~勇敢たる仇返し~
憲明がシンゲンとマリアと共に監獄から脱獄したその頃、昌宗は大きな屋敷にいた。
この異世界、アースに到着した時、この屋敷の主人に運良く拾われて、客人として丁重に扱われていた。
「ホント悪いな。ご主人。こんなに良くしてもらって。」
「困った時はお互い様だよ。この屋敷にはメイドはいても男は私だけだからね。男手が欲しいと思ってた時にマサムネ君が私の屋敷の前で倒れていたからね。力仕事してもらって助かってるんだ。」
昌宗はへへへと小笑いしつつ、「まぁな」と言って頭を搔く。
「困った時はお互い様だろ?俺は助けられた分を返してるだけさ。それに護身用にって戦い方まで教えてもらって。」
「フェザーウィンド武槍術。でも、マサムネ君がフェザーウィンド武槍術の才能があるとは思わなかったよ。その力があれば、サンクチュアリ帝国の将軍にだってなれるんじゃないかな?」
「悪い。俺はもしかしたら来ているかもしれない仲間達を探さなくちゃいけないんだ。」
「残念だな…。君程の実力があればカイ様の右腕にもなれるのに。」
昌宗は「悪い悪い」と言いながら食事を済ませ、屋敷の主人から頼まれた力仕事に取り掛かる。
荷物運びに蔵の整理、屋根の修理にと昌宗はせっせと仕事をこなしていった。
そんな中、憲明達は屋敷近くの森をさ迷っていた。
「監獄から出て、何日経ったんだ?」
「今日で十日目だよ、お父さん。」
疲労困憊な憲明に答えたのはシンゲン。マリアは大人しくシンゲンの後ろをトコトコと歩いている。
「あれから十日も経ったのか…。流石に水だけじゃ腹は膨れねぇよな。せめて喰えそうな動物でもいりゃ俺が焼いてステーキにでも出来るのに。それかどっかに街とかあれば良いんだが。」
憲明は辺りを見渡す。しかしあるのは、木、木、木…。森だから仕方ないと思いながら必死に目を凝らして探しながら進んでいく。
それから数時間程歩いた所で、マリアが憲明の服の袖を掴む。
「ねぇ、お父さん。」
「ん?どうしたマリア。」
「あそこに煙が上がってるのが見える。」
マリアが指さした方角。その先に視線を向けると、たしかに煙が上がっている。きっと人が住んでいるに違いない。そう思い、憲明はシンゲンとマリアを担ぎ、煙の上がっている方角へ走り出した。
煙が上がっている場所に着くと、そこは大きな屋敷が建っており、嘸かし裕福な人間が住んでいるのだろうと思える立派な屋敷だった。
「でけぇ屋敷だな。」
「おい、お前。ここで何してる?」
憲明が屋敷を眺めていると、背中に槍を突き立てられた。
「いや~、別に怪しいもんじゃないぞ。森で迷って煙が見えたから来てみただけだ。」
「囚人服を着た奴のどこが怪しくないんだ?どう見ても脱獄者だろ?」
「あ、それは監獄から出る時に元々着てた服ごと丸焼きにしてしまって、着るものないから仕方なく着てるんだ。」
「やっぱ脱獄者じゃねぇか!」
「違っ!気が付いたら監獄にいたんだよ!それで出てきただけだ。」
「監獄から勝手に出てきた奴を脱獄者って言うんだよ!」
憲明は背中に槍を突き立てられながら屋敷の住人と言い合いを続けている。監獄から出る際にその場にあった囚人服を着ており、それにシンゲンとマリアを連れている。囚人服を着た男が子供二人を連れて森をさ迷っている。その光景は誰がどう見ても怪しいとしか言い様が無かった。
しかし、憲明は屋敷の主人と言い合いをしている内に相手の声に聞き覚えがある事に気が付いた。
槍を腹に突き刺されない様にゆっくりと振り返ると、そこには昌宗がこちらに槍を突き立てているではないか。
「は?昌宗?」
「の、憲明か?」
憲明は突き立てられた槍が緩んだ瞬間に槍を蹴り弾き、昌宗に飛蹴りをお見舞する。
「昌宗に俺は槍を突き立てられてたのかよ!友に刃を向けるなんてどういう神経してんだよっ!あぁっ!?」
「…違うって!ってか友を飛蹴りで吹っ飛ばすのもどうかと思うけど。」
「そんな事はない。友情の飛び蹴りさ。」
憲明はハハハと笑いながら昌宗を引っ張り起こす。
「それにしても」
「お互いに」
「「無事で良かった!!」」
憲明と昌宗はお互いに拳を軽くぶつけ、再会を喜んだ。その光景を見てシンゲンとマリアはとても不思議そうな顔で憲明を見ていた。
「ねぇお父さん。この人誰?」
「あぁ、紹介するよ。こいつは昌宗。俺の仲間さ。昌宗、この子達はシンゲンとマリア。俺の子供だ。」
「子供か~。…………え?ちょっ、おまっ!何だってぇっ!?」
「だから子供だって。」
「……知らない所に飛ばされて子供作るとか、さすが憲明だな。」
「言っとくけど、お前が想像してるような事は一切ないからな。」
憲明は誰にも聞こえないくらいの小声で「一応な」と呟く。シンゲンとマリアの視線が痛いが、あえて気にしない様にし、昌宗に連れられて屋敷の中へと入っていった。
「おーい、ご主人!俺の仲間が来たんだ。悪いが何か着る物をくれないか?」
「おい、屋敷の主人を顎で使うとか、お前どんな生活してんだよ!」
「だって、勝手にする訳にもいかないだろ?だからこうやって頼んでるんだよ。」
「お前の神経の太さには昔も今も驚かされるよ。」
「良かったじゃないか、マサムネ君。仲間が見つかって。」
屋敷の主人が奥の部屋からやって来る。憲明の姿を見るや否や少し表情が歪んだ様に見えた。
「君、その格好はあの監獄から出て来たのかい?」
「言っとくが、脱獄じゃねぇからな。」
「という事は、その子供はフュージョニアか。すまないが、それは私の大事な研究材料なんだ。返してくれないかな?」
屋敷の主人は憲明に手を差し伸べる。その言葉に屋敷の主人が悪者だとすぐに悟った憲明はシンゲンとマリアを自分の後に隠した。
「お前、あの監獄の主人かっ!」
憲明は激怒し、辺りに炎を溢れさせる。周囲が炎に包まれていき、屋敷は次第に火の海へと変貌していく。
「アイツ、炎獄果実も取られたのか。屋敷を火の海にされるのは困るなぁ。」
「屋敷なんか知ったこっちゃねぇっ!この子達を弄ぶ輩に良い暮らし何かさせねぇよ!」
「お父さん、暑いよ…。」
憲明は我に返る。頭に血が上ると炎が辺りを放出され、辺り一面を火の海にしてしまう。この炎を制御しなければ、見境なく辺りを焼け野原にしてしまう。今はシンゲンとマリアもいる。憲明は冷静に心を落ち着かせ、炎を必死に抑えていく。
「どうしました?一気に焼け野原にするんではないんですか?」
「畜生ぉ、加減が難しいな。」
「憲明、ちょっと待ってくれないか?」
昌宗は槍を取り出し、屋敷の主人に刃を向ける。
「なぁご主人。あんな子供を実験の材料として扱ってるのか?」
「あれを人間と思ってはいけませんよ。それにマサムネ君、あれは私がフュージョニアを作った訳ではないんだよ。私はフュージョニアの技術を流用して新たな種を作るのが私の仕事でね。」
「許せねぇ…、助けてもらった恩はあるが、あんたを倒して実験なんてやめさせる。」
「なら仕方ないですね。片付けなさい。」
「フェザーウィンド武槍術、嵐槍!」
屋敷の主人がそう言い放つと、メイド達が四方八方から昌宗に飛びかかっていく。昌宗は槍を回転させ、勢いをつけてメイド達を薙ぎ払う。
「やはりその力、欲しいなぁ。フェザーウィンド武槍術もそこまで使いこなせるとなると、どのモンスターと合成させても強いフュージョニアになる上物なのに。それとも動物と同調させてシンクロナイザーに、いや君なら更なる高みのエクシルドの材料になるかもしれない!」
「俺を人体実験するつもりだったのか?」
「ここにいるメイド達も、私が開発した動物の身体能力を同調させて作り上げた同調生物、シンクロナイザー!そのトップクラスの九人、On-LeaFs。先程の一撃では彼女達を仕留めたとは言えませんよ。」
辺りに薙ぎ払ったメイド達はムクっと起き上がり、各々に武器を構えて再び昌宗に襲い掛かる。
昌宗は攻撃を受け止めは弾き返し、流石に九人を一度に相手にするのは厳しく、全ての攻撃を受け止めれずに身体を傷つけられていく。
「人間を玩具にしやがって…。アンタはもっと良い奴だと思ってたよ。ご主人さんよぉ!」
「利用出来るの物を利用するのは自然の摂理だろ?それに可能性があるなら試したいと思うのも、また自然の摂理とは思わないか?」
「思わないね!誰かに迷惑をかける事なんて分かっててやるもんじゃねぇだろ!」
「フュージョニアを人として扱うのかい?あれは人ではないよ。」
「亜人種だって、エルフだってノームだって人間だろ?あの子達や、このメイド達だって人間だ!」
昌宗は槍を再び屋敷の主人に向け、一気に距離を詰める。それを妨害しようとメイド達が行く手を阻む。
昌宗は女性を傷付けたくないというプライドがある。それに彼女達と戦う理由がない。それもあり槍の刃は使わずに弾き飛ばすだけにしている為、何度も昌宗に向かって攻撃を仕掛けてくる。
「止めてくれ!俺は君達と戦いたくない。そこをどいてくれ!」
「それは出来ない。私達は主様の命令に従うメイド。貴方を片付けるように仰せつかったのだから、私達はその命令を実行します。」
「人気者だ事だな、昌宗!」
「五月蝿い!憲明は自分の力の制御しろよ!」
「まだ調整が難しいが、これくらいは出来る。動物は火が苦手だ。なら俺とそのメイド達は相性が悪いって事だろ?それならこうするのが正解だろ?」
憲明は両手を昌宗に向けて炎を放出する。両腕から放たれた炎は昌宗の左右を挟む様にまっすぐに燃え上がり、メイド達は回避する為に昌宗から離れた。
「サンキュー!」
「あとは任せるぜ。あの主人をその槍で穿ってやれ!」
「フェザーウィンド武槍術、猛槍!」
昌宗は槍をまっすぐに構え、一直線に屋敷の主人目掛けて突進していく。屋敷の主人は憲明が放った炎に逃げ場を塞がれ、逃げる事が出来ず、槍の一撃をくらった。
「グハァッ!」
「人間を人間と思わないその所業、ここで断ち切らせてもらう。アンタには世話になった。せめてもの感謝に一撃で倒させてもらったよ。」
屋敷の主人は、心臓を一突きで穿たれ絶命した。
メイド達も主人が死んだと同時に戦闘を止め、武器をその場に落とした。
「カッとなっちまったとはいえ、人を殺しちまったよ…。」
「気にするな。俺だってこいつ等守る為に、1人の人間を焼き殺してんだ。それにここは俺達のいた世界じゃないみたいだし、生きる為だ。昌宗、お前の行動は正しかったと思うぞ。」
「…そ、そうだよな?ありがとう。」
昌宗は屋敷の主人だった死体から槍を抜き、丁重に埋葬した。
「マサムネ様、私達はどう致しましょう?」
そう声をかけてきたのはメイドの1人だった。背中には同調させられた小鳥であるのか、小さな羽根がある少女だ。
「昌宗様って?」
「前の主はお亡くなりになられたので、倒したマサムネ様に私達On-LeaFsはお仕えする所存です。」
「いや、君達は自由だよ。むしろ主人を殺した俺を恨むのが普通じゃないか?」
「私達は行く宛もありませんし、前の主に未練もありません。心置き無く私達を使ってくれれば良いんですよ。」
「結構ドライなんだね。憲明、どうしたら良い?」
憲明は囚人服で出歩くのはさすがに要らぬ厄介事に巻き込まれやすくなると思い、辺りから布を集めていた。
「ん?仲間は多い方が良いんじゃないか?将吾がいなけりゃ俺達って料理出来ないし、生活面助けてもらうのは結構助かるぞ。」
「そうだな。たしかにそれは一理ある。じゃあ頼むわ。」
メイド達は元気よく「はい」と返事をし、屋敷の修繕や料理をし始めた。
屋敷にメイドとして働いていたシンクロナイザーのOn-LeaFs。聞けば彼女達は九人姉妹であり、それぞれに同調した動物の個性を持ち、各々に役割が分担されていた。
長女のウサギのシンクロナイザーのジェシカ。長女である為か九人の中では一番落ち着いてはいるが、戦闘時は一番冷酷で武器の大狭で相手を一刀両断する。主に大狭を使って庭の手入れを仕事としている。
次女の猫のシンクロナイザーのノエル。猫のように自由気ままで、メイドとしての仕事はほぼ出来ないが、鈎爪での戦闘力は一脱している。
三女のフクロウのシンクロナイザーのナコ。の知識量は誰よりもあり、いつも読書に耽っている。雷と風属性の魔法に長ける魔法詠唱者である。
四女のペンギンのシンクロナイザーのギン、二刀長剣使いで、主に料理を担当している。
五女の狐のシンクロナイザーのトウカ。ヒミカとは双子の姉であり、冷静沈着でクールビューティなお姉さん的存在である。裁縫が得意で、炎属性と死霊系の魔法に長けている魔法詠唱者であり、鉄扇を用いて戦う。
六女の狸のシンクロナイザーのヒミカは双子の妹で、姉のトウカと違い、慌てん坊のおっちょこちょいではあるが、氷属性と回復系魔法に長けている魔法詠唱者である。
七女の犬のシンクロナイザーのリルは九人の中では一番しっかりとしているが、ここぞという時の詰めが甘い。
八女の小鳥のシンクロナイザーのミナ。普段おっとりはしているが、戦闘となると槍を使い、高速戦闘に長けている。
九女の亀のシンクロナイザーのタルト、On-LeaFsの中では一番幼く、人見知り激しく引っ込み思案な所がある。武器も盾だけで、戦闘向きともいえず基本的には姉達の後ろに隠れていた。
「悪いな。さすがに囚人服だと余計な厄介事に巻き込まれそうだからさ。」
「構わんよ。それにしても渡された資料の"パーカー"という服は不思議な服だな。」
「俺が元々着てた服なんだ。結構気に入ってんだよ。」
憲明はトウカにパーカーを作ってもらっていた。囚人服のままだとこれからもトラブルに巻き込まれかねないので、トウカが裁縫が得意という事で、どうせならと憲明はパーカーの画像を見せて作ってもらった。




