~摩訶不思議の國の雅史(FINAL ROUND)~
「そう簡単に勝てませんよ」
「…え?」
青い鎧を纏った赤ウサギは両手に持ったライフルで雅史を攻撃する。
雅史はアヤに銃弾が当たらない様に拳で弾き返していく。しかし、前の戦闘で破損しているガントレットは次第に耐久力を失っていく。
「どうしました?威勢だけですか?」
「今のガントレットじゃ銃撃武芸術を使ったら壊れてしまう…。一体どうしたらいいんだ。」
雅史は後の事を考えては動けないと、考えるのを止めた。今はただ前にいる敵を倒す。それだけに集中した。一気に距離を詰め、下からアッパーを加える。
「ガン・ストーム!」
雅史の拳が赤ウサギの顎に届く直前、横から割り込んで拳が入って来る。
その拳は、雅史の横っ腹を打ち抜き、その衝撃で崖っぷちまで吹き飛ばされた。
「悪いな。お前に悪気も興味もないけど、こんなチャンス滅多にないから利用させてもらったよ。」
赤ウサギの前に立っているのは、先程の探偵屋だ。それに辺りを見渡すと先程探偵屋と一緒にいた霊媒師と医者の姿も見える。
「…なんだ?」
「赤の女皇帝を楽しませるのが俺達の役目なんでね。四対二で勝てるかな?といってもそっちの女の子は戦力外と思うけど。」
探偵屋は雅史を崖から突き落とそうと徐々に接近する。雅史は横っ腹を抱えながら立ち上がり、防御体制をとる。ほぼ四対一のこの状況を打破するにはと考える。一対一のタイマンなら勝ち目はある。しかし四人を一度に相手するには武が悪すぎる。
そんな事を考えていると更に二つの影が雅史を襲った。
「やっと見つけた。」
「やっと見つけた。」
「俺が先に見つけた。」
「いや俺が先に見つけた。」
「「いやいやいやいやいやいやいや」」
「この会話の流れ、前にもあっったな…。」
「俺の事を忘れたのか?俺ドルダム。」
「俺の事を忘れたのか?俺ドルディ。」
「忘れられてたのはお前だドルディ。」
「忘れられてたのはお前だドルダム。」
「「お前だお前だお前だお前だお前だお前だお前だお前だお前だ」
そこにいたのはこの不思議な世界に迷い込んで、赤ウサギを追う最中に戦闘になっった二人組ドルダムとドルディだった。
四人相手でも厳しいというのにこれで六対一。
「一つ良い事教えてあげる。」
「一つ良い事教えてあげる。」
そう言うとドルダムとドルディは雅史にラッシュを浴びさせる。
「ここでダメージを蓄積されたら」
「重力がだんだん無くなっていき、さらに強い一撃を与えると。」
ドルダムとドルディは同時に雅史の鳩尾に一撃を与える。すると先程の探偵屋の一撃よりも威力はないはずなのに崖の端から反対側の崖へと吹っ飛ばされた。
「な、なんだ今のは!?」
「これがここの戦闘での特殊ルールだ。」
「これがここの戦闘での特殊ルールだ。」
雅史は間一髪の所で落下を回避し、崖っぷちで留まる。
もし崖側に向けて吹っ飛ばされていたら一溜まりもないなと思い、ゴクリと唾を飲む。
雅史は体制を立て直し、まずはドルダムとドルディを倒しにかかる。
「ガン・ラッシュ」
雅史はドルダムとドルディのラッシュ攻撃を相殺しつつ攻撃を与えていく。それに伴いガントレットへのダメージも蓄積されていく。その状況に探偵屋に医者、霊媒師もそのまま黙って見ている事はなく、後方から襲いかかる。
「さすがにタイマンは張らせてくれないよな。」
「パワーでは流石にお前の方が上だから俺達は共闘してお前を倒す事にしたんだ。」
「前みたいに吹き飛ばされたら嫌だから一気に決めさせてもらう。」
「前みたいに吹き飛ばされたら嫌だから一気に決めさせてもらう。」
「まずはその武器を壊して無力化してから一気に袋叩きだね。」
医者がメスを取り出し、ガントレットのヒビに刃を突き刺す。するとガントレットのヒビが広がり、そのまま粉々に崩れ落ちていく。
流石に素手では威力が落ちてしまい、六人を相手にするのはもちろんの事、一人を相手にするだけでも厳しい状況になってしまった。
このままではアヤも助ける事はできない。しかし、闘志だけは無くさず拳を振り上げ、ガン・ラッシュの攻撃を止めずに攻撃を繰り返していた。
雅史の心の中で何かが叫んでいた。『拳を止めるな。突きだせ。』と繰り返し繰り返し。
雅史はその言葉の通り、ガン・ラッシュの攻撃を止めずに六人に拳を打ち突けていく。どんあに威力が低く通じていなくても拳を止めずに何度も何度も…。
そんな中、雅史の中で何かが目覚めた様な感覚が生まれた。機龍王の力を宿した果実を口にした時に似た感覚に雅史は頭の中がクリアになっていき、自分の深層心理の奥に意識が降りていった。
「あれ?ここは…。」
『ここは、汝の深層心理の奥の奥。そして我はかつて機龍王だった者。汝は更なる力を欲するか?』
「もっと強くなれるのか?」
『今まで使っていたガントレットは先代機龍王の腕の外皮。機龍王とは人と龍を繋ぎ合わせて更なる強みを求める存在。他の王達も更なる覚醒をしている者もいるみたいだ。どうする?力が欲しいか?』
「…欲しい。今ここを乗り切る力を。更なる強さを!」
『良かろう。ならば授けよう。機龍王の更なる覚醒を…!』
再び意識は戻り、六人に囲まれつつ、ガン・ラッシュを繰り返している。
拳に熱が宿り、一撃一撃が重くなっていき、探偵屋を殴り飛ばした。
「な、ガントレットを破壊したのにこんな威力があるはずが…。」
「…変身。」
雅史の身体が光り、白銀の鱗に包まれていく。そしてその姿は龍人と変化した。
「さぁ、ここから反撃させてもらうぞ!」
雅史は自分を回転させ、その遠心力を利用してアッパーを繰り出す。
「ガン・リバース!」
辺りに風が巻き起こり、探偵屋達を吹き飛ばす。雅史は飛び上がりドルダムとドルディに標的を絞った。
すると雅史は音速ともいえる速さで高速移動し、ドルダムとドルディに拳を何度も打ち突ける。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!たしかダメージが蓄積されたら重力が軽くなって吹っ飛ばしやすくなるんだよな。そしてこの位置なら吹っ飛ばせば場外になるし、それでいてあの針地獄に落ちずに外まで吹っ飛ばせる。ガン・バレット!」
両腕から繰り出された一撃はドルダムとドルディを突き飛ばし、城の外へと飛んでいった。
「何だあの速さは!」
「それにあの連続攻撃で重力が軽減してたとはいえ、あそこまで吹っ飛ぶあの威力…、そしてあの姿はいったい…。」
「機龍王第二形態という所かな。さて、じゃあお前達も場外ホームランだ!」
雅史は続いて霊媒師と医者にも拳のラッシュを浴びせ、場外ホームランを繰り出す。
残るは赤ウサギと探偵屋の二人。引き続き二人も場外へと殴り飛ばす為に高速で接近していく。
「このままではやられてしまうな。」
「全く、困った速さだ。このままじゃ負けてしまう。負けたら女皇帝様に殺されるよりも酷い罰が待っている。それだけは何としても食い止めなければ。」
赤ウサギは持っていた懐中時計を開き、何やら呪文を詠唱していく。探偵屋はその間に雅史が邪魔をしない様に間に立ち塞がる。
「おっと邪魔はさせない。」
「じゃあまず探偵さんから倒させてもらう。」
雅史は拳をぎゅっと握り、探偵屋に攻撃を仕掛ける。探偵屋も赤ウサギから青いライフルを受け取り、雅史を攻撃する。雅史はステップを刻み銃弾を回避し、少しずつ接近していく。
探偵屋は炎を宿し、銃弾に炎を灯して攻撃を続ける。
「炎属性の魔法なら憲明で慣れてるから脅威にならないな。それに火力もまだアイツにも及ばないレベルだし、勝利は俺が貰う。」
雅史は炎の銃弾を拳で弾きながらゆっくりと探偵屋に歩み寄って行く。
その間に、赤ウサギの詠唱も終了しており、空間に穴を開けていた。
「あなた達は元いた現界に戻りたいんだろう?ならこの穴をくぐれば現界に戻れますよ。」
「え?いったいどういう事だ?」
「俺達は赤の女皇帝のお仕置きを受けたくはない。だから勝ち目が無くなってきたこの状況で最善はお前達二人を現界に返してこの戦いをドローにする。ただそれだけだ。」
「なるほど。」
雅史は元の姿に戻り、アヤの所へ戻っていく。
「アヤ、行こう。あの穴から元の所へ戻れるみたいだって。」
「信用しても大丈夫なんですか?あの探偵屋さん達も敵だったみたいですし。」
「大丈夫みたいだし、ここは信じて行ってみよう。帰れなかったらその時に考えればいいさ。」
雅史はアヤを連れて空間に開いた穴に入って行く。霊媒師
出現させた城へと続く穴に入った時と同じ感覚に襲われたが、無事に元いたヒムの街に戻っっていた。
「やった。戻れた。」
「何とか戻れましたね。一時はどうなっるかと思いましたよ。」
辺りを見渡すと、キメラの科学者との戦闘があったのが昼前であり、何時間か時が進んでおり、日が傾き、暮れようとしていた。街の人達も復旧作業をしていた形跡はあるが、夕暮れになっている為、街の人は復旧作業を中断して各々の家に戻っていた。雅史はアヤを家まで送る
「じゃあ俺はこの辺で。」
「えぇ、エスコートありがとうございました。またご縁があればまたお願いしますね。」
「何かあったらレクエム村にある冒険者ギルド、ナイト・オブ・アーチに連絡してくれ。そうすればすぐに駆け付けるよ。」
戦いが終わり、雅史は将吾と合流する為、アヤと別れる。アヤは雅史が見えなくなるまで胸元で手を振りながら見送る。
雅史が見えなくなり、アヤは自分の家に戻ろうと足を動かした瞬間、先程のキメラが飛び出し、アヤに襲い掛かろうとして来た。アヤ一人なら確実に殺せて、雅史に復讐出来ると思った
科学者の男の差し金だった。
「…あれが機龍王か。」
アヤは先程までの穏やかな表情とは全く別人の様に不機嫌な表情に変わっており、軽くジャンプし、キメラの顔面を勢いよく踏み潰し、キメラの頭蓋骨を粉砕し絶命させた。
「お、お前…ただの小娘では無いのかっ!」
「マサシさんはホントに優しいわね。そして甘い。ちゃんとトドメを刺さないとまた狙われるのに。それにアナタ、サンクチュアリ帝国の将校も分からないなんて失格ね。アナタも帝国にはいらないわ。」
「まさか、銃撃武芸術を使いこなす戦姫が…、何故この様な所に!?」
「気付くの遅いよ…。弾丸の聖剣«ガン・セイバー»。」
アヤは、蹴圧に気を乗せて斬撃を放つ。科学者の男は縦に両断され、悲鳴をあげる事さえ許されず肉片と化した。
「次に会う時を楽しみにしてるわね。マ・サ・シさん。」
彼女の笑みはキメラの返り血によって朱く染まり、不気味に見えた。




