第一話 ここどこですか?
久し振りに自作品を読み直したら、あまりにもしょぼいので、ちょっと書き直したくなって、勢いに任せて書いてしまいました。
マイペースで書いていきたいと思います。
「ぐ……あ……」
まどろみの霧の中から、徐々に意識が覚醒していく。
だが、まだまだ、夢見心地だ。
そういえば、先ほどまで誰かと話をしていたような?
あれは、たしか……。
だが、思い出そうとしても、頭の中に靄がかかったみたいで、ぼんやりとしてしまい、はっきりと思い出すことはできない。
まぁ、単なる夢だろう。
そう、心の中で思うものの、あまりにも拳を固く握りしめていたためか、ぎゅっと握った手の平が汗でぐっちょりと濡れている。
少し不快な感じだ。
しかし、思いの外、目覚めたベッドの寝心地が良い。
俺は、大きいベッドの、そのふかふかな肌触りをしばしの間、堪能する。
……と、ここで、はたとその違和感に気づく。
あれ、俺って?
たしか、俺は、先ほどまで、都内にある自室のアパートにて、パソコン(BIOSのロゴから、筐体のデザイン、サウンドエフェクトまで、某ギャルゲーのキャラで全てデコり済み)の前でエロゲーをやっていたはずなのだが。
大学時代から愛用している、とてもお気に入りの背もたれがふかふかとした椅子に寄りかかりながら。
しかもちょうど、もう少しでメインヒロインを脱がす、という最高のシチュエーション。
俺の信条としては、攻略サイトは絶対に見ない主義なので、厳しい条件分岐に悩み、結構てこずった末に到達した、苦心のイベント。
本当に本当に時間がかかった。
なお、そのゲームの名は『鬼畜陵辱姫』。
「成人」という名の『紳士』向けの由緒正しきゲームである。
あ、ちなみに俺はちゃんと成人して立派に働いているシステムエンジニアなので、紳士の嗜みとしてエロゲーを楽しむことに、やましい気持ちなど持っていない。
そう。一欠片ほども、だ。
賢明な読者諸氏のために、簡単にゲームの解説をすると、紳士たるプレイヤーは魔王その人となり、人間界に攻め込む。
まあ、攻め込む理由については、ゲーム内ではあまり細かい説明はなかったし、俺も調べてはいない。
エロゲーを楽しむときに、そんな些末な事にこだわる必要もないしな。仕方がない。
決して、製作者たちが手を抜いて、設定を考えていなかった、とかではないはずだ、たぶん。
そして、当然というべきか、お約束なことにというべきか。攻め入った最初のターゲットとなるお城だか砦だかには、美人でスタイル抜群なお姫様がいる。エロゲーだし、当然だよね。
で、この姫様こそが、このエロゲーのメインヒロインである『ソニヤ姫』。
金髪ストレートの色白美人で、童顔巨乳。
王国一だか大陸一だかの美人、という設定だったはず。
そして、このソニヤ姫を陵辱しつくす、というのが、このエロゲーのメインコンセプトだ。
実に単純明快でわかりやすい。
まぁ、一言で言ってしまえば『鬼畜ゲー』である。
良い子にも、悪い子にもお勧めしかねるジャンルではあるのだが、紳士の中の紳士である俺は、『エロゲーソムリエ』(自称)なので、どのようなジャンルのエロゲーであろうとも、それがエロゲーである限り、選り好みはしない。
それこそが紳士の中の紳士であるエロゲーソムリエの嗜みである。きりっ!
……ちなみに、このゲームのメインヒロインであるソニヤ姫の、魔王に陵辱の限りを尽くされた後に、完全に堕ちた後に開陳される、「あへ顔ダブルピース」のCGは、ここ数年でもかなりインパクトのある絵面だったためか、ツイッ●ーランドや、ピ●シーとかのSNS、某チャンネルなどの巨大掲示板といったネット界隈における、相手をおちょくるための定番ネタ画像としても重宝されてもいた。
俺も散々、SNSにアップして、強敵たちへの煽りに使ったものだ。
で、そんなエロゲーばかりしている紳士な俺なのだが、当然というべきではあるが、経済的にはごくごく普通の一般人である。
なので、こんなふかふかな大きいベッドは我が家には存在しない。これは絶対である。
というか、このベッドの大きさだと、そもそも我が家の狭い自室には置けない。入らない。
うちは、都心からちょっと西の方に離れたところにある駅の、そのまた徒歩二十分くらい離れたところにある、ごくごく普通の1DKのアパートだ。
そんな普通のアパートの六畳間には、そもそもこんな大きなベッドを入れておくことは物理的に不可能である。
俺は、不思議に思いながらも、ベッドから立ち上がった。
酒でも飲んで、酔いつぶれ、入る家を間違えてしまった。と考えるのが妥当だろう。
そう。きっと知り合いの家にでも間違って入ってしまい、そのまま寝過ごして、泊まってしまったのかもしれない。
ただ、先程まで自室でゲームをやっていた、という気持ちが完全にはぬぐいきれず、また、こんな立派なベッドを持った友人には心当たりがない事が、やや疑念を掻き立てるのだが。
……で、立ち上がってすぐに気が付いた。
やっぱり、なんだか様子がおかしい。
部屋の中を見回してみると、部屋の壁際には、テレビとか雑誌とかで、貴族なんかのお屋敷紹介とかの特番でしか見たことがないような、綺麗な陶磁の壺や、銀製の置物なんかの豪華な調度品が所狭しとおかれている。
壁には額縁なんぞが飾られ、よく分からない肖像画が鎮座している。
ほら、あそこに置いてある鏡なんて、その縁が金色に輝いていて、実に細やかな植物や動物を象った彫刻が施されている。
さすがにこんな豪華な部屋を持つ友人はいないな、と確信に至る。
……あと、これが決定的な違和感なんだが、なにやら俺の目線が普段と比べて明らかに低い位置にある。
俺は茫然と、自らの手のひらを見つめた。
ほっそりとした白い指が伸びている小さな綺麗な手のひらだ。
明らかに、普段の俺の指とは似ても似つかない。
「う、うわぁー!」
あまりにびっくりしてしまったため、恐怖のあまり、混乱して叫び声をあげてしまった。
……だが、俺の口から出てきたそれは、普段の聞きなれた低い男の声ではなく、甲高い女の声。
そして思いの外、その甲高い声が、部屋中に響き渡った。
「ソニヤ様! どうなさいましたか!」
メイド服をきっちりと着こんだ若い娘が、部屋の中へと飛び込んできた。
綺麗な黒い髪のキリリとした目元が印象的な美人だ。
そんな彼女が、がちゃり、と大きな音をたて、部屋の扉を開け放ち、外から部屋の中へと走って駆けつけてきたのだ。
俺はバカみたいにその娘を凝視した。
「え? 今なんて?」
「……ソニヤ様こそ、いきなり大きな声をだして。いったい、なにか異常がございましたか?」
怪訝そうな顔で娘が俺の顔を覗き込む。
「あ、えーと、いや。ちょっと変な夢を見ていてびっくりしただけなんだけど……。と、ところで、お、お水をもらえるかな? ……かしら?」
慌てて語尾を付け加えてみる。とっさの判断だ。
「? ……かしこまりました」
娘は怪訝そうな顔を一瞬浮かべはしたものの、俺の指示には素直に従った。
俺は呆然と部屋の中を観察する。
そして、先ほど見かけた、部屋の壁に立て掛けてあった鏡の中の人物と目が合う。
「……え?」
そこには、金髪ストレートの色白美人。童顔巨乳な若い娘が、こちらを不安そうな目でじっと見つめ返してきていた。
エロゲーで俺がよく見知った、ソニヤ姫の姿がそこにはあった。
◆◇◆◇◆
「……魔王様。出陣の準備は整ってございます」
広大な謁見の間にて、黒一色の衣服に身を包んだ、黒髪黒眼の無駄にイケメンな男が、玉座に鎮座している。
その玉座は、巨大な黒い武骨な石造りであり、禍々しい気配を周囲へと放っている。
そんな玉座に鎮座した、魔王と呼ばれた男は、恭しく頭を垂れている、部下である『一つ眼の巨人』を睥睨している。
退屈そうな雰囲気を醸し出しながら、だ。
「……うむ。で、使節の者からの返事は如何であったか?」
「はっ。特段、なんの音沙汰もなく、こちらの命令には従わぬ様子」
「ふむ……」
サイクロプスの返事を聞き、つまらなさそうに、嘆息をする魔王。
「そうか。ではしかたがない。当初の計画通り、奴等の砦の一つを攻め落とす。たしか、すでに内通者がいたな?」
「はっ! 彼の者の手引きにより、強襲は容易いものと」
「そうか。まぁ、今回は単なる見せしめだ。適当にやれ」
「御意」
恭しく頭を垂れるサイクロプス。
「……まぁ、つまらぬ話ではあるが、奴の話が本当ならば、その砦には人間族の絶世の美女とやらがいるという話だが。……暇潰しの余興くらいにはなるか」
退屈そうな口調で、ムダにイケメンな魔王様は、誰に言うでもなく、気だるげに呟いた。