-mysterious identity(第二手)-
祐斗は少年が連れ去られていくのを、ただ見ているだけしか出来なかった。ハンターを見た時の恐怖感。一瞬にして背筋が凍り付き、呼吸すらも出来ないくらいの凍てついた禍々しい視線。
すぐに冷静さを取り戻し、ハンターの後を追いかける。あれが少年が恐れていたハンター。未だに転移の魔法が使えなかった原因は分からないままだったが、少年なら何かわかるかもしれない。それに少年を助ける事が最優先だと思い、ハンターに見つからない様に息を殺して追いかけて行く。
たどり着いたのは先程邪王の鏡があった教会の地下。ハンターは少年を椅子に縄で縛り付け、再び姿を消した。
少し様子を見て、ハンターがいない事を確認しつつ少年の元へと近付いて行く。
すぐに縄を解き、少年を解放する。
「助けに来ないかと思ったよ。」
「これでもギルドのトップをしてるからね。目の前で人攫いを見たら、流石に助けるよ。それよりもこの場所では魔法が使えないらしい…。何か知ってるかい?」
「それはたぶん、邪王の鏡のせいじゃないかな?この鏡は魔力を搾取する力もあると思うし。僕が預かっておくよ。」
少年は、祐斗から鏡をサッと抜き取り、ニコッと笑みを浮かべる。祐斗はハンドガンのセーフティを解除し、壁に向かって銃弾を放つ。今度は問題なく銃弾に込められた魔法が発動し、壁を粉砕する。この音で再びハンターが戻ってくるかもしれないと思い、転移の魔法で地下室から抜け出した。
転移してたどり着いたのは、教会の屋根の上だった。どうやら邪王の鏡の影響で自分が持っていなくても魔法が使えないらしく、思っていた場所に転移する事が出来ずに近場にしか移動できなくなっていた。
「ここまでしか飛べないか…。ここからはハンターに見つからずに脱出するしかないな。」
「でも、この街を出るには各地にある解錠に必要な鍵を見つけなきゃいけないんだ。」
「そんなものがあるの?俺が来た時には開いてたと思うけど。」
「入る時には問題なく入れるんだけど、出る時は必要なんだよ。」
「それで、その鍵がある場所は?」
「それが…。」
祐斗は各所のトイレを探していた。
少年の話を聞くと、ハンターから逃げている最中にどこかのトイレに鍵を隠したのだという。少年を屋根にいてもらえば、さすがのハンターも屋根まで登ってくる事はないだろうと思い、少年を教会の屋根に残して一人で探しに街に降りたのだった。
「何でトイレなんだよ。せめてクローゼットとか鉄板な所に隠れなかったのか?」
祐斗は近い所から虱潰しにトイレを探る。しかし一向に鍵は見つからず、時間だけが過ぎていく。
時たまハンターが近くにいると少年が連絡をもらい、身を潜めるが、ハンターの影も形もなく、気のせいか少年に踊らされてる感が拭えずにいた。
鍵なんてなくて、少年が何らかの理由で祐斗をこの街から出さない様にしているのでは?と心の片隅で考えながらトイレ探していく。
「なぁ、ホントに鍵はあるんだろうな?」
「ないよ。」
「は?どういう事だよ。」
「お兄さんの事試させてもらったんだ。ハンターが来た時の対応、そういう所が見たくて嘘ついてたんだ。ホントの鍵はちゃんと僕が持ってるよ。」
少年はそう言うとポケットから鍵を取り出す。
祐斗は呆れてため息をつき、街を囲う門の入口に向かっていった。
何故この少年はそんな事をしたのだろうか。疑問は生まれるが、今はまず街から出る事を優先して門へと向かう。
門に着くと、鍵穴が一つある。周りを見渡す限り、鍵を指すとカラクリが動き、門が開く仕組みになっている様だ。
少年は鍵を門の鍵穴に指し込み、カラクリを起動させる。各所で歯車が噛み合っていき。ゆっくりと門が開こうとしている。するとその音に気が付いたハンターが祐斗達へと走ってくる。
「あと少しで門が開くのに…。」
「俺を試す様な事をしてる時間が勿体なかったんじゃないのか?まぁ門が開くまでの時間稼ぎくらいは何とかやってみる。」
祐斗はハンドガンを構え、銃口をハンターへと向けて発砲する。
「さあハンター。俺が相手だ。時間稼ぎと言わず倒すけど、答えは聞かないよ。」




