~拳と次元の弾丸~(前編)
啓太とメイは将吾と合流し、街の復興作業を一通り手伝い、次の街へと旅立とうとする。
将吾が買い出しの時に調達していた地図で目的地を確認する。次の街はレクエム村。マンティコアを退治した二人の若者がいて、サンクチュアリ帝国に反旗を翻したレジスタンスが集まる村だ。
三人はレクエム村に向かって歩いている。
身軽な格好のメイにその姿とは反対に啓太と将吾はヨロヨロでいつ倒れてもおかしくない状態だった。
「お、おい。少し休まれてくれ、メイ。」
「異世界の人って体力ないのね。」
「うるさい!こっちは賞金稼ぎとか盗賊やら正義の味方とかほざいた痛い奴らを撃退しながらなんだぞ。その分体力使うんだよ。なぁ啓…太?」
将吾が後ろを歩いている啓太に声をかけようと振り向くが、啓太は完全に体力を使い果たしたのかその場で倒れていた。
「ちょっ!啓太?生きてる?啓太さ〜ん!」
倒れた啓太を激しく揺さぶりながら将吾は慌てふためく。メイはやれやれと道の端に座るのにちょうどいい大きさの石に腰掛けて二人を見た。
「もうすぐ村に着くはずなんだけど、少し休みましょう。啓太が心配だし。」
「あの〜、俺は?」
「そこまで叫ぶ元気があるならショーゴは大丈夫でしょ。」
将吾は舌打ちをして道の真ん中で倒れている啓太を引きずって道の端に避けてその場に座り込んだ。啓太は何となくメイを見て、ある事に気が付きいきなり立ち上がった。
「おい啓太。立ち上がる元気があるなら自分で歩いてここまで来いよ。俺だって疲れてるんだし。」
「そんな事言ってる場合じゃないよ!メイ、立ち上がって!」
「え?立ってどうするの?啓太がここに座る?」
「ちがーう!いいから早く立って!」
メイは困惑しながら言われるまま立ち上がった。啓太はメイの座っていた石をジッと見てから笑い出した。
メイと将吾は疲労のあまり啓太がついに狂ってしまったと思い、啓太に哀れみの視線を送る。啓太は二人に「おい」とツッコミを入れ、将吾に石を見る様に促す。
石を見た将吾も先程の啓太の様に笑い出し、メイには二人が何が可笑しくて笑っているのかさっぱり見当が付かない。とりあえず二人が見た石を見てみると、何か落書きの様なものが彫られているだけだった。
それもそのはず、その石にはこの世界にはない日本語で書かれた文字が使われていた。
そしてその石にはこう彫られていた。
”この先の村でお前達を待つ!雅史様と祐斗”
その文章を見た啓太と将吾はメイの手を引いて急いでレクエム村に走っていった。
「疲れて動けなかったんじゃないのー!」
だが、もしこの石に意思があるとすれば、きっと雅史達の事を語ってくれたに違いなかった。レクエム村を救った小さな英雄となった二人の物語を…。
それは半月程前の事をだった。
ちょうど将吾が黒覇王の力を手に入れた日の事だ。
夜の酒場で厳つい男達は金を賭けてギャンブルをしていた。
レクエム村は、村といってもかなり反映している村で街並みに栄えている村であった。
平穏で栄えていると酒場でギャンブルも行われている。
「ストレートフラッシュだ。悪いな兄ちゃん。」
髭を生やした男は勝ち誇った笑みを浮かべて自分の手札をテーブルに並べた。
「ホント、悪いね。ロイヤルストレートフラッシュだ。これで俺の勝ちだね?答えは聞かないけど。」
白衣を羽織った青年は自分の手札をテーブルに公開し、辺りが騒めく。
髭を生やした男は白衣の青年の手札を確認する。その手札はどう見てもクローバーのロイヤルストレートフラッシュだった。
白衣の青年は髭の生やした男の賭けた有り金を袋に入れていった。「もう一回だ」と言われても頑なに「そろそろ連れが待ちくたびれてるからダメ。」と断り、酒場を出て行く。
酒場の外に出てから白衣の青年はマントの手首のリストバンドに隠してあったトランプを確認し、酒場から離れて行く。
「こんなに簡単にイカサマが出来るなんて思わなかったよ。」
白衣の青年はある事に気が付き、急に道を曲がる。路地裏の行き止まりに着く。
そこで振り返ると、そこには如何にも”悪”と言わんばかりのガラの悪い男達が白衣の青年を取り囲んだ。白衣の青年は大きな溜息をつき、その後にニヤリと笑みを浮かべる。
「さっきは大儲けしてきたみたいじゃないか。俺達にも分けてくれないかな?兄ちゃん。」
「全く、こんなにも引っかかる奴がいるなんてね。君達、まさか俺が道を間違えてこの路地裏に入ったと思ってる?」
「何だと?」
「へっ!今日も大量に稼げそうだな、祐斗。」
後ろからやって来たのは、黄色の上着を着たサングラスの青年。白衣の青年、祐斗は「その意見には賛成だ、雅史。」と答える。
男達は二人に挟まれた形になっていた。追い詰められたのは祐斗ではなく、はたまた後ろから来た雅史でもなく、男達の方だった。だが、男達はナイフという武器を
持ってい事とこの人数のお陰で強気でいられた。
「おいおい、この人数差で勝ち目あると思ってんのかよ。」
「あのな、漢はな、大勢対単身が基本なんだよ。」
「カッコつけんじゃねぇよ!」
男の一人が雅史目掛けてナイフを向けて襲い掛かる。しかし雅史はナイフに怯む事なく、男の顔面を思いっ切り殴り飛ばした。
「ナイフ持ってるぐらいで良い気になるなっての。」
雅史は首の骨を鳴らし、「次は誰が相手だ?全員で掛かって来てもいいぞ。」と挑発する。
男達は全員で雅史に襲い掛かる。雅史はボクシングスタイルでひとり一人殴り飛ばしていく。殴り飛ばされた男達は、一撃で瀕死の状態に陥っていた。
一人残されたリーダー格の男はこの状況に恐怖しつつも、祐斗の方を襲えば勝ち目はあるかもと思い、祐斗に襲いかかる。
しかし、祐斗もその行動は予測しており、右手首に腰に忍ばせていたハンドガンを取り出し、銃口をリーダー格の男に向ける。
「お前の思考パターンは単純だな。力で敵わない雅史ではなく、俺なら勝てると思って俺を倒そうとする。対策してないと思っていたのか?」
祐斗は引き金を弾き、銃弾がリーダー格の男の頬を掠める。死を感じた男は戦意を喪失し、その場に膝を折り、下半身を濡らした。
祐斗は容赦なく男達から有り金を奪っていく。その光景を毎度見ている雅史は「どっちが盗賊か分からないな」と毎度呟くも、祐斗に「何か言ったか?」と聞かれて即座に「何も言っておりません!」と答える。
雅史達は宿屋に戻り、宿屋の食堂で二人は食事を摂る。
「ふぉい、ひゅうと。」
「会話をする時は、口の中を綺麗にしてから話せよ。何言ってるか分からん。」
雅史は口の中に放り込んだ肉を飲み込み、再び祐斗に問いかける。
「おい、祐斗。いつまでここにいるつもりだよ。探しに行った方が良いんじゃないか?啓太に将吾、憲明に昌宗をさ。」
「この不思議な世界にいる限り、一人でも信用できる仲間が必要だ。そしてこの世界に啓太達は必ずいる。現に俺達がいるようにな。」
「なら、いつまでもこの場所にいる必要はないだろ?」
雅史は再び肉に喰らい付きながら祐斗に質問する。
「この世界は広い。何の情報もない状態でどうやって探し出すんだ。」
「そんなもの、気合いと根性で何とでもなるさ。」
「何年かけるつもりだよっ!こういう時は動かずに情報を集め、尚且つ俺達がここにいる事を広く知らせる事が最短ルートだと俺は思う。きっと将吾は情報を集めて行動すると思うし、啓太もジッとしているよりは動きながら俺達を探して行くと思うし、憲明と昌宗は、何も考えずに動き回ってると思うから、俺達は皆が集まれる拠点を作って、到着を待つのが得策なんだ。」
祐斗はハンドガンの手入れをしつつ、雅史の皿から肉を取って食べる。このハンドガンは祐斗が見様見真似で作り上げ物であった。
しかし、祐斗もジッとしているよりは移動しながら情報を集めて皆を探し出す方が自分のやり方に向いていると思っている。しかし、この世界が自分達のいた世界と違う以上、無人島に散り散りにされた状態と同じ想定をしなければならない。一人が拠点を作り、そこから狼煙を上げて仲間がその狼煙を頼りに拠点に集まる。これが最短で全員が集まれる方法だ。その事を理解しているからこそ、祐斗はここに拠点をおいて、狼煙の代わりに噂を流す事に専念していた。
「…それにしても。雅史!お前食べ過ぎなんだよ!俺がどれだけ稼いで来ても一日で使い尽くすレベルで飯を食うなよ。腹八分目言葉を知らないのか?」
「言っておくが、こっちの世界に来てから腹五分目にもなってないぞ。」
「此の期に及んでまだ食い足りないだと!?どんだけ喰うんだよ。お前の胃は限界はないのかよ!」
祐斗は先ほど稼いだお金が既に空っぽになっている事に呆れて溜息をつく。「また稼がないとな」と袖にトランプを仕込んでいく。
「雅史、お前も近隣のモンスター討伐の依頼をかき集めて少しは稼いで来い。自分で稼いだ分で飯を食う分には、俺は文句は言わない。でも、俺がギャンブルで稼いだ金はここで拠点を作る為の活動費だ。この宿屋にも食費だけ払って、宿代はツケにしてもらってるんだから、いつ追い出されるか…。」
翌日から、雅史は近隣に出るモンスターの討伐をし、モンスターの素材を売っては食費を稼いでいった。
祐斗もギャンブルで稼いでいく。時には賊に絡まれたりするが、そこは撃退しつつ少しずつ資金を貯めていった。
そんな中、雅史と祐斗はレクエム村近くの森に来ていた。
ここで最近暴れているモンスターの討伐に二人で来ていたのだ。
「…で、今日はどんなモンスターなんだ?」
「えっと、確かここに依頼内容の書いた紙がっと…。」
雅史はポケットから紙切れを取り出し、書いてある文章を読み始めた。
「『あなたの健康な臓器を高く買い取ります。血液だけでも、もちろん大歓迎。大阪クリニック病院』」
「おい、何だよそれ!どう考えても依頼書じゃねぇよ!それにここは異世界だぞ!大阪ってあり得ないだろ!それとクリニックなのか病院なのかはっきりしろよ!むしろ雅史、お前の食費がかかり過ぎてるからお前の臓器を売って少しでも稼ぎにしてやろうか!」
祐斗は持っていた分厚い書物の角で雅史を何度も殴り続ける。
「すまん、こっちじゃなくて、こっちの紙切れだったよ。『数週間前から、この森にマンティコアが現れる様になり、そのマンティコアがこの森の生態系を破壊しているから、速やかに退治してほしい。』だってさ。」
祐斗はハンドガンとマガジンを確認し、いつマンティコアと遭遇しても応戦できる様に臨戦態勢をとる。雅史も準備運動をして、マンティコアが現れるのを待った。
夕方になり、その時がやって来た。
森が急激に静かになり、異様なまでの殺気に二人の背筋が凍りつく感覚を感じた。現れたのは、獅子の頭と胴体、鳥の翼にサソリの様な尻尾を持つ怪物が雅史達の目の前に対峙した。
「こいつがマンティコアか。」
「グォォォォォォォォォッ!」
マンティコアは翼を広げ、雄叫びをあげた。
雅史は怯まずに拳をマンティコアに打ち込む。しかし、マンティコアはダメージを受けている感じがしない。
「おかしいなぁ。将吾や憲明には効いたんだが、やっぱ人間の俺達じゃ勝ち目ないって。俺の野生の勘がそう告げてる!」
祐斗は、ハンドガンを取り出し、マンティコアに銃弾を放つ。その攻撃もあまり効いている様には見受けられず、祐斗も直感で勝ち目がない事を悟った。
祐斗はすぐ様マンティコアを倒す策を模索する。現状自分達の力だけでは勝ち目がない。自分達が勝つには何をすれば良いか必死に策を練り上げ、雅史に耳打ちする。
「人間だろうがモンスターだろうが、身体を鍛えてもどうしても鍛える事が出来ない身体の部位はある。いくら肉が硬くても、眼球はどうやったって硬くらならないからな!」
祐斗は再び銃口をマンティコアに向け、銃弾を放つ。祐斗の放った弾丸はマンティコアの右眼を撃ち抜き、痛みでマンティコアはその場に倒れ込む。その間に雅史はマンティコアの胸部に拳を撃ち込んでいく。
「いくら拳の一撃が喰らわなくたって、心拍タイミングをズラせれば心臓を止められるだろっ!」
雅史は次々とボクシングのラッシュの如くマンティコアの胸部に拳を撃ち込む。
マンティコアの動きが鈍くなり、効果が少しずつ出ているのが分かる。
しかし、雅史の攻撃のダメージ蓄積よりもマンティコアの反撃は速かった。
マンティコアはラッシュを放っている所に鋭い爪を振り下ろした。辛うじて爪に当たる事はなかったが、前足の一撃は見事に食らってしまい、地面に叩き付けられる。その衝撃で雅史は血を吐いた。
やはり、時間稼ぎにはなっても、今の二人の実力ではマンティコアに勝てない。それを再確認させられ、祐斗は次の策を講じる。地の利を活かし、この状況を打破する事を必死に考える。
祐斗はある事に気が付き、ニヤリと笑みを浮かべる。
「雅史っ!そのマンティコアを後方40mまで引き付けろ。俺が片付ける。」
「策はあるのか?」
「あぁ、もちろん。」
雅史は一定の距離を取りつつ、マンティコアを挑発し引き付ける。マンティコアも挑発に乗り、攻撃を繰り広げるが、雅史はボクシングのステップで次々と攻撃を回避していく。
「こうやってステップを踏んでいると避けやすいな。」
雅史は祐斗の指示した場所にマンティコアを誘導した。
祐斗は上に向かって銃弾を放つ。撃った先は大きな岩があり、小さな岩が大きな岩を絶妙なバランスで支えており、その小さな岩を一つ弾き飛ばす事で大きな岩がバランスを崩し、マンティコアの胴体を押し潰す。
「地の利を活かした俺達の勝利だ。」
マンティコアの胴体の骨の殆どは粉砕され、絶命するのも時間の問題である。そんなマンティコアの前を絶命するのが待ち切れずハイエナが寄って行く。そのハイエナをマンティコアは首を伸ばして喰らい付いた。丸呑みにし、骨を砕き、マンティコアの口からハイエナの血液が噴き出す。
するとみるみる内にマンティコアの傷が癒え、粉砕された胴体もいつの間にか元の形状に戻っていた。のしかかっていた大きな岩を砕き、翼を広げたと思うと、上空へと飛び去っていく。祐斗はマンティコアの飛び去った方角を確認すると危機感を感じた。
「雅史、急ぐぞ!」
「どうした?上手く撃退出来たじゃないか。」
「あいつが向かった先はレクエム村だ!アイツ村を襲う気だ!」
二人は急いでレクエム村に戻る。人間が全力で走って向かっても、三十分はかかる距離。上空を飛ぶマンティコアは五分もかけずにレクエム村に到着し、村を襲い出す。
「祐斗ー!腹減って力出ねぇよ。」
「つべこべ言わずに必死に走れ。」
二人は必死にマンティコアの後を追い、村へと戻って行く。
二人が到着する頃には、既にレクエム村は壊滅状態にまで陥っていた。逃げ惑う村民に息も止まり、冷たくなった村民。建物は大半が崩壊しており、村としての機能はしていなかった。既にここは戦場。マンティコアが暴れ破壊を楽しむ戦場に。
祐斗はその光景を見て絶望を感じた。その後ろで雅史は空腹と疲労で倒れ込んでいた。が
祐斗は生存者の集め、状況を確認する。
「戦力なんてものはこの村にはない…よな?」
「はい。この村は栄えてはいますが、魔物はおろか、攻めて来る輩もいないので、戦うなんて事はできません。」
「なら、戦力といえるのは俺と雅史だけか。俺達だけじゃあのマンティコアには勝てない。地の利を活かそうにも、さっきみたいな崖もない。」
「やれるだけの事はやってみようぜ。勝ち目がないから逃げるってのは俺の性に合わないんだ。」
雅史は空腹の腹を摩りながら祐斗を元気付ける。しかし状況は何にも変わらないが、我武者羅にやれるだけの事はしようと思った。
「じゃあ、ハッチャケてこの村を守ってみますかね。」
祐斗は、ハンドガンに新しいマガジンを装填し、予備のマガジンも複数ベルトにセットする。雅史も空腹に耐えつつ再び立ち上がり、二人は村の中心部にいるマンティコアの元へ向かう。
「まだ村の中心部には逃げ遅れた村人がいるらしい。何としても助け出すぞ。」
「もちろんだ!」
二人は村の中心へと急ぐ。向かう最中、祐斗は上空へと視界を向ける。やけに野鳥が多く、あたりが異様に暗くなっていく。野鳥の群れの中には鳥型のモンスターも見受けられ、さらにその中にはマンティコアの姿もあった。しかし、右目もある。先ほど交戦したマンティコアとは別のマンティコアのようだ。
「雅史、先に行ってくれ。俺は先に上の飛んでる奴等を片付けてから向かう。」
そう言って祐斗は建物の屋根に登り、ハンドガンのセーフティを解除する。
雅史には上空の敵は任せろと啖呵を切ったのは良いが、手持ちのハンドガンでは射程距離を考えると届かない距離であった。
届かない距離をどう届かせるか、射程距離が変えられないのなら、自分自身が近付くしかない。しかし、今いる建物の屋根以上に高い所はない。なら、対象をもっと近づけるしかないが、そんな都合の良い事が起こるわけもない。
「お困りのようですねっ。」
屋根の下から一人の女性が祐斗に声を掛ける。左腕に包帯を巻いており、大きなリュックを背負っていた。どこか知的な感じはするが、どこかギャルっぽいというか祐斗は苦手なタイプだと思った。
「早くここから避難するんだ。」
「お困りの様でしたから〜。その銃では上空のモンスターを撃てないんじゃないかなって思って、違いました?」
女性はそう言いながら屋根によじ登って来る。彼女が屋根によじ登るまでに結構時間が掛かったが、それをとりあえず大人しく待った
「…で、この射程距離の問題をどう解決してくれるんだ。」
「えっと、まずは自己紹介を。アタシはへリス。錬金術師をやってまーす!こう見えても結構アタシしっかりしてるんですよ〜。そのハンドガン、強化アイテムで射程距離を上げれば届くと思うんですよ〜。どうです?」
「たしかにそれが出来ればここから狙撃する事が出来る。そんな事が出来るのか?」
「ラヴがあればね〜。」
「ラヴってなんだよっ、金じゃないのか?」
「お金になんて興味はないわ。アタシが欲しいのはラヴよラヴ!」
祐斗は正直、めんどくさい相手と出くわしたと強く感じた。
まぁ魔法詠唱者がいるとも聞くし、錬金術師がいるのもおかしくはない。しかし、彼女から湧き出しいる馴れ馴れしさが、怪しさを増大させていた。
それにラヴって何だよ、ラヴって!愛か?見ず知らずの今さっき会ったばかりの女性に愛情が湧くわけないだろ。一目惚れなんてしないぞ、容姿は悪くないが。と脳内で駆け巡る。
その頃、雅史は村の中心部に到着した所だった。
辺りは既にマンティコアの爪痕で建物は見るも無惨に崩壊しており、逃げ遅れた村人達の死骸が喰い千切られて散らばっていた。
雅史はマンティコアを探し、辺りを散策する。
ようやく見つけたマンティコアは、ジッと止まっていた。その視線の先には子供が二人怯えて固まっていた。マンティコアは子供をどうやって殺そうか考えているようにジッと子供達を睨んでいた。
雅史は、後先考えずに飛び出し、マンティコアの顔面に拳の一撃を放つ。しかし、マンティコアは微動だせずにその拳の一撃を受け止めた。
「やっぱり効かないか…。腹減ってるから余計に威力も無いんだよなぁ。子供達、早く逃げるんだ!」
「怖くて動けないよぉ。」
雅史はマンティコアと子供達の間に入り、臨戦態勢をとる。常人の自分ではマンティコアには敵わない。何とか子供達を逃がそうとマンティコアの注意を逸らす。
マンティコアの攻撃を時には受け止め、時にステップ回避しては、その隙に拳で一撃を与える。後ろの子供達が動けない為、子供達に届く様な大技が来る時は、大技が来る前に未然に攻撃をして軽減させたり、止めたりを続ける。しかし、この攻防もいつまでも続かない。
それ以上に空腹でだんだん力が入らないでいた。
「なぁ、食べ物持ってないか?お腹減って力入んないだよ。」
「食べ物?この状況でお腹減ったって感じるって、お兄さん凄いね…。怖くて恐怖心以外何にも感じないのに、お兄さんは凄いよ。」
「ごめんなさい。食べ物って、この果実しかないの。森で拾った綺麗な果実。」
子供の一人が、黄色に輝く果実を雅史に渡す。その果実は黄色く澄んだ果実で、食べるにはもったいないと感じてしまう果実だったが、雅史はその見た目を見ずにそのまま口の中に放り込む。
『おい、力が欲しいか?』
雅史の頭の中に直接語り掛ける様に、男の声で問われた。
「欲しい。子供達を守れて、あのマンティコアをぶん殴れる力が欲しい。」
『その子供を助けたいか。己の私利私欲ではなさそうだな。良かろう。なら俺様の力をくれてやろう。強靭なる鋼の強さ、機龍王の力だ。』
雅史の頭の中に膨大な記憶が流れ込んできた。拳を使った技と誰かの過去の記憶。それが脳内を駆け巡り、その膨大な情報量に蹌踉めき膝をつく。
マンティコアは、雅史が膝をついた瞬間に襲いかかって来る。
雅史はマンティコアが目の前に来た瞬間、雅史の拳がマンティコアを殴り飛ばした。
「俺の拳は弾丸だぜ。」