~Sleeping Snow(第七項)~
そこには、壁に鎖で磔になっているメイの前に晋司が待ち構えていた。その右手には小さなナイフを持ち、左手にはキメラを操る魔具を抱えていた。
「この魔具は最高だよ!キメラしかまだ操れないが、俺の力が覚醒すれば女性を好き勝手に操れる様になるんだからなぁ!お陰で自分で自分を慰めずに暮らせているよ!この世界は最高だよ!だから主人公気取りのお前がいるのは間違ってるし、お前の場所には俺がいなくちゃ物語が始まらないんだよ!だからここで死ねよ!」
「たしかに僕がいるのは間違っているのかもしれない。でも、僕は助けを求める人、…いや、メイを助けたい!メイの側にいたいんだ!キメラが人々を脅かし、その根元が晋司、君なら僕は君を倒す。この終焉王の力で!」
「それも元々は俺が継承する力だったのに、お前が横取りするから!」
晋司は持っていたナイフで啓太に斬り掛かる。啓太は盾でナイフの斬撃を弾きながら、晋司に蹴りの一撃を与える。怯んだ所に右手の拳の一撃を浴びせ、床に這い蹲らせる。
晋司は怖気付きながらも、ナイフを拾い、盾を潜り抜けて啓太の左腹部にブスリとナイフを刺し込んだ。その痛みに啓太は倒れ込み、追い撃ちに啓太の頭を何度も踏み付ける。
「はっ!啓太が俺に勝とうなんて事が出来ると思ってたのか!お前みたいな奴に俺が負けるとでも思ってたのか!」
「…それでも、僕は負けられない。」
啓太はナイフが刺さったままの状態で晋司の胸倉を掴み、背負い投げの原理で投げ飛ばす。そしてカードを取り出し、晋司に向かって投げる。
「何してるんだ、マティ!コイツを殺せ!」
カードが晋司の所へ届く前に、隣のフロアからマンティコアが壁を突き破り、カードを斬り裂き無力化した。マンティコアの身体は全身が機械仕掛けの様に金属で覆われており、とても生物というよりはロボットという方に近い容姿だった。
「あなたはあのマサシという人間ではないのね。」
「雅史?」
「私はかつてマサシという男に敗れ、この身を破壊された身。だから身体がマサシという男を殺せと疼いているのよ。そして、その疼きが教えてくれる。マサシはこの近くにいる。でも、あなたもあのマサシという男の仲間みたいだし、あなたからまず倒させてもらうわね。」
「じゃあ、お前はレクエム村を襲ったというマンティコアなのか!」
「そう。私はかつてサンクチュアリ帝国が作り上げた合成生物。そして戦場に駆り出される前に運んでいた荷馬車が焼かれて逃げ出した時に、食事をしに村に行ったのだけれど、そこでマサシとユートという二人の人間によって倒された身。妹のティコアは私の糧になり、今は一心同体の状態。それでも身体は回復しなかった所を再びサンクチュアリ帝国に拾われてこの機械の身体を手に入れた。それからはマサシとユートに復讐したくて堪らなかった所にシンジ様が来てくれて、私を自由にしてくれた。だからシンジ様の敵は私がこの牙で喰い殺すの。」
マンティコアは、啓太に飛び掛かる。啓太は必死に盾で防ぐが、左腹部にナイフが刺さっては
踏ん張る力もいつもより出ない。そう考えている間にもナイフが刺さった左腹部から血液が流れ落ちていく。視界も次第に白く染まりつつあり、意識が飛びそうだ。
このままこんな所で負けてはいけない。メイも救えていないし、元のいた世界に帰る事も出来ていない。帰りたいかと問われれば、少し戸惑いを感じてしまうが、それでも、この世界に来た理由、この世界で成し遂げなければならない事、晋司が本当に終焉王の継承者だったとしても、終焉王の継承者がこの世界でやらなければいけない使命とは何なのか、それもわからない状態で、こんな所で殺されてなるものかと必死に自分に言い聞かせるが、それに反抗して自分の身体から意識だけが分離する様な感覚が強くなっていく。
半分諦めかけていたその時だった。
『ーーーー本当にそれでいいの?』
それは直接啓太の頭に語りかける様な声だった。それは終焉王になった時と同じ感覚で、その時と同じ声だった。
『ここで諦めてしまうの?まだ大切な人を守れてないのに?』
「今の僕にはまだ力が足りないんだ。」
『でも、貴方はこの街に入る前に自分の魔法を上空に発動させてたじゃない。守るだけの力は既にあるはずよ。それでも諦めるの?』
「あの力は全てを終わらせてしまう。今、あれを発動させてしまってはここにいる全ての人達が巻き添えになってしまう。メイも、みんなも…。」
『なら、終わらせる力を個に凝縮した力が欲しいの?』
「それなら敵だけを倒せる…。」
『じゃあ最後に聞くけど、その“敵”って何?あなたに異議を唱える者?それとも…。』
「メイを、人を脅かす存在が僕にとって“敵”と認識する存在だ。」
声の主は少し考え、そして一つの答えを出した。
『少し私の思い描く想いと違うけれど、この力の使い方をこれからも見させてもらいます。もし間違った使い方をすれば、その力は貴方自身を終わらせに掛かるでしょう。』
すると、啓太の身体が急に軽くなり、そして胸の奥から急に力が込み上げてくるのを感じた。
啓太は、右手を盾に翳し、胸の奥から込み上げる力を右手から盾に送り込む。すると、盾は巨大な砲塔に姿を変え、その外装は暗い青色になって、砲口をマンティコアに向けた。
「終焉砲、エンド・オブ・バースト!」
ほぼゼロ距離からの一撃であったが、その砲撃は間一髪の所でマンティコアの身体には当たらず、その先にある晋司の持つ魔具に当たった。
魔具は一瞬にして光の中に溶け消え、持っていた晋司の左腕も一緒に消滅させた。
「な、何をしたんだ!おい!…痛みも感じない。俺の左腕をどこに消した!」
「晋司、君の左腕ごと終わらせた。力は凝縮してあるから、これ以上君を終わらせる事はないけど、これで君の悪行も終わりだ。」
「そんな事あってたまるかよ!おいマティ!啓太を、アイツを早く喰い殺せ!」
「…何でお前の言う事を聞かねばならん?」
「え?」
それは意外な回答だった。魔具が消え、晋司がキメラ達を使役していた力がなくなり、マンティコアもその呪縛から解き放たれ、晋司の命令に背いたのだ。
「よくも散々私の身体を弄んでくれたな。既にこの身体には貴様の子種が宿り、時期に産まれるだろう。知っているか?獣の雄は雌に子供の養分として喰われる事を。」
「や、やめろ…。俺はまだ死にたくない…!まだやりたい事たくさんあるんだ!マティ、お前の事、大切にしてただろ!」
「毎晩飽きもせずに私を抱いた事がか?毎度反吐が出る様な屈辱だったぞ。しかし、私も子孫は残したい。それにあの魔具があっては手も出せんかったから、この時をどれだけ待ち侘びたか。なので、しっかりと堪能させてもらうぞ。毎晩私を性的に食べてた様に、私はこの一晩でお前を食べてやる。」
そう言うと、マンティコアは晋司を押し倒し、まずは右脚を喰い千切る。
グシャァアア!ボキッ!ボリッ!ボリッ!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇぇぇぇぇっ!」
晋司の右脚の付け根から大量の血が噴出し、その痛みに耐え切れず、晋司は悲鳴をあげ、踠き苦しむ。
その光景を楽しみつつ、今度は左脚に噛み付き、引き千切る。
ガリッ!ボリッ!ボリッ!ボキッ!
「あ"ぁぁぁぁぁぁぁっ!や、やめてくれぇぇぇっ!」
「やめて欲しいの?私が嫌だと言っても貴方は続けたのに?そうね!嫌も嫌も好きの内、快楽だから続けるって教えてくれたものね!シンジ様ぁぁっ!」
マンティコアは口を大きく開き、晋司の下腹部から少しずつ喉の奥へと運んでいく。晋司は残った右腕を使い、必死に抜け出そうとしながらも必死に口の外へと手を伸ばした。
「啓太っ!助けてくれっ!俺が悪かった!何でもする!だから助けてくれっ!」
晋司の姿を見て、もしマンティコアから助けられたとしても、その後には遅かれ早かれ助からない命だと思った。両脚を食い千切られ、大量の出血。既にショック死していても可笑しくない状態で、この先生きられるとは思えなかった。
「さよなら、シンジ様っ!」
バリッ!ボリッ!ガリッ!ゴリッ!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」
マンティコアは懇親の勢いで牙を振り下ろす。惨い骨が砕ける音と共に、晋司の悲鳴が部屋一面に谺響する。晋司の顔面から後ろが牙によって押し潰され、残されたのは右手首と顔の一部。
辺りには晋司の身体から溢れ出た大量の血液で赤黒く染まっていた。




