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ある日の思考

作者: ゆっこ

ひたすら元子が悶々としています。

女性は案外引きずらないのですが、元子はどうやら違うようです。


▼4/5に少し修正しました。


萩谷元子は疲れていた。


目の前の授業に集中することができない。

最近、まともな睡眠がとれてないせいで眠気が酷い。教授の話が耳からすり抜けていく。

今はやっと3限目で、授業名は…忘れた。

とりあえず月曜は経済系しかとってなかったはず。どれも出席をとる授業なので、面倒この上ないが、来月には考査があるため嫌でも受けなければ単位が取れない。

元子は必死に眠気と戦いながら、教授の話に耳を傾けた。


「…~独占である。これは競争する他企業との関係が非常に強いことが特徴である。寡占状態になると不完全競争にあるため、他社の値下げには追随するが、原材料の値上げ等には即座に――…」



独占…か。

教授の話を聞いているうちに、思わず修平のことを思い出してしまった。



元々、修平とは幼馴染だった。

高校卒業時に思い切って告白をしたら、どういうわけかオッケーされて付き合い始めた。その時はめちゃくちゃ浮かれたが、今思えば奇跡に等しい。


付き合い始めの頃は、ひたすら幸せだった。大学は違っても、運がいいことに駅が数個違うだけで、時間が合えば毎日行き帰り一緒に通学した。

そう、ほとんど毎日、会えたのだ。もし時間が合わなくてもあっちが予定を調整して会うようにしてくれたし、私をいつも優先してくれた。


いつだったか、彼に内緒で大学まで迎えに行ったことがあった。

修平は、なぜか私がそっちの大学に行くことを嫌がっていて、いつも中間の駅などで待ち合わせをしていた。しかしその時は授業が早く終わって、一度あっちの大学を見てみたいなと思い、彼に内緒で大学へ行った。

しかしさすがに構内まで行く勇気はなかったので、門の近くで彼が出てくるのを待ちながら、大学の様子を見ていた。


暫く待っていると、たくさんの大学生が通る中、男女のグループが門に向かって歩いてくるのが見えた。

私は何気なくそちらの方に向くと、見知った顔の人を見つけた。


それは修平だった。



私はその時、なぜか声をかけられるのが憚られた。

隠れる必要はないはずなのに、思わず門から離れたところに逃げ、近くの木に身を潜めた。

少し遠くからそのグループを見ると、そのグループはまるでどこかのモデルか、というほど皆顔が整っており、スタイルがよく、なにより雰囲気がキラキラして楽しそうだった。

そして修平の方を見ると、綺麗な女性が彼の両サイドで腕を組んで、にこにこと会話をしていた。


「~だから、まじだって」

「ええ~うそだあ~」

「ほんとに?」

「ほんとに!これでも彼女いるんだって」

「じゃあその彼女、修平のこと独り占めしてるんだ~ずるいっ」

「そうかな」

「そうだよっ、かなも修平のこと独り占めしたいっ」

「わたしも独り占めしたいわ」


楽しそうな会話が耳に入る。思わず耳を塞ぎたい衝動に駆られた。

そんな私の葛藤とは裏腹に、楽しそうな会話は止まらず耳にするすると入り込んでくる。


「ねえ修平、私とも付き合ってよ」

「ええ?」

「あっずるーい!かなも!」

「うーん、そうだなあ…」


これ以上は聞きたくなかった。

私は耐えきれなくなり、彼らに気付かれないよう、俯きながら急いで構内に入り、女子トイレの個室に駆け込んだ。



「なに、あれは」

思わず個室の中で声を出してしまった。

修平が女の子に腕組まれてて、それで彼女たちに誘われてて、それで、


「あ――……、」

頭を抱えてしゃがみこんだ。

見たくなかった。自分の彼氏が誘惑されているところは。酷くショックだった。

わたしの、私の彼なのに、なんで腕を組んでいるの。どうして。


さっき見た場面が頭に浮かんできて、怒りが湧いてくる。

組んだ腕をぎゅっと力を入れ、爪を立てる。痛みで湧いてくる怒りをやり過ごそうとしてもなかなか収まらない。


あれは、世間でいう浮気というものだろうか。


いや、もしかしたら修平にとってあれは浮気をしている内に入らないのかもしれない。

だから、彼女らと腕を組んでいたのかも、しれない。

そう思ったが、脳裏に浮かぶ先ほどの光景に、どうしようもない嫉妬心が止まらない。


わたしは彼に問い詰めたほうがいいのだろうか。

でもそうすると、内緒で大学に来てしまったことがばれてしまう。


―――独り占め


さっきの女の子たちが言っていた。

私がずるいだって。

ということはあの子たちは修平のことが好きなのだろう。

でも、私はずるくない。彼女だから独占して当然なはずだ。なにか間違っているのだろうか。

そういえば、修平はあの子たちから付き合おうと言われても否定していなかった。


次の瞬間、私は最悪な予想に思い至った。背筋に冷や汗が流れる。




もしかして


私はもういらないのか。



そんな考えに思い当たってしまい、私は膝に顔を埋め、暫くそこで蹲った。


――――――――――




あの日、あの場面を見てから私は修平に対して見方が変わった。彼の言動全てに疑うようになってしまった。


“彼は、私に合わせているだけかもしれない。”

“もしかしたら、暇つぶしなのだろうか。“


そんな考えが始終、頭の中を回るようになった。

そして、いつ別れを切り出されるのかと、ビクビクする日々を送った。


思えば、あの時が始まりだったのだ。

あれがきっかけで、修平のことを以前より信じれなくなり、幸せ気分がどこかへ飛んでいってしまった。




そんなことを考えていると、スライドがいつのまにか変わっていた。元子は慌ててスクリーンに映っているものを自分のノートに書き写しながら、思考に耽る。



あの頃の私は、彼に疑問を持ちながらもあの関係を続けたかった。彼のことを独占したかった。

信じられなくなっていても、決して好きという気持ちが色褪せることはなかった。

…我ながら一途すぎる。

しかも自分から別れを切り出した後でもひきずっているんだから、どうしようもない。


自分でもどうしてこんなに彼のことが好きなのかはわからない。


きっと一生かかってもわからないだろう。そんな気がする。



私は自分のどうしようもない気持ちに辟易としながら、気を取り直し、前を向いて授業を受けた。








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