~見えない獣~
塚山とアコがレクエム村の入口の前に到着すると、入口には検問所があった。
しかしその検問所は、元いた世界の検問所とは似ても似つかない検問所で、ここが自分達のいた世界とは違う事が分かった。
「身分証明書はありますか?」
「あ、えっと運転免許証ではダメですかな?」
「何ですか?何を書いているかもわからない紙切れが身分証明なわけがないでしょう。あなた達は何をしにこのレクエム村に来たのですか?」
「ここに私の大学の生徒の雅史と祐斗がいると知ったので、会いに来たんですよ。」
「マサシさんとユートさん?あの二人の知り合いなら、大丈夫ですね。ですが、一度ヘリスさんに連絡しますので、少しここで待っていてくださいね。」
検問所の役員は、塚山とアコをその場に待たせて村の奥へと走り去って行った。
それから数十分程経過してから、先程の検問所の役員が一人の女性を連れて戻ってきた。
「私は、ユートさんが不在の時に、この村の事を任されているヘリスです。貴方がユートさんとマサシさんの知人の方ですか?」
「はい、塚山といいます。彼等は私の大学の生徒なんです。」
ヘリスは祐斗から聞いていた元の世界であるガイアの話を思い出していた。確か祐斗の会話の中にも"大学"という単語が出てきた事が何度かあった。ヘリスは彼が祐斗達と同じガイアから転移してきた異世界人であるとすぐに理解した。
「貴方もガイアにあるダイガクから来た人なんですね。でも、まだ貴方を信用した訳ではありません。ユートさんとマサシさんとは面識があるみたいですが、他の方とは面識はあるんですか?」
「祐斗と雅史なら、将吾と昌宗もいるんじゃないかな?」
「お二人の名前が出るという事は、貴方は本当にガイアから来た人なんですね。分かりました。ですが、ユートさん達は今は別の任務で外出されてるので、今は客室でお待ちください。数日すれば帰ってくると思いますので、それまでは私達がお二人のお世話をします。」
"私達"?という単語に疑問を抱いたが、ヘリスの後ろから昌宗が連れて来たメイド達が部屋に入って来た。
「主人、マサムネ様のお知り合いの方という事ですので、何かありましたら、リルがご対応させていただきます。どうぞごゆっくりお寛ぎください。数日すれば、マサムネ様達も戻られると思いますので。」
ウサギのシンクロナイザーのジェシカがそう言うと、犬のシンクロナイザーのリルを残して部屋を出て行った。
「リルと申します。何なりとお申し付けください。」
「すまないねぇ。昌宗を主人と言っていたが、彼が君達メイドの主人なのかい?」
「はい。ここはユートさんの統括されている村で、ここはユートさんが指揮をされている冒険者ギルドナイト・オブ・アーチの拠点にもなっています。主人のマサムネ様はご友人のケイタさん、ショウゴさん、マサシさん、ノリアキさん達と共にギルドの一員なので、ここで共に生活をされています。今は任務で外出されていますが、普段はここで私達がお仕えしています。」
塚山は、リルから色々な話を聞いた。啓太達がここでの出来事や、今はどの様な立場など。それを聞いて、やはりこの世界は、自分達が元いた世界とは別な世界だという事が納得できた。
「やはり、ここは私達がいた世界とは違う様だね。」
「その様ですね。マサムネ様達もその様な事を仰っていました。お客様達のいた世界はガイアという世界で、ここはアースという世界と聞いた事があります。」
「アース…そういえば、大学長が以前その様な言葉を言っていたな。並行世界に人間を転移させる実験や、娘さんをアースにとか言っていたな。」
「そういえば、そういった事を話していましたね。先生はその計画には参加してなかったんですか?」
「いや、私は通りすがりに聞こえただけだから何も知らないんだ。」
「そうですか…。」
アコは少し残念な表情を見せてから、小さくため息をついた。
「でも、マサムネ君も他の人達もそれだと被害者って事ですよね?それなのに伝説の十王神の力を手に入れて戦っているなんて凄いですね。それに今巷で事件になっているキメラの事も対処しに出ているなんて凄いですね。」
「そうだね。我々の様に生きているだけで精一杯の状態とは違うな。彼等は運が良かったんだろう。」
「そんな事はありません。マサムネ様は、十王神の力を持っていませんが、努力してケイタさん達と一緒に戦っていますよ。ですので、運の問題ではなく、どこで何をするのか、何をしたのかが重要かと思います。貴方達もここまで自力で来られたという事はとても凄い事だと思いますよ。この周りは冒険者がいるのでモンスターは少ないとはいえ、それでもモンスターに襲われる事件は多いですから。」
塚山は自分の事をリルに話した。自分がガイアと呼ばれる元の世界で教授であり、将吾、雅史、祐斗、昌宗に講義をしていた事、啓太と憲明は学部が違い、講義に来る事はなかったが、部活が同じで、よく大学内では一緒に行動していた所を何度も見ていた事などをリルに伝えた。
「マサムネ様の事を教えていただきありがとうございます。やはり、マサムネ様は変わらずお優しい方だという事がすごく伝わってきました。私達は仕える主人を間違えていなかったという事が聞けて、私もとても嬉しいです。」
「そうだ、少し頼まれ事を引き受けてくれないかな?こんな事、頼んで良いのか分からないんだが、街で紙と墨を調達してきてくれないか?この世界の事を書き留めておきたいんだ。」
「分かりました。明日の朝までにご用意させていただきます。本日はゆっくりとお休みくださいね。」
そう言うと、リルは部屋を後にして、頼まれた紙と墨を調達しに街に出て行った。
塚山とアコは部屋で寛ぎながら、今まで逸れた生徒達の事を話していた。
「あの子達は無事にしているだろうか?この街に来ているんだろうか。」
「明日にでも色々聞いて回ってみるのも良いかもしれませんね。もし辿り着いているのなら何かしら情報はあると思いますし。」
「そうだな。この近くもモンスターは出るみたいだし、我々は運良く出くわさずにここまで来れたが、あの子達が遭遇していないとは限らない。無事にいてくれれば良いんだが…。」
翌日、リルは姿を見せなかった。
他のメイド達もリルを見た者はおらず、ジェシカとギン、トウカが村の周辺を捜索に出た。
「すまないけど、昨日、リルさんに紙と墨を頼んだんだけど、リルさんはどこにいるのかな?」
「申し訳ございません。昨日の夜からリルの姿が見えないんですよ。今、ジェシカとギン、トウカが探しに出ているんですけど、まだ見つかっておりません。紙と墨でしたら私がご用意させていただきます。」
小鳥のシンクロナイザーのミナが塚山から声をかけられて、紙と墨を用意した。その時、塚山達に食事をしてもらおうと声をかけたのだが、先に自分達は食事は済ませたと言われ、ミナは、紙と墨だけを置いて部屋を後にした。塚山は、紙を受け取るや否やペンを走らせ、今まで起こった出来事や目にした物を書き綴っていった。その間、アコは塚山の作業を横でジッと眺めていた。
その夕方、村の外れで無残な姿に変貌したリルを発見し、へリスとジェシカは深刻な顔をして話し合っていた。
「どうします?ユートさんにこの事を連絡しますか?」
「いえ、今はキメラの対処で大変な時ですし、ユートさん達が帰って来てからにしましょう。それよりも、あのリルがあんなにも酷い状態になるまでやられていたという事は凶暴なモンスターがこの村近くに出現したという事の方が重要です。少し村の警戒レベルを上げて、対策を練りましょう。そういえば、お客人達はどうですか?」
「この世界の事を書き留めると言って、部屋にこもっていますよ。食事も用意したんですが、食事は自分達で済ませたと言って、どこかで食べて来た見たいですけど。」
「…そう。今、勝手に出歩くのは危険だと伝えて置いてちょうだい。もしかしたらキメラが紛れ込んでるかもしれないですし。」
「そうですね。」
「それに、あの方からこの村の警護に明日からガレッタが来てくれる様だから、ガレッタさんにこの件を話して対処してもらいましょう。」
ヘリスは窓からリルの遺体が運ばれて行くのを見送りながら悔しさのあまり唇を噛み、右手の握り拳に力が入っていた。




