~集いし六色の絆~
石に刻まれた文字を見て、3人は急いでレクエム村に向かう。
この時の啓太と将吾は、喜びに満ち溢れた表情でレクエム村に向かって走っている。
レクエム村に到着すると、そこは既に村といえるレベルではないほどに石壁で囲まれており、もんの入口には門番までいた。
「…えっと、ここ村だよね?」
「そう聞いてるけど。」
「…私も。」
将吾は、再び地図を確認する。地図には"レクエム村"と記されており、他の村よりは繁栄してはいるが石の壁まではなく、村の広さもそこまでの広さは無かったが、倍以上に広くなっている様に見えた。
「まぁサンクチュアリ帝国に反旗を翻すレジスタンスが集まってるんだろ?ここを襲われたら対抗組織が無くなるからって事なのかな?」
「あとは少し前にマンティコアが村を襲って復興作業もしたらしいよ。」
村の入口に辿り着くと、門番が数人啓太達を取り囲んだ。
「(青いローブの男に黒衣の男、そして緑の髪の少女。この3人だよな?)」
「(あぁ、情報通りだ…。)」
「何が用ですか?俺達はただこの街にいる知人を訪ねて来たんですけど。」
「お前達には逮捕命令が出されている。抵抗せずに投降していただきたい。」
「え?何で僕達が逮捕されなきゃいけないんだ?」
「そこまでの情報は我々には開示されてない。この村の代表が、青いローブの男に黒衣の男、それに緑の髪の少女の3人組がこの村に訪れたら逮捕して連行しろとの通達だ。」
何故、3人とも逮捕される対象になっているのか、全く検討がつかなかった。メイは忌むべき者と認識されない様に啓太が魔法をかけている。啓太もサンクチュアリ帝国の軍兵と盗賊を撃退はしたが、各地のレジスタンスが集まっている村でそれを咎められる事は無いと考える。将吾も特に咎められる事はしてない。それに3人の名前ではなく特徴で手配がされているから人違いの可能性もある。ここは出るとこ出てハッキリさせておいた方が良いと思い、大人しく連行される事にした。
3人は中央にある建物に連れて行かれる。そこには"村長の家"と書かれており、中は役所の様にしっかりとした施設だった。
村長の家に連れて来られ、ある部屋に招き入れられる。今の所、逮捕されたという感じがせず、むしろ来客を招き入れる対応にしか思えず、漫画やアニメであれば3人は頭上に"?"が浮かんでいただろう。
そこに1人の白衣を纏った男が部屋に入ってくる。
「ふむ、君達が例の3人か。忌むべき者、そして忌むべき者を守る青の魔法詠唱者に黒の剣士。ここで始末すればサンクチュアリ帝国には大きな貸しが作れるという訳か。」
白衣の男は腰に携えていたハンドガンを取り出し、銃口をメイに向ける。
その動作に反応し、啓太と将吾はメイを後ろにし、武器を構える。
「良い反応だ。ただここで戦闘になって、君達は無事にここから出るのは無理だと思うけどね。答えは聞かないけど。」
啓太と将吾はあるフレーズを聞いて、ある事に気付き笑いを堪えながらも武器は構えたままにしている。
「くくっ…。俺達をっ、どっ、どうするつもりだ。」
「もちろん生かしておけない。サンクチュアリ帝国に突き出すのさ。」
白衣の男の発言に、啓太と将吾は笑いを堪え切れずに吹き出してしまう。メイは何が起こったのか分からずにいたが、この異様な警戒心の解き方は、将吾と出会った時に似ていた。
「な、何がおかしいっ!」
「やっぱりボケ役は無理だって言ったじゃないか。」
そう言って部屋に黄色い上着を着た男が入ってくる。
その男の姿を見て、啓太と将吾は白衣の男の正体に確信がつき、その場にストンと腰を落とす。
「一度やってみたかったんだよ!ったく、どうして気付くんだよ。」
「だって、お前の口癖の"答えは聞かないけど"って聞いたらすぐ分かったし、それに銃のセーフティーロック外さずに脅されても、本気で撃つ気ないなってすぐ分かったよ。」
「そのまま話に乗ってやろうと思ったけど、おかしくておかしくて笑いが堪え切れなかったよ。」
「ねぇ、どういう事?このパターンってまさかとは思うけど、この二人って。」
四人が普通に和解しており、さっきまで武器を構えて一戦やるのではという状態だったのが嘘みたいに会話しているので、メイは状況が分からなくなっており、啓太に問い掛ける。
「ごめんね。この白衣で銃口向けて来たのが祐斗。そして今部屋に入って来たのが雅史。二人共僕の親友だよ。」
「ショーゴの時と警戒心の解き方が似てたからもしかしてって思ったんだけど、やっぱりケイタのお友達だったのね。」
「でも、まさか祐斗がこんな茶番を用意してるとは思わなかったよ。」
「啓太達が来るって分かったら、すぐに門番にここに連れて来る様に指示出したかと思うと、「あいつら脅かしてやる」って準備し出したからさ。俺は絶対すぐバレると思ったんだけど、やるって言い出して聞かなかったんだよ。」
五人は場所を変え、食堂へと移動する。そこでお互いにこれまでの事を話し、情報交換する。
「そうか、啓太が終焉王、将吾が黒覇王。そして雅史が機龍王、俺が光天王。まさか俺達が伝説の十王神の力を持つとはね。」
「偶然だと思う?たしかに力を手に入れた経緯は偶然の産物だとは思うけど。」
「でも、このアースに飛ばされて、伝説の十王神の力を手にする。偶然と断言するにはどうも話が出来過ぎてる。」
「あの大学長、一体何が目的で俺達をこの世界に連れて来たんだろうな。」
「メイの話だと、900人を一度に異世界に転送する魔術を行ったから、もう生きてはいないって話だけど。」
「でも、物語的にこういうパターンって最後に登場しそうなフラグだよね。」
祐斗は啓太と将吾の話を聞き、情報を整理していく。
「一つだけ確認しておきたい。メイ、君は任意的に災いを呼べるのか?」
「いえ、私が災いを自分の意思で起こす事は出来ません。でも、私がいると周りに災いが起きてしまうんです。子供が死んだのはお前のせい、不作なのはお前のせいと言われて。」
「それってただの当て付けじゃ…。」
「そういう事なら問題ないな。メイ自身が災いを呼ぶ魔法が使えるのも、それをしなければ問題ないし、災いもその程度なら特に問題視する事柄でもないと思う。」
食堂の店員は急いで料理を作っては啓太達のテーブルに運んで行く。
運ばれた料理は、椀子そばでも食べているかの様に次々と啓太と雅史の腹の中へと消えていく。それをいつもの懐かしい光景だなと感心しながら見つめる将吾と祐斗に、驚きを隠せず呆気にとられているメイ。
料理人達も必死に料理を急ぐが、啓太と雅史の食べる速度が速すぎて追い付いていない。
「お前ら良い加減にしとけよ。早食い競争しにここに来た訳じゃないんだからな。」
「将吾に会うまでロクに食事も採れてなかったし、合流してからもサンクチュアリ帝国の侵略に遭っている街や村だったから食料も少なくってさ。まともな食事をするのも久々なんだよ。」
「とりあえず、後で俺も厨房に入って料理作るから、先に今後の事を話さないか?」
「私はケイタの食べてる姿ならいつまでも見ていられるけど、まずは今後の事を考えるのが先決ね。」
「あのー、メイさん。いつから啓太にデレる様になったの?今までそこまでデレてるって事ありましたっけ?」
「あら?私は最初からケイタとは仲が良いわよ。命の恩人でもあるし、ケイタは信用できる人だから。」
将吾は「そうですか。ご馳走様です。」と言い、話を元の路線へと戻す。
「それでどうする?元の世界に戻る方法ってあると思う?」
「分からない。いろんな古文書や話を聞いても、異世界転移の存在はしても、その方法が判明しないんだ。それに、元の世界に戻る前に、サンクチュアリ帝国の侵攻を阻止したいんだよ。流石にこのまま放っておく訳にもいかないし。」
「たしかにね。メイがずっと追われる身のこの状態は何とかしたいって思っているよ。」
「そうだよなー。俺もサンクチュアリ帝国には借りを返したいって思ってるし、でもこの世界にはマヨネーズがないんだよ。」
五人は違和感を感じた。声のする方を見てみると、赤い布を纏った男が混ざって運ばれた料理を食べているではないか。
「えっと、誰?」
「俺様を知らないだと?さては潜りだな?ってついこの前まで監獄に閉じ込められてたから俺が潜りか。俺は脱獄犯…じゃなくて、炎を操る魔法詠唱者。」
「「「「憲明っ!」」」」
啓太達四人は、急な憲明の登場に驚きを隠せず口を揃えて彼の名前を叫んだ。
赤い布を纏った男。憲明は親友達の感動的な再会を喜ぶよりも優先に食事を粗方食べ尽くす。
「やっと会えたぜ。」
「今までどこで何してたんだよ。」
「今まで何してたんだよっ!」
「話せば長いんだよ。語るの涙、聞くのも涙でな。」
「聞くからちゃんと話せよ。ってかいつからここに居たんだ?」
「この村に着いたのは今さっきだ。とりあえず腹減ったし飯でも食おうと思ったら聞き覚えのある声がしたから紛れ込んでみたんだ。」
「紛れ込まずにちゃんと声かけろよ!気づかなかったわ!」
「…ねぇ、父さん。僕達も食べて良い?」
「あぁ、勿論だ。お前達も食べなさい。コイツ等人相悪くても父さんの親友達なんだ。お前達を取って食うような事はしないさ。」
憲明の袖を引っ張りながら小学生くらいの男の子と女の子が憲明に許しを請うている。
そして聞きづてならないワードをこの子供達は口にしていた。
「おい、今“お父さん”って呼ばなかったか?この子供達…。」
「あぁ、だってこの二人は俺の可愛い子供だからな。」
「おい、お前は異世界にまで来て何にをやってんだよ!何子供作ってるんだよ!」
「言っとくけど、俺はお前達が想像している事はしてないからな!」
「ちゃんとその事も含めて説明してもらうからな!」
祐斗は怒りながら、再びテーブルに向かい、話を元に戻そうとする。しかし、もう一人人影がある事に気が付き、その人影の主もやっと自分の番が来たと口を開いた。
「やっと俺にも気付いてくれたか。」
それは緑のバンダナを巻いた男であった。啓太達は勿論彼の事も知っている。
「「「「昌宗っ!」」」」
「憲明や子供達だけじゃなくて俺も最初から居たっての!早く気付いて欲しかったよ。」
「お前も先に声かけろよっ!分かるかよっ!」
「悪りぃ悪りぃ。お前達の話に入るタイミングが無くてよ。やっと今だったんだ。」
祐斗はテーブルに顔を埋めてグッタリする。
「どうした?」
「今まで雅史だっけだったのが、ボケてくる人間がこうも一気に増えると俺の身体が保たない…。」
新たに憲明と昌宗とも再会し、異世界アースに飛ばされて以来、半年ぶりの六人の再会になったが、その再会は感動的には程遠くツッコミ役の祐斗の疲労が急激に増す事になる再会となった。
「それで、この世界に来てから今までどうしてたか話してもらえるかな。」
「もちろんだ。俺の話から始めれば、昌宗の話とも繋がるし、この子達の事も説明できると思う。」
憲明は、コップの水を一杯飲み、今までの事を話出す。