~Sleeping Snow(最終頁)~
晋司がマンティコアに喰い殺され、床には大量の血と、残った肉片が転がっており、マンティコアは啓太に目もくれずに晋司の残骸に喰らい付く。
啓太はその隙に磔にされているメイの鎖から解放し、メイを起こそうと身体を揺さぶる。しかし、一向に目覚める気配が見られない。
晋司の残骸を喰らい尽くし、啓太とメイに視線を移す。晋司だけでは物足りず、マンティコアはニヤリと牙を見せながら笑みを浮かべる。口元からは晋司の血液が今も尚ダラダラと零れ落ちている。
啓太はメイを抱き抱え、この場から逃げようとしたが、ここは塔の最上階。逃げる場所などどこにも無く、飛び降りるにしてもこの高さから飛び降りれば落下の衝撃で、まず命は無いだろう。終焉砲もさっきの一発から異常発熱しており、連射する事が出来ない。さすがに万事休すな状態だ。
「まだ食後のデザートが残ってたわね。」
「これまでか…っ!」
ドゴォォォォォンッ!
やられると思った瞬間、上空から何かが啓太とマンティコアの間に割り込む様に落下してきた。辺りは落下によって巻き上げられた煙によって視界が塞がれるが、煙が晴れるよりも早く、落下地点より火柱がマンティコアに向かって伸び、マンティコアの身体を焼く。さらに追い打ちをかける様に、何かが飛び出し、マンティコアに打撃による一撃を浴びせる。
「間に合った様だな。」
「せっかくの煙だから粉塵爆発でもしてやろうかと思ったけど、啓太達も巻き込んじまうと後が怖いからな。」
「雅史!憲明!」
煙が晴れ、ようやく視界がクリアになり始め、落下地点の中心部に二人の人影が見え始める。そこには雅史と憲明が立っており、マンティコアとの戦闘態勢をとっている。
「塔の上のお姫様は取り戻せたみたいだな。」
「でも、まだ目を覚まさないんだ。」
「お姫様の眠りはいつだって、どの物語でもお決まりの事があるだろ?」
「これは物語じゃないんだ!そんな不確定な条件無理だろ!」
「ここには剣も魔法も十王神だってある世界だ!やってみる価値はあるんじゃないか?マンティコアの事は俺と雅史に任せて、メイを起こしてやれ!」
憲明は啓太に向かって親指を立てて合図をすると、マンティコアに向かって、再び火柱を放つ。
「お前、まさかマサシ…。」
「ん?俺の事知ってるのか?俺も有名になってきたな。」
「こんな身体にしてくれた屈辱…、今晴らしてやろう!」
マンティコアは雅史に向かって爪と牙を立てて飛び掛る。雅史は牙を両手で受け止め、爪の一撃は両翼で前足首を抑え込む。
「お前、あの時のマンティコアか!まだ生きてたとは…。」
「って事は俺が逃がしちまった、あのマンティコアって事か!」
「あの時は感謝するわ。お陰で一度はサンクチュアリ帝国から逃げる事が出来たもの。」
「あれ?てっきり怒られると思ったんだけどな。お前達の巣を焼いちまったし。」
「それはある男の手によって書き換えられた誤情報よ。と言っても、私もあの男の正体は知らないけど。どちらにせよ、あなた達二人には私のお腹を満たすディナーとして骨も残さずに食べてあげるわ!」
マンティコアは、雅史と憲明に急接近して牙で二人を襲う。
憲明は、後ろに飛びながら連続して火球をマンティコアに投げ付ける。雅史も横にかわしながらも、拳の一撃をマンティコアに与える。しかし、前回、雅史が戦った時よりも硬くあまり手応えはなかった。
啓太はその間にもメイを目の前にして、行動に戸惑っている。
「メイ、ごめんね。僕がもっと早く思いを伝えていれば、あの時晋司がメイを連れ去ろうとした時にちゃんと守ってあげられたと思うんだ。今度からは君を放さない。僕は君の傍にいるよ。大好きだ、メイ…。」
啓太は、そっとメイの唇に自分の唇を重ねた。
数秒、時が止まったかの様に、啓太は感じた。少しして唇を離すと、メイはゆっくりと目を開いた。その姿を見て、啓太は目から大量の涙を流した。
「私も大好きよ。ケイタ。だからずっと傍にいて…。」
メイは優しく啓太に抱擁し、啓太の涙で胸元が濡れていく。数時間離れ離れの状態であるが、二人は長年離れ離れになっていた男女の様にお互いの身体を確かめ合う様に抱き締め、再会を喜ぶ。その間にも雅史と憲明はマンティコアと交戦しており、戦闘は苦戦を強いられていた。マンティコアの新たな皮膚となっている鋼の装甲は、雅史の拳と憲明の炎を受けても急速に自己再生をし、すぐに体力満タンの状態で雅史と憲明に襲い掛かる。雅史と憲明は次第に体力が消耗し、持久戦に持ち込まれれば確実にやられてしまうとまで二人は感じていた。それでも、啓太とメイの所にはマンティコアを向かわせず、攻撃を繰り返していた。
憲明が啓太の方を確認する。すると、メイが目覚めており、抱き合っている二人が目に入る。
「啓太っ!お楽しみの所、悪いんだけど、メイが目覚めたなら加勢してくれないか?俺と雅史だけじゃ厳しいんだ。」
憲明は、啓太にそう言いながら炎でマンティコアを攻撃する。しかし、何度やっても結果は同じく、マンティコアの装甲ともいえる皮膚は急速に自己再生をして、見る見るうちに回復する。
「ええい!何度も同じ攻撃ばかりして、目障りですよ!」
マンティコアは、前足で雅史と憲明を薙ぎ払い、塔から二人を落とした。残っているのは啓太とメイだけになり、マンティコアは翼を使って上空へと飛び上がる。啓太は、盾を構え、メイを自分の後ろへと隠す様にマンティコアに盾を向けた。さっき、晋司に向けて放った終焉砲をもう一度放とうと、右手に盾を持ち、力を込める。しかし、盾は砲塔に変わらずに盾の形を維持したままになっている。先程の終焉砲なら、マンティコアだけを狙って効果を発動できる為、周りに被害を出す事はない。しかし、さっきは無我夢中で行った為、上手く発動をさせる事が出来ない。啓太は、マンティコアの攻撃を盾で受け止め、その力を受け流す様に攻撃による反動を殺した。
「先程のあの砲撃なら私を一撃で葬る事が出来たのに、まだ自分の物に出来てないのね。ならここで二人共、私の栄養になってちょうだい!」
マンティコアは再び二人に向かって突進を仕掛ける。啓太は意を決し、地面に向かって二枚のカードを投げた。カードは地面に着くと光となって砕け散り、そこから深淵の穴が開き、鎖がマンティコアを捕縛する。マンティコアは鎖を引きちぎろうと踠くが、鎖は少しずつマンティコアの四肢を締め付けていき、数秒もしない内に身動きが取れなくなっていた。
「な、これを解け!」
「行こう、メイ。ここでの僕達の戦いは終わったよ。」
「私を縛り上げるだけで終わったなんて思わない事ね!こんな鎖、すぐにでも引きちぎってあなた達を喰ってあげるわ!」
啓太はメイを抱きかかえると、再びカードを一枚自分の頭上に投げる。カードは光となって砕け散り、啓太の背中にパラシュートが出現した。啓太は、そのまま壁に開いた穴から飛び降りて、空中でパラシュートを展開する。落下速度は激減し、ゆっくりと将吾達の所へ降りていく。
マンティコアは必死に鎖を食い千切ろうとするが、どうやっても鎖が外れる事はない・必死にもがき続けている間にも、啓太達はラプソの街を出ていく。
「逃がしてしまった…。でも、まだこの街には他のキメラ達もいる。それにまだ街の人間の死骸も大量に残っている。これだけあれば、今あの子達を取り逃がした所で大きな痛手にはならないし、今はこの鎖を解く事に専念しなくては。」
マンティコアは、再び鎖を引き千切ろうとするが、それでも鎖はびくともしない。仕方なく、マンティコアは自分の四肢を食い千切り、鎖から脱出するが、その時には既に啓太達はラプソの街の外に出ており、啓太が何かを唱えている。
「時間だ。この街全てを終わらせる。カウント・オブ・エンド!」
雲に隠れていた魔法陣が雲を吹き飛ばし、姿を現す。魔法陣はゆっくりと降下していき、少しずつ街の景観を消滅させていく。マンティコアやキメラも消滅していく光景を目の当たりにして、一目散に街の外へと走り出す。しかし、街の壁には魔法で結界が張り巡らされており、逃げ出す事はできなかった。塔の屋上を消滅させてからは、魔法陣は一気に急降下していく、街を一呑みにして、生きとし生ける物はもちろん、建物等も消滅させ、ラプソの街は跡形もなく文字通り消滅した。ラプソの街があった場所は、何も残っておらず、強いて言うなれば、砂と灰だけが残っており、その光景は、ここに街があったとは到底考えつかない何もない空間へと変貌している。
それを目の前で見ていた将吾達は、驚きのあまり声を失っていた。
「これが、終焉王の力。啓太の出せる最大パワーの終焉魔法か。」
「やっぱり敵に回したくないな。」
「僕も、まさかここまでの威力があるなんて思わなかったよ。念の為にみんなには街の外に出てもらってたけど、まさか街一つ消す威力があるなんて。もっと特定の位置のみを狙って消滅させる感じだと思ってたのに。」
「ケイタ、確か街に入る前に一周してたのって、この魔法をかけてたのね。」
「うん。もしもの為に脅しのつもりでかけてたんだけど、まさか使う事になるし、実際に使っちゃったんだよね。」
「今回は、俺の拳も憲明の炎も効かないレベルだったんだ。これが最善の方法だと思うよ。」
「まぁ過ぎた事は仕方ない。レクエム村に帰ろうじゃないか!」
祐斗の一言に、全員は足を動かしてレクエム村に出発したのだった




