~白き宝珠~
ーーーー遡る事、十数年前。
まだ啓太達がアースに来るよりも前、出会うよりも前の話だ。
憲明は、よく姉と喧嘩をしていた。
一般的な姉弟の喧嘩の域を越えて、生きるか死ぬかのレベルの争いを何度も繰り広げていた。
「憲明!あんた邪魔なのよ、死ね。」
「姉ちゃん、何でそんな事言うの?僕が何をしたっていうの?」
「存在がウザい。死ね。」
憲明の姉は包丁を取り出し、本気で憲明を殺そうと手に取った包丁で斬り掛かる。憲明は必死に避けるが、それでも避け切れずに横腹を包丁による一撃が入る。すれ違いざまに憲明の姉に、憲明の血が顔や腕に付着した。
いったい、何故こんな事になっているのか。それはさらに数分前に遡る。
「憲明!あんた、また私のお菓子取ったでしょ!」
「僕は取ってないよ」
「見え透いた嘘つくんじゃないの!」
そして包丁を持ち出した今に至る。その後すぐに親が来て止めてくれたが、憲明の姉は狡猾に持っていた包丁を憲明に持たせ、憲明の血を自分に塗り、あたかも自分が憲明に殺されそうになっていると装ったのだ。
「母さん、あんたをそんな子に育てた事はありません!うちの子じゃないわ!出て行きなさい!」
「そ、そんな…、違うよお母さん!僕じゃないよ!」
憲明は母に家からつまみ出され、玄関の鍵を閉められる。その時憲明は悲しさのあまり丸一日家の前で泣いていた。
翌日、いつの間にか泣き疲れて眠ってしまった憲明は、目覚ましてからまず公園へ向かった。それからの生活は、憲明にとって過酷なものとなった。
これから外でサバイバル生活を余儀なくされたのだ。食事といえば蜜蜂の巣を探し、蜂の子と蜂蜜を食べ、寝泊まりは公園のベンチ。日本の子供がする様な生活ではなかった。今思い返せばよく補導されなかったものだと、憲明は驚きもしている。
そんな生活をしていたお陰で、憲明は様々なサバイバル術を会得していた。
火の起こし方や野草の見分け方、そして野犬との戦い方に野鳥等の狩りの仕方と、このご時世で子供が体験しない事を憲明は自分で学び会得していったのだ。
一ヶ月後、憲明は警察に保護されてようやく家に戻れた。それでも年に何度かは外でサバイバル生活を余儀なくされる程の姉弟喧嘩が勃発しては家を追い出されていた。
時は現在に戻り、縛り上げたオーガに憲明は強く睨みつけ、白い球の在処を問い詰める。
「さぁ教えて貰おうか!白い球はどこにあるんだ?」
「コンナコトデ、オレニカッタトオモッテルノカ?」
「現に身動き取れてねぇだろ!死にたくなけりゃ白い球の在処をさっさと吐くんだな。」
「シナンテモノハモウコワクナイ。ノコリワズカナジカンヲチヂメヨウガノバソウガカワラナイ。」
オーガは頑なに黙秘を続ける。
「じゃあどうしたらお前は白い球の在処を教えてくれるんだ?」
「俺達は早く力を取り戻して、仲間の元に帰らなきゃいけないんだ!頼む、教えてくれ!」
「ソレデオレニナンノトクガアルトイウノダ。ニンゲンヤアノビョウインニスミカヲウバワレ、コノヤマニオイヤラレタコノオレニ!」
「あの病院に?それに人間に住処を奪われたって…。サンクチュアリ帝国か。」
雅史はさらにオーガを問い詰める。
「アノビョウインノヤツラヲシンヨウシテハイケナイ。キヅイタトキニハ、ナニモカモウシナッテイルゾ。オレノヨウニナ。」
オーガは意図も容易く憲明が編んだ蔓を引き千切り、羽織っていた上着を脱ぐ。見た目の巨体とは打って変わっての骨と皮だけの姿に、雅史と憲明は驚いた。そしてそれ以上に臓器という臓器が何一つなく、身体中にはいくつもの縫合された痕があり、こんな姿になっても生きているオーガに二人は言葉を失った。こんな身体で自分達と戦っていたと思うと自分達の行いがただの強盗であると罪悪感も感じ始めていた。
そんな二人を見て。オーガは腰巻に右腕を突っ込み、何かを取り出して憲明に渡す。
憲明は渡された物を確認すると、それは白い球だった。手にした白い球は粘液を纏っているのか、持った感触はとてもじゃないが、すぐにでも手を離したくなる粘り気を帯びていた。それに鼻を刺す臭いに気分も悪くなる。
「オレハモウクチルミダ。ナラ、オマエタチニタマヲタクスノモマタヨイカモシレナイナ。」
オーガはそう言い残すと、身体がボロボロと崩れ落ち、ただの肉片へと変わり果ててしまった。
「……。」
「…俺達、これで良かったのか?」
「分からない。でも、俺達は少しでも早く啓太達の所に戻らなくちゃいけないんだ。」
憲明は受け取った白い球をオーガの上着に包み、水辺を探して手を洗う。この何ともいえないヌメリと臭いをいち早く取りたく念入りに洗ったが匂いだけは全く取れなかった。
「憲明、臭うぞ。」
「五月蝿ぇ!これでも頑張って洗ったんだぞ!」
雅史と憲明は、一旦山を降りる。残りの白い球の在処も判明しないし、それにオーガの言った病院の院長達を信用するなという言葉。まずは両者の話を聞いて、それから決めようと思った二人は、一度病院へと戻る事にした。




