~Sleeping Snow(第三項)~
それからどのくらい時間が経ったのだろうかーーーーーー。
我に帰ると、そこには将吾、雅史、祐斗、憲明、昌宗が啓太の周りに立って、祐斗が啓太の身体を揺さぶり、意識を戻そうとしていた。
「あ、あれ…?みんな…どうしてここに?」
「どうしてって…いったいここで何があったかは後で聞くとして、キメラの使い手がこの街にいる事が分かってね。この街だ。と言っても消去法というのが殆どだけどね。」
「啓太、メイはどうしたんだ?」
将吾と祐斗は辺りを見渡す。この状況でメイが啓太の側にいないのはおかしい。それに大きな生物の足跡、一種類だけと思うので、一体。二人はすぐに状況を理解した。
「連れてかれた。僕は何もできなかった。彼は隷属王と言っていたよ。」
「隷属王?」
「皆も知ってる相手だったよ。晋司だ。彼もこっちの世界に来ていて、咄嗟の出来事だった。マンティコアが彼とメイを乗せて飛び去ったんだ。」
「マンティコア…雅史と祐斗が倒した他にもいたって事だよね?」
「そういう事になるかな…。それで、晋司だって?」
「晋司という事は、あの晋司だよね?あの大学で女性にチヤホヤされてた。」
「それ以外に思い当たる節がないな。あの晋司もこっちに来てるって事は、宮子もいるんじゃないか?」
「それはどうだろう。あの成績優秀者の宮子がいれば、結構この状況もプラスに出来るかもしれないけど、まだ俺達みたいに異世界からやって来た人間がいるって噂は入ってこない。いたとしてもサンクチュアリ帝国側かそれとも別の国にいるだろうね。」
「晋司が言ってたんだけど、僕がいる事は間違っているみたいで、ホントは終焉王の力を手に入れるのは晋司で、僕は間違ってこちらに来たって話なんだ。」
「ホントにそう思う?」
「わからない。」
啓太はかなり落ち込んでいるのか、下を俯いたまま、あまり言葉を出さなかった。それを見た雅史達は何も言葉に出せなかったが、将吾が啓太の胸ぐらを掴んで湖に放り投げた。
「終焉王はあんな奴になれるはずないだろ。終焉王は誰かの為の、私利私欲の為の力ではないだろ!もし晋司が終焉王の力を宿したとしても、終焉の力が晋司に力を与えるわけないだろが!」
「……珍しく将吾がキレてる。」
「祐斗に打たれた所が悪かったんだろう…。」
雅史と憲明が小声で将吾の態度に驚きつつ、半分冷静に彼の変貌について話す。それを後ろで聞いていた祐斗が鞄から取り出した分厚い本の角で二人に一撃を与える。
「分かったらすぐにメイを救いに立ち上がれ!」
「は、はいっ!」
「…で、熱くなってる所悪いんだが、将吾、そのマンティコアの向かった方向や居場所分かるのか?」
「…わかんない。」
「怒るのはそれくらいにして、まずは情報を集める事が先だろ。」
「ごもっともです。」
「よし、将吾は憲明と、雅史は昌宗とペアになって辺りの状況を確認してくれ。俺と啓太はここで待機して、作戦を考える。」
祐斗の号令で雅史と昌宗は走り出す。憲明もそれに続こうとするが、将吾が制止をかけ、足跡からキマイラの向いていた方向から飛び立ったであろう方向を推理してその方角へと向かって行った。
湖には啓太と祐斗の二人っきりになり、祐斗はその場に座り込んで、街の地図を広げた。
「僕、どうかしてたな。終焉王であろうとなかろうと、メイを救い出さなきゃいけないのに、この場所で落ち込んでて。」
「まぁ大切な人が目の前で拐われたのもだし、相手があの晋司じゃ仕方ない。アイツは人の悪い所や落ち込ませる事には長けていたからな。それより俺は将吾が少し気になってしまったよ。アイツは仲間意識は強いけど、あんなにキレる奴じゃないと思ってるし、それに終焉王の力の事、かなり知っているみたいだ。ちょっと気になってね。啓太、力を手に入れた時に声が聞こえたと思うけど、その声に何て言われた?」
「えっと、うろ覚えだけど、力が欲しいかって聞かれて、自分を守る力、そして仲間を探す事、もし窮地に陥ってるのなら助けたいって言って
私利私欲の為にではないんだなって言われて力を手に入れたんだ。…あれ?将吾はなんでさっき私利私欲の為にって同じ台詞を言ったんだろう…?」
「やっぱり…。」
「どういう事?」
「まだ確証がないから俺の口からは何も言えない。…でも、将吾は十王神について何か知っているみたいだな。」
祐斗はその後考え事をする為に無言になって街の地図をジッと見ていた。啓太は街の外周部分の上空を見て、何かを確認しながら「まだ完成してない。」とボソッと呟いていた。
その頃、雅史と昌宗は湖の反対側に来ていた。遠くに啓太と祐斗が小さく見える。
「たしか、この湖って街の中心部になってたよな?」
「あぁ、祐斗に見せてもらった地図によるとそうだな。俺達の誰かが飛べる羽根でもあれば上空から探せるのにな。」
昌宗がため息を吐きながら辺りを見渡していると、その隣で雅史が急に気を溜め込み始めた。
「おい、どうしたんだよ。トイレか?」
「…変身!」
すると、雅史の身体が白銀の鱗に包まれ、龍人へと姿を変えた。
「ちょ!おまっ、いつの間にそんな凄い事出来るようになったんだよ!」
「ついこの前ね。これが俺の機龍王の力が覚醒した力の一つなんだ。」
すると雅史の背中から龍の翼が生え、昌宗を掴んで一気に上空へと上がる。二人して上空からメイ、もしくは晋司やマンティコアを探す。
上空から見ると、街の変貌が目に見えて実感する。街の入り口から湖までの道だけが綺麗に整えられているが、それ以外はキメラの襲撃による傷跡が無惨にも残っており、街の住人だった人達の死体がゴロゴロと転がっていた。
昌宗はその光景を見て嘔吐し、雅史も気分が悪くなっていた。
その中で数体のキメラが何かを追い掛けているのが目に入る。雅史はその先へと視線を向けると、そこには少女が一人、キメラから逃げているのが見えた。
「昌宗、行けるか?」
「え?俺はいつだって行けるぞ!」
「なら人間ミサイルをあのキメラにお見舞いしてやろうぜ。」
そう言うと、雅史は昌宗を掴んだまま、キメラの群れに急降下していく。昌宗はいきなり急降下したので、「うぉっ!」と叫んでからは舌を噛まない様に必死に歯を食いしばっている。
勢いがついた雅史は、急降下の途中で狙いを定めて、昌宗を放す。昌宗は槍を前に突き出してキメラに突進を仕掛けた。
「に、人間ミサイル!」
昌宗の一撃をくらい、数体のキメラを焼き鳥の様に串刺しにしていく。
少女はいったい何が起こったのかとその場に腰を落として肩で呼吸していた。
「グルルゥゥゥ…。」
「ま、まずはキメラの焼き鳥一丁あがりだな。俺の槍に貫けないものはないからな!」
「あ、あなた達は?」
「通りすがりの正義の味方…的なお兄さん達だ。」
雅史は変身を解いて少女の近くに着地した。残るキメラは四体。
昌宗と雅史で前後を塞ぎ、キメラを取り囲んだ。
「降臨!待ちに待った…な!シンフォ村ではあまり活躍出来なかったから、ここは俺に任せて雅史はその子を連れて安全な所に逃げな!」
昌宗は槍に突き刺さったキメラを振り解いて、槍を振り回す。
ここは昌宗に任せようと、雅史は再び龍人形態に変身し、少女を連れて啓太達の所へと飛んでいく。
「俺は、ギルド、ナイト・オブ・アーチの一番槍、昌宗だ!十王神の力がなくても俺が強い事を証明してやるよ!」
昌宗は槍を振り回し、四体のキメラに向かって飛び込んでいく。
キメラ達は牙を剥き出しにして、昌宗を迎え撃つ。
「フェザーウィンド武槍術、帝槍っ!」




