~Sleeping Snow(第四項)~
その頃、将吾と憲明は、雅史と昌宗の向かった方向とは別の方向に向かい、街外れに来ていた。
「珍しいな。将吾があんなにもキレるなんて。」
「え?俺、キレてた?」
「…え?さっき啓太にキレてたじゃん。」
「記憶にございません。」
「あ、お前後で啓太に怒られるんじゃって思ってしらばっくれる気だな。まぁ別に間違っちゃ事は言ってないから啓太も怒りはしないって。」
憲明が将吾の背中をポンポンと軽く叩き、その後、後頭部を強く殴り飛ばす。
「痛えっ!」
「それはそれとして、よくもシンゲンとマリアをカバンに詰めてくれたな!ある意味助かったけど、アイツ等を危ない目に遭わせたくないから置いて行こうとしたのに、お前って奴は…。」
「それはゴメン。でも、あの子達の気持ちに負けちゃってね。それに危ない事はしないって約束しておいたから危ない事はしてなかっただろ?」
「最後の最後に火の中に飛び込んで来たけどな。お陰で俺も助かったんだけどさ。今度からちゃんと止めてくれよ。」
憲明の言葉に「はーい」と答える将吾。憲明は辺りを見渡し、またシンゲンとマリアが追いかけて来てないかと不安になっていた。
「今回はちゃんとお留守番しているというか、昌宗の所のメイド達にしっかり見ておく様に頼んでおいたから大丈夫だって。」
「なら良いんだが、今回の相手は数が多そうだから、俺がアイツ等を守ってやれる自信がないんだよ。それに俺がマンティコアを逃したから起きたかもしれないんだし、ここではちゃんとケジメをつけて丸焼きにするつもりだからな。」
「憲明さん、怖えええ…。」
二人が会話をしながら歩いていると、周囲を殺気が取り囲んでいく。その殺気に気がついた二人は、立ち止まって戦闘態勢を取る。
「どうやら奴さん達が俺達に気が付いて餌を蒔いてくれたみたいだぞ。」
「という事は、やっぱりこっちに晋司がいるって事かもね。じゃあささっと料理しますか!」
「火加減はどうする?ミディアム?レア?それともウェルダンか?」
「もちろんウェルダンなんだろ?」
「…違うな。ウェルダン以上で灰にしてやるさ!」
憲明は、力強く右足を地面に叩き付け、それを中心として地面にヒビが入り、そこから火柱が次々と上がっていく。
キメラがその火柱に飲まれ、一気に黒焦げの炭へと変わっていく。それを掻い潜り、二人に向かって飛び込んで来たキメラを将吾が次々と首と胴体、前足、後ろ足と斬り分け、肉片へと変貌させていく。
「もしかして、憲明と昌宗が組んだらバーベキューパーティーでも出来たんじゃない?」
「へっ!だろうな!よし、第二波行くぞ!」
憲明は次は地面に拳をぶつけて、再度火柱を出現させる。キメラの大群が次々に丸焼けになっていき、辺りは一気に焦げ臭い焼け野原に変貌した。
「ガス欠になるなよ!」
その頃、昌宗もキメラとの戦闘を繰り広げ、次々とキメラを薙ぎ払っていた。
「あー、キリがないな。」
倒しても倒しても増え続けるキメラ。さすがの昌宗も体力が切れつつ、撤退した方が良いのでは?と考えつつあった。
「仕方ねぇ…。みんなに見せて驚かせようと思っていたが、ここで使っちまうか。」
昌宗が懐から取り出したのは、緑色に輝く小さな種だった。それを槍に差し込むと直ぐに芽が成り、槍を緑色の龍の顔をした大きな砲塔へと姿を変貌させた。
「必殺!楼槍牙龍!」
そう言い放ち、砲塔を振り回すと、砲塔から緑色の光弾が放出され、周囲のキメラを飲み込むと、衝撃波と共に爆散させていく。
辺りからキメラが消え、ようやく一息つける状態になった昌宗は、その場に倒れ込み、肩で息をしていた。緑色の龍の顔をした砲塔はいつの間にか消滅し、元の槍の姿に戻っており、昌宗は懐にある緑の種の残数を確認する。
「あと十七個か。体力的に今回はもう使えないな。次の機会にお披露目になっちまったな。アイツ等驚くだろうなぁ。俺もかなり強くなってるって事を知ったらよ!」
昌宗は、その時の事を想像してニヤニヤと笑いながらその場で気絶した。
そしてそれと同じくして、啓太と祐斗がいる湖の畔では、雅史が先程助けた少女と共に戻っていた所だった。
「どうした?」
「この子がキメラに襲われてるのを見て、助けたんだ。今、昌宗が一人でキメラと戦ってる。」
「昌宗一人で大丈夫なの?僕達も向かった方がいいんじゃない?」
「いや、昌宗は強い。大丈夫だ。それよりも晋司がどこに行ったかだ。君、キメラ達が何処に潜伏してるか知らないかい?」
祐斗は雅史が連れて来た少女に問い掛ける。少女は怯えながらも、湖の中心を指さした。
「湖?まさか水中に潜んでるって事か?」
雅史と祐斗が湖を覗き込む。しかし、いくら覗き込んでも、湖のそこには何も見えずにいた。
その時だった。二人の背中を少女がポンと押し、雅史と祐斗は湖に落ちてしまった。
「何っ!」
振り向くと二人の背中を押したのは、あの少女だった。
「ここでお前達を始末すれば、シンジ様に褒めてもらえる…。だから死ねぇっ!」
「湖に落としたからって俺達を倒したと思うなよ。」
祐斗が少女にそう言うと、湖の底から何やら巨大な赤い物体が浮上してくる。それは血の様に真っ赤な肌を持つ鯨で、その大きさは全長二十メートルはあるのではないだろうか。鋭い牙を向けて、雅史と祐斗に襲い掛かる。
少女はその間に啓太に歩み寄る。
「あなたが終焉王のケイタって男よね?シンジ様にあなたの首をお届けしたらどれほどお喜びになるか。マティ様ではなくて私を傍に置いてくれるかもしれないし、あなたには恨みはないけど、首から下は食べちゃうわね。」
少女が啓太の目の前まで来る頃には大蜘蛛の姿へと変貌しており、啓太が咄嗟に盾を取ろうとするが、口から糸を吐き、啓太の脚を地面に固定させる。
「そのご自慢の盾がなければ身を守る事もできないでしょ?大人しく私に喰われてちょうだい。」
「…悪いけど、僕はメイ以外の女の子にはときめかないよ。ましてや人外。エルフや獣耳とかの獣人ならともかく、虫はね。虫は好きだけど、リアルの虫は潰してやりたいとも思ってる。」
「あら残念。そこで私にも魅力を感じるって言ってくれれば少しは楽しませてあげてもって思ったけど、ホント残念ね。じゃあ久々のお肉を楽しませてもらうわね。」
大蜘蛛は、啓太の足から少しずつ糸で縛り上げていく。啓太は全く動じる事なく、懐からカードを一枚取り出し、大蜘蛛へと投げ付ける。
カードは光となって砕け散るが、何も起こらない。「コケ脅しかな?」と大蜘蛛は笑いながら啓太の脚を掴み、顎を大きく開いた。
「重力拘束、バインド・グラヴィティ。レベル2!」
啓太の一言で、大蜘蛛にかかる重力が急に強くなり、立っている事もままならなくなり、その場に倒れ込んだ。
「な、なにぃ!」
「メイの居場所を教えてもらおうか?」
啓太は大蜘蛛によって巻き付けられた糸を解きながら大蜘蛛にメイの居場所を問い詰める。
「私が言うと思ってるの?」
「言わないと潰しちゃうよ。レベル3!」
さらに大蜘蛛にかかる重力が強くなり、もう大蜘蛛は身動きが取れなくなってしまう。一円玉ですら、巨大な岩に匹敵する重さに変わっている。その間に啓太は糸を完全に取り払い、盾を取りに行く。
「僕はメイを助ける為なら何でもする。居場所を教えてくれ!」
「い、言わない。言ったらシンジ様に殺されて、マティ様に食べられちゃうもの。」
「たぶん将吾達がもうすぐつきとめて来てくれるから良いんだけどさ。でも教えてくれたら晋司に怒られず、あのマンティコアにも食べられないようにはしてあげられるけど。」
「ホント?なら言うわ!シンジ様達はこの先の塔の最上階にいるの!」
「ありがとう。レベル5!」
「話したのに助けてくれるんじゃないの?」
すると更に大蜘蛛にかかる重力を強くし、あまりの重力の重さに耐え切れず、肉が次々と身体からずり落ち、見るも惨い状況がそこにはあった。
「助けるなんて一言も話してないし、ここで命落とせば晋司に怒られる事も、マンティコアの餌になる事も無い。ただ大地のシミにはなるだろうけど。」
そう言うと、大蜘蛛の肉は完全に骨からずり落ち、骨も重力に耐え切れず、まずはヒビが入るとそこを起点として粉々へと成り果てていき、何も残らず倒れ込んだ形に肉から出た血液が地面を潤していた。




