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magician's seed  作者: 大外 竜也
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ハルア

 ハルアへ続く一本道。山の斜面に沿って作られたこの道は、今まで通ってきた街道とは対照的に何度も曲がりくねり、元来た道も先の道も木々に隠れて見えない。

「お~い」

 そばにパーリーが居ない事に気が付き、後ろを振り向くといつの間にか立ち止まり、うつむいて立ち止まっていた。

 グリアに声をかけられても顔を上げることは無く、ずっと下を向いたままとぼとぼと歩いている。

「ほれ」

 グリアはグリアの頭に手刀を入れる。

「痛い」

 頭を抱えてグリアを見上げる。

「あんまり遅れると迷子になるぞ」

「うん」

 そう答えたが、既に上の空本当に理解しているのか怪しいうえ、このままでは何かに躓いたり、下手をすればどこかから落ちてしまいそうだ。グリアはパーリーの手を取り。歩調も合わせて歩いてやる。

「何をそんなに考え込んでるんだい」

 あまりにも深く考え込んでいるので気になった。

「昨日力を一杯使ったのに、この前みたいに胸が痛まないなと思って」

 パーリーは空いている手を胸に当て、首を傾げる。

 言われるまで気が付かなかったが、確かに昨日の夜にあんなにも力を使っていたのに、痛がるそぶりは見せなかった。

 パーリーの力を使える量が、増えたのだろうか、それともまだ限界まで使って無かっただけなのか。

「試すんじゃないぞ」

 パーリーが考えている事を読み取り、グリアは先回りした。パーリーは膨れて、グリアを見上げる。

「向こうに行ったら、いくらでも試させてやるから、今は我慢してくれこんなところで倒れられても困るから」

「うう」

 不満げにしながらも、上げかけた腕をだらりと下に下げた。

「後一日だけの我慢だからな、ほらあの上の方に見える石の壁がハルアの壁だ」

 木が倒れて周りの景色が見渡せるところで、この山と隣の山の丁度間に、その石の壁が見える。

 見た限りだと、ここから後二時間ほど、まだ日は高い位置にあるからティリャの言いつけは守れそうだ。

「後少しだ、がんばれ」

 グリアは集落でもらってきた水筒の一つをパーリーに渡した。

「ん~、酸っぱい」

 口をすぼめて、顔をしかめる。

「でも、旨いだろ。『パンドラ』でとれる果物で作ったらしくてさ、記念に何個かもらってきたんだ」

 グリアが、カバンから小さな皮の袋を取り出す。もらってきたのは、ジュースではなく、その果物の種その物だったらしい。

 正直、全く気が付かなかったが、クッカは、グリアが乗ってきたあの乗り物に興味を示していた。恐らくこの山道では約に立たないあの乗り物と交換してきたのだろう。

 考えてみれば、等価交換とは言えない交換である。

 あの乗り物は、あの羽を回す力が無ければ動かせないのだ。今頃は、皆で首をひねっているに違いない。

「これを育てれば、毎日それが飲めるようになるぞ」

 グリアも水筒の中身を口に入れる。

「はあ、なんか癖になるな」

「でもグリア、その果物って直ぐになるものなの」

 パーリーに言われて、グリアが考え込む。だがすぐに顔を上げると笑った。

「ま、そのうちなるだろ」

 いつかは成るだろうと楽観的に考える。

「第三世界に数十年に一度しか花の咲かない木があるって聞いたよ」

「大丈夫、同じ木から去年も一昨年も成ってたらしいから」

 それを聞いて、パーリーはつまらなそうな顔になる。少し仕返しのつもりだったのだ。

「ふっふっふ、詰めが甘かったな」

 今はまだ勝ち誇るグリアだった。





「止まれ」

 ハルアの門にたどり着いた二人は、門の前に立つ武器を持った二人の男に迎えられた。

「お前たちがハルケクルケ様から連絡のあった二人か」

 片手に槍を持った方の男が自らの画面を開き、グリアとパーリー、そして画面を交互に見ている。

「ああ、間違いないよ、俺がグリア、でこの小さいのがパーリーだ」

 そう言って頭の上に置こうとした手は、パーリーによって叩かれた。

「どうだ」

 もう一人、背中に大剣を背負った男が槍を持った男に確認する。

「間違え無さそうだな、まあ、この世界で、全く別人が来ることは無いだろうけどな」

「そうか、じゃあ…グリア様そしてパーリー様先ほどの私どもの無礼な態度をお許しください」

 今の今まで漂わせていた高圧的な態度が一変、二人の男は、姿勢を正すと深く頭を下げた。

 そのあまりの変わりように、二人は戸惑いを隠しきれない。慣れている、グリアはそれでも、姿勢を崩さず、表情も変わらないが、パーリーはどうしてよいか分からず、一緒に頭を下げる始末だ。

「今、案内の者がこちらに向かっておりますので、しばらくは、そちらにお掛けになってお待ちください」

「うん、そうさせてもらうよ」

 グリアはまだ何が起きているのか理解できてないパーリーの手を引き、傍に置かれている二人掛けのベンチに座らせた。

「ところでさ」

 グリアが門の前に再び立った槍を持った方の男に話しかける。

「はい何でしょう」

 男は、体を向け姿勢を多々出して立つ。

「ここの総長って人はどんな人なのかと思ってさ。ほら、怖いおっさんとかだったら、俺も覚悟して望まないと、と思ってさ」

 グリアが言うと、男は吹き出し首を横に振った。

「そのことでしたらご心配なく、総長はとってもお優しい方ですよ」

「それを聞いて安心したよ、君たちが妙に仰々しいからさ、てっきりそういうのを好む人なのかと思ったよ」

 グリアが言うと、男は顔を赤くした。

「あれは、忘れてください、私どもも、ああするしか他に無い物で、もし他の生存者が、この街に来た時にこちらも威厳を見せなければいけませんから」

「じゃあ、なんで私たちにはそんな風なの、私なんてそんなに偉い人じゃないよ」

 パーリーが言うと、男は目を丸くした。

「あなたは、自分が何者かご存じないのですか、お父様、クイリーン様から何もお聞きになられていないのですか」

 信じられない。と憤る槍を持つ男の肩を大剣を背負ったもう一人の男が抑えた。

「そこまでだ、止めとけケルマ。議会長殿のお出ましだ」

 身を乗り出していたケルマと呼ばれた男は、我に返り、大剣を背負った男の後ろに立つ姿を見ると再び直立し、槍を地面に立てた。

「ユ、ユマ様失礼しました。ですが、あまりの事にわたくしはつい…」

 なおも弁明しようとするケルマを老人は手で制した。

「それは良い、儂も今の話、少し耳に入ったが、あやつめ、本当に鷲と縁を切るつもりだったらしいのう」

 老人は、グリアたちの前に来ると、杖を突いたまま、ゆっくりとグリアに頭を下げた。

「これは、これはグリア殿、先ほどは私の部下をいたしました、私の方からもきつく言っておきますので、ここはお怒りの方、治めてはいただけないでしょうか」

「あの、私はそんなに怒っていないのですが」

 グリアは苦笑いをして、顔を上げた老人と目を合わせた。

「お変わりないようですね、ユマ議会長」

 グリアは老人と握手を交わす。

 パーリーは、今まで見てきたグリアとは明らかに違うグリアを見て、おろおろとうろたえていた。

「そういうグリア殿は大きくなられて、前にあった時は、まだ儂を見上げておられたのに、今では全く逆の立場じゃ。それにしても、ノルア様の時は残念だった。儂も葬儀には出たかったのじゃが、急な事に、どうしても予定が合わなくっての」

 申し訳なさそうにする老人の手をグリアは再び取り、微笑んで見せた。

「そのことは気にしていませんよ、それにあの時来なかったのは、貴方だけではありませんから。それよりも私たちは、こちらの神殿の方に行きたいのですが、案内してくださいますか」

「ええ、そこで第四世界復興総督府長、コロモイヤ様がお待ちしております。さあ、パーリー、その他もこちらにおいで」

 ユマはパーリーに手招きをしたが、パーリーはグリアに駆け寄りその手を握った。

「随分、懐かれておられるようですな」

 ユマは空いたままの右手を残念そうに握り、二人の前を歩き始めた。

「ようこそハルアへ」

 そこに広がっていたのはまさしく街だった。たくさんの人が道を行き交い、道端で立ち話をして、買い物かごを持った母親と、お菓子をねだる子供とが歩き、学生はカバンを背負い談笑をしながら歩き、広がって歩いたことで文句を言う中年の男が居て、賑やかな人の営みが、この街にはあふれている。

「街、なんだね」

 グリアの手を握るパーリーが呟いた。握っていた手の力が、少し緩んでいるのを感じている。

 つい二年前までは、当たり前に見れた光景がパーリーにはまぶしい。

「ねえグリア、抱っこしてもらってもいいかな」

 パーリーが出会ってから初めて甘えたことを言った事に驚いたグリアはしかし、直ぐにパーリーの軽い体を抱き上げた。

「急にどうしたんだよ」

 首にしがみついているパーリーにグリアは静かに声をかける。

「なんでだろう、急に足の力が入らなくなっちゃって」

「安心したんでしょうな」

 先で待っていたユマが追いつくと、パーリーを見て言った。

 グリアに会った時にも似たようなことが有ったが、今はその時以上なのだろう。

 いくつもの滅びた町を見てきたグリアも、この光景を見て、腹の底が緩むのを感じているのだ、長い事一人で生きてきたパーリーはその何倍もの安心感に満たされ、体中の力が一気に抜けたのだ。

「それにしても、すごい人の数ですね、そんなに多くの人が、『パンドラ』に行ったのですか」

「いいえ今は、近くの廃村にも人が移っていたり、まだパンドラに残っている面々もいるので、この街に今住んでるのは、パンドラに避難した内の、六割ほどです」

「これで六割とは、そんなにたくさんの人を二年間養えるとは、パンドラとは、名前に似合わず、豊かな島なのでしょうね」

「それはもう、果物は島のいたるところにあり、海には魚介類が豊富で、種災で疲れ果てていた私たちは、目の前に広がる光景に、目を奪われて、しばらく身動きが取れなくなりましたよ」

 本当にそんなところが、今まで手つかずで残されていたのだろうか。昨日、ハルケクルケやクッカから、同じ話を聞いた時に、グリアは他の世界の地図なども全て目を通してみたが、その条件に合いそうな、島は見つからなかった。

「ユマ様、その総長、コロモイヤという方は、本当に人間なのですか」

 グリアの頭に一人の男の名前が浮かんでいるはずだ。

 確かにその名前の男が総長の正体ならこの異常としか言いようが無い偶然の説明がつく。

 だが、その男は、残念ながら今回の事には関わっていない。傍観者を決め込んで、各地で起きている事を見て楽しんでいる。

「なぜそんな質問が出てきたのか分かりませんが、確かにコロモイヤ様は人ではなく、かなり純血の魔人だといっておりました、もう何百年も生きているから暇で、ふらふら歩きまわっている内に、いくつかのゲートを見つけたと言っておりましたよ」

「ユマ様は、変に思わないのですか、いくつものゲートが一つの場所に集まりすぎている。しかも繋がる先は、全てこの第四世界のどこか、そんなの、二つ以上のゲートが一か所に集まらないという法則に反しています」

「それが何か」

「え」

 グリアは振り向いたユマの目を見て口を結んだ。

「それに何か問題が有るのでしょうか。私たちはそのおかげでこうして、一つの街の日常を取り戻したのですよ。それに何の問題が有るというのです。益こそ有れど、害は無い。そうでしょう」

 この老人から急に漂い出した異様な雰囲気に、グリアは何も言えなくなる。

 他の大人からの正論に言い返すことが出来なくなった経験ならある。それでもグリアは、いつもは必死に反論を探すのだ。

 しかし今は違う、反論ならいくらでも頭の中を駆け巡っているのだ。だが反論する気が起きなくなった、この老人に何を言っても無駄であるそう感じさせる空気が背中から漂っているのだ。

 まるで、分かっている事、そして見るわけにいかない現実から目を背けている者が出す独特の空気。それを目の前を歩く老人から感じたのだ。

「ま、当然か」

 生きるために、どうしても見るわけにいかなくなっている。そこを無下に突っつく様な事はするべきではない。

 街行く人々を改めて見てみる。幸せそうに笑う人々、丁度前を通り過ぎた酒場は、働き終わった男たちで賑わっている。給仕が忙しそうにけれど楽しそうに走り回っている光景も、全てがあるべき日常の一風景。

 あの中に今ある奇跡にして異常について気が付いている者はどれだけいるのだろう。

「やっぱりおかしいよね」

 パーリーがグリアの耳元で言った。その体が小刻みに震えているのは、恐らく気のせいではないだろう。

 もちろんこの季節に寒くて震えているわけでも無いはずだ。

「安心しろ、何があっても俺が必ず外に連れ出すから。それに向こうには俺よりもずっと怖い人たちが控えてるらしいからな、いざとなればあいつらが助けてくれるはずさ」

 グリアがパーリーの背中をさすってやるとその震えが少しだけ落ち着いてくる。

「ほら、あれがどうやら例の神殿みたいだ」

 他の建物と違い、真っ白く磨かれた石づくりの建物が道の先に立っているのが見えた。

 人の出入りは、見ている限りほとんど無く、その建物の入り口の前には、四人の槍を持った衛兵たちが、立っているのが見え、それがどれだけ大切な建物なのかを物語っている。

「この先に、コロモイヤ様がおられます、グリア様は、私の後に続いて入ってきてくだされ」

 そう言ってユマおぼつかない足取りで杖を突きながら石の階段を一段一段ゆっくりと登り始めた。

「降りる」

 目の前の建物から漂う神聖な空気に当てられたのか、グリアが階段に足をかけたその時、パーリーはグリアから身を離すとそのまま飛び降りた。

「歩けるか」

 グリアが手を差し伸べるとその手を握り笑顔になる。

「うん、もうしばらく、この世界を歩くことは無いんだもん、最後ぐらいしっかり歩かないとね」

「そうか」

 ユマは、十段ある階段の内の八段目まで登り切っている。二人は、その後を追ってゆっくりと階段を上り始めた。

 グリアは空を見上げる、火は傾き始めているが、まだ空にある。ティリャとの約束も果たせそうだ。

「間に合ったね」

「ああ」

 二人は、開かれた大きな扉をユマに続いて通り抜けた。


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