~奏でる六重奏~
「…で、これからどうするかだな。昌宗がいるって事は、啓太達もこっちに来ている確率は高いと思うんだ。ただ手掛かりがない。それに俺は自分の力を上手く制御出来ないから、戦いになったらさすがにマズい。メイド達に情報収集させて、俺達は修行しないか?」
「そうだな。俺もまだこのフェザーウィンド武槍術をもっと極めないといけないし。みんな頼めるかな?」
「マサムネ様のお望みとあらば私達でマサムネ様のご友人達の情報を集めてみます。」
それから憲明と昌宗はお互いに修行を重ね、憲明は炎獄王の力を、昌宗はフェザーウィンド武槍術を自分の物にしていった。
「ヘルフレイム!」
憲明は左指を鳴らし、目の前にある案山子を一瞬にして灰にする。火力の調整も出来る様になり、監獄での戦いや屋敷での戦闘の時の様にただ炎を撒き散らすだけの人間ガスバーナーではなくなっていた。
「これだけ炎を操れれば、大抵の相手には負けねぇだろ。」
憲明は森を散策しながら、体力作りに励む。
すると、急に視界がぼやけ出し、気が付くと、憲明は森の中で一人立っていた。
「あれ?俺は…。あっ、マンティコアの巣を焼いちまってマンティコアが村を襲いに行ったんだった!やべぇ、すぐに追い掛けないと!」
憲明は走り出し、マンティコアを追う。しかし、相手は空を飛んでいる。空を飛べない憲明では到底追い付く事が出来ずに見失ってしまった。
「……にしても、俺はどういった経緯でマンティコアの巣を焼いちまったんだ…?」
憲明は急いで屋敷に戻り、マンティコアの事を説明し、昌宗とシンゲン、マリア、メイド達を連れ、マンティコアを追った。
先にナコとミナが空からマンティコアを追い、飛べない憲明や昌宗達は歩いてその後を追う。
ーーー時は戻り、レクエム村の食堂。
「っと、まぁそういう事でここまで追いかけて来たって事だ。」
「…おい、って事は、あのマンティコアって…。」
「そういえば、俺の追っていたマンティコアをレクエム村の男二人が倒してくれたって話を聞いたな。まぁ意外と何とかなるもんだな。俺が巣を焼いちまって怒り狂ったマンティコアを止めてくれたお人よ…いや心優しい人がな。」
「憲明!お前のせいだったのかーっ!お陰でこの村がどれほど被害を受けたと思ってるんだっ!」
祐斗はマンティコアの暴走の発端が憲明だった事を知り、憲明に怒りを分厚い本の角に込めて思いっ切り叩き付けた。
ボコォッ!
「ギャァァァァァァァッ!」
物凄い音と共に憲明が悲鳴をあげる。憲明の頭部に大きなタンコブが腫れ上がり、凄まじい威力を物語るかの様に湯気が上がっていた。
「…それと、この周りにいるメイドはここの従業員って事じゃなくて。」
「ああ、俺のメイドだ。」
「答えは聞きたくなかった…。」
祐斗は溜め息をつきながら辺りを見渡す。よくよく見ればこのメイド達もテーブルで食事をとっているではないか。むしろこの食堂にいる客が憲明と昌宗の連れという事に気が付き、頭を抱えた。
「あの、村長。こちらの方々が村長の知り合いだから支払いは村長にと…。」
店の亭主が祐斗の所に領収書を持ってやってくる。
その金額に背筋が凍り、「済まないが後日払いに来るからツケにしておいてくれ。」と言い、全員を店から連れ出した。
「お、ま、え、ら、なぁっ!無事に六人揃ったのは嬉しいが、俺がギャンブルや村人の依頼をこなして貯めた折角の軍資金を使い切りやがって…。」
「村人の依頼をこなしてたのは俺だぞ祐斗。」
「五月蝿いっ!そんな細かい事は今はどっちでもいいんだ。」
「だって、お前がやったのって、チンピラやこそ泥からお金を巻き上げてただけじゃないか。」
「「「「うわぁ…容赦ねぇ…。」」」」
「お前達、そんなに命が惜しくないという事だね。答えは聞かないけど。そりよりこれか?」
祐斗はポケットから1枚のチラシを取り出す。そこには《摘出・摘出!あなたの臓器、売りたい買いたい奪って狩りたい!オーザカクリニック病院 あなたの臓器高く買います安く売ります。》と書かれていた。
「ここにお前達の臓器売りに行ってやろうか?…とりあえず。」
ボコォッ!
「「「「「ギャァァァァァァァッ!」」」」」
啓太、将吾、雅史、憲明、昌宗の頭に大きなコブが腫れ上がり、メイやシンゲン、マリア、メイド達が各々に啓太に憲明、昌宗のコブを労る。
「なぁ雅史、俺達って寂しいな。」
「だな。彼女出来たり、子供が出来たり、メイドときた。」
「次は兄弟が出るか、親フラか。」
「後者は特に嫌だな。ちなみにな、祐斗も彼女持ちなんだぜ。」
「はーい、ユートさんの嫁のヘリスです!」
そう言って飛び出し出来たのはへリスであった。
「勝手に俺の戸籍を偽造するのはやめろ。」
「そんな事ないですよ~。この前、"へリスは俺の嫁、ぐへへ~"って言ってたじゃないですか~。」
「俺はそんな事言わない。お前も命が惜しくないという事だね。答えは聞かないけど。」
祐斗は銃口をへリスに突きつけ、へリスはハハハと笑いながら「冗談ですよー。」と銃口から逃れる。
「で、何の用だ?」
「そうなんですよ。今、近隣に出ていた斥候部隊から連絡があって、サンクチュアリ軍がこちらに向かっているとの事です。」
「どこからだ?」
「北の山からです。」
「上から一気に攻め込むという事か。良い手だが相手が悪かったな。啓太、将吾、雅史、憲明、昌宗。君達の力をちゃんと確認出来るいい機会だ。迎撃に出るぞ!」
「え?祐斗は?」
「…わかったよ。俺も出る。俺の能力もちゃんと見せておくか。メイと憲明の子供と昌宗のメイドはヘリスと一緒に家に戻ってるんだ。」
「六人で迎え撃つんですか?いくらユートさんとマサシさんが強くて、お連れの方々もそれ相応の実力の持ち主とは思いますが、無謀ではないですか?」
祐斗はニヤリと余裕の笑みを零しながら、ヘリスに答えた。
「十王神の力というのが伊達じゃないのをここで示しておくよ。簡単に俺達のステータスは確認したし、負ける気はしないよ。」
祐斗は啓太達を連れて、村の北側へと向かう。
レクエム村の北側は平原があるが急な坂になっており、攻め込まれやすい位置になる。
サンクチュアリ帝国軍が山の麓から一気に駆け下りながら進軍してくる。目指できるだけでも三十人程の部隊であった。人間だけでなく、巨人種に獣人、ゴブリン様々な種族が見受けられる。
「まずは俺から行かせてもらうぞ。」
昌宗は槍を構えて、魔力弾を装填していく。
「フェザーウィンド武槍術、投槍!」
投擲する様に勢いをつけ、槍から放たれるエネルギーを攻め込んでくる部隊に放つ。槍型のエネルギー弾は真っ直ぐにサンクチュアリ軍の部隊に向かって飛び、部隊の真ん中で爆発し、数人を吹き飛ばした。
「ま、王の力を持ってなくても俺は強いからな。ちゃんとお前達にも見せ場を残す為に手加減しといたぜ。」
「じゃ、お次は俺達が行くとしますかね。行くか将吾!」
「え?いきなりコンビネーション技かよ。」
憲明は昌宗を飛び越え、敵陣に向かって単身で突撃していく。それを追うように将吾も走り出す。
「天牙理心流、斬無!」
将吾は左手に持った刀で先陣の兵士に一閃を浴びせる。その瞬間に右腕に持っていた憲明の鎖を引っ張り、憲明を敵陣の中心部へと投げ込む。憲明は着地すると同時に左指を鳴らし、左手に炎を宿す。それに気付き、敵兵は大盾を構え、攻撃を防ごうとする。
「こ、こいつ特攻爆弾かっ!」
「真偽っ!」
憲明の台詞を合図に瞬時に将吾が鎖を引く。憲明は勢い良く宙へと飛び、啓太達のいる陣地へと飛んでいく。それを見た敵兵は今の攻撃がフェイクだと思い、憲明に追い討ちをかける為、大盾を投げ、大剣で斬り掛かろうとする。
しかし、次の瞬間に憲明が技名を発した場所が爆発し、敵兵は爆発に巻き込まれ、全身の皮膚が火傷で焼け爛れ、痛みと熱に耐え切れずその場に蹲ってしまった。
「な、なんだ、と…フェイクじゃ、なかったのか。」
「へっ!攻撃すると見せかけてフェイント、そしてフェイントと見せかけて油断した所を一気に爆発させる。これが俺の得意技、真偽だっ!それに俺と将吾のコンビネーション技はまだ続くぜ!」
憲明は自身が宙を飛んでいる最中に鎖を引き、将吾を敵陣に投げ込んだ。
「天牙理心流、刺天!」
将吾は着地すると同時に敵兵の右肩を刀で貫く。
「「これぞ合体技、紅蓮乱舞だ、」」
「俺達も負けてられねぇなっ!祐斗!」
「じゃあ俺達もコンビネーション技でいこうか?答えは聞かないが。」
祐斗は雅史の目の前に次元の裂け目を作り出す。雅史はそこに向かって拳を放っていく。
「ガン・ラッシュ!」
雅史の拳の一撃一撃が次元の裂け目を通じて敵兵の目の前から零距離で一撃を浴びせていく。
「「名付けて、ビートブラスターだっ!」」
雅史と祐斗の合体技により、殆どの兵達を倒していった。残るは巨人種が二体と指揮官らしき兵士のみとなっていた。
「たった数人に我が部隊が全滅…だと…。」
「あとはお前だけだな。」
啓太はカードを取り出し、二体の巨人に投げ付ける。巨人の身体に突き刺さると、カードは光になって弾け、光から触手が生え出し、巨人の身体を締め上げる。触手の生え出した中心部からは巨大な植物が出現し、締め上げた巨人を丸呑みにした。
「そ、そんな…、巨人までも…。まだ戦闘してそんなにも経ってないというのに。」
指揮官は馬を走らせ、一人撤退していく。
「どうする?深追いせず見逃す?仕留めるならこの植物達に捕えさせるけど。」
「アイツがここには強者がいるから簡単には攻め落とせないと上に伝えれば、少しの間はここを攻めようとはしなくなると思うから、ここは逃がそう。というか、啓太。話には聞いてたけど、君の魔法が一番怖いし、容赦ないな。この肉食植物といい、魔竜といい、そして終焉魔法…。たぶん一番敵に回しちゃいけないのが啓太、君だと思うよ。」
啓太はカードで出現させた植物を、再びカードに戻し、六人はメイ達の待つ村長である祐斗の家に戻っていった。
「でも、これは僕の魔法というより、魔法を封じ込めたカードを使っているだけなんだけどね。手榴弾を使っているって感じで。僕の得意とする終焉系の魔法は個に対して使うものが少ないから。」
「対軍?いや、対界魔法って事?」
「まぁどちらかと言うと対界の方なのかな?」
「「「「「(やっぱ啓太は敵に回しちゃダメだ)」」」」」
将吾達は啓太だけは敵に回さない様にしようと各々が心に誓った。
ーーーーーーーその頃、サンクチュアリ帝国領、サンクチュアリ城下。
「青の魔法詠唱者ケイタ?まさかあの啓太じゃないだろうな?あの大学では特に目立たない奴が魔法詠唱者だなんてあり得ないだろ。なら俺は勇者じゃないと割に合わねぇ。」
ボロボロの服を纏った青年が壁に貼っってある手配書を見て苛立ちを表に出している。
「それに忌むべき者メイ…だと?こんな良い女、啓太には似合わねぇよ。俺がこのメイって女と一緒に旅をするはずだったんだ。今の俺の立ち位置はきっと神様が俺と啓太を間違えて配置したんだ。そうに違いないさ。この間違いは修正しないとな。」
彼は晋司。啓太達と同じ大学で、啓太と同じ学部。大学にいた頃は女性からもモテ、注目の的
な存在であったが、大学長によってアースに舞い込んでしまってからは、サンクチュアリ帝国に囚われ、奴隷として帝国の城下で酷い生活を送っていた。
「おいシンジ!何をやっている。早くこの荷を持っって行かんか!」
「申し訳ございません旦那様。すぐに運びます。」
晋司は自分を買った貴族の言われるがまま、樽を馬車へと運ぶ。
「こういう仕事は俺の役じゃない。啓太みたいな凡人がする事なんだ。早く勇者としての役に戻らないと。」
晋司は苛立ちの表情でブツブツと独り言を発しながら樽を運んでいった。




