~魅惑の妖沌劇場(FINAL STAGE)~
昌宗は恐怖で息が止まりそうになりながらも、必死で足を動かし、劇場の中を駆け、出口へと向かう。
圧倒的な力の差を本能で感じ取り、今の自分では不死王の足元にも及ばない。十王神と常人との差が苦しい程実感させられ、逃げるしかないと必死に走った。
「あ、あれが十王神…。あんなの人間の領域じゃ勝てる訳ないだろ!」
昌宗が階段を駆け下り、出口へと向かうと辺りからアンデッドが何体も昌宗の行く手を阻み、襲い掛かろうとする。十王神相手ではなくアンデッドの、しかも初級のアンデッドらしく、自我もなくただ単に動く者に反応して襲い掛かるだけだった為、昌宗は槍でアンデッドを薙ぎ払って進む。直接出口まで走り抜けようとしたが、あまりにもアンデッドの数が多く、一旦近くの部屋に身を隠した。
そこで昌宗は深呼吸をし、少し心を落ち着かせ、先程までの会話を思い返していた。
まず、ラミの正体は十王神ではなく、イベリやアグ、チャミと同じくサンクチュアリ帝国によって作られたキメラだった。イベリ達が平和を求めて逃げ出して、ラミはキメラの主人であるシンジという男に捕まえるか殺すかしろと命令を受けてこのシンフォ村にやって来た。そこに昌宗がやって来たので上手く利用されてしまったという訳だ。
さらにラミは十王神の不死王を名乗り、イベリ達を追い詰めて殺した事に、本物の不死王が現れてラミを殺し、この劇場にいた者全てをアンデッドへと変貌させ、この事件を知る唯一の生き残りである昌宗を殺す為にアンデッドを劇場内に解き放ったのだ。
「そういえば、キメラは強奪されたって言ってたな。それにラミはシンジ様の命令でって言ってた。つまり、キメラの所有権はサンクチュアリ帝国にはなくて、シンジって奴の手にあるのか。って事はシンジ…まさかあの晋司じゃないだろうな…?」
自分達以外にもこの世界に来ている生徒がいてもおかしくないと、まだ他にもこのアースに辿り着いている可能性があるという事を以前に啓太達と話していた事を思い出した。
元の世界、大学に通っていた頃、啓太と同じく学部に女子に人気の男子、たまに自分や啓太達のグループを見て罵っていたその男子の名前が晋司だったと昌宗は薄らと覚えていた。しかし、まさか同一人物では無いだろうと、そこで考えるのをやめ、再び状況を確認し、ここから抜け出す方法を考える。
「たしか、アンデッドは聖属性と炎属性に弱くて、物理攻撃をしても痛みを感じないから効果的とはいえない。聖属性使える奴はいないけど、啓太や憲明がいれば簡単なんだけどなぁ。魔法で一掃出来るのに。こんな事になるんだったら、憲明の炎属性の魔法を魔石や魔導札に入れておけば俺にも魔法が使えたのに…。ここは効果的ではないが、さっきみたいに薙ぎ倒しながら進むしかないか。」
昌宗は呼吸を整え、部屋から飛び出し、一気に出口へと走っていく。襲い掛かるアンデッドは脚を狙い、すぐには追いかけて来れない様にして出口まで突き進む。
ようやくロビーまで戻り、トビラから脱出しようとすると、昌宗の行く手を三体のアンデッドが割り込む。
「マサムネさぁん!まだお仕置きしてもらってませんよ~。」
「私なんて挨拶すらマトモにさせてもらえず扉ごと一突きにされたんだから~。」
「私達三人をお相手してくださるんでしょ?ちゃんと相手してもらわないと困りますよ?」
そこに現れたのはイベリ、アグ、チャミの三人だった。昌宗は厄介な相手が最後に来たなと思い、槍を握り直す。
「私も混ぜてほしいな。」
後からはラミが屋上から追い付いてくる。四対一、さすがに分が悪い状況ではあるが、昌宗は覚悟を決めて槍を振り回した。
「フェザーウィンド武槍術、嵐槍っ!」
槍によって生み出された風の刃はラミ達を一掃する。しかし、アンデッドとなった四人には痛みを感じていないのか、攻撃の速度や威力が変わらずに昌宗への攻撃は止まる事なく続く。
「やっぱアンデッドに俺の攻撃は効かないのか。」
「お仕置きが足りません、もっと、もっとお仕置きしてください~!」
「それじゃまだまだ満足出来ませんよ~。」
イベリとアグに両腕を掴まれ、チャミに両足を抑えられてしまい、身動きが取れなくなってしまう。ラミは昌宗の腹の上に座り、舌舐めずりをして、昌宗の首筋へと舌を這わせる。これまでかと昌宗の心が折れかけて踠く力が弱まった瞬間だった。
「ストライク・メテオ!」
壁を突き破り、飛び込んできた火球はラミに直撃し、昌宗の上から弾き飛ばした。続けて同じ方向から飛んで来た火球はイベリ達を弾き飛ばし、昌宗は拘束から解き放たれ、立ち上がる。
「よぉ、昌宗!お前がハーレム楽しんでたみたいだったから、ついヤキモチ妬いて火花が飛んじまった。」
「の、憲明!?」
壊れた壁から憲明が現れる。どうして憲明がここにいるのかという疑問はあるが、アンデッドに有効な炎属性を使える唯一の仲間が目の前に現れてくれた。生き残れる確率が上がったと確信すると、昌宗は勢いを取り戻し、身体の汚れを払う。
「良いタイミング出来てくれた。あのアンデッド達を焼き払ってくれ!」
「ん?まぁいいか。お前がハーレムしてるのは何かムカつくから一掃してやるよ!チェイン!ヒート!ファイア!バーニング!」
憲明は軽く腕を回して左手の指を鳴らす。連続して炎属性の魔法を唱え、イベリ達に攻撃を加える。先程までの昌宗の攻撃とは違って憲明の炎属性の魔法は効果があり、ダメージを与えていっている。昌宗はその隙をみて、イベリ達が再び起き上がらない様に追い討ちをかける。動けなくなったイベリ達を確認し、二人は劇場を脱出した。
「助かったよ、憲明。でもなんで憲明がシンフォ村に?」
「祐斗から昌宗の様子を見てきてくれって連絡があってな。もしかしてキメラの襲撃や十王神の襲撃を受けてるんじゃないかって思って、レクエム村に帰る前に立ち寄ったんだ。そしたらお前がこんな如何わしい店に入って行くし、シンゲンとマリアを近くの飲食屋に預けて、魔法ぶち込んだって訳さ。」
昌宗は憲明にこの村での出来事を話す。不死王の登場に、シンジという男によってキメラがサンクチュアリ帝国から奪われ、何体かは脱走して各地に潜んでいる事も。そして十王神が正義の味方という存在では無いという事を。
憲明は昌宗の話を聞き、一度レクエム村に戻って啓太達と情報を纏めようと昌宗に促し、シンゲンとマリアと合流してレクエム村へと向かった。
その光景を劇場の屋上から不死王が眺めてニヤリと微笑んでいた。
「あーぁ、生き残っちゃったなぁ。まぁ次会う時楽しみにしてるよ。」
不死王は昌宗達を見送り、その場を立ち去ろうとする。そこで「あっ、忘れる所だった。」と言い、指を鳴らす。すると劇場にいたアンデッドはみるみると風化し、跡形もなく灰となって消えていった。




