表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
努力の先に  作者: 遅い人
3/3

突飛な奇怪

努力ってなんだろう?

幼い僕は必死で考えた。

努力って、根気って、諦めないって、上限ってなんだろう?

はたしてそれが悪でもいいのだろうか。悪も正義もどちらでもいいのなら僕はどちらになるのだろう。

そもそも悪とはなんだ? 正義とはなんだ?

正義という言葉を掲げて弱者を虐める。そんな輩も世の中にはいる。正義で培った権力によって悪に援助する輩はなにがしたいんだ。

悪と一口に言っても、ダークヒーローという言葉がある。ヒーローは正義の代名詞ではないのか。

悪と正義は二律背反で、呉越同舟なはずなのに。

誰にでもその二つは存在する。

もしかしたらそれが普通なのか。常道なのか。じゃあ僕はすでに努力はできても、正義か悪かは選べない。民主主義のこの国で。

じゃあ僕はなにになるんだ……?

仮に僕自身に天秤があるのなら、正義と悪を決める努力の天秤があるのなら、僕は少しでも正義に傾きたい。



ブレザーの少年を取り囲んだ一団は◯◯が横断歩道を渡りきる頃には、路地裏へと入っていた。

「なあ? いいだろ。今月ちょっと使いすぎちまってさー。ほんの少しだけでいいんだけど、金、貸してくれないかなぁ?」

「ホント頼むよ。一人一万で合計四万でいいからさ」

「ハハッ! 今圭くんが少しって言ったのに、たっけぇ!」

各々勝手なことを言い、自分が優位にいることを確信した(慢心とも言う)笑みを浮かべる。

変わってブレザーの少年は、

「今お金持ってなくて……すみません。他を当たってください……」

小さな声で顔をひきつらせて言うのがやっとだった。

「なにぃ? ちょっと周りがうるさくて聞こえなぁーい。もしかして、てめぇらにやる金はねぇよとか言った?」

朝の通勤通学ラッシュの時間帯と言ってもここは路地裏。さらにはブレザーの少年に対する茶髪の男の顔は、無駄に近い。室外機の騒音があっても十分聞こえただろう。

「い、いえ! そんなことは一言も!」

焦って声が大きくなる。

茶髪の男は笑顔を捨て、眉間にシワを寄せる。

「うるせんだよ!!」

茶髪の男の右手が拳をつくり、ブレザーの少年の鳩尾にめり込む。同時にブレザーの少年は体を曲げ、膝を折って痛みに耐える。

「他に聞こえたらどうすんだよ?」

込み上げてくる嘔吐感。それと嫌悪。憎悪。当然の感情だ。

「俺ら金さえ貰えばいいからさぁ。早く出してくれない?」

当然一般の高校生が学校に行くのに、四万円なんて大金を持っているわけがない。

明らかにいたぶるための口実。そうでなければただの馬鹿だろう。

茶髪の男が唐突に右足の蹴りを頭部に向ける。抵抗することなくコンクリートに体を打つ。

「ゴミがァ……」

この少年、見た目に反して相当な短気。さらには大衆と違ったものは嫌い。だが嫌いなものにも憧れる。そんな人間味のある人間。

ブレザーの少年の右手に力がこもる。

次の瞬間には茶髪の男の頬を殴り飛ばしていた。

「てめぇ!?」

後ろにいたパーカーが声を荒げ、強く地面を踏みつけながら早足でブレザーの少年に近づく。手を伸ばし後ろから掴みかかろうとした。

だがその手は、百八十度逆を向いた。

ガッという硬いものを擦り合わせたような、鈍い音。

「ぅへ……?」

パーカーは理解が出来ずに発音が怪しい、もしくは言葉でもない言葉を口にする。

一瞬遅れてやってくる激痛。腕からの痛みは当然。それより、肩が千切れたかと錯覚するほどに痛みが走った。

肩が外れた。腕の骨が折れた。

パーカーにそれは理解できなかった。ただわかったのは、体がいきなり曲がったということだけ。

パーカーはそのまま何も言葉を発することなく、重力と共に落ちる。

茶髪の男は殴られながらも、パーカーに起こった出来事を目視した。それでもわかったのは、やはりパーカーと同じ。

いきなり起こったわからないことに対する感情は、恐怖。それに埋め尽くされた。

威力はそれほどでもなかったが、脚から力が抜け尻餅をつく。

残りの二人は狼狽えるしかない。

「かかってこい」

挑発。

自分のすぐそばで立ち上がった黒髪の少年に皆が驚く。

真っ先に反応したのは、ただ立ち尽くしていただけの二人。入ってきた方向へ全力疾走。

それに遅れないよう、茶髪の男も腰を必死で上げて走る。

彼がやったと確信はないが、ただ怖かったから逃げた。

三人が走り去った後、ブレザーの少年も座り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ