表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
magician's seed  作者: 大外 竜也
12/17

生存者

「え、生存者が見つかった」

 その日の夜、約束通りに、連絡を受けたティリャは驚きの声を上げた。

「ああ、今はその人達の村でご馳走になってる」

 ティリャの耳には、グリアの話す声の他に、もう一つ、水気を帯びた咀嚼音が聞こえてきている。恐らく、夢中になって食べているのだろう。

「それで、どういう事なのよ。その村は、魔獣の被害に遭わなかったって事なの」

 ティリャは、そんな事があり得るのだろうかと、考えを巡らせ、首を横に振った。魔獣が、生物を求めて彷徨い歩く事を考えると、とても考えられないのだ。

「うん、そうじゃないみたいだ。それどころか、ちょっとばかり、面白い話も聞けたんだけど、今大丈夫か」

「面白い事、何かろくでもない事じゃないでしょうね。まあいいわ、私ももう寝てしまおうか、迷ってたところだったから」

「その節は申し訳ありませんでした」

 それだけ言うと、グリアは、昼間の出来事から話し始めた。ノリタス牧場で出会った三人は、中年の夫婦の内、夫がクッカ、妻がアンナと言い、老人がハルケクルケといった。

 三人共、第四世界の北の大陸の中でも、一年中寒冷な気候で知られる、北部の育ちで、肌の元の色は白いが、日に焼けて、よく焼けていた。

 三人共、初めに、グリアとパーリーが姿を見せた時には、まるで幽霊でも見ているかのように放心状態になってしまっていたが、それでも一番初めに落ち着きを取り戻した、アンナに、昼食を分けてもらい、その時に彼らが、どの様にして、二年間暮してきたのかについて、話して聞かせてくれたのだ。

 種災があった、二年前のあの日、三人は、北の大陸で二番目に大きいメニカという街に逃げ込んでいた。

 街は瞬く間に、魔獣たちに取り囲まれて、後はその時が来るのを待つのみ、そう覚悟を決めていた時に、突然ある男が、メニカに集まった数百人の人々を町の広場に集めて、台に上った。その男は、隠された、ゲートを見つけたというのだ。

 半信半疑、他にすがる物がなかった、人々は、男の後に続いて、街の地下に広がる下水道に入って、歓喜の声を上げた。男の言った通りにそこには人一人がやっと通れるほどの大きさのゲートが開かれていたのだ。

 なだれ込むように、その先へと進んだ人々を待っていたのは、所在地不明の無人島と、同じ様にして、他の大陸のゲートを通ってきた、人々だった。

 それら約千五百人を前にして、ゲートを見つけた男は宣言した。我々は、いつか、あの地を取り戻すのだと。

 それから、二年。魔獣の弱体化が進んだ今の状況を見計らって、まず彼らは、始まりの街ハルアのある、西の大陸に移り住むことに決めた。

 今では、そのハルアとそれを含む山脈の大部分の制圧が完了し、その麓の廃村にも入植を進めている。

 目の前の三人も、そんな入植者たちだった。今日は、ようやく村の方が落ち着いてきて、辺りを探索しているところだったのだ。

 そして、今は、三人に案内されて、ハルアまで約一日の所にある村に来ているのだ。

 先ほどまでは、賑わっていて、グリアやパーリーの今までの話に聞き入っていたのだが、今は、訳あって全員で払っている。

「そう、じゃあ、今はハルアにも人は住んでるって事なのね。それに、ハルアまでの道で魔獣の心配はあまり無いと」

 ティリャは、地図上で点滅する赤い点と、そこからハルアまで伸びる一本の道を目で追っていく。

「それじゃあ、明日には、戻って来られそうって事でいいのかしら」

 明日は、少し散らかしてしまったこの部屋を片付けなければ、などと考えていたが、グリアから返事がない。

「何、ここにきて何か問題でもあるの」

 まさか、予定していたゲートのある神殿が破壊されているのだろうか。などと考えて、ティリャは、顔をしかめる。

「いや、その問題って言うよりもまあ、あれなんだけど」

「何よ、急に歯切れが悪くなって、何か、有るのなら言いなさいよ」

 こういう時は、決まって何かとんでもない事を言い出すのが、グリアの毎度のことだ。

「いや、その悪いんだけど、こっちに居る期間をもう少し伸ばせないかと思ってさ」

「他の村にでも行く気。こっちとしてはなるべく早く帰って来て欲しいのだけれど」

 実のところ、グリアの休みが続いたおかげで、隠し通すのが、難しくなってきているのだ。保険の教師からは、しきりに、自分に見せるように言われ、他の生徒達も、何人かが心配して、見舞いに来ようとしていたりする。

 ティリャが居ない所を見計らって、この部屋に立ち入ろうとする者がいつ現れないとも限らない状況に、成りつつあるのだ。

「それで、その村には何があるのかしら。理由によっては、後一日だけ考えなくもないのだけれど」

 しかし、グリアは中々答えず、しばらく置いて、やっと返事をした。

「ごめんティリャ、実は『パンドラ』に行ってみたいんだ」

 ティリャの悲鳴交じりの叫び声が、夜の誰もいない廊下に響き渡った。

「ふざけないで、それだけは絶対にダメよ」

「ん~、でもさ、気にならないか。このネストが出来て三千年。第四世界だけは二千五百年だけど、その間誰の目にも触れることのなかったゲート。しかもその先は無人島で、どこの世界にあるか分からない『パンドラ』に繋がってる。なあ、本当にどうにもならないのか。ほんの数日で良いんだ。また俺が魔法使いすぎて、寝込んでることにしてさ、パーリーも行ってみたいよな」

 グリアが卑怯な手に出る。これでパーリーが賛同してしまえば、ティリャは強くは出られない事を分かってるのだ。

 まだ食べているパーリーは返事をしない、電話の向こうで、パーリーのむせる声と、そんなパーリーに謝る声が聞こえて来る。

「ごめん、待たせた」

 まだ少し苦しそうなパーリーの声がした。

「いえ、構わないわよ。それよりグリアがごめんなさいね」

 パーリーの返事がどんなものか、内心緊張しながらも平静を保って、答えてやる。

「それで、パーリーも、その『パンドラ』に行きたいの」

 明日、先生方になんと説明しようかしらと頭を悩ませながら、半分分かり切った質問をする。

「ええと、グリアには悪いけど私は『パンドラ』には行きたくない。それよりも、早く私の行く学校に行きたい」

「そう、なら先生方には、私から言っておくわね……え」

 用意していたあきらめの言葉は、途中で途切れた。

 電話の向こうでは、グリアも頭を抱えている姿が目に浮かぶ。だが、ティリャの目は、彼女の感情を全て表にさらけ出していた。

「本当。じゃあ、私そっちへ行ったら直ぐに学校に行けるの」

 パーリーの声が弾んでいる。

「い、いや、そういうんじゃなくて、ええと」

 予期せぬ事態に、とっさに答えることが出来ない。

「え、違うの。う~ん……じゃあ、グリアが魔法を教えてくれるとか?」

「そう、それいいわね」

 仕方なく、パーリーから出された助け舟に直ぐに乗る。

「そうだな、それがいいな、じゃあ魔法の事は、向こうに戻ってからだ。で、本当に『パンドラ』は見なくてもいいのか。ひょっとしたら、二度チャンスが来ないかもしれないぞ」

 立場が逆転し、さっきまでの余裕はどこかへ行ったグリアの焦りが伝わってくる。

 ここだけの話、パーリーがそう言ってくれて安心した。グリアはどうも好奇心が先行して、向こう見ずな行動に出るところがある。

 今回の『パンドラ』に関しても、そんな場所の存在など知らないし、そのゲートを見つけたという彼らの総長がどうも胡散臭い。

 彼らとの関りも出来れば最小限に留めて欲しいのだが、ハルアを彼らが中心地として利用している事を考えると、それは不可能に近い、念のため自分との関りだけでも隠すため、夜の内に一度、手順の確認をしておく必要がありそうだ。

「もう、いい加減諦めなさいよ。それに私、その人たちの所に行くの、不安なのよ。お願いだからなるべく早く帰ってきて、もし明後日の朝になっても帰ってこなかったら、私、兄さんをそっちに送り込むから、もちろん騎士団の人たちも付けてね」

 その準備はもうすでに済んでいる。

「兎に角、直ぐに帰ってくること。間違ってもパーリーだけこっちに送って自分だけ行こうなんて考えない事ね……あら、メモルからだわ」

 送られてきたメッセージをティリャが開く。

「もしそんなことしたら、ゲートをドロスカスに繋ぐ。ですって。あそこから歩いて何か月かかるのかしら」

「あいつめ。けど分かったよ。あいつまでそう言うってことは、かなりヤバいやつの可能性があるって事だろ……今度はこっちか」

 グリアの袖を引っ張るパーリーの画面をグリアが覗き込む。

「ちなみに俺はそんなゲート知らん、『パンドラ』って言うのも俺は創った覚えがない。か」

 それを聞いて、ティリャは青ざめる。

「ねえ、今あなたたちだけなの。近くで誰か聞いてたりしないわよね」

「大丈夫、近くに人の気配はない」

 一人で隠れて生きてきたパーリーのいう事だ、信頼性が高いのは確かだ。

「とりあえず、この電話はもう切った方がいいな、本当に誰も聞いてないか分からない」

「既に一人盗み聞きしてるのは確かじゃない。あいつ、既にパーリーのアドレスも見つけてたのね」

「ま、いいんじゃないか。本人はなんか幸せそうだし。それじゃ」

 グリアとの通話が切れ、ティリャは手を耳から話した。再びこの空き教室に静寂が訪れる。

「大丈夫よね」

 ティリャはその晩、眠れない夜を過ごした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ