妹エミーと、アンジェ教皇との攻防は、緊迫したものではあったが、私の目には互角なものと映っている。


アンジェはその手から、次々に光の弾を生み出しエミーへと飛ばす。そしてそれに対抗してか、エミーも炎の弾をカウンターとばかりにお互いに飛ばしまくっている。

それらの弾はあらぬ方向に飛んでいったり、二人の防御結界により弾いたりしたものだから、その流れ弾が、あちらこちらへと次々に着弾して、周囲を阿鼻叫喚の地獄に変えている。


「吾輩の頭がー!」


リッチーのヘイシルが向こうの方で叫んでいる。

ヘイシルも二人の戦いに巻き込まれて、首がもげたらしい。難儀なことである。


「アンジェ様! もう少しセーブをしてください。味方にも被害が!」


オクトーバー司教も叫んでいる。

彼らも楽しそうだ。


ちなみに今の私には、悪魔アザゼルの猛攻を無事に凌ぎきり退散させた、悪魔べリアルが傍らに控え、私を護衛してくれている。


「……ソニヤ様。もう少し、後ろの方へ」


「わかったわ」


私はべリアルの進言を聞き入れ、少し後ろに下がる。


その時、アンジェと戦っていたエミーが、こちらに振り向き、叫んだ。


「ひ、卑怯よ! 私一人にこんな大人数で戦うなんて! 正々堂々、一対一で勝負なさい!」


自分のやったことを棚にあげてこいつはいったい全体何を言ってるんだろう。

でもまあ、神経が図太いことだけは認めないといけないのかもしれない。

私は、はぁ、とため息を一つつくと、べリアルに命じる。


「べリアル、『次元門(ゲート)』を」


「どちらに?」


「私が合図したら、エミーの足元に開きなさい」


「御意」


私は息を吸い、呼吸を整えると、魔王様から下賜(かし)された弓矢を構え、エミーに語りかける。


「エミー! この弓矢はね。あなたのお兄様からいただいたものよ」


「な、なんですってー!」


遠くの方で、エミーが怒りの声をあげている。


「ほら、この矢だってあなたの大好きなお兄様のものよ。うまいこと受け止めなさい」


私はそういって、無造作に矢をつがえ、弓を引き絞った。

ゆっくりした速度で、山なりの放物線を描きながらエミーへと矢が飛んでいく。


「ぐっ!」


エミーは、アンジェとの戦いも一瞬忘れて、矢の方に注意が殺がれる。


「えいっ」


アンジェが気合いがまったく入っていない、適当な声をあげながら、その手に持つ飾りがじゃらじゃらと付いた杖で、思い切りエミーの後頭部を殴り付けた。


「なっ!」


エミーが、一瞬驚いた顔をしてアンジェを見ている。エミーの身体がぐらりと傾いた。


「今よ、べリアル」


「御意」


私の合図を受け、エミーの足元にゲートが現れ、エミーの姿を暗黒の闇の中へと消しさる。


「覚えておきなさいよー!」


エミーの声が聞こえたような気がしたが、気にしないこととした。


「これで、お掃除は完了ね」


◆◇◆◇◆


「……ふふふ。なかなかやるではないか。人間よ!」


黒騎士の兜の中から、魔王様の愉悦(ゆえつ)に溢れる声が漏れ出た。


「お褒めに預かり光栄ですね」


白銀の騎士、ゼクスは大剣を隙なく構え、応える。


「では、これならばどうかな? 見事凌いでみせよ」


黒騎士が剣を大上段の構えから、その剣を振り下ろすと、天空(そら)から、幾筋もの光輝く閃光が次々と降り落ちてきた。


「め、『隕石召喚(メテオ・ストライク)』!」

「な、なんて数だ!」

「た、退避ー!」

「急げ!」

「散開しろ!」


周りで戦っている、騎士団の指揮官らしき男たちが次々と叫んでいる。

蜘蛛の子を散らすようにして騎士たちが逃げ惑っている。


隕石は、地面に落ちるや否や、各所にて大爆発を引き起こし、騎士や骸骨兵士、土人形(ゴーレム)の区別なくこれを吹き飛ばしている。

ただ、魔王様は、うまいこと全ての隕石をコントロールしているらしく、直撃弾は一つもない。ただ、一人を除いて。


「はああぁぁぁっ!」


ゼクスは、自らに降り落ちてくる閃光、天空から召喚されし隕石に向かって、その手に持つ黒き大剣を構え、空へと高く飛び立った。

そして、裂帛(れっぱく)の気合いとともに、一太刀にてこれを両断した。


「見事」


黒騎士が、こんな戦場の最中に呑気に拍手をしている。


「では、僕からもこんな芸を見させていただきますね」


ゼクスが、大剣を肩に担ぐような仕草をすると同時、大振りにて、地面へと大剣を叩きつけた。

すると、大地が砕け、その砕けた大地の隙間より、鋭い氷の槍が幾本も現れ、魔王へと向かっていく。


「つまらん」


魔王が、近づいてくる氷の槍へと、剣を振るうと、黒き炎が現れ、氷の槍を溶解せしめた。


「……む」


しかし、ゼクスは、この氷の槍を囮にして、魔王の背後へと回り込み、大剣の一撃を振りかぶる。しかも、分身しているかのように幾人もの姿が見える。


……しかし、その一撃も魔王はなんなく、剣にて受け止め、また二人は距離をとる。


「ふふふ。『絶対零度槍(アブソリュートゼロ・ランス)』を目眩ましに、『分身剣』にて奇襲か。なかなかに手品が豊富であるな」


「さすがですね、黒騎士殿。不死王(リッチー)古竜種(エルダー・ドラゴン)、それに悪魔君主(デーモン・ロード)であっても、私の本気を軽くあしらえる者はいないというのに」


「ふふふ。しかし、そろそろ頃合いか」


黒騎士は、あたりを睥睨(へいげい)する。

鎧姿の騎士たちが幾人も倒れ、骸骨兵士や石人形が、折り重なり塁々、崩れ落ちている。


「では、我が軍は退かせてもらおうかな。単なる消耗戦は我らも望むところではない」


黒騎士が剣を鞘に納める。


「こちらもそれは同じです」


魔王の呼び掛けにゼクスが応え、その大剣を地面に突き刺す。


「ゆ、勇者様!」

「そ、そんな!」

「わ、我らはまだまだ戦えまする!」


そんな悲鳴が騎士団から漏れ聞こえてくるが、ゼクスの決定に、誰も異を唱えられない。


先程から、ゼクス以外には、魔王軍の戦列をまったく崩せていないのだ。


あの、カミーナや、ナレン、それにゼクスの腹心のシルフィにしても、戦線は維持しているものの、鉄人形(アイアン・ゴーレム)とタイマンを張っているためか、戦線を突破することはできてはいない。


「……ふっ。合格だ。さて、 撤退するぞ!」


黒騎士は、最後にそんなことをゼクスに声をかけ、一糸乱れぬ撤退を魔王軍(仮)は開始した。


壊れて動けない骸骨兵やゴーレムは、その場で塵に還っている。実にエコな軍隊だ。


「負傷者の救護を最優先してください!」


魔王軍の撤退にあわせて、ゼクスも配下の兵をまとめあげている。

ただ、こちらは、かなりの数が負傷しているので、その負傷手当てを優先しているためか、なかなかに動きが鈍い。


私は、小走りにゼクスの下へと走る。


「お疲れ様です」


「……ソニヤ姫。お疲れ様です」


ゼクスはいつもの微笑みを浮かべているが、若干、疲れが見える。

やはり、魔王様相手の大立ち回りは消耗するのかもしれない。


「今回のご活躍見事でございましたね」


「いえいえ。……まぁ、これで、主戦派の皆さんも、なかなかに魔王軍が手強いことがわかっていただけたと思いますので、今後は簡単に戦を仕掛けようなんて、言わないとは思います。まずは目標達成です」


私は頷いた。


さてと、とりあえず、今日の成果に満足しながら、一人木陰で休んでいると、どうやら戦いを終えたらしいアンジェが、満足した顔をして帰ってきた。


「ねぇ、ソニヤ! 私の活躍見てくれた! ねぇ、ちゃんと見ていてくれた!?」


「……あー、はいはい」


適当に答えておく。


「ところで、あの死霊の兵士たち。例のリッチーが作っておりましたが、やつは、本当に何者でしょうか? あれほどの使い手、本当に人間の賢者でしょうか。……もしかしたら、魔王軍の手先であるかもしれません。しかも、例のマオールとかいう男も、あれだけの魔力。もしかしたら……」


オクトーバー司教が難しそうな顔をして、顎に手を当て考え込んでいる。


オクトーバー司教には、べリアルの呪いで、そのことについて考えさせないように制限をしているはずなのに。効果が薄くなってきたのかしら。


「で、でも、前にマオール様の疑いは晴らしたのでは?」


「いえ。まだ、保留といったところですね」


きっぱりとオクトーバーが言う。

うーん。これは困ったなー。


「別にどうでもいいんじゃない。そんな些事?」


「……そうでございますか」


あっけらかんと、アンジェが言うと、この話はそこで終わってしまった。


教皇様。貴女、本当にそれでいいんですか?


とりあえず無事に更新しました。

次回更新もなんとか来週中にはと考えております。

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