~穏やかな時の中で~
追手からの魔の手を撃退し、再び旅を続ける啓太とメイ。
訪れたのはオバド街。まだサンクチュアリ帝国の侵攻はなく、街の中は賑やかさがあった。
啓太はまず宿屋を探した。とりあえず街の中で野宿する訳にはいかないと思い、宿屋の看板を探した。
見つけたのは酒場が営んでいる宿屋だった。
「二部屋借りたいんだけど。」
「一部屋しか空いてないから、二人で使ってもらいたいんだ。料金は負けといてやるよ。」
啓太は渋々と部屋の鍵を受け取り、メイの所に戻る。
「ごめんね、また部屋を一つしか借りられなかったよ。」
「ううん、私は気にしないよ。一緒の方が部屋代も安上がりになるじゃない。」
「流石に女の子と一部屋ってのはね。」
啓太とメイは部屋に荷物を置き、街中を散策する。サンクチュアリ帝国の進行状況や、食料の調達に向かった。
「ケイタって料理は出来るの?調理済の保存食より、材料を買った方が安く済むんじゃない?」
「将吾ならまだしも、僕は料理の方はてんでダメでね。」
「ショーゴって?」
「僕の親友さ。僕がこの世界に来る直前にも一緒にいたから、もしかしたらこっちに来ているかもしれないけど、将吾は料理が得意でね。また将吾の料理を食べたいなぁ。それに将吾は正義感が強いし、合流できれば力になってくれると思うんだけどね。」
ーーー遡る事、まだアースに来る前の出来事。
全校生徒が集められたのはサッカースタジアム。
グラウンドには何かの機械が取り付けられており、生徒達はここで何が起きるのだろうか疑問に思いつつも好奇心が買っており活気立っていた。
「これから公開AR体感シュミレートを行う。プレイヤーは学内生徒の中からランダムに選ばれた二名。選ばれた生徒はこちらで用意したキャラを選択し、五分間の模擬戦闘を行ってもらう。まずはプレイヤーを選ぶ。選ばれたのは情報学科、将吾。そして帝王学科、宮子。呼ばれた生徒はグラウンドに来る様に。」
何故、将吾が選ばれたのかは見当がつかない。しかし、相手の宮子という女子生徒は大学長の娘なのでこういった催事には選ばれ易いのだろうと見当がつく。
将吾は「何で俺が!?」と言いながら渋々とグラウンドに降りていった。
グラウンドに降りると工学科の学生や様々な学者が集まっており、将吾に様々な機械の線を貼り付けていく。
「この機械で貴方の筋肉運動をモニターして、映像化されたデータと連動させて映像を触れているかの様に擬似反応出来る様にしてます。」
それから将吾と宮子は説明を受け、グラウンドの両サイドに立った。
このARシュミレートはアクションバトルゲームになっており、制限時間内に辺りにばら撒かれた武器を使って相手のライフを0にすれば勝ちというルールらしい。
身体中に取り付けられた電極部から筋肉運動を読み込み、立体映像となっている武器を持ったり、ダメージを受けたら痛覚を刺激して実際に体感出来る様になっているのだという。
「要は武器拾って戦えば良いんだよね?これって勝敗に単位とか何か影響あるんですか?」
「単位には影響はありません。ただし身体的にどの様な影響が起こるかはこちらとしても解りかねる所があります。」
「…え?それって結構やばいんじゃ。」
「さあ、試合開始!」
将吾はまず辺りを見渡した。落ちているのはダガーが一本。
将吾はダガーを手に取ると、すぐ様後ろに向かって投げた。するとこちらに向かってくる光弾に当たり、ダガーは瞬時に塵になった。
その先の方向を見るとビーム砲を持った大学長の娘、宮子がこちらを狙っている。
「これって何か出来レースな気がするんだけど、気の所為かな?」
「将吾君っていいましたか?恨みはありませんが、勝たせて頂きます。」
将吾は辺りを見渡し武器を探す。しかし見つける度に宮子に武器を狙撃されて消滅させられてしまう。
誰がどう見ても将吾があまりにも不利で、勝ち目はないと思う状況である。
どんなに将吾が早く武器を見つけて走り出しても、光弾より速く走る事は出来ず、先に武器を破壊されてしまう。このイタチごっこを続けてもこちらの体力が消耗するだけと、将吾は宮子に向かって一直線に走り出した。
「それでは格好の的ですよ!」
宮子は将吾に向かってビーム砲で光弾を放つ。将吾は瞬時に光弾を避け、更に距離を詰めていく。
「何で避けられるのよ!光弾の速さに勝てるわけないじゃない!」
「銃口の角度でだいたいの狙いは解るし、引き金さえ気を付ければタイミングも解る。それさえ解れば光弾を避けるなんて簡単だよ。それに!」
将吾は宮子の後ろにある剣を奪い取り、一太刀浴びせる。
「近づけさえすれば、そのビーム砲も簡単には撃てないんじゃないかな?」
「嫌っ!」
零距離からでも何の躊躇もなくビーム砲の引き金を引き、将吾を吹き飛ばす。流石に先程までの連射と将吾に密着しての砲撃はビーム砲に負担をかけビーム砲は消滅する。70m程吹き飛ばされた将吾は地面に叩き付けられても即座に立ち上がり、いつの間にか弓を宮子に向け構えていた。
「70mの距離なら俺は絶対に外さない。俺の勝ちだ。」
宮子は止まっていては撃ち抜かれると、すぐに走り出した。将吾は矢を放ち、矢は宮子に向かって飛んでいく。
宮子に矢が刺さるその時ーーー。
「試合終了!時間切れだ。」
サイレンが鳴り、バーチャル映像化した武器やオブジェクトが消滅していく。
しかし、ダメージの痛みは残ったままであるから、先程受けたビーム砲のダメージに将吾はその場に蹲っていた。
明らかに将吾の勝利という戦いだったが、時間制限付きの模擬戦であった為、最後の攻撃は宮子に届かずに判定は宮子の圧勝という形に終わった。
この試合を見た生徒達は、将吾がわざと負けたのではないかという意見も上がっている。痛覚のレベルが高い事が分かった将吾は宮子にライフ全損する程のダメージを与えたら身体に残るダメージは計り知れないと思い、時間ギリギリでの勝敗にしたのではないかと。将吾はこの事に関して何も言わないが、生徒達は将吾の戦い方を賞賛し、将吾は学内で一目置かれる存在になったのだ。
ーーー時は戻り、オバド街の市場。
「ケイタは、そのショーゴって人の事好きなのね。」
「将吾だけじゃないさ。雅史に祐斗、憲明に昌宗。皆頼りになる僕の親友達さ。もしこの世界に来ているのなら、再会したいよ。大抵こういう異世界転生モノの物語って一人で異世界に来るか、数人一緒でも一ヶ所に固まって異世界にやって来るってのが多いから望み薄なんだけどね…。」
啓太は寂しそうに遠くを見ている。きっととても仲が良かった友人達なんだろうとメイは思い、啓太の手を握った。
「今は私がいるじゃない。それにきっと他のお友達もこの世界に来てると思うから、きっと会えるよ。」
「そうだよね。ありがとうメイ。少し元気が出たよ。」
メイはニコッと笑みを浮かべ、手を繋いだまま街中を歩いていく。
食糧調達といっても、啓太もメイも料理が出来ない為、食料は干し芋と干し肉しか買えずに、後は治癒のアイテムを購入していった。
「ポーションって…、まるでゲームの世界みたいだね。」
「げーむ?」
「僕のいた世界には現実とは違う仮想現実で冒険したりする娯楽があるんだよ。映し出される映像を専用の操作器で動かしてね。」
「冒険を娯楽って、ケイタの世界はとても平和だったのね。皮肉じゃないんだけど、色々な事を自由に出来るってとても素晴らしい事だと思うの。平和じゃなきゃ出来ない事だから。今この世界の状況だと自分のやりたい事を自由にするって難しい事だから。」
"忌むべき者"として、メイは様々な所で酷い事をされて来たんだろう。啓太はメイの言葉にそう感じ、気が付いたらメイの頭を撫でていた。
「えっ?いきなりどうしたの?」
「あ、いや、特に理由はないよ。手が勝手にね。」
啓太は少し照れながらメイを見つめる。メイも少し恥ずかしがりながらも啓太を見つめ返す。
「で、お二人さん、何しているの?」
そんな二人に声をかけたのは黒いジャケットを羽織った啓太には懐かしい顔の青年だった。