~失われる生命~
ゴーレムを内側から破壊し、憲明はボロボロになりながらもその場に立っていた。
意識も辛うじてある状態で、生きているのが奇跡なくらいだ。
「ったく、戦闘からの戦闘って休む暇もないのかよ。」
「大丈夫なのかっ!?」
「これくらいじゃ余裕だ。っと言いたいけど、今回はキツいな。ここは俺と将吾、雅史に任せて皆は撤退してくれ。頃合いを見て、俺達も離脱する。」
憲明は肩で息をしながら昌宗に撤退を指示する。憲明も含め、全員が晋司とマンティコア、キメラとの戦闘で疲弊している状態。この状況下で全員が残って戦うより、殿を務めて皆を逃がすといった戦略的撤退が賢明だと判断した。
ゴーレムを破壊した今、将吾は黒魔王と、雅史は邪龍王と交戦している。憲明も煉獄王の相手をして、自分の影は自分が相手をしていけば啓太やメイ、祐斗に昌宗を逃がす事が出来る。それに自分の影なら動きも大凡の予測は出来る。それならこちらにも部があると考えたのだ。
「お前、オリジナルの方が強いに決まってるって思っただろ?」
「当たり前だ!偽物に負けるわけないだろ!」
憲明は背後に急に現れた煉獄王に振り返りざまに火球を投げ付ける。しかし、煉獄王はその火球が直撃してもダメージ一つなく、そのまま憲明を極太になった右腕から放たれる一撃を打つ。憲明はその一撃により、30メートル先の岩に叩き付けられた。その衝撃で口からは大量の血が飛び出し、その場に倒れ込む。
「憲明っ!」
「そなたは人の心配してる場合ではなかろう!」
黒魔王は石の斧で将吾の背中から斬り付け、辺りに血飛沫が舞い上がる。
「黒覇王、そなたは仲間を失う事を恐れとる。他の奴等もだが、そなたは人一倍仲間を失う恐怖が強い。そんなに独りになるのが怖いのか?」
「黙れっ!」
「孤独がそんなに怖いのか?ならそなたは最後に殺してやろう。仲間が死んでいくのを見届けて、そして最後に恐怖を噛み締めながらゆっくりと殺してやろう。」
黒魔王は、石の斧を槍状に変化させ将吾の腹に突き刺し、地面に突き立てる。
圧倒的不利な状況。既に将吾と憲明は戦闘不能に近い状態。ここで全員が戦っても勝ち目などないが、逃げる事も可能なのだろうか。一か八か祐斗は転移の魔法で全員を連れて逃げるしかないと考えた。
しかし、転移の魔法は自分自身にしか使った事がなく、全員を連れて使う事が出来るのか不安要素があった。恐らく自分の触れているものは連れて行けるはずと思い、全員を傍におく必要があったのだ。
「体勢を立て直す!みんなで撤退だ!」
「逃がさないよ。十王神全員を鏡に映すまではね!」
祐斗の傍にシュラが駆け寄り、祐斗に邪王の鏡を向ける。祐斗は慌てて鏡の映る射線上から逃げるが、時既に遅く、邪王の鏡から祐斗とよく似た男が現れる。祐斗はハンドガンをその男に向けて銃弾を放つ。しかし男は手に持ったライフル銃を祐斗に向けて引き金を引き、二人の間で銃弾がぶつかり合い、相殺させた。
「どうした?銃撃戦がお望みなら相手するぞ。答えよ、聞いてやる。」
「間に合わなかったか…。」
「俺は魔天王。俺に挑むか光天王。」
祐斗はハンドガンを二丁拳銃に変形させ応戦する。魔天王はライフル銃から続けて銃弾を放ち、お互いに相手の放った銃弾を交わしつつ、相手に銃弾を放つ。交わされた銃弾もお互いの作り出したワームホールを介して再び相手への弾道へと修正される。次第に二人の周囲には二人の放った銃弾が飛び交い、動きが制限されていく。
「この程度か?」
「なんだと?」
「この程度かと聞いているっ!」
魔天王は祐斗の作り出したワームホールに自分のワームホールを呑み込ませ、飛び交う銃弾の矛先を祐斗に全て向かわせ、祐斗に銃弾の雨が降り注いだ。全身に銃弾を受け、祐斗も瀕死の状態でその場に倒れ込んでしまった。
「祐斗っ!」
啓太は盾を使って祐斗を守りながら後ろへと後退する。今ここで終焉魔法を発動させては将吾達を巻き込んでしまう。それに終焉砲を放つにしても、晋司とマンティコアとの戦闘の疲労が激しくて力が入らなくなっていた。
将吾は石の槍に串刺し、憲明は岩に叩き付けられ、圧倒的不利な状況にあり、雅史も邪龍王に苦戦を強いられていた。
「今、仲間を失う事に恐怖をしているな。」
「当たり前だ。仲間を大切に想うことは当たり前だろ!」
雅史は邪龍王に向かって拳を振りかざす。しかし邪龍王は雅史の拳を意図も容易く片手で受け止め、バキバキと音を立てながら握り潰す。
バキッ!ボキッ!グシャッ!
「あ"ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
拳を握り潰された雅史は悲鳴をあげて左手で捕まった右腕を解放させる為、何発もガンバレットを放つ。
「仲間を失う恐怖から解放してやろう。それは、お前が先に死ねば、全て解決だろ?」
邪龍王は小型のハンマーを取り出し、雅史の頭を龍人の装甲ごと勝ち割る。雅史の頭部はスイカでも砕いたかの様に無惨にも砕かれ、辺り一面に大量の血が飛び散り、邪龍王もその返り血を大量に浴びた。
「雅史ぃぃぃぃぃぃっ!」
「おい。嘘だよな?嘘なんだよな?」
啓太の叫びが周囲の空気を浸透させ、全員の耳に入る。その声を聞いた祐斗が雅史の成れの果てを目の当たりにし、気が狂いそうになった。啓太や将吾と出会うよりも前、高校時代からの友人である雅史が目の前で殺されてしまった。そのショックで泣き叫び、その声が辺りに拡がる。
「まずは一人…。」
その光景を見ていた煉獄王が地面に膝を崩していた憲明の元へと近付き、頭を鷲掴みにして軽々と憲明を持ち上げる。
「お前、俺がオリジナルのお前に似てないと言っていたにゃ?だから似ているという証明をしてやるにゃ。お代はそうだにゃ~…、お前の命だにゃ!」
煉獄王は左手で憲明の頭を掴んで持ち上げており、右手で炎で作った槍を持ち、憲明の腹部に突き刺す。憲明は激しい痛みのあまりに叫んでしまいそうだったが、ぐっと堪えて「はっ、その程度かよ。」と強気に出たが、それが裏の目になったのか、煉獄王はムキになりだし、槍から炎を噴出させ、憲明の体内から炎焼き始めた。
あまりの辛さに憲明も悲鳴をあげ、その悲鳴が耳障りだったのか、煉獄王は一気に憲明の身体を内側から焼き付くしていった。みるみる内に憲明の身体は黒く炭になり、灰になり崩れて行った。
「コレで二人抹殺にゃー!」
次に黒魔王は将吾に視線を向けて、「待たせたな。ようやくお前の番だ。」と耳元に囁きかけた。




