特別捜査班
ここは僕の住む街、長崎県警察本部、市役所と同時に立て替えられ、まだ出来たばかりで真新しくそしてとても広い。
独りで歩いたら迷子になりそうだった。
僕は何か捕まるような事しただろうか?何もしていないような、したような...そんな気がしながらパトカーに連れられてやって来た。
パトカーで連れて来られたら取調室に連れて行かれ、テレビの見すぎなのかもしれないが、殺風景な個室、鉄格子の填まった窓、マジックミラーのガラス、安物の机に椅子、机には卓上型電灯が一つ、警察官二人に取り調べを受けられ、
「お前がやったんだろう、はけ」
「やってませんよ」
みたいな...、そして何故か、はけばカツ丼食わしてやるというセリフを思い浮かべていた。
だが、実際に連れて来られたのは、客室というか応接室のような所で、ドアを開けて1番最初に目に飛び込んで来たのは、大きな窓、そしてそこから見える長崎港、遠くの方に女神大橋も見えていた。
部屋の中央にはガラスばりのテーブルと黒い革ばりのソファーがテーブルを囲むように二人用が二脚、一人用が二脚、それぞれ向かい合って並べられていた。
周りには観葉植物や絵画など並べられ、隣にも部屋が有りそうだが、ここからは見えなかった。
ソファーに座るよう進められたので、断る訳にもいかず、適当な場所に腰を下ろした。
何故、連れて来られたのだろうか?
何でこうなってしまったのか疑問だけが頭をよぎっていた。
暫くするとスーツ姿の女性がお茶とお菓子を持ってきてくれた。
どうやら捕まった訳ではなく、お客という扱いなのかと思うようになってきた。
刑事なのか、秘書なのかは分からなかったが、髪はポニーテールに結ばれ、スーツは動き易さを重視しているのか短めのズボンに、上は肘まで袖を捲っていたので、手足の細さに肌の白さが目立っていたが、腕が女性らしく柔らかいというよりかは、鍛え上げられ筋肉質になっているように見えた。
背は160センチくらいか、年齢は20~30くらい。
顔は...、可愛い方だと思うけど、僕の好みではないな。
そんな事思いながら、折角出されたお菓子を勿体無いと感じ食べていたら、突然、入り口の扉が開かれ、一人の男性と一人の女性が入って来た。
「すまない、待たせたな」
そう言って入って来た男性は、歳は30過ぎだろうか?
見た目、エリートという感じでスーツもビシッと決まっており、メガネをかけ髪も七三分けされ顔も整っている。
如何にもダンディーでモテそうな顔立ちだ。
もう一人は女性、年齢は僕と同じくらい、背はこの部屋にいた女性と同じくらいで160前後、髪は短く見た目活発な女性といった印象を受ける。
美人というよりかは可愛い系の顔立ちをしている。
服装はショートパンツに黒のストッキング、Tシャツにフードの着いたパーカーを羽織っていた。
「君も掛けなさい」
入って来た男性が、一緒に入って来た女性に対して言葉をかけると、女性は無言のまま僕と向かい合うような位置でソファーに腰掛けた。
僕は目の前にいる女性が気になり、見つめていると目と目が合ってしまった。
こ、これは恋なのか...、いや違う女性の目力だ。
誰にも媚びない、誰にも従わない、そんな強気が目から溢れていた。
思わず僕は目を反らしてしまう。
それぞれに飲み物が用意され、男性が空いている一人掛けのソファーに座ると話が始まった。
「綾瀬さんも一緒に聞いてくれ。
君には名刺を渡していなかったね。
私は本村と言う」
僕は名刺を受け取り、名刺を確認する。
名前は本村 隆治 警部補となっていた。
反対側に座る女性が綾瀬さんということか。
「良かったら君の名前も教えてもらえると嬉しいんだが」
「あ、すいません。
僕の名前は、荒木 悠真です」
「荒木さんだね。
そして、こちらに座っている女性が...」
「...」
「ちょっと機嫌が悪いみたいで、無理やり連れてこられた所為なのか...、こちらは綾瀬
葵さん、気難しい年頃なのか、あまり気にしないでくれ」
綾瀬さんの方を見ると、明らかに不機嫌そうに見える。
そして本村警部補の話が始まった。
「君達をここに呼んだのは、街中で突然出没したモンスターの件なんだ。
今日の午前0時過ぎ突如、モンスターがこの世界に出没し始めたのだ。
原因はまだよく分かっていないのだが、首都圏、大都市では既にかなりのモンスターの数が報告されている。
この県ではまだモンスターの数は少ない方だが、これからどうなるかは分からないが、各県で捜査本部を立ち上げ、この担当になったのが私だが、全国規模の捜査になると思っている。
良かったら君達で分かっていることを何でもいい、教えてくれないか」
「というか、僕だって何が起きているのか想像もつかないんですよ。
朝、起きたら外出禁止令が出ているし、警官達がゴブリンと戦っているし、訳分かんない内にここに連れて来られるし、こっちが聞きたいくらいですよ」
「まあ、そうだな。え~っと報告では、君がそのモンスターを倒したとあるが間違いないか?」
「え、そ、それは、その~、無我夢中で...」
「報告書類では、警棒で応戦したが多少の反応は見せたが致命打にはならず、やむなく拳銃で発砲、しかしモンスターは無傷、訓練を受けた警官が全員、的を外すなんて、まず考えられない。
なのに、君は何処からか剣を取り出し、モンスターを倒したとされている。
何なら銃刀法違反で逮捕しても良いのだけど」
逮捕という言葉で、一瞬青ざめてしまった。
確かに許可なく剣を持っている。
これが銃刀法違反といえば違反だけど、今はアイテムボックスに入れているから、所持しているのはバレないだろう。
それに、これはゲームの世界が現実になった事で起こったことであって、所持していた武器が現実でも使えるようになっただけで、別に隠し持っていた訳ではないし...、ん、ゲームが現実に...。
「もしかして、シンライが原因なのか?」
「なるほど、君も綾瀬さんと同意見ということか。
実は君が来る前に綾瀬さんからも事情聴取を受けてもらったのだが、まあ、それで不機嫌になったのかも知れないが、君もシンライというゲームをやっていたのか?」
「はい、まだ始めたばかりでしたが」
「綾瀬さんの話を聞いて、こちらでもシンライと呼ばれるゲームにアクセスしようとしたのが、全くアクセス出来ない状態、ゲームメーカーの本社に連絡を取っているのだが、音信不通状態で何が起きているのか原因不明な状態だ。
荒木さん、君に質問だがゲーム内で所持していた武器、防具、道具は全て今手元にあるか?」
僕は所持を確認してみるが、全て有りそうだった。
「はい、多分あります」
「ゲーム内での君のレベルは分からないが、レベルは1に戻っているか?」
「はい、初期値に戻ってます」
「ウム、綾瀬さんと同じということか。
荒木さん、君の元のレベルはいくらだったんだ?」
「はい、まだ始めて2週間位なので、確かレベル10までは上がっていたと思います」
「レベル10か...、それなら戦闘経験もないし、武器や装備などは揃っていないかな?」
「すいません。ほとんど始めに貰った装備ばかりです」
「そうか...、綾瀬さん、装備を少し分けてもらうことは出来ないだろうか?」
「それはお断りします。
ゲームの中でレベルを上げて装備を集めるのに、どれだけ労力と苦労するのかを分かりますか?
それをタダで渡せとは無理なお願いです!」
「はぁ~、これからチームを組んでもらおうと思ったのに...」
「は~あ!、チーム?、そんな事聞いてないし、私一人でやれるわ」
「ち、チームって何ですか?」
「荒木さんにも話しておかないといけないな。
突然モンスターが出現した訳を捜査する為には、拳銃が効かない今、モンスターを倒せるのは君達シンライをやっていた君達プレイヤーが必要不可欠なのだよ。
因みに綾瀬さんはレベル1から既にレベル6までレベルを上げている。
これはレベルが低くても武器が良いから、モンスターを倒しやすいという利点がある。
だから...」
「だからと言って、武器をはいとは渡せませんからね」
「ん~、仕方ないな。
取り敢えずこの4人でチームを組もうと考えているんだが、どうかな?」
「チームと言われても僕は一体何をすればいいのか分からないんですが...」
「私はチームなんて、まっぴらゴメンだわ。
チームなんて私の足を引っ張るだけじゃないの、一人でやらせてもらうわ」
「ん~、それは困るんだよね。
綾瀬さん、だからと言って個人で身勝手な動きをされると捜査の邪魔になるから何らかの理由を付けて逮捕するということも視野に入れていて欲しい」
「そ、そんな事、警察の横暴よ」
「何とでも言ってくれ。
私は捜査の為なら何だってするさ」
「くっ」
綾瀬さんは下を向き、膝に置いた手に力が入って震えているのが僕からでも見えた。
怒りに任せて暴れたいというのが本音だろうけど、ここは県警本部内、直ぐに逮捕されることは目に見えて分かった。
だから必死で怒りを堪えているんだろう。
「君はどうするかい?」
僕は頭の中で整理していた。
断ることはまず無理だろう、断ったら何か理由付けて逮捕とまではいかないだろうけど、イエスというまで留置場に入れられるかもしれない。
それならば協力して...、だけどモンスターと戦うとなると、ゲームのようにはいかないだろう。
ゲームの中ではモンスターにやられても痛みは感じず、死んでもセーブした所まで戻る事が出来る。
でも今は現実にモンスターと対峙する事になるとしたら、攻撃を受けたらどうなる?死んでしまったらどうなる?不安要素ばかりだ。
それにゴブリンやスライムなら何度も戦ったから戦いなれているけど、未知の戦った事のないモンスターが現れたら戦えるだろうか?
更にドラゴンとか現れたら、僕の人生一瞬で終わってしまうのでないかと思ってしまう。
「すいません、僕はまだこのゲームの経験も浅いし、レベルも低い。
それに装備も初期装備しかないので、このチームには足手まといではないかと」
「それは大丈夫よ、私と一緒だから」
「えっ」
そこに割って話してきたのは、秘書だと思っていた女性だった。
「挨拶が遅れたけど私は新庄 弥生。
どうして私達がこの捜査の担当になったのか分かる?」
「いえ、分かりません」
「それは私がシンライというゲームをやっていたからなのよ」
「え、そうなんですか」
見た目ゲームしそうにない人なのに、このゲームをやっていたなんて...。
「それじゃ半強制的に、このメンバーでチームを組む。
その分、君達には特別捜査班として権限を与える。
三人には戦闘パーティーを組んでもらう。
リーダーは新庄くんだ。
皆は私の指示に従って行動してもらう。
目的はモンスターが現れた原因を追及する事、その為には仲間を増やしながらレベルを上げて行こうと思う。
実際、シンライに関する事は、はっきり言って何も分からない状態だから、戦闘のことは綾瀬さんが長くやっているから綾瀬さんに聞こうと思う」
「捜査班としての権限とは何ですか?」
「荒木さん、それは私の判断で警察官として採用するということだ」
「ということは僕は今日から無職ではなく公務員ということですか?」
「そう言うことだ」
「やった~!無職とはおさらばだ」
「だが基礎体力のない君が弱音を吐くか心配だけどな」
「そ、そんな」
「まあ、暫くは捜査というよりかはレベルを上げる事に重視しよう。
それと他にこのゲームをやっている人物は居ないか?
どうしても人手不足でな」
「私はソロプレイヤーだから」
「僕は、近くに湊がいるはずなのですが」
「良かったら連絡をして協力してもらえないだろうか」
「分かりました。連絡してみます」
僕はゲームの時のように湊に連絡を取ってみた。
『湊、無事か?』
『悠真か、ちょうど良かった助けてくれ』
『どうしたんだ?』
『家の周りにゴブリンがいてでられないんだ』
『数は?』
『3匹だけど、何故かレベル1になっている俺には倒しきれない』
『分かった直ぐ行く』
僕は本村警部補に説明し、三人でチームなんてを組み湊を迎えに行く事になった。
ゴブリン3匹なら、三人で行けばたとえレベル1でも何とかなるだろう。
それに今回はレベル6の綾瀬さんもいるから、余裕だろう。
そう思いながら覆面パトカーに乗り込んだ。
ファンタジーだから分かると思いますが一応、
この作品はフィクションであり、場所、建物、人物は架空の物であり実際の物とは一切関係ありません。