~新たなる刃~
「将吾!将吾もアースに来ていたのか。」
「アース?やっぱここは俺達が元々いた世界とは別の世界なんだね。という事は、雅史や祐斗、憲明や昌宗、他の学生達も、もしかしたらこの世界に来ているかもしれないね。」
「ねぇ、ケイタ。この人は?」
「ごめんね。紹介してなかったね。彼は将吾。さっき話していた僕が元いた世界からの親友だ。将吾、彼女はメイ。世間じゃ忌むべ……。」
「忌むべき者……だろ?」
将吾はニヤリと怪しげな笑みをし、左手を鞘に添える。メイはそれを警戒し、啓太の後ろに身を隠す。
「なんてね。忌むべき者ってのが気になってさ、聞こえてくる噂があまりにも疑問点の多い噂ばかりで、百聞は一見に如かずって思ってからさ。でも、同伴している魔法詠唱者が啓太って分かったら、忌むべき者って言われているこの子が悪い人間じゃないってのは明確だし、これからは行動を共にさせてもらうね。俺や啓太がこの世界にいたんだし、多分雅史達もこっちに来てるんじゃないかな?」
将吾は鞘に添えていた左手を鞘からメイの前に差し伸べた。
しかし、メイの警戒心はまだまだ解かれる事はなく、啓太の後ろから出てくる事は無かった。
「とりあえず飯にしよう。何か作るよ。」
将吾は宿の厨房に向かい、殆ど残っていない食材と自分が持っていた食料から料理を始める。
啓太とメイは、食堂であったフロアで将吾の料理を待つ。厨房からフロアに流れ込む香りは食欲をそそり、鼻をくすぐる。
「ねぇケイタ、あのショーゴっていう人、信用しても良いの?どう見ても怪しいんだけど。」
「大丈夫だよ。そこは僕が保証するよ。将吾は僕の掛け替えのない親友。それに料理も美味しいし、将吾と会えたのはラッキーだったと思うよ。」
「それはケイタ達の世界にいた時の話でしょ?この世界に来て、変わってしまったかもしれないのよ。」
「そうだね。啓太も色々あったと思うけど、俺も色々あったのは確かだよ。」
将吾は出来上がった料理を次々と運んでくる。
殆ど食材がない所からどうやって作ったんだと言わんばかりに料理が並ぶ。
「話せば長いと思うけど、食事中に流れるBGM程度に聞きながら食べていってね。」
そう言うと、席に座ると将吾はこれまでの事を話し始めた。
ーーーーー半年前。大学長が啓太達を光の中へと包み込んだ後。
将吾は気が付くと、そこは骨の山だった。
ホラーが苦手な将吾は、悲鳴をあげ意識が飛びそうになるが、必死に意識を保ち骨の山を駆け下りる。
火事場の馬鹿力というのはホントにあるんだなと、痛感しつつ、今自分が置かれている状況が分からず、息が整うまでその場に倒れ込んだ。
どれくらい倒れていたのだろうか。
再び意識が戻ると、そこはどこかの民家のベッドだった。
「あ、気付かれましたか?街外れの墓地の前で倒れていたので驚きましたよ。」
声がする方に視線を送ると、そこには自分と同じくらいの歳の娘がいた。
将吾は起き上がり、「君がここまで?」と聞きながら辺りを確認する。
「そうですよ。ちょうど馬車で街に帰る途中だったので、何とか運ぶ事が出来ましたよ。あ、申し遅れました。私、ミユと申します。」
「お、俺は将吾。助けてくれてありがとう。ここは?」
「私の家です。そしてここはノクタン村。」
ノクタン村…。その地名に聞き覚えは全くなく、自分が何処にいるのか全くわからなかった。部屋の風貌を見ても、現代風というよりはよくゲームや物語で見る中世ヨーロッパに見受けられる作りであり、異世界にでも来たのではないかと思考を巡らせた。
「たしか俺は大学にいたはず…。それで啓太達と一緒に大学長の話を聞いて、それから光に包まれて…。啓太達は?俺以外に誰かいなかったか?」
「いえ、あの場所で倒れていたのは、ショーゴさんだけでしたけど。ダイガクというのに聞き覚えはありませんが、ここは今はサンクチュアリ帝国の領地になってますし、もしかして軍に襲われてショックで記憶が欠落してるかもしれません。」
部屋を出ると、広い部屋に出た。どことなく道場の様な風貌をしており、上座には二つの神棚の様な台があった。
「数年前まで、ここは天牙理心流という武術の道場だったんですよ。でも、数日前にサンクチュアリ帝国の進軍で家族を失い、流派を継ぐのも私ひとりになってしまいました。」
サンクチュアリ帝国という名前にも聞き覚えがなく、やはり自分がいた世界とは違う世界に来てしまったのだという結論に至った。
将吾は、自分が記憶喪失である事にし、この世界について色々とミユから聞いた。サンクチュアリ帝国の事、天牙理心流の事、ミユの家族の事を。
「この道場は、天牙理心流という武術を伝え鍛える所。天牙理心流には更に二つの流派があります。覇王流と聖王流。私にはクロスという兄がいました。兄のクロスは覇王流を、私は聖王流を極める為に日々精進していました。ショーゴさんは十王神の伝説はご存知ですか?きっと幼少期から聞かされる物語なので聞いた事はあると思うのですが。」
「ごめんね、思い出せないんだ。」
将吾は思い出せないと言うが、この世界の事を知らない。ここは記憶喪失という事で色々聞いた方が情報収集しやすいと思い、そのまま話を合わせる。ミユは十王神伝説について話し始めた。
かつて世界がまだ混沌渦巻く争いに満ちていた頃、十人の男女が各地で破壊の限りを尽くしていた魔竜を倒し、世界を混沌から救い、この世は平穏な時間が訪れた。とされている。
この伝説は、神話として語られているが、実際に起こった実話である。
神として崇められ伝説に残った十人。
"全てに終わりを告げる者、終焉王"
"黒き覇道を歩み続ける者、黒覇王"
"鋼の魂を秘めし気高き者、機龍王"
"空を輝かせる大いなる者、光天王"
"灼熱を操りし冷酷なる者、炎獄王"
"偉大なる帝を支配せし者、超帝王"
"七色の虹を呼ぶ優しき者、宝玉王"
"不滅の力を持つ異形の者、不死王"
"絶対な正義で悪を断つ者、黒炎王"
"世界を滅ぼす真に強き者、殲滅王"
「そして、この神話は実話という証拠に、ここには王の力が宿る果実が安置されてるの。黒覇王は武術の使い手でした。それが天牙理心流。私の家系は王の実を護り続け、再び世界滅亡の危機が訪れた時に天牙理心流を極めた者がその実を食べ王の力を継ぐと語り継がれてきました。」
将吾は、この世界で生き残る為には自分を守る術、戦う術を学ぶ事が必要だと考えた。
「俺にその天牙理心流を教えてくれないか?俺は戦う術を知らない。ここを出ても行く宛がないし、出て行ったらすぐに命を落としてしまいそうだ。だから俺に戦う術を教えてくれないか?」
将吾はミユの元で修行を始めた。天牙理心流は、あらゆる武器を用いた武術で、剣術はもちろん、槍術、棒術、鎌術と多彩な武器を使いこなし相手を倒す流派である。
将吾は日々精進しているが、結果がついて来ておらず、成果は見られなかった。
しかし、将吾は天牙理心流に惹かれ、二ヶ月が経過したが、基本的な動きしか会得できていなかった。
しかし、修行に明け暮れる日々の中、気がかりな事があった。啓太達はこの世界に来ているのか、何故自分達がこの世界に来なければならなかったのか。その事を考えるとここにずっといる事は得策ではないと感じていた。しかし、ミユ一人を置いて行く訳にもいかない
そんな事を日々考えつつも、日々修行に明け暮れていた。
そんな時だった。
サンクチュアリ帝国が再びノクタン村を襲撃しに進軍して来た。
「何で帝国軍はここを狙うんだ?」
「ここに王の力の宿る果実があるのを知っているのよ。帝国軍が王の力の宿る果実を各地で集めているって噂を聞いた事があるわ。どこからかここに果実があるのを聞きつけて再び軍を向かわせたのよ。」
「何で帝国軍が王の果実を狙うんだよ。」
「十王神伝説は、かなり有名は神話だからね。知名度では知らない人はいないくらいの有名な神話だし、将吾は忘れていたみたいだけどね。」
「神話なんて実在するなんて普通は思わないと思うんだけど、そこの所はどうなってるの?この世界は。」
「火のない所に煙は立たない。有名な伝説となると、根源となる実話が必ずあるもの。そう思えば十王神伝説は実在に存在したのでは?って事だと思いますよ。」
ミユは壁に立て掛けてあった白い剣を持ち出し、サンクチュアリ帝国を村の入口へと急ぐ。将吾も刀を持ち、ミユの後を追う。
サンクチュアリ帝国の軍兵達は数も多く、実力も高い強者揃いであった。あっという間に街は制圧され、街人は捕らえられ、将吾もミユも軍兵に手が出せなくなってしまった。
「さあ、どうする?大人しく王の果実を差し出すか、抵抗して死んでいくか、このまま街人が殺されるのも眺めているか、どれを選んでも良いぞ。」
「(なぁミユ。俺がアイツに果実を渡すフリをして、その間にミユが街の人を助けろ。)」
「(それしか方法はないと私も思います。ショーゴは?その後はどうするのですか?)」
「(人質がいなきゃこっちのもんだよ。敵の大将さえ倒せば兵士達の戦意は喪失して勝機が見えてくると思うよ。)」
将吾は神棚から黒い果実を持ち出し、帝国の指揮官の前に向かい差し出した。
「王の力の宿る果実を持って来たぞ。約束通り、街の人達を解放してもらおうか。」
「よし、確かにこの果実は黒覇王の力の宿る果実。ならもうここに用は無いな。」
指揮官は部下に指示を出した。このまま街人を解放すれば良し、そうでなくてもミユが街人を逃がしてくれれば、後は指揮官を倒して逆に制圧すれば良し。穏便に済ませられるならどちらでも良かった。しかし、結果は最悪な方へ進んでしまった。
「…殺せ。」
指揮官の一言で、兵士達はライフルを取り出し、取り囲んでいた街人を一掃した。
将吾も盲点だった。まさか拳銃が存在していたとは思っても見なかった。振り向くとそこには既に蜂の巣状態の肉片が転がっていた。
「お、お前…。」
「さぁ果実を渡してもらおう。そうすれば命だけは取らない。」
「流石に街の人達を殺されて、ハイそうですかなんて事にはならない。仇くらい取らせてもらう。」
将吾は、果実と共に持って来た刀を抜刀しようとするが、抜けず指揮官に鞘ごと振り降りした。それに動揺し、指揮官は拳銃を将吾に向け発砲する。
しかし、将吾はいとも簡単に銃弾を避け、拳銃を左手の甲で弾き飛ばす。
「アーチェリーで動体視力は鍛えてたからね。それに反射神経には自信があるから、撃たれると分かっているなら多少は避ける事も出来るさ。」
指揮官は、まるで化物を相手にしているかと錯覚しそうになり、後退りしてしまう。
「まさかここまで厄介な奴とは思わなかったよ。仕方ない。君との戦いはまた別の機会にしよう。テレポートショット。」
指揮官の放った魔術は将吾をどこかに転送させてしまった。指揮官はやれやれと一息ついて鎧を外し、街人の所へと歩み寄る。先程、兵士達の銃弾で生命を奪われたはずであったが、ただその場に眠らされているだけであった。
「さて、準備は上々とまではいかなかったが、それでもこちらには天牙理心流の道場の娘もいる。あの青年が黒覇王となったとしてもな。」
将吾は指揮官によって知らない街に転送されていた。
辺りを見回しても知っている風景が全くない。目の前にあるのは飲食屋。とりあえず情婦収集をする為に、飲食屋を拠点として聞き込みを始めた。
「とまぁそんなこんなで飲食屋で色々情報収集してたら、青いローブの男と忌むべき者がオバド街に向かってるって話を聞いてね。どうも忌むべき者ってのが噂で聞く様な存在とは違う気がして、それで後を追いかけて来たんだよ。」
「でも、将吾と再会できて本当に良かったよ。きっと雅史や祐斗、憲明に昌宗もこっちの世界に来てるんじゃないかな?」
将吾の手料理を食べつつ、二人の会話は盛り上がる。
メイは将吾の作った料理に毒が入っているかもと警戒して口にしなかった。
「ロクにご飯も食べてないんじゃないの?確かに警戒するのも分かるけど、俺は料理で人を喜ばせても悲しませる事はしないし、啓太の仲間を手にかけるなんて事はしないから安心して食べてくれないかな?」
将吾は一通り料理を出すと、椅子に座って自分も料理を食べ始めた。
将吾の言葉と、啓太の食いっぷりにお腹が負けたのか、ようやく料理を口にする。
「あ、美味しい。」
「それは良かった。」
「将吾の料理は一流なんだ。たしか親父さんが料理人で将吾も幼い頃からそれを見てたから料理の腕は相当のものなんだよ。」
「でも、こっちの世界じゃ、俺達の世界の食材って無くて、似てる物で何とかやりくりするのも楽しいね。」
三人は、食事を楽しみながらお互いのこれまでの経緯を話した。
そこで啓太が十王神伝説の王の一人、終焉王の力の宿る果実を食べて、終焉王を継ぐ者として覚醒している事が分かった。
終焉王は魔法の中でも最上位の魔法である終焉魔法を使う最上級魔法詠唱者であった。
終焉魔法は、威力も高いが消費エネルギーも高い。連発ができない為、啓太はそれを補う為に魔導札を何枚も用意していた。この魔導札は、あらかじめ魔力を込めておき、使いたい時に少量の魔力を込めるだけで、発動出来る使い勝手の良い魔法道具であった。
「これからどうする?次の街に向かうかい?多分、まだサンクチュアリ帝国の兵がメイを追いかけてくると思うけど。」
「僕は次の街に行きたいと思う。ここにいても街人に迷惑がかかると思うし、動いていれば、いつか雅史達の手がかりも掴めるかもしれないしさ。」
啓太達は食事を終えると、そのまま疲れを癒す為眠りにつき、明朝早くに街を出た。
「それにしても、十王神の力を持つなんてね。話には聞いてたけど、まさか啓太が終焉王の力を手に入れてるとは思わなかったよ。」
「僕もあの時は必死だったし、それにあの果実が十王神の一人、終焉王の力を宿した果実なんて思わなかったよ。まず十王神の事も知らなかったけど。」
「たしかその盾も終焉王が使っていた武器らしいよ。天牙理心流の道場にいた時に聞かされた話だけど。俺のこの刀も黒覇王が使っていた刀らしいけど、鞘から抜けなくてね。他にも色々あって総称を十王神具って言うんだってさ。」
「そういえば、昨日聞いた将吾の話。十王神の果実って、結局将吾が持ってるんじゃ?」
将吾は「そうだよ」と言い、懐から漆黒の果実を取り出した。
「渡す前にその場から転移魔法打たれて飛ばされちゃったからね。そのまま成り行きで持ちっ放しになってるんだ。」
「それを食べれば、ショーゴも十王神になれるんじゃないの?」
「でも、これは俺の物じゃないからね。といっても、もうあの街には誰もいないし、貰っちゃってもいいかもしれないけど、今は必要じゃないからね。」
将吾は再び漆黒の果実を懐に仕舞い、次の街に着く間も、果実を食べる事なく刀も鞘に締まったまま鞘ごとモンスターを殴っていた。
到着した街は、エチュード街。
ここはまだサンクチュアリ帝国の侵攻に遭っておらず、街並みは栄えており、ここならまだゆっくり出来そうだと三人は思った。
早速宿に向かい、部屋を確保すると、一息つく。啓太とメイにとっては久々の休息だ。
二人が休んでいる間に、将吾はこれからの旅に備えて買い出しに出る。食料品を含め、寝袋等の野営用の道具も買い込んでいた。買い出しの最中、将吾は色々と情報収集をしていた。サンクチュアリ帝国の侵攻具合、十王神の力の宿る果実の所在、雅史達がこの世界に来ているかの情報を出来る限り探った。
しかし、十王神の力を宿す果実と雅史達の情報は一切入って来なかった。やはりアースに来たのは啓太と自分だけなのかと不安になる。
将吾が買い出しから戻ると、啓太とメイは起きて今後の事を話していた。将吾は街で集めた情報を啓太とメイに話し、今後の行動を考える。
「そうか、サンクチュアリ帝国の侵攻はこっちに向かっているんだね。」
「あと、十王神の果実の事や雅史達の事は全然情報が集められなかったよ。でも、面白い話は聞いたけどね。この先にあるレクエム村にいる若者二人がマンティコアを討伐したって話。しかもその二人が中心となって、サンクチュアリ帝国に対抗するレジスタンスが結成されて、協力者を募っているみたいだよ。」
「そのレジスタンスと合流すれば、身の安全は今よりは確保出来ると思うし、闇雲に雅史達を探すよりも情報は入って来そうだな。」
「それに雅史と祐斗なら、多分レジスタンスの話を聞いたら入るだろうと思うしね。」
「そのマサシとユートって人も、ケイタの仲間なの?」
「あぁ。将吾と同じ、僕の親友だよ。」
啓太は、宿から出された食事を食べながら話す。
三人は、宿の食事を済ませ、将吾は珈琲を飲んでいる。啓太とメイはバルコニーで風を浴びていた。メイと出会ってから数日、盗賊や冒険者から狙われ、モンスターからも襲撃に遭う日々であったが、ようやく一息つけたのだから、ようやく緊張感が和らいだ。
啓太自身も、メイと旅をする前は、戦闘こそ少なかったが、巨人に襲われてから終焉王となり、一人で旅をしていた時に比べると、メイが加わり、将吾とも再会できて安心感が生まれていた。そういう事で啓太から少し笑みが溢れた。
「あ、ケイタ笑った。」
「え?そうかい?」
「久々に見たわ。ケイタの笑顔。私を助けてくれた時以来かしら。」
「まぁそれまで戦いが続いていたからね。将吾も加わったし、少しは安心感が出たのかな。」
「そこまでショーゴの事信頼してるの?ケイタには悪いけど、私はそこまで信用できないわ。仲間だって事は思ってるけど、人はいつ裏切るか分からないもの。」
メイはバルコニーの柵にグデーンともたれかけ、啓太にそう呟く。
「将吾は絶対に裏切らないよ。」
「人間って簡単に人を裏切るのよ。私はそういうのたくさん見てきたの。だから私は簡単に人を信用できないの。ケイタは私の事必死に守ってくれてるって伝わってくるから安心して信用してるんだけどね。」
「将吾は、正しいと思った事と友情や絆を重要視しているんだ。将吾と出会ったのは大学入学式からだから短い付き合いだけど、それ以上に将吾含め、雅史や祐斗達もお互いに信頼し合ってるんだ。メイも一緒にいたらわかると思うよ。」
メイは「そういうものなのかしら」と言い、バルコニーから将吾を見る。将吾はその事に気付かずに新聞を読んでいた。
「でも、ケイタがショーゴ達の事を凄く信頼しているのは分かったわ。ケイタって優しいのね。」
「僕が優しいわけじゃないよ。将吾達のお陰で…」
ドゴォォォォォォンッ!!!
啓太とメイが会話をしていると、急に爆発音が聞こえる。
将吾も何事かと、啓太達のいるバルコニーへと飛び出してきた。
「サンクチュアリ帝国軍だぁぁぁ!」
「ついにこの街にも攻め込んで来た!」
「みんな逃げろっ!」
みるみる内に街は火の海と化し、街人は蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑う。街を囲む様に帝国軍兵が攻め込み。次々と街人を斬り殺している。
「まるで血祭りだな…。」
「とにかく僕達は帝国軍から街の人達を守ろう!将吾!」
将吾は啓太の言葉を聞き終わる前にバルコニーから飛び出して、鞘に収まっている剣で応戦していく。
啓太もそれに続き、魔導札を投げ、帝国軍兵の動きを封じていく。
街の外では、指揮官がその様子を高みの見物しており、街人が斬り殺されているのを娯楽を堪能しているかの様に見ている。
「やっぱお祭りは楽しいねぇ〜。いつ見ても楽しい。」
「指揮官殿、街の制圧に二名ほど抵抗している者が。」
「レジスタンスか?」
「いえ、そうは見えませんが、この二人が腕の立つ者らしく、こちらにも被害が出ております。」
「たった二人にか?なら私が出よう。」
指揮官は轡を引き、街の中へと入っていく。
最初に出会したのは将吾だった。
「おい、そこの!よくも私の楽しいお祭りを邪魔したな!」
「お祭りはお祭りでも血祭りだろっ!そんなの黙って見過ごす訳にはいかないからね。」
将吾は指揮官に向かって鞘に入ったままの刀を振り下ろす。指揮官はそれを意図も簡単に槍で受け止め、将吾の鳩尾に拳を打ち込む。その衝撃で将吾は吹き飛び、民家の壁をぶち破った。
「強過ぎだろ。ノクタン村を襲った奴とはレベルが違い過ぎる。」
将吾は口に溜まった血を吐き捨て、刀を杖代わりに立ち上がる。
「サンクチュアリ帝国軍の指揮官は私くらいの実力がないとなれないからな。伊達に指揮官やってないんだよ。」
指揮官は槍からガトリング砲に持ち替えて、街人を蜂の巣にしていく。
その人道外れた行為に、将吾は怒りを抑えきれずにいた。啓太もメイを守りつつ、兵士達の相手をしているだけで手一杯である。
「やっぱこれを食べるか…。」
将吾は、自分が授かった訳ではなく成り行きで自分が持ったままの果実を、自分が食べるのは間違っていると思い、今まで食べずに持っていた。しかし、今の自分の実力だけでは勝ち目なんて全くない。それよりも街人が殺されるのをこのまま指を咥えて見ているなんて更に自分の中のプライドが許さなかった。
将吾は懐にしまっていた漆黒の果実を取り出し、そのまま口に放り込んだ。
『汝に問う。汝は何故に力を求む?得た力で何を成す。』
将吾の頭の中に直接語りかける様に、男の声で問われた。
「俺は救いたい。目の前で行われている殺戮から街の人を。少なくとも自分の周りの人くらい救える力が欲しいんだ。俺の信じる正しき道を行く為に。」
『人を救いたいと。なら力を与えよう。黒き覇道を歩める力、黒覇王の力を。』
すると、将吾の頭の中に膨大な記憶が流れ込んだ来た。天牙理心流の技、誰かの過去。それが脳を駆け巡り、その情報量に将吾はその場に倒れ込み、急激な脳の負荷に激痛で悲鳴をあげた。
「痛みのあまり叫び出したか。そんなに力は入れてないんだけどな。まぁそれだけアイツに実力がなかったって事だな。こんな奴に苦戦してたとは私の兵団も弱体化したもんだな。後で仕置きしておかないと。」
「天牙理心流、斬無!」
民家から指揮官に向かって高速で飛び出し、指揮官に斬撃を与える。突然の事に指揮官は回避する事が出来ずに飛んで来た斬撃を喰らってしまう。
「何だっ?何が起こった?」
指揮官は受けた傷口を確認しつつ、一体何が起こったのか分からず動揺を隠せずにいた。
将吾の左手には今まで抜けなかった刀が抜かれており、着地と同時に鞘に収める。
「そして、天牙理心流、裂破。」
将吾の放った斬撃は一太刀だけではなく、複数回放たれており、将吾の言葉を引き金に斬撃のダメージが後からやって来る。斬撃によって指揮官から大量の血が噴き出し、そのダメージと大量出血のショックで絶命した。
「人道を外れた者よ。俺は俺の道、黒き覇道を征く。黒覇王なり。」
将吾はその瞬足でまだ生きている街人を街の外の安全な場所へと避難させた。
街人を避難し終える頃には、啓太も帝国軍兵達を魔導札で開けた落とし穴に落とし終えており、戦闘は終わっていた。それでも街人の半分以上が動かない肉片へと変わり果て再び動き出す事はなかった。
「…俺がもっと早く決断していれば。」
将吾は一人涙を流した。