~父と子の想い~
憲明は、シンゲンとマリアを連れ、アンプロの街を目指していた。
ーーーーアンプロの街に向かう前日。
「だから、ちゃんと戻ってくるから二人共大人しく留守番してなさい。」
「嫌だ。僕達もついて行く。」
「…お父さんと、離れたくないの。」
「観光に行くんじゃねぇんだから、危ないっての!何で分かってくれないんだ。」
憲明は頭を掻きながらどう説得したものかと悩んでいた。
「俺はお前達には争いとは関わらせたくねぇんだ。とても危険だし、お前達にもしもの事があったらと思うと気が気じゃないんだ。」
「大丈夫。僕達も戦えるよ。危ないって思ったら避難する。僕達だってお父さんの役に立ちたいんだ。」
「困ったなぁ…。(朝早くにこっそりと行くしかないか?)」
憲明は「仕方ない」と言い、その場はシンゲンとマリアの要求を飲む事にした。
「ちゃんと俺の指示には従うんだぞ。」
「「はい。」」
憲明は自分の荷物をチェックし、将吾からマヨネーズを受け取る。
「やっぱこれが無いとな。」
「まさかマヨネーズの文化が無いとはね。作り方知ってて良かったよ。」
「将吾がマヨネーズの作り方知らなかったら、俺はアースでMPが切れて野垂れ死んでたな。」
「材料も手軽に手に入るものばかりだし、俺がいる時は用意しとくよ。雅史からは「邪道な物だ」って言われそうだけどね。」
「たしかに。」
マヨネーズも鞄に詰め込み、出発の準備も万端に整った。というよりも荷物の殆どがマヨネーズで占めており、この荷物で大丈夫なのだろうかと将吾は不安に思っていた。といっても、マヨネーズはカロリーが高い分、貴重な食料でもある為、餓死する事は無いだろう。胸焼けは間逃れないとは思うが。と将吾は内心思っていた。
「ホントにシンゲンとマリアを置いてくの?」
「あぁ、あいつ等を危険に巻き込む訳にはいかないからな。」
「確実に帰ってきた時怒られるぞ。」
「危険な目に遭わせるよりマシだ。だから明朝早くに出発しようと思うんだ。寝坊しない様に早めに寝るわ。あと起こしてくれよ。」
将吾は「ハイハイ」と軽く頷き、憲明が自室に戻るのを見送った。その様子を影からシンゲンとマリアは盗み聞きしており、将吾もそれに気付いており、シンゲンとマリアの元に歩いていった。
「シンゲン、マリア。お父さんの気持ちも分かってあげなよ。大切だと思うからアイツは残る様に言ってるのは分かってるよね?」
「うん。でも、僕達をちゃんと人として見てくれた初めてがお父さんなの。だからこの力でお父さんの役に立ちたいんだ。」
「俺や啓太達も君達のお父さんと同じ意見だ。それに君達が行けば憲明は君達を守りながら戦う事になる。戦いに専念出来ずに隙が出来てしまうかもしれない。お父さんの邪魔はしたくないだろ?」
「でも、でも僕達も戦えるし、数は多い方が良いんでしょ?この力をお父さんの為に使いたいんだ。」
必死に訴え掛ける二人に将吾は根負けし、二人にお弁当を渡した。
「傍に守るべき存在がいたり、応援する声があれば人って更に強くなれるからね。その想い、忘れずに無茶はせずにって約束してくれるなら、このお弁当を持って鞄の中に隠れておきな。」
「ありがとー、ショーゴ!」
「ありがとうショーゴお兄さん。」
「お兄さんだなんて。何か小っ恥ずかしいけど。とにかく無茶はしない事。」
将吾は二人を憲明の鞄に隠し、将吾も自室で休んだ。
翌日、朝早くから将吾は憲明の出立の為、憲明を起こして準備を済ませた。
「アイツ等、起きてないよな?」
「あぁ、まだ寝てるみたいだ。」
「置いていくのもな。辛いけど、あの子等をもう危険な目に遭わせる訳にはいかないからな。」
「なら守ってやれよ。それだけの力はお前だって持ってるだろ?自分の力を過信し過ぎるのは良くないけど、信じろよ。もっと自分の力を。あの子達を。」
「そうだな。でも、今回は将吾もあの子達を起こしに行くなよ。…にしても重過ぎるだろ。馬借りれるか?」
「分かってるよ。じゃあ気を付けて。」
憲明は馬に荷物を載せてアンブロの街へと出立した。
「俺は起こすなって言われたから、起こしてはないぞ。あぁ絶対帰ったら怒られるな。俺も自分の支度しないと。」
将吾は自分の支度を済ませる為に再び自室へと戻って行った。
それから数時間が経ち、アンブロの街が見えてきた時だった。ちょうど昼食にしようと荷物から食料を取り出そうと鞄を開いてみると、そこにはシンゲンとマリアが眠っているではないか。
「お前達、何で鞄の中にいるんだ…?」
「あ、お父さんおはよう」
「おはよう…じゃなくて、何で鞄の中にいるんだよ。」
「昨日一緒に行くって約束したじゃないか。忘れたの?」
「だからって何で鞄の中に?」
「お父さん、僕達を置いて行こうとしたでしょ?だからショーゴが鞄に入れてくれたんだ。
「…将吾の奴、帰ったら焼き殺す。」
付いて来てしまったなら仕方ないと諦めつつ、将吾には後でお急を据えなければと思った。
アンプロの街に向かう道中もモンスターや賊に出会う可能性は低くない。むしろ多いといった方が納得のいくくらい憲明達はエンカウントしていく。
憲明達がアンプロの街に到着したのは、既に夕方になっていた。祐斗の話によると人も多く活気ある街だと聞いていたが、冷たく静かな街で、まるでゴーストタウンの様だ。
「今日は宿でもう休もう。明日から色々情報を集める事にしよう。」
憲明は、街の入口にある宿屋の横にある馬小屋に馬を預け、シンゲンとマリアを連れて宿屋に入って行った。
「一部屋借りたいんだが、空いてるかな?」
「お客さん、今アンプロに辿り着いたのかい?」
「あぁ、ついさっきね。」
「あなた達は、なんて幸運なんだ。日が暮れる前に辿り着けて。」
「何かあったのか?」
宿屋の亭主は、少し間を開け、重たい口を開く。
「…最近、このアンプロの街は、日が暮れると人狼が出るんですよ。だから街の人は皆日が暮れると誰も外に出なくなるんですよ。ウチもそろそろ閉じようとしてた所で。」
「人狼?」
「はい、毎夜人狼が街の人間を喰らい、この街も随分と人が減りました。元々は人も多く、明るい街だったのですが、人狼が現れる様になってからは、この街も静かになりまた。人狼は日が昇っている間は人間の姿でこの街で暮らしているみたいなのですが、人狼が誰なのかも判らず、人々は疑心暗鬼になってしまっています。そこで、街の教会の神父様が、朝になると皆を集めて誰が人狼なのかを裁判で探し出すんですよ。人狼と決め付けられた者は、正午になると処刑され、また日が暮れると人狼が現れて人を喰らいます。その日々が続いているんですよ。」
「まるで魔女裁判だな。しかも人狼を特定出来てないじゃんか。」
「そうなのです。だから街の者はみるみる減っているんですよ。」
憲明は厄介な事に巻き込まれてしまったなぁと思い、やはりシンゲンとマリアを連れて来たのは失敗だったと、将吾を恨んだ。
「とにかくその人狼が現れる前に街に辿り着けたって事でまずは一命をって感じなんだな。…それで部屋は空いてるのか?」
「むしろお客がいなくて商売あがったりなんですよ。お客さん達以外は誰も客はいないので。」
憲明は部屋に入ると、シンゲンとマリアをベッドに座らせた。
「いいか?どうやら人狼っていう怖い奴が夜は出るらしいから、絶対にこの部屋から出ちゃダメだぞ。」
「マンティコアにキメラ、そして人狼が出たって、やっぱ僕達フュージョニアのデータから生まれた生物なのかな?」
「お前達は何も悪くないさ。もしフュージョニアと関係があるとしても、それを悪用したり、人を傷付ける事しか考えてない奴が悪いんだ。お前達は人を傷付ける事はしないだろ?だから大丈夫だ。」
「でも、もし僕達と同じ様に苦しんでいるとしたら助けてあげたいんだ。望んでもいない力を無理矢理与えられて兵器として使われているなら助けてあげたいんだ。」
シンゲンの言葉にマリアも頷く。
「シンゲン、マリア。俺はお前達を危険な目に合わせたくないんだ。まさかこんな事になってるなんてな。まぁとにかくだ。今日は休んで明日から情報を集めよう。祐斗もこの事は把握していなかったみたいだし、情報がまず必要だ。」
その日の夜中だった。
窓が開いたのか、冷たい風がヒューッと入ってくる。
憲明は身震いをして、目を覚ますと目の前には自分よりも一回り大きい狼が目の前で涎を垂らしていた。
「じ、人狼っ!?」
「旅人ヨ、幸運ダッタナ。コノ私ニ喰ワレル事ヲ光栄ニ思ウ事ダナ。」
人狼がそう言うと、憲明の首筋に向かって牙を向ける。逃げようと必死に藻掻くが、両腕と両脚を押さえ付けられており、抜け出せずにいた。
もうダメだと思ったその瞬間、憲明と人狼の間に割り込み、人狼に一撃を与えた。
「天牙理心流、衝波っ!」
それは将吾の使う天牙理心流の技だった。月明かりと、ようやく暗さに目が慣れて見てみると、そこにはマリアの姿があった。
マリアは一度見た体術を自分の技として使える能力を持つフュージョニアであり、将吾の戦いを見て、相手の体内に自分の気を注ぎ込み内部から衝撃を与える技である衝波を会得していたのだ。
「お父さん、から、離れてっ!」
過去に様々な人間から酷い事をされ、言葉を殆ど失っていたマリアが言葉を発し、憲明は少し感動に浸りながらもマリアの一撃で拘束が緩んだ隙に人狼を蹴り飛ばす。
「マサカ、コンナ子供ニコレ程マデ戦闘力ガアルトハ…。今夜ハココマデトシヨウ。夜ガ明ケテシマウ。」
人狼は怪しげな笑みを零しながら窓を突き破り、闇へと消えていった。
「…あれが、人狼か。」




