~Sleeping Snow(第二項)~
気を取り直し、啓太とメイは泉で一時の休息を過ごす。
「…で、どうすればいいんだろ。僕、女の子と遊ぶ事って無かったから。こういう時どんな事をすればいいか分からないんだ。」
「…私も兄はいたけど、あまり水辺で遊ぶという事はしてなかったから。」
二人は改めて水辺での遊び方とはと考える。啓太は自分の過去を振り返っても、女の子と遊んだ事なんて一度たりともなく、この場合どうすればいいのだろうと必死に思考を巡らせる。以前読んだ物語では、男女で水の掛け合いに追いかけっこ、ビーチバレーにオイルを塗ってあげるといった事しか思い付かず、水の掛け合いが面白いとも思えず、追いかけっこ…もそこまで楽しいとは思えない。ビーチバレーに関しては二人でやるものでもないし、オイルを塗ってあげるなんて事は啓太の理性がぶっ飛ぶ。といっても日焼け止めオイルやサンオイルなんて物が都合よく持っているわけでもなし、何をすればいいのだろうかと悩む。
「メイってどんな遊びをしてたの?」
「うーん、砂のお城とか山を作ったり、砂山崩しに、一人でおままごとしたり…。ごめんね、あまり参考にならなくて。」
「そんな事ないよ!よし砂山崩ししようか。」
啓太は大きめの砂山を作り、頂上に小さな旗を立てた。まずはメイが両手を使って両端から砂を削り取る。
砂山崩し、一見単純な遊びと思うが、そこには戦略と繊細さが問われる戦略ゲームともいえる遊びだ。啓太は慎重な手つきで砂山を削る。たぶん、メイはそんな細かい事まで考えずに遊びを楽しんでいると思う。啓太も楽しんではいるが、勝負事になると、どうすれば勝てるかと戦術を無意識に立ててしまう。
「ねぇ、ケイタ。この世界は好き?」
「え?どうしたのいきなり。」
啓太は少し動揺して砂山を考えていた量より少し多めに削ってしまう。内心、「しまった」と思ったが、まだゲームは始まったばかり、いくらでも後で調整は効く。啓太は質問された答えを考える。
「うーん、何だかんだいって、好きかもしれないな。元々冒険や魔法といった世界に憧れはあったと思うし。メイは?この世界の事…、好きではないよね。色んなサンクチュアリ帝国かr追われているし、忌むべき者って言われて来た訳だし。」
「そんな事ないよ。私はこの世界が好き。たしかに辛い事もたくさんある
嫌いになりそうな事もあるけど、嫌いな所なんてないよ。私はこの世界が好き。だからこの世界の邪魔にならない様に静かに暮らしたいって気持ちはあるんだけどね。」
メイはハハハと啓太に微笑みかけながら、砂山を削る。そんな姿を愛おしく思い、ドキッとしてしまい、またも砂山を削る量が多めになってしまい、予定よりも早く砂山は不安定なかたちをした砂山へと変わってしまう。
「メイは凄いな。僕だったら世界の事を嫌いになっちゃうよ。元いた世界の事、つまらないって思ってあまり好きじゃなかったけど、メイを見習ってあの世界の事も好きにならなくちゃね。」
「私、壊れてるのかな?でも、ケイタ達も十王神の力を手に入れて、世界から嫌われる存在なのに、この世界を嫌わずに好きって言ってくれて、私は凄いと思うよ。」
「将吾達も冒険や魔法のある世界は好きだと思うよ。結構そういう所が共通点ってのもあって、仲良くなった所もあるからね。」
「良いなぁ。私にもそういう仲の良い仲間がいたらまた変わってたのかもしれないな。昔は兄とそのお友達の男の子と三人でよく遊んでもいたんだけど、いつからか私が忌むべき者だっ
わかってからは、皆離れていってしまったけど。兄は戦いの事ばかり考えるようになって、兄のお友達も怪しげな実験をする様になって…。それもあって私は兄達の元から離れて行ったのもあるの。でも、今はケイタ達がいてくれるから、私は幸せだよ。」
メイは少し悲しげに話してくれた。余程、兄とその友人と仲が良かったんだなと、啓太は感じた。
「ねぇ、折角だし何か賭けない?
「いいけど、何を賭けるの?」
「私が勝ったら、兄達の事、止めて欲しいの。」
少し思い詰めた表情で啓太に告げた。
「じゃあ僕が勝ったらどうしてもらおうかな?」
「ケイタのおよ…」
「よぉ、啓太!久しぶりだなぁ。」
メイが言いかけたその時だった。
聞き覚えのある声がして、ふと前方に視線を向ける。そこには、元いた世界で見覚えのある人物が立っていた。
「晋司?晋司なのか?」
「あぁ、元気そうだなぁ啓太。」
「生きる事に必死だけどね。晋司も無事にこの世界に来てたのか。」
「無事に?よくそんな事言えたな。俺がどんな思いで今の今まで生きてきたか知らないくせに。」
「ごめん、大変だったよね。気が付けば異世界に飛ばされて…。」
「啓太、お前は良いよなぁ。この世界に着いて早々魔法詠唱者になって、そんな可愛い子と一緒旅に出れてるんだからな。」
「言っとくけど、ケイタはケイタで今までたくさん苦労したのよ。貴方の想像もつかないくらいにね。」
晋司の言葉に、メイが割り込んで啓太の弁解をする。どうやら啓太と同じ世界から来た人の様だが、将吾達とは全く違う感じがして、メイは晋司の事を良くは思わなかった。
「なぁ啓太、俺にもその可愛い女の子を紹介してくれよ。」
「…彼女はメイ。僕と一緒旅をしてる仲間だよ。メイ、彼は晋司。僕と同じ世界の人間で、僕と同じ大学の同じ学部で、女子から人気のあった奴なんだ。」
「メイちゃんっていうんだ。よろしくね。僕は晋司。啓太の親友さ。」
「そう。貴方はショーゴ達と違う感じなのね。」
「将吾?…あぁ、あのダメダメ将吾か。あいつもこっちに来てるのか。あいつの事を思い出すと反吐が出る。俺の事コケにしやがって…。啓太、お前もお人好しだな。あんな奴とまだつるんでるのか?よくあんなのと一緒にいられるよな。その場の運だけで周りからチヤホヤされてよ、あの模擬戦で活躍した宮子が可哀想だぜ。」
晋司はやれやれと溜息をつき、メイを舐め回す様な目付きで見ながら啓太に言った。
「言っとくけど、将吾は晋司が思ってるよりも良い奴だからな。」
「まぁいいや、将吾の話なんて興味無いからな。それよりも知ってるか啓太。」
「何を?」
「ホントは俺が終焉の魔法詠唱者になるはずだったって事をさ。」
「異世界に来る最中に手違いがあってな、俺とお前の転移位置が入れ替わったんだよ。お前も嫌だろ?何でこんな目にって思ってるだろ?今の状況が間違いなんだよ。ここからは俺に任せて大人しくこの街で平和に暮らせよ。メイちゃんはこの俺が守ってやるからさ。」
晋司はメイの腕をグイッと引き抱き寄せる。その姿に啓太は少し苛立ちを感じ、一瞬ではあるが晋司に殺意を感じた。
「だってお前平和主義だったろ?厄介事には関わらない様にしてただろ?実際俺がやる所をお前がやってたんだから俺がちゃんとしてやるからお前は引っ込んで良いって。」
「悪いけど、それは出来ない。」
「全く往生際が悪いなぁ。良いからお前は引っ込んでろって。お前みたいなのにメイちゃんはもったいないんだよ!俺がちゃんと満足させてやるから、お前は指でも咥えて蚊帳の外から眺めてろっての!おい、マティ!」
晋司の呼び掛けに空から巨大なモンスターが現れる。それは雅史と祐斗の言っていた姿に酷似しており、それがマンティコアだという事がすぐに分かった。
晋司は啓太を蹴り飛ばし、メイを連れてマンティコアの背中に乗り、大空へと飛び上がる。
「おい、マンティコアって事は!」
「あぁ、俺がキメラを操る魔具の所有者、隷属王晋司様だ!」
晋司はマンティコアに乗り、上空へと消えていく。その間にもメイはずっと啓太の名前を叫んでいた。
その場に取り残された啓太。砂山は無惨にも崩されており、砂山の頂上に立っていた旗も砂に埋もれて見る影も残っていなかった。
「…メイ。」




