~Silence of Maids~
ガレッタに言われ、おいそれと引き下がるほど、トウカは物分かりは良くはない。トウカはトウカなりに自分でヒミカを含め姉妹達が何故この様な目に遭ったのか探り始めた。
事件が起こったのは、啓太達と同じ世界から来たというあの二人が来てから始まっていた。もしかすると、あの二人が何か知っているかもしれない。そう思ったトウカはまずは塚山達の所に足を運んだ。
ガレッタは外を出歩くなと言っていたが、屋敷の中を出歩くなとは言わなかった。そこに付け込んで、トウカは塚山達に会いに行った。
トウカが塚山達のいる部屋の前まで行くと、部屋には二人がいる様で、物音が聞こえる。時には女性の、アコの声が響いている。
「すまない、少し話を聞きたいんだが。」
トウカが部屋のそこから声をかけてから数分経ってから、アコがドアを少しだけ開けて顔を出した。アコは布一枚で自分の身体を隠している状態だった。そして何かリズムを刻んでいるかの様に身体を揺らしていた。
「…すみません、何か、用ですか?今…少し取り込んでいて…。」
「昨日の妹の、ヒミカの事を聞きたいんだが、取り込み中なら出直すと言いたいが、こちらも急を要していて、すぐにでも話を聞きたいんだ。」
「そう、ですか…。でも、ちょっとだけ…ちょっとだけ待ってもらえませんか。あと、あと少しで…。」
「…行くぞ。」
後ろから塚山の声がして、その後すぐにアコはビクッと動き、息を切らしながら、「服を着ますので、少しだけ待って。」と言って扉を閉める。
いったい何だったのかと疑問に思ったが、それでも今はヒミカの事で頭がいっぱいなトウカは気にせずに部屋に入って行った。
部屋の中は、何か生臭い空気が漂っており、あまりこの場にはいたくないと感じた。しかし、この二人が手掛かりかもしれないと思う事で、グッと我慢する。
塚山は腰に布を巻いた状態でベッドに座っていた。アコも布を身体に巻いた状態で、塚山の隣に座っている。ここで何をしていたかトウカには見当もつかないが、二人とも大量の汗をかいていた。
「それで、話とは?」
「昨日、妹のヒミカがここに来たと思うが違うか?」
「ヒミカ…あのメイドさんかな?ベッドのシーツを取り替えに来てくれたかな。」
「その時、何か変わった事はなかったか?」
「いや、特に何もなかったと思うが。それよりも食事にしても構わないかね?夜通しアコと語り合っていたので、お腹が空いてしまってね。君も食べるかい?今日はスープなんだが。アコ、今日は何のスープだったかな?」
「はい…、今日は、狸のスープになります。すぐに用意しますね。」
アコは鍋をテーブルに運んで人数分の皿にスープを入れていく。塚山とアコはそれを美味しそうに食べており、トウカも食べなければ話をさせてくれないと思い、スープに口を付けた。
「それで、そのメイドさんが何か変わった事があったかって事だったかな。ベッドのシーツを取り替えてくれて、後は軽く部屋の掃除をしてくれたよ。私は彼女の事をあまりよく知らないから、いつもと違うという事がよく分からないのだが、いたって普通だったと思うよ。」
「そうか…。」
「どうかな?アコの料理は美味しいだろ。」
「え、あ、あぁ…。」
「昨晩に生きの良い狸の肉が手に入ったので、良い出汁が取れたんですよ。」
アコは微笑みながらトウカを見ながらスープの具を食べていく。
トウカは、スープを口に含んた時から何か違和感を感じていた。その違和感が何かわからずに言われるままにスープを飲んでいく。それにこの部屋のどこからかヒミカの気配を感じる。ヒミカは用水路で殺されている。ここでヒミカの気配を感じるなどあり得ない事だと自分の思考が混乱して来た。
「肉も食べてくれ。この肉がとても柔らかくて味も中々のものだ。」
「雌の狸の肉ですから肉は柔らかいですし、若かったので、肉に臭みもなく上質な味になっていますよ。」
「そう、なのか…。」
トウカは塚山達に勧められるがまま、肉を口に含んだ。
その瞬間、トウカの頭の中に大量の情報、記憶が流れ込んで来た。
遡る事、昨日の夕方。
ヒミカはシーツに付いていた羽を持って塚山とアコの部屋を訪れていた。
「あ、あの、この羽なんですけど、布団の中にあった羽毛じゃないですよね?」
「そんな事はないと思うが?もしそうじゃないとしたら、その羽はいったいどこから来たというんだい?」
「この羽は、ミナの羽です。姉妹ですから間違えるはずがありません。ミナは昨日ここに来て何者かに襲われた。そうじゃないんですか?」
「昨日はここでアコと語り合っていたので、そんなはずはないと思うんだがね。そうだろ?」
「そうですね。昨夜も先生とは激しく語り合っていたので、この部屋にお客さんが来るなんてなかったと思いますよ。」
「本当にそうですか?所々にある血の痕、それに何かの爪の痕。もしミナが来なかったとしても、これ程の爪痕を残す何かがこの部屋にはいた事じゃないんですか?」
「それは私達がここに来る前からあったものだ。この村は一度マンティコアというモンスターの襲撃に遭っているんだろう?その時に付いたんじゃないかな?」
塚山は残しておいた鳥の手羽先を皿から取り出し、口に入れる。その光景を見て、ヒミカはある事に気が付いて、まるで一瞬でこの世界が氷だけの世界に変わったかの様に背筋が凍った。
「…今食べてるのは何ですか?」
「鳥の手羽先だね。」
「それはいつからありますか?」
「昨日の夜からだね。」
「ミナがいなくなったのは?」
「昨日の晩からいないんだろ?」
「この羽はどこにありましたっけ?」
「この部屋のベッドのシーツに付いていたって君がさっき言ってたじゃないか?」
「この羽はミナのものです。つまり…。」
「つまり?」
「貴方、ミナを食べましたね?」
そこで記憶が途切れてしまっている。
トウカは肉を口から出し、催してきた嘔吐感に襲われて、その場に嘔吐する。
「どうしたんだい?具合でも悪いのか?」
トウカは嘔吐感と動悸に襲われて、数分の間身動きが取れなかった。
「き、貴様…。この肉はどうしたと言った?」
「昨晩、生きの良い狸の肉が手に入ったと言っていたじゃないか。」
「先程からヒミカの気配がすると感じていたが、やはり気のせいではなかったんだな。」
「どういう事だい?私にはわからないな。」
「…この人喰いの化け物め。」
トウカは鉄扇を取り出し、塚山に襲い掛かる。しかし、身体が思う様に動かず、その場に倒れ込み、身体が痙攣を起こす。
「ホントに具合が悪いじゃないか。ベッドで少し休むといい。心配はいらない。少し休めば楽になれるよ。」
その言葉を最後まで聞けず、トウカは意識を失った。それから目を覚ます事はなく、翌朝、胴体を失い、頭部と四肢だけになったトウカの身体は教会の十字架に釘打ちされて発見された。




