水戸
ランキング制度は、人間の貪欲さゆえに成り立つものだと思う。上位に名を列ねれば他人から注目され、自分より順位の下のものは格下だと一目でわかる。
上に行けば凄いとちやほやされる。重宝される。自分もそんな存在になりたい。そう思って、上の者を倒すために努力をする。上の者は下の者にやられまいと努力する。結果相乗効果で全体的にレベルアップされる。
順位をつけるのは極めて効率的な方法だ。色んなところで採用されている。競わせるのが重要なのだ。
僕が住んでいる町でもランキング制度が行われている。いや、昨今珍しくもないけれど。
「水戸君水戸君」
「ん?」
名前を呼ばれておもむろに振り向く。そこに居たのは見馴れた顔をした高江静。
「どうしたのかな小学生。こっちには高校しかなくて、小学校は真逆だよ」
高江の前にしゃがみこみ笑顔で視線を合わせる。
ほぼ毎日やっていることだけど、今日も高江の下瞼が上がる。
「毎日三回くらいは言ってるけどさ、私は平均身長より少し低いだけだよ……」
「でも頭一つくらい身長違うよね」
「それは水戸が高いだけであって私は低くない。牛乳だってセノ◯ックだって毎日飲んでるし」
セ◯ビックはあんまり効果がないって話だけど、ここでは黙っておこう。頑張ってるみたいだし。周りを歩く人の中に関係者がいたらとても気まずいのもある。
言ってはいけないと自分に言い聞かせ、隠したことがバレないように冷静を装う。眼球が自然と横に動き、都合よく話を逸らせそうな一団を見つける。
通勤通学ラッシュに馴染みこむ、どこかの高校のブレザーを着た一人。だがその回りには、取り囲むように歩く私服の四人。二人は髪を染めていて四人全員が同じピアスをしている。明らかにアンバランスな集団。
なにより一番アンバランスなのは、四人は気持ち悪い笑いを顔に張り付けているのに、ブレザーの少年は、顔の筋肉を張り詰めて自分の足下を凝視しているところだ。
「高江。僕が遅刻したら、義務を果たしてるって言っておいて」
片側二車線を突っ切るために、五十メートル程先にある横断歩道を目指す。
「水戸。私言わないよ」
普段嫌がらせしてるからってここで仇をなしてくるつもりか!? たち悪すぎるだろ!
「その顔から考えるに、私が嫌がらせで言わないと思ってるでしょ……」
「そりゃあ、まあ」
「私は水戸が始業の時間に間に合うと思うから言わないだけだよ」
僕は面食らった。身贔屓というか過大評価というか、どうも高江は僕を信用しすぎだ。だけど、
「ありがとう」
「うん。行ってらっしゃい」
僕は路地裏に入っていく一団を確認して、アスファルトを蹴る。