~聖女の知識~
「人狼の事を知りたいのですか?」
憲明の前に現れたのは、修道女の服を着た自分と同い歳くらいの女性だった。
「あんた、たしかあの処刑の時に神父の隣にいた…。」
「はい、セクラと言います。ウフル様の元でシスターとして仕えています。」
「俺は憲明。それであんた人狼について何か知っているのか?」
「…多くは知りませんが、人狼がこの街に現れてからの事や街の皆さんが口を閉ざして話さない事はお話出来ます。」
「…立ち話も何だし、場所を変えようか。」
憲明とセクラは宿に戻り、空いている部屋に入った。出来るだけシンゲンとマリアの居る部屋からは離れた部屋を選び、椅子に座る。
「悪いんだけど、お茶を出すくらいのもてなしくらいはしたいんだけど、よく分からなくて。」
「大丈夫ですよ。私がさせていただきますから。」
セクラは備え付けられていたヤカンでお湯を沸かし、手際良くお茶を淹れた。
「五日前の事でした。このアンプロの街に科学者と名乗る男と大柄な男。この宿の亭主を処刑台へと運んだ男の方なのですが、名前をジャリパーと言うのですが、その二人がこの街にやって来てから人狼が現れ出しました。」
「あの大男か。さっき少し話したが、友好的に感じたが、俺はどうも好きにはなれないタイプだな。」
憲明はセクラの淹れたお茶を一口飲み、セクラの話を聞く。
「そして、その日の夜に事件は起こりました。被害者は雑貨屋の男性。酒屋でお酒を呑んでいる所に突如人狼が現れて、雑貨屋の男性をズタズタに引き裂いて腰から下を喰い千切ったのです。その場にいた男達は人狼を退治する為に武器を持って人狼を攻撃しましたが、科学者のいる仮設研究施設の近くで人狼を見失ったのです。そこで人狼は科学者だったのではないかと裁判になり、ノリアキ様も見たと思いますが、本日の宿の亭主と同じ様に処刑されました。」
「待った、どうして科学者が人狼って事になるんだ?ジャリパーって奴は?」
「その科学者が研究していたのが、融合生物フュージョニアの研究をしていたからです。もちろん疑いの目がジャリパーにもありました。ですが、彼にはアリバイがあったのです。その時、酒屋にはいたのですが、奥の部屋で、私の同僚のシスターをその…。」
「あぁ、ヤっちまってたと。」
憲明の言葉に、セクラは赤面しつつ俯きながら縦に頭を振る。
ジャリパーという男は酷い奴だという事がその事から明確だった。
「彼女の同意の元ではなく、ジャリパーさんが強引にだったと聞いています。翌日、懺悔室で告発しているのを私が話を聞きましたので。」
「アリバイはあるが、一番怪しいのはジャリパーって男だな。」
「裁判でもジャリパーさんに疑いの目がかけられました。しかし、科学者の身体には大量の人狼の毛が、そして口の周りには大量の血が付いていたのです。そして科学者はその姿で仮設研究施設で寝ていたので、彼の犯行という事で処刑され、事件は解決したと思ったのです。ですが、その夜にまた人狼が現れ、人々の目の前で孤児の少女を丸呑みにしたのです。その孤児の少女は教会で面倒を見ており、私もよく知る大人しい少女でした。」
「そこで犯人がその科学者じゃなかったって気付いたって訳か。」
「そして再び裁判が行われました。次に被疑者として名前が出たのが、私の同僚でした。彼女はその晩少女と一緒にいたので、犯行は彼女しか不可能でした。同僚の彼女も普段は大人しくて、虫も殺せない優しい子だったのですが、ウフル様の判決は絶対ですので、同じくあの処刑台で…。」
憲明は、この話の中で怪しいのは神父のウフルと科学者と共に来た大男のジャリパーだと思った。
「その時ジャリパーは?」
「宿の亭主の娘さんと…。」
「…またかよ。」
再びセクラは赤面しつつ俯きながら話を続ける。
憲明も少々呆れつつも話を聞く。
「今回は同意の元だったと聞いています。宿の亭主の娘さんは翌日の懺悔室で父親に告げられない事を悩んでおり、その事を告げに来てましたから。」
「ジャリパー…。あいつの何処が良いのか分からんね。」
憲明は頭を抱えため息をつく。どこにでも見た目によらずゲスい人間でも人に好かれる存在はあるものなんだなと納得せざる得ないと思った。
「それには私も同意ですが、娘さんには愛しの相手だったみたいです。そしてその夜には街の保安官が首から下を喰い千切られて殺されました。彼はその夜、ジャリパーが人狼ではないかと疑っており、彼のいる仮設研究施設に向かうと友人に話していたそうです。」
「その時は誰が人狼として、処刑されたんだ?」
「ウフル様のお父上様が、ウフル様によって処刑されました。」
憲明は顔が引き攣った。実の親を裁判で判決を下すのは私情が挟まる為にしてはいけないはずだが、それを処刑までとなるとウフルの人格を疑ってしまう。
「そしてその次の夜は宿の亭主の娘さんが下腹部を喰い千切られ殺されました。」
「ちなみにジャリパーは?」
「今回の人狼の被疑者となった精肉屋の亭主の奥さんと夜を過ごしています。」
「毎夜毎夜って、どれだけタフなんだよ。」
ジャリパーの行動が毎度となくアリバイがあるのが気になるが、ウフルも怪しい。この二人には要注意だなと思いつつ、再びセクラの淹れたお茶を飲む。
「そして昨夜の事件って訳か。」
「そうです。被害者は農家の青年で首を一呑みと聞いています。そしてあなたも被害者でしたね。」
「あぁ、危うく喰い殺されかけたけど、生きてるよ。」
「人狼の被害者であなたが初めての生存者ですよ。」
「さぞかし、人狼は悔しがってんじゃないか?初の仕留め損ねなら今夜あたりリベンジに来るんじゃないかな?」
気が付くと日も傾き、夕方になろうとしていた。憲明はセクラを教会まで送る為、再びセクラと宿を後にする。その道中、憲明達はジャリパーが女性を連れ込もうとしている所を目撃した。
「お、冒険者さんか?お前も一緒にどうだい?」
「は?お前とは今夜じゃないのか?」
「何の事だ?俺は男とやる趣味はねぇよ!俺が男を抱くのは処刑台に連れていく時くらいさ。」
「ジャリパーさん、お相手の方は嫌がっておられるのでは?そうであれば私は見過ごす訳にはいかなくなります。」
憲明はお互いが同意ならそのまま見逃すのかよと思ったが、ここはぐっと我慢する。それよりもジャリパーの言動や行動に答えが無いかと意識をジャリパーに向けていた。
「いえ、これは私が望んだ事ですから…。」
「そういう事だ。修道女さんは何も見てないって事にしてくれれば良いんだよ。修道女さんも俺とやりたいのなら時間は作るけどな。それと冒険者さん、確かノリアキとかいったか?あまりこの街に関わらない方が長生きする方法だ。でなきゃ人狼に喰われて終わっちまうぞ。」
「その時はちゃんと退治してやるさ。まぁ人狼じゃなくてもここじゃ人を食っている輩はいるみたいだからな。」
「もしお前が人狼だとウフル様がお決めになったら処刑台でその首はねてやるよ。」
「じゃあその前に真犯人とやらを探してみますかね。」
憲明とジャリパーはお互いに挑発しあい、その場を後にする。
そして夜が訪れ、人狼の犠牲になったのは、ジャリパーの方であった。




