~途方なる訪問者~
-----どれくらい歩いただろうか。
気が付いた時は、森の中で倒れており、それからはく宛てもなく、ただひたすらに歩き続けていた。
自分が何者なのか、自分では分かっていたつもりだった。大学で帝王学と心理学を生徒に教えており、時には警察に力を貸して事件を解決したし、時には生徒をカウンセリングして何人もの自殺願望者を思いとどまらせたか…。
しかし、そんな事は今はどうでもいい。誰か今の自分が置かれている状況を説明出来るものならしてくれ。
私はいったい何者で、ここで何をしている。どうやってここに来たのか。誰でもいいから教えてくれ。
そう思いながら、男は歩き続けていた。
歩いている最中、自分の思い出せる最後の記憶を辿っていた。それは、大学長によって一回生が集められてオリエンテーションをすると聞いて、自分も何かお手伝いができればと思い、ホールへと向かって行った。
そこには既に大学長に生徒達が集まっており、壇上で大学長が何かを離している所だった。
そこからの記憶が曖昧になっており、気が付けば森の中で倒れていた状態で、今に至る状況だった。
「…私は、いったい何者なんだ。ここはどこなんだ。大学長は…?生徒達は?いったいどうなっているんだ。」
男は歩き続けると、人の気配がした。ここ数日、誰とも出会っておらず、誰でもいいから会いたいと思い、気配のする方向へと歩いて行った。
「あ、先生っ!」「ホントだ、塚山先生だ!」
そこには、何回か講義を受けてくれていた生徒がいた。良かった、自分が大学で教鞭を持っていた事は夢ではなく、現実であった事がこれで証明された。塚山と呼ばれた男は、ホッとため息をついて、年長者として威厳を持ちながら生徒達に話しかけた。
「みんな無事かね?ここには君たちしかいないのか?他の生徒達はいないのか?」
「はい、気が付いたらこの森の中にいて…、遭難した時は無暗に動かずに救助を待つ方が賢明かと思い、動かずに待っていました。先生が来てくれて、私達安心してます。」
「生憎だが、私も遭難している身で、今すぐ君たちを助けてあげる事ができないんだ。まずは今いる生徒を集めてくれないか?」
塚山は、生徒に指示を出して、今確認できる生徒を集めさせた。男子三名、女子は六名、自分を入れれば今いる人間は十名になる。この人数をまとめて移動するとなると、管理もそうだが、食料も考えものだ。ここまで歩いてくる最中も木の実はいくつか見つけたが、動物は見かけなかった。そうなると確保できる食料も限られている。十人の人間が何日歩けばこの森を抜けられるかもわからない状況で、この状況はとても厳しい状態であるのは、誰が見ても明確だった。もって三日、いや二日が良い所だろう。そう思った塚山の頭には"口減らし"という単語が過ぎっていた。
「まずは食料の確保だ。男子は手分けして先に進んで大学がどちらにあるか道を見つけてくれ。女子は食料を探すんだ。」
切り捨てるなら男子だと思っていたのか、塚山は男子と別行動をとる事にした。今まで動物と出くわさなかったから、彼等が肉食動物に襲われる心配はないと思った。彼等が無事にこの森を抜け出せたらすぐに救助が来るとも思った。それに大学の近くの森なら危険な動物もいない。そう自分に自己暗示をかけて彼等を先に向かわせる。
「君達は木の実を取ってきてくれないか?私は食べれそうな動物を捕まえて、肉を調達する。三人は木の実の調達、残りの三人は調理係だ。いいね?」
塚山の指示に生徒達は従い、男子は先に進み、女子は木の実の調達と調理に取り掛かった。塚山もいるかどうか分からない動物を探しに再び森の奥へと向かった。
森ではいくら歩き回っても、獣の気配など一切なく、男子達への危険性は低くなるが、自分や女子達の食料が調達できないのは問題だ。さすがに肉を食べないと、いざという時に力が入らない。
それに森の中は足場が悪く、足を踏み外して坂道を転げ落ちてしまい、打ち所が悪く意識を失ってしまった。
どれくらい気を失っていただろうか。気が付くと塚山は女子達の待つ広場の近くに倒れていた。そしてその手には大きな葉っぱに包まれた肉の塊を持っていた。塚山はそれが何の肉かは分からなかったが、きっとウサギかネズミだろうと思い、肉を眺めた。とても新鮮で見れば見る程その肉が美味しそうに見えてくる。
「肉を調達してきたぞ。」
女子達は肉を見て喜び、すぐ様調理を始めた。
その晩は女子達と焚き火を囲んで食事をした。塚山が取ってきた肉は固かった為、煮込んでシチューにして全員で食べた。たしかに肉は固く、臭みもあったがそれがまた美味に感じ、三杯も平らげてしまった。
その夜、塚山は夢を見ていた。
自分が獣になって、男子生徒を襲い、そしてその男子生徒の四肢を次々と喰い千切るという夢をみた。
「た、助けてくれ!お、俺が何をしたというのだ!」
「ソンナコトハ、ドウデモイイノダ。タダオナカガヘッタ、ソレダケノコト。」
獣となった塚山は言葉を聞きつつも、ゆっくりと骨を砕き、腕を引き千切るとバリボリと音を立てて食べていた。
ガリッゴリッバキッ!
その音から男子生徒は悲鳴をあげる。その声が五月蝿いと感じ、獣となった塚山は男子生徒の喉元を喰い千切った。首から噴水の様に溢れ出す血を啜り、顔を喰らった。
血で汚れた顔を洗おうと、塚山は水辺へと向かい顔を洗う。水に映る自分の姿を見ると、そこには頭と胴は獅子で尻尾は蛇。羽は蝙蝠といった元の世界では存在しない姿だった。
ーーーー翌日、塚山達は朝から移動して森を抜けた。
森を抜けたら大学が見えるかと思ったが、どこを見渡しても大学の校舎が見当たらず、ここが元いた世界ではないのでは?と疑問を抱き始める。
「塚山先生、ここどこなんでしょうか?」
「大学の近くの森じゃなかったんだね…。」
「もしかすると、ここは元いた世界ではないかもしれないな。森の中の植物も見た事がない。少なくとも大学の近くには生えてなかったし、今までに見た事がない。森を抜けたのなら、街を探そう。」
塚山は、女子生徒達を連れて街道らしき道を歩き始める。
街に着くには何日かかっただろうか。次第に女子生徒達も途中で行方不明になってしまい、街に辿り着いた時には塚山と女子生徒が一人しか残っていなかった。
「残ったのは君だけになったね。名前は何といったかな?」
「アコですよ、先生。忘れないでくださいよ。」
「すまない。あれからどのくらい経ったのかな?」
「今日で八日目になりますね。」
二人は街道を歩き、飛び出ていた石にアコが腰掛ける。塚山も一息付きながら、アコを眺めていた。彼女だけでも無事に帰してあげたいと思いながら、頭から脚へと視線を下ろしていった。すると、腰掛けていた石に何かの文字が刻まれていた。
”この先の村でお前達を待つ!雅史様と祐斗”
その文字を見た塚山はその先の景色を見た。そこには要塞といってもおかしくない規模の街がそびえ立っていた。




