深夜の訪問者。
*主要人物紹介*
◯涼子・・・大学生。実家を離れて都会で独り暮らし中。
◯聡美・・・大学生。涼子の友達。
「よし!バイト終わった」
すっかり暗くなった空を見上げて私はつぶやいた。
パン屋でのバイトを初めて今年で1年目になる。
最初は欲しかったブランド物のバックを買う費用を貯めるためにこのバイトを始めたのだが、意外と楽しく目標の金額が貯まった今でも何だかんだで続けている。
「もう夜8時かぁ…。今日は疲れた。早く家に帰ろう」
腕時計を見ながら私はそう思った。
その時だ。
「リリリ…!」
ポケットに入れてた携帯が勢いよく鳴り出した。
「はい、もしもし」
「あっ!涼子やっと電話に出た。私よ」
電話は聡美からだった。聡美は大学の同級生だ。学科も同じだったせいか自然と仲良くなり今に至っている。
「ごめん、ごめん。ずっとマナーモードにしてて…。どうしたの?」
「これから涼子の家に行っていい?私、当分笹野の授業休んでたじゃん。ノート見せてよ」
「聡美いい加減授業出ないと怒られるよ」
「いいじゃん。いいじゃん。少しぐらい。来週の授
業は出るからさ」
聡美は笑いながらそう言った。
「はぁ…。本当にもう…。家に着くの9時頃になるけどいい?」
「もちろん大丈夫よ。ありがとう!家の下で待ってるから」
そう言うと聡美は勢いよく電話を切った。
「あ~涼子やっと来た。待ったよ~」
私が住んでるマンションの玄関で聡美が手を振っている。
「私9時頃になるって言ったじゃい…」
私は小さな声でそう呟いた。
「そう言えば、涼子隣人が誰か知ってる?」
ノートを見ながらいきなり聡美はそう言った。
「隣人って私の部屋の?」
「そう、ここ504だから505号室に住んでる人のこと」
「う~ん。見たことないなぁ。それがどうしたの?」
「いや…。最近怖い事件とか多いじゃない。深夜の訪問者っていう都市伝説知ってる?」
「あの夜中に包丁を持った男の人が家に来て殺されるってやつ?あんなのただの噂よ」
私はきっぱりとそう言った。
「実はその話、続きがあるの。その男、実は隣に住んでた人で殺された女の人が好きだったの。でも話しかけても相手にされなかったから、ずっと自分の物にしようと思って殺したわけ。殺した後、死体の指に指輪をはめたそうよ」
「で、その男は捕まったの?」
「いいえ…。警察が動くまで5日間かかったの。その間に男はどこかに消えたっていう噂よ。だから捕まってはいないわ。ちなみに死体にはめた指輪とれなかったそうよ」
聡美は真剣な顔でそう言った。
「ちょっとやめてよ…。怖くて夜寝れなくなるじゃない」
私は急に怖くなって聡美にそう言った。
「怖かった?フフッ…。噂よ!」
聡美は笑顔でそう言った。
「な~んだ!もう怖がらせないでよ!」
私は聡美の方を叩きながらそう言った。
「あっ…。もうこんな時間。涼子今日はありがとうね!私帰るね」
そう言って聡美は帰って行った。
「もう…。聡美は勝手なんだから…。私もシャワーをしてから寝よう」
そう思って台所の方向へ向かった時だ。
床に何かが落ちてる。
「ん…。なんだろコレ…。指輪?」
拾ってみると銀色の指輪のようだ。
「聡美が落として行ったのかなぁ。また明日返せばいいよね」
私は瞬時にそう決めると指輪を机に置いた。
シャワーを浴びた後、疲れてたのか私はすぐに眠りについた。
「ピーンポーン…」
暗闇の部屋にチャイムの音が鳴り響いた。その音で私は目が覚めた。
いったい誰だろう…。スマフォの画面を見ると時刻は深夜2時15分だ。聡美が指輪を取りに来たのだろうか?
そう思った私は玄関の方向へ向かった。
「聡美?聡美なの?」
ドア越しに私は呼び掛けてみた。
「指輪取りに来た」
微かではあるがドアの向こうから声が聞こえた。
「もう聡美ったら…。怖がらせようと思ってこんな時間に来たんでしょう。怖くなんかないからね」
私はそう言いながらドアを開けた。
そこには真っ黒な男が立っていた。
男を見た瞬間、私の顔から血の気がひいた。
「ユビワトリニキタ。ソシテキミニツケテアゲル」
男はなんとか聞き取れるような声で私にそう言った。
「えっ…。指輪…。私に?あなた誰?」
私は恐怖でひきつった顔をどうにか元に戻しながらそう言った。
「オマエノコトズットミテタ。スキ。ズットイッショニイヨウ!ユビワ!ユビワ!」
男はニヤリと笑みを浮かべながらそう言った。
その後の記憶は私にはない。気が付くと私は病院のベットで寝ていた。警察の話しによると私はドアに挟まれるような形で倒れていたらしい。
べつに乱暴をされたり家を荒らされた訳でもないらしい。
警察に男の事を話したのだが、調べてみるの一点張りだ。
次の日、私は退院した。
ただ、私には一つ疑問がある。
指輪が取れないのだ。
銀色の指輪だ。
何度、引っ張っても取れない。
そして、夜になると怖い夢をみてしまう。
その夢には真っ黒な男が出てきて私の耳元で微笑みながら囁いてくるのだ。
「ずっと一緒だね」と……。
あんなことがあった後でも私は隣に住んでいる人のことを知らない。