~蒼の洋館(オードブル)~
どのくらい意識を失っていたのだろうか。将吾は気が付くと、どこかの部屋のベッドの中にいた。この感じは、初めてアースに来たすぐにミユに助けられた時と酷似していた。
「このパターンかよ…。」
将吾はベッドから起き上がり、辺りを見渡す。かなり大きな部屋でまさに豪邸の一部屋という感じの部屋だった。
「お目覚めですか?」
部屋に入って来たのは一人の少女だった。
「君は?」
「私は、サヤといいます。この洋館の主を務めております。あなたはこの洋館の前で倒れていたので、中に運ばせて頂きました。」
「ありがとう。お陰で助かったよ。俺は将吾。冒険者である依頼でこのコラルの街にやって来たんだ。」
「それがどうして洋館の前で倒れていたんですか?」
「いや〜それがよく分からないんだ。街外れである男と戦って負けて気が付いたらここに…。」
「…でも、ここはコラルの街の中心部。誰かがここまで運んで来たという事になりますね。」
そう言いながらもう一人部屋に入って来る。その姿はサヤと瓜二つであり、唯一の違いは髪型くらいであった。サヤは長い髪を束ねて後ろで纏めたシニヨン。今入って来た少女は長い髪を両サイドで束ねたツインテールであった。
「え?サヤがもう一人?」
「すみません、この子は双子の妹のサユです。」
「ドッペルゲンガーかと思ったよ。」
「脅かすつもりは無かったのですが、お着替えをお持ち致しました。お召しになっていた服は勝手ながら洗濯させていただいております。」
「え?って事は、俺何も着てないの?」
将吾は布団の中を確認する。ローブ一枚羽織っている状態であり、少し恥ずかしかったが過ぎた事だと自分の羞恥心を押し殺す。そして次に気が付いたのは、刀と荷物が無い事であった。
「ねぇ、俺の持ち物は?」
「申し訳ございません。刀がありましたので、安全の為にお預かりさせて頂いております。この洋館の中では必要ありませんので、傷が癒えて洋館を出る際にお返し致します。」
「まぁそういう事なら…。」
自分の荷物が手元にないという事が少々不安ではあったが、そこをぐっと堪えて妹のサユが持って来た服に着替える。
「あのさ、この服装って…。」
「執事服ですが、何か?」
「お似合いですよ?」
「そこ何故疑問形?」
「この屋敷には私とサユしかおらず、女性服はあるのですが、男性の服は昔働いていた執事の衣装しか残っていませんので、申し訳ございませんが、服が乾くまでその服でお過ごし下さい
。」
服装の影響か、背筋がピンとなる感覚に追いやられ、客人として過ごせと言われたが、どうしても身体が勝手に洋館内の仕事をしていた。
洋館の中の掃除から庭の手入れ、そして食事の支度等、様々な事を熟していった。
「客人でもありますし、怪我人であるあなた様にこの様な事をしてもらっては困ります。どうぞごゆっくりと安静にしていてください。」
「まぁそんなに深い傷じゃ無かったし、ジッとしてるのはどうも性に合わなくてさ。それにこんな広い所に二人で住んでいるんだろ?掃除だけでも大変でしょ?」
「そんな事はありませんよ。ちゃんと分担してるので、大変という程でもありませんよ。」
「へぇ、ちなみに役割分担はどんな感じに分けてるの?」
「掃除と洗濯と料理は妹のサユがやり、買い出しは私がやっています。」
「…え?」
「はい?」
「いや、バランス可笑しいでしょ。」
「妹は姉妹以外の人と話すのは苦手ですので、こうやって今もお客様のお相手も私の役割分担の一つとしております。…それと、他にも私の担当はありますが、それは今は言わないでおきますね。」
サヤは自分の右手人差し指を舌で舐めながらそう告げる。何か艶かしい雰囲気があったが、あえてその事には触れない様に将吾は黙々と庭の手入れをしていた。
夕暮れになる頃には、庭も綺麗に剪定もされ、窓も夕日に反射して庭を輝かせていた。
「見違える程の綺麗な庭になりましたね。サユではここまでは出来ませんわ。さぁ、そろそろ夕食の支度も済んだ頃だと思いますし、お食事に致しましょう。」
将吾はサヤに連れられて、食堂へと向かう。テーブルには豪華な食事が大量に並んでおり、とても三人の量とは思えない量だ。
「お客様にはたくさん食べてもらって傷を癒して頂かないとと思って肉料理を中心にたくさんお作り致しました。たくさん食べてくださいね。」
「さすがにこの量は食べ切れないと思うんだけど…。」
「遠慮なさらずに、どうぞお召し上がりください。残ってももったいないですし。」
将吾は心の中で思った。「雅史がいたらこの量は一瞬で食べ尽くすんだろうなぁ」と。そう思いながらも出された料理を口にする。どの料理も美味しく、自分でも作れるかサユに聞きながら食事を進める。
しかし、食べても食べても、料理は次から次へと運ばれ、ちっともテーブルの上が空かない。
どんなに将吾が「もう無理…。」と訴えかけても、「たくさん食べないと癒える傷も癒えないですよ。」と言われフォークに突き刺した肉を「はい、あーん」と言いながら将吾の口元へと運ぶ。将吾も仕方なく口を開けて肉を食べるが、実際お腹ははち切れそうになっている。女性から「はい、あーん」とされるのは男としては喜ばしい事なのだが、お腹の状態が状態なだけに拷問としか思えなくなっていた。
「(誰か助けてー!)」
それからどのくらい時間が経ったのか分からないが、ようやく解放され客間へと戻り、苦しさのあまりベッドで横になっていた。
「序盤に食べた料理のレシピや味は覚えてるけど、後半は味も分からなかったなぁ…。く、苦しい。」
将吾は懐に忍ばせていた胃薬を飲み、少し睡眠をとろうと目を閉じる。
そのまま意識を失い、気が付くと真夜中になっており、辺りの明かりは全て消えており、洋館内は真っ暗で不気味に思えた。将吾はホラーが苦手だ。お化け屋敷に行ってもすぐに気絶してしまう程の苦手さで、既に今も怖さで足が震えそうである。それにサヤとサユ、そして自分を入れて三人しかいない大きな洋館とあれば、さらに恐怖は倍増していく。気を紛らわそうと将吾は必死に思考を巡らせる。
しかし、将吾は横から視線を感じ、ふいに顔を横に向ける。感じる視線の元が何か確認できた瞬間、将吾は恐怖で思考が停止した。
視線の主。それは自分よりもふた回りは大きい巨体の鬼が将吾をジッと見ていたのだ。




