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座敷童と休学戦記  作者: 近情アオバ
第1章―始まりの出会い―
1/8

プロローグ



 「こんにちは! おいらは座敷童! あなたに幸福を届ける者です! ―――そういう訳で、助けてくださいっ!」



 ズドンと襖が開かれたと思うと、小柄な少女が顔を覗かせた。



 「……なんだお前」



 我ながら、良く言葉が出たと思う。


 ここはおれの家。


 田舎からさらに都落ちして、日がな大学に通わずゴロゴロしているアパートの一室だ。

 和室で、間取りは12畳ほどの1K。独り暮らしにしては十分広い。ただ一つ気に喰わないことと言えば、トイレと風呂が一緒になっていることだけだった。


 「だった」あくまで過去形だ。

 たった今、もう一つ気に喰わないことが加わった。


「ちょっとちょっと~! ノリが悪いですよ、草原歩(くさばらあゆむ)さん! はっ……もしかして、おいらの魅力にやられてしまいましたか? ぐっふっふ~、そいつは光栄であ―――」


一先ずおれは畳敷きを這い襖によると、華麗に閉じた。

だが直ぐにまた、襖が開くと自称・座敷童が顔を出す。


「ちょっとなにするんですか! ひどいじゃないですか歩さん! おいらはこう見えてもこの家の座敷の平和を守って、あなたに幸福を届けに来たんですよ! それを挨拶もされずに突然襖をしめられちゃぁ、座敷童冥利も永遠につきませんよ!」


「…………」


 ……なんだこいつ。


 いや、普通に怖いんだけど。完全に頭おかしいだろう。

 

 当然、心当たりは全くない。そもそも心当たってたまるものか。

 おれは自分の家の押入れに少女を入れ込むような変態でもなければ、住まわせて遣るほど懐に余裕はない。つまり、おれが言いたいのは


「……なんだお前」


 それに尽きる。

 無論、明確な返答を求めたつもりはない。いわゆる奇妙奇天烈な事象への反射だったのだが、自称・座敷童は顔を顰めた。


「だ・か・ら~、おいらは座敷童です! つい数秒前に言ったじゃないですか。何ですか歩さん……もしかして、おいらの事を怒らせようとしているんです?」


「……」


 呆然としながらも、視界は鮮明に自称・座敷童を捉える。


 着ているものは()()らしく、気流された薄紫色の着物。腹部を深紅の帯で結わえている。

 とはいえ、丈がミニスカートのように短く、白く肉感的な太ももが露わになり。

 足元だけでなく、袖の丈もだいぶ短い。今が真冬であるにもかかわらず半袖丈。胸元を押し上げるような非常に大きな双丘は、頼りない着物からわずかにはみ出、深さを極めた谷間が覗える。

 

 その一見色っぽい座敷童の顔は、どちらかと言えば童顔。

 水色の髪留めで抑えられた黒髪のショートボブ。ぱっちりと大きく丸い瞳と綺麗な鼻筋。怒る様にムッと尖らせた唇。その端々には、まだ少女独特のあどけなさが残っている。


 一見して、可愛い子だ。



―――――が、今はそんなことはどうでもいい。



「……なんだお前」


 やはり、それに尽きる。

 もはや此処に至るまでおれが「……なんだお前」しか言って居なことはどうでも良い。兎に角、目の前の変人について知りたい。そしてできるだけ早急に退室してもらいたい。


「むぅ……いい加減に怒りますよ歩さん…………あ、あぁ! もしかして歩さんは、おいらの名前を聴いていたのですか? こいつは失念失礼。では改めまして――――」


 そういって、座敷童は正座をしたまま、頭を下げた。



「おいらは座敷童の座敷襖子(ざしきふっこ)です。このたび、日本座敷童協会―――通称、NZKから派遣されて、あなたの家の座敷を護ることになりました!」



「…………は……?」


 ……なんだ、こいつ。絶対に関わらない方がいいタイプのやつだ。

 なんかもう家の中にいるし、関わらざるを得ないけど……。


「…………」


 聴きたいことは山ほどある。言いたいことも山ほどある。


 そもそもこいつは、我が家の押入れに何時入ったのか。或いはどのような手段を駆使して侵入したのか。

 仮にこいつの話を信じるとして、我が家の座敷は、このような変人に守ってもらわなければならないほど危険な状態にあるのだろうか。いや、そもそも座敷が危険な状態ってなんだ? 座敷が平和な状態とか、そんな表現聴いたことが無い。


 果ては、〈日本座敷童協会〉なんていうのも初めて聞いた。

 いくら通称されようと、聴き慣れないものは聴き慣れない。というか、NZKってなんだよ。


 このように、今のおれは座敷襖子と名乗る変人に対して思うところは筆舌し難いほどあった。

 すぐさまアサルトライフルのように、言葉の銃弾を浴びせようと思えばできたのかもしれない。

 だが、やはりおれの口から放たれたのは、もはや習慣になりつつある一言だった。



「……なんだお前」



 こうしておれと座敷童の奇想天外な日々が始まった。





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