~Sleeping Snow(第六項)~
啓太と昌宗が乗った火の玉は塔に直撃し、少し焦げながらも塔への侵入に成功した。辺りには火の玉に押し潰されたキメラや、衝突のショックで気絶しているキメラが辺りに転がっている。
啓太と昌宗は火の玉から降り、一気に上の階に向かい、下からは、将吾、雅史、祐斗、憲明は地上階から攻め込む。上手くキメラの群れを上層階と下層階に分断する事ができ、地上に残った将吾達は、下層階のキメラとの光線を始める。啓太と昌宗も上の階を目指し、キメラを倒して進む。
「フェザーウィンド武槍術!帝槍っ!」
昌宗は次々と立ち塞がるキメラを薙ぎ払い、少しずつだが前に進んでいく。少しでも啓太が万全の体制で晋司と戦える様、一人でキメラの群れを相手にする。
「昌宗、僕も戦える!全部相手にしなくても大丈夫だ!」
「啓太、お前は出来る限り体力を温存しておいてくれ!」
昌宗は一度決めるとそのまま一人で対応する癖がある。啓太もその事は分かっていたが、度重なる戦闘で昌宗の体力も限界に近付いている事に啓太も勘づいていた。
それから何階まで登っただろうか。広い部屋に出た二人は、辺りを見渡した。まだ最上階には遠く、上の階へ続く階段を探す。すると、一体のキメラが啓太達の前に立ち塞がり、その背後に上へと続く階段が見える。
「なぁ啓太。後ろに上に登れる階段あるよな?」
「どうする?あれを倒さないと進めない感じだけど。」
「俺がアイツの相手をする。啓太は先に進みな。」
「でも、昌宗!ここまで来るのにかなり体力を消耗しているし、ここは僕も戦うよ!」
「いや、お前はこのまま進め。晋司からメイをとりかえせるのは啓太しかいないだろ。ここは俺に任せて進むんだ。」
昌宗は槍を構え、キメラに向かって行く。キメラも昌宗にターゲットを絞り、爪を立たせて威嚇する。
啓太はカードを昌宗に向かって投げ、昌宗の背中に突き刺さり、カードは光となって砕け散るが、昌宗の身体に何の変化も見られない。しかし、昌宗は急に疲労感がなくなり、高速でキメラに一撃を与えた。
「昌宗、気休め程度だけど、体力を回復させておいた。そいつを倒したら後からちゃんとおいかけて来いよ!」
「ありがとう!これで早目に追い掛けられるよ!じゃあ面白い物見せてやるよ。」
昌宗は懐から緑色に輝く小さな種を取り出す。それを槍に差し込み、槍を緑色の龍の顔をした大きな砲塔へと姿を変貌させた。
「何だよその力!」
「砲撃!満を持してな!これが俺の新しい力さ!…必殺!楼槍牙龍!」
そう言い放ち、砲塔を振り回すと、砲塔から緑色の光弾が放出され、キメラに強力ないちげきを浴びせる。
「さぁ、今の内に階段を登って行け!」
昌宗の合図で、啓太は階段へと走って行く。砲塔は元の槍の姿に戻り、啓太の姿が見えなくなったのを確認すると、肩で息をし始めた。
「やっぱこの技は体力の消耗が激しいな。できれば週一、いや日に一回のペースじゃなきゃ俺の体力がもたない…。だからさ…。」
「グルルゥゥゥ…。」
昌宗は槍を持ち直し、ギュッと強く握る。
「一気に倒させてもらおう!」
昌宗は槍を振り回し、キメラに突進していく。キメラも先程の砲撃で下半身を吹き飛ばされ、後ろ足を引きづりながらも、昌宗の攻撃を爪で弾き返し、牙で応戦する。
その頃、地上界では、将吾と雅史を前衛として、祐斗と憲明が支援射撃でキメラと応戦している。
「啓太達、上に進めてるかな?」
「苦戦はするだろうが、戦力は二分したはずだ。昌宗が特攻して先に進んでるだろうさ。雅史はここが落ち着きだしたら外側から飛んで啓太達の支援に回ってくれ!将吾は中から行けるか?」
「個人的な意見を言えば、ここで防衛線を張っている方が良いんだけどね。どうも高い所は…。」
将吾は、高所恐怖症であり、高い所に行くと足が震えて動きが鈍くなる。それもあり足手纏いになってしまう恐れがある為、将吾は地上に残る意見を出す。
「なら俺が行く!下の階から炎で焼き尽くしてやるよ!」
「火事の時って下から燃えて家屋を焼いていくもんな。」
「人を放火魔みたいに言わないでほしいなぁ!」
「実際そうだろ?」
「そりゃ、焼く事に関しては任せて欲しいし、辺りを火の海にする事は好きだけどさ。それでも俺は犯罪に手を染めた事なんて…。」
「ここが元の世界だったら、確実に逮捕されてると思う事例が山ほどあるけどな。」
「警察いなくて良かったーー!」
憲明は、次々と出てくるキメラをお得意の炎で焼いていく。炎を潜り抜けてきたり、炎に対して耐性をもつキメラには将吾が斬り裂き、雅史が殴り倒していく。
祐斗は、ハンドガンで応戦しつつ、塔を外側から分析する。晋司の事だから、もし自分が不利な状況になり撤退するとしたらどこかに逃げ道を作っているのではないかと思い、隠し扉がないか探っていた。
「なぁ祐斗、祐斗がワームホールを開いて一気にメイの所までって事は出来なかったの?」
「最初にそれを思い付いて試してみたんだけど、この塔は移動系の魔法を無力化する力が働いているみたいで、上手く出来なかったんだ。だから物理的に進むしかなくて、この方法をとったんだ。それに啓太と昌宗を先に行かせたのは、晋司の悪い噂を聞いていたから、できる限り早くメイの所まで行く必要があったんだ。」
「晋司の悪い噂っていうと、あれだよね?女の子を薬で眠らせてその間に弄んでるっていう。祐斗も知っていたんだね。」
「あれは本当なのか?」
「残念ながらそうらしいよ。被害に遭った子達からも話は聞いてるからね。」
将吾は元の世界にいた時、色々な情報を持っている所謂情報屋的な存在でもあった。将吾が望んでいなくても、様々なルートから将吾に情報が入ってくる。その情報を将吾は悪用こそしなかったが、将吾に聞けば大概の人間関係は把握出来る程にネットワークが出来ていた。そうでなくても、晋司の噂は有名であり、大学の女子達も晋司には近付かない様にしている女子も少なくはなかった。
晋司に弄ばれた女子は、それで性格が変わって活発的な肉食系のギャルに変貌する者も多ければ、その反面でショックで自ら命を絶つ者もいる。警察も何度か晋司を捕まえようとしたが、証拠も薬も見当たらず、晋司の両親が政治家であった為、逮捕する所まで至らず、彼は大学では好き勝手していた。
「まぁ法で裁けないなら、ここで晋司をってのも思うけど、元の世界でちゃんと法で裁いてもらえる様に、証拠を押収出来たらっては思うけどね。」
「その為にも元の世界に戻れる手段は探さないとな。」
祐斗はハンドガンを換装させ、狙撃用のライフルにしてキメラを次々と撃ち抜いていく。将吾も刀で応戦し、祐斗にキメラが近づかない様に戦闘を繰り広げる。
啓太が昌宗と別れ、前方から来るキメラを盾で薙ぎ倒しなら上の階へと登り、漸く最上階のフロアまで辿り着く。
「思ったよりも早かったじゃないか、啓太。」
「…晋司。」




