特別編~Hollow Evening~
夕方になる頃には、啓太達はコラスの街に到着し、館の前に立っていた。ここで、出資者である人物と合流する事になっている。
館に着くと、ペアになって館へと入っていく。
数十分ほど待つと、貴族の女性が二人歩いてきて、祐斗とヘリスの顔を見るや、歩み寄って来た。
「ごきげんよう、ユート。そして、ヘリス。そしてこの方達が十王神の方々にメイね。」
「そうです。啓太にメイ、雅史に昌宗、そして憲明です。」
貴族の女性はクスッと笑みを零し、ドレスの裾をつかんで会釈をする。
「私はイコルマ法国を統治しているイコルマ王の第一皇女、ダイアイリーザです。ここでは身分の方を隠させていただいているので、気楽にイリーザと呼んでくださいね。」
「おい、イコルマ法国って、レクエム村も領地の大国じゃないか!その姫とか、いったいどうなってるんだよ!」
「まぁその点に関しては、また今度話すよ。とにかく、彼女が出資者でギルド、ナイト・オブ・アーチの後ろ盾になってくれてて、色々と情報を流したり、手配してくれてるんだ。」
そしてイリーザの後ろには、イリーザに勝るとも劣らない程の美貌を持った女性が純白のドレスを身にまとって立っていた。
「そして彼女はガレッタ。彼女は私の騎士でとても優秀なのよ。」
「姫様、私はこの様な服装は似合いませんので、いつもの騎士甲冑で良いと申したではないですか。」
「ダメよ。ガレッタはこんなにも綺麗なんだから、こういう場くらいはちゃんとドレスコードをしなさい。あなただって立派な貴族なんだから。」
「ガレッタはあれでも、イコルマ法国でも指折りの強者で、彼女には直轄のドワーフの騎士が七人もいるんだ。ガレッタの実力もかなりの物だが、七人の騎士達もかなりの強者なんだ。」
祐斗は啓太達に聞こえるくらいの小声でガレッタの事を話す。たしかに見た目こそどこかの姫君の様な姿ではあるが、そこから強者だけが放つ風格というかオーラの様なものは、幾度となく戦場を駆け抜けた英雄の様な気迫が見受けられる。
「それで?黒覇王の将吾はどこかしら?私は彼の姿を楽しみにして来たんだけれど。」
「将吾は準備に手間取って、後から合流する事になってます。あいつに渡した薬瓶はいったい何だったのですか?」
「ふふっ、それは来てからのお楽しみよ。」
イリーザは楽しげに笑みを零して、祐斗にそう告げる。彼女の事だから、何か良からぬ薬だったのだろうと祐斗も認識していた。
「さぁ、舞踏会は始まってるので中に入りましょ。ノリアキは一人じゃ寂しいと思うからガレッタと中に入りなさい。」
ガレッタはイリーザの命令とあって、渋々憲明の隣に寄り添った。
「いやぁ、こんな別嬪さんが俺のパートナーを務めてくれるとは、嬉しいねぇ。」
「調子に乗るな。姫様の命令でなければ、この様な事…。」
「まぁ少しの間、よろしく頼むわ。」
それぞれが別の入り口へと移動し、各自ペアになって屋敷内にある大広間に入場していく。
そこには、各地の上流階級であろう人間が大勢賑わっており、オードブルとして並んでいる食事を食べる者や、ワインを片手に人と会話を楽しむ者。真ん中の舞台に立ってダンスを楽しんでいる者と様々であった。
啓太とメイは、舞台に上がって、対象の人物がどこにいるかを見渡しながら探した。
「ねぇ、ケイタ。舞台に上がってただ立って辺りを見渡すだけだと怪しまれちゃうと思うの。だから、踊りましょ?」
「え?僕ダンスなんてやった事ないからわからないよ。」
「大丈夫。私が教えてあげる。」
メイは啓太に微笑みながら、ダンスをレクチャーしつつ、二人でダンスを楽しむ。
雅史と昌宗は、オードブルが並んでいる所に向かい、対象の人物を探す。しかし、雅史は並んでいる料理を次から次へと持っている皿に取っていき、大量に運んで来たらそれを美味しそうに食べていく。
「おい、雅史。俺達は食事をしに来たんじゃないぞ。」
「腹が減っては戦はできぬってやつだよ。食える時に食う。それが大事なんだ。」
皿に取って運んでくるのが面倒になりだし、雅史はオードブルの机ごと運んで自分の席で食事をしていった。
憲明とガレッタは、会場から外に出て、廊下を散策しながら対象の人物を探す。
「さっき祐斗から聞いたんだけど、あんた、結構の強者らしいな。それに専属の騎士が七人もいるとか。今夜は七人の騎士たちは今日はお休みかい?」
「この館の周辺に潜伏させて、私に何かあれば急いで駆け付けられる様にしています。七人の誰もが優秀であり、中々の手練れですから、きっとあなた達、十王神よりも優秀に事を進められると思いますよ。」
「そりゃ大そう優秀な騎士さん達なことで。俺達も負けない様に日々努力しまーす。」
憲明はへへへと笑いながら会話を終わらせる。しかし、対象の人物とはいったいどんな人間なのだろうか。一応写真レベルの似顔絵を見てはいたが、その人物がどんな人物かまでは実際に会ってみない事にはわからないでいた。実際に目の当たりにした時の風貌やオーラ。そればっかりは直接会ってみない事には、得られない情報であった。
祐斗は、ヘリスとイリーザと三人で会場を歩きながら対象の人物を探す。まだそれといって対象の人物がこの会場にいるかどうかさえ分からない。でも、大きな組織となると、裏でどう繋がっているのか分かったものではない。それでも見つけたら警戒態勢をとる為、いつにもなく緊張感が祐斗の周りの空気を張り詰める。三人は必死に目を凝らしつつ、対象の人物を探した。
「イリーザ様、疑問があります。今回の対象の人物、ホントにこの舞踏会に出てきますかね?」
「もちろん。確定情報らしいわ。ただ、いつ頃来るかまではわからなかったけど、確実にこの会場に来るから。」
イリーザは、自信満々に微笑みながら祐斗とヘリスにそう告げる。対象の人物は必ずこの館に現れると。
会場の隅にあるバーカウンターの隣が人集りになっている。そこには黒いドレスを身にまとった女性を中心に男達が囲む様な形で黒いドレスの女性は数人と会話しながら立っていた。
「ご婦人、どちらから来られたのですか?よろしければ私とダンスを。」
「いえ、この私と!」
「私、ダンスは苦手なの。他の人をあたってもらえるかしら?」
「では、ここから抜け出して二人で朝まで語り明かしませんか?」
「…そ、そんな、私は嫁入り前の身ですので、殿方と夜を明かすなんて…。」
「もっと楽しんだ方がいいですよ。よろしければ私が男性との付き合い方というのを教えて差し上げますよ。」
黒いドレスの女性は赤面をしつつ、「私にはまだ早いので次の機会にしてください!」と言い残して、その場を走り去って行く。その姿を横で見ていた憲明は、そんな生娘もいるんだなと思いながら女性を視線で追い掛けていた。
「何ですか?ああいった女性が殿方は好みなのですか?」
「いや、あんな生娘もいるんだなぁって思ってさ。最初、この世界に来た時は、変なのばっかりだったからさ。ようやくマトモな奴を見たなって思ってね。」
「…という事は、姫様もマトモではないと?」
「さぁ、俺は今日が初対面だったからわからないけど、祐斗が怯えてたからな。それに未だに来れてない将吾なんて、見ず知らずの奴から薬を盛られるという状態。それを考えると、あの姫さんは相当凄いっては思うけどね。」
「それは姫様への侮辱ですか?そうであれば、ここであなたを切り捨てますが?」
「おぉ怖い怖い!」
憲明は、ガレッタから離れ、ベランダへと出て行く。ベランダからは涼しげな風が流れており、息詰まる館内の空気とは断然違う心地よい風だった。
会場の方では、啓太とメイがダンスを終えて、少し外の空気を吸っている所だった。
「ケイタ、ダンス上手じゃない。」
「メイの教え方が上手いからだよ。」
「これが任務じゃなくて、普通に参加してたらとても楽しい夜になってたよね。」
啓太は、メイの言葉に「もちろんだよ。」と答える。外の風がスーッと入ってきて、二人の火照った身体を冷やす。メイの結った後ろ髪がなびき、その姿に啓太の心はときめきを感じていた。
「でも、メイはダンスが上手いね。どこかで習っていたの?」
「小さい時に少しね。それに私よりも兄がとても上手なの。」
「喉が渇いてきちゃった。私、何か飲み物を取ってくるから、ケイタはここで待ってて。」
メイはそう言うと、啓太をおいて、一人で中へ戻る。啓太は言われた通りに外の眺めを見つつ、外の空気を吸っていた。
メイは飲み物をもらおうとバーカウンターへ向かう。その時、廊下の方で知り合いでも見つけたのか、急いで廊下に向かった。たしかここにいたはずと思い周囲を見渡すと、ちょうど奥の角を曲がる所が見えた。メイは急いで後を追い、角まで走って向かうが、角の先には誰もおらず、悲しげな表情をしていた。
「メイ、生きていたのか。」
「兄さん!」
急に背後から話し掛けられ、メイは後ろを振り向く。するとそこには一人の青年が立っており、メイは安堵の表情に変わり、青年を兄と呼んだ。
「まだ逃げるのか?我の元にいれば安全なんだぞ。元の暮らしとは言えないが、それでも命の保証はある。」
「それよりも、兄さんはどうして他国に侵攻してるの?何が目的なの?」
「今説明しても、お前には分からないさ。」
「話してくれなきゃ、分かるものも分からないよ!」
「その時が来れば話す。だからお前は我の元へ戻って来い。」
「それは嫌よ。私にはもう大切な仲間がいるもの。一緒にいて楽しいと思える仲間が。」
「なら好きにしろ。メイ、お前のいう仲間はいずれ我と対峙する事になるその時、お前は彼等を裏切らなければならないんだぞ。」
「そうなるとしても、まだ私はケイタ達と一緒にいたいの。」
青年は、メイの言葉を聞いた後、その奥の部屋へと入って行った。メイは青年の後を追わず、ただその場に立ち尽くし、メイの目から一粒の涙が零れていた。
「メイ、どうかしたの?」
「ケイタ…。ううん、何でもないわ。それよりも飲み物よね?」
後ろにいたのは啓太だった。メイは急いで涙を拭い。笑顔を作ってから啓太の顔を見る。そして啓太の手をつかんで、バーカウンターへと向かう。まだ二人共未成年であった為、果実のドリンクを注文し、カウンターで飲んでいた。
「それにしても、調査対象の人物は現れないね。ホントに来るのかな?」
「…たぶん、もう来ないと思うわ。」
「え?」
「あ、な、なんとなくそう思うの。女の勘ってやつかしら。」
メイは何かを誤魔化すかの様に、明後日の方向を向いて苦笑いをする。啓太はやはり何かあるなとは思っていたが、ここで無理に聞くのも彼女を苦しめてしまう事になる思い、グッと我慢して、メイが自分で話してくれる時まで待とうと思った。
「ねぇ、ケイタ。ハロウィンの事、もっと教えて。」
「え?うん、ハロウィンはお化けやモンスターに仮装してって前に言ったと思うけど、ここ最近じゃコスプレといって、色んなアニメ・・・物語の人物に仮装したりするのも多くなってきてるかな。今までは結構小さい子供が仮装してお菓子をもらう為に色んな家を回る事が主流だったんだけど、今では大人も仮装して楽しむって事が流行ってるみたい。」
「そして、お菓子をもらえないと、その人に悪戯しても良いのよね?」
「まぁ大人たちは子供がお菓子を貰いにやって来るってわかってるから、事前にお菓子を用意してるって感じかな。大人たちはお菓子は関係なく、仮装を楽しんでいるだけだけどね。」
「じゃあケイタは今、お菓子なんて持ってないわよね?」
「さすがに持ってないな。」
「じゃあ、ケイタには悪戯しても大丈夫って事よね?」
「そ、そうなるね…。」
「どんな悪戯されたい?」
「え…そ、それは…どういう…?」
啓太は、ゴクリと口内にたまった唾を飲む。メイは啓太の耳元でそっと囁きながら、そして上目遣いからの質問。どんな男でもメイに上目遣いで質問されたら、動揺して何でも答えちゃうという気持ちになってしまう。
メイは、少しずつ啓太の顔に自分の顔を近づけていく。目の前まで来ると、誰だって動揺したり緊張したりするのは必然であった。
しかし、その続きを遮るかの様に、イリーザが啓太とメイの間に割り込んだ。
「二人共、今回は特定の人物の確認後、私に報告してちょうだい。今回は遊びで来ている状態ですから、イチャイチャするのは、また日を改めて行ってもらうかしら?」
「「すみません…。」」
啓太とメイは赤面して、少し距離を開けた。
その間にイリーザが割り込む様に座り、啓太の方に顔を向けた。
「あなたが終焉王の力を持っている啓太よね?どう?その力。」
「どうっていうのは?」
「その力、使いこなせてる?」
「そ、それは…まだ上手く使いこなせてるとは言えないですね。終焉魔法のカウントダウン・オブ・エンドは凄く強大な魔法ですけど、強い分範囲も大きいので、個を狙うには難しい所がありますね。敵陣に僕一人が特攻して使えれば良いんですけど、発動までにもタイムラグがありますし、発動前に僕が倒れてしまうので。」
「その為に黒覇王のショウゴや機龍王のマサシ達がいるじゃない?彼等に盾になってもらえば簡単じゃない?」
イリーザは怪しげな笑みを浮かべながら啓太に質問する。
「それじゃあダメなんですよ。僕は皆を守りたい。終焉の力は皆を守る為の力ですから、それじゃ意味ないんですよ。」
「そうね。かつての終焉王達もそうであった様にその力は守る為の力だから上手く使いこなしてみなさい。伝説にも終焉王は仲間の王を敵の攻撃から皆を守って戦っていたと書いてあったわ。そして終焉王の力を長年守ってきた一族も誰かを守れる優しい人に力を授ける為に長年旅をしていたもの。」
「え?という事はあの青いローブを羽織った人って…。」
「そうよ、彼は終焉王の力を守ってきた一族。そして、私の部下でもあったの。彼、ちゃんと使命を果たしたのね。」
イリーザは啓太を助けて死んでいった男と面識があり、そしてただの部下と違う感情があったかの様に啓太の姿に青いローブの男を重ねて見ているかの様に啓太を見つめていた。
「彼の事、好きだったのよ。彼も私の事を愛してくれてた。でも、彼には終焉王の力を託す使命があったの。次の旅が終わったら結婚しようとしていたの。でも、彼は私の所に帰って来なかった。そんな中、ユートから終焉王の力を宿したあなたの事を聞いて、彼は役目を果たしてこの世を去っていった事を知ったの。だから、一度あなたと話してみたかったの。でも、いらぬ心配だったみたいね。あなたはちゃんと誰かを守りたいと願い、そしてこのメイの事を守り続けてる。だからその気持ちを大切にしなさい。彼が託した力、間違った方向に使わないでちょうだいね。」
啓太はイリーザの言葉に「もちろんです。」と応え、その言葉にイリーザは安堵の表情を見せた。彼女はそれから青いローブの男については語らず、メイの方へと視線を向けた。
「メイ、あなたもあなたが忌むべき者として人々から追われる身になった意味、ちゃんと分かっているわよね?」
「…そのつもりです。」
「それは皆には言わないの?」
「…まだその時じゃないと思うの。」
メイは深刻そうな表情に変わり、イリーザの問いに応えていった。その後の内容は、啓太は聞くなとイリーザに言われて席から離れたので分からなかったが、メイにも何か使命があるんだなとは感じていた。




