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正義執行と女騎士





 城の最深部で、〈BOT〉を産み出す〈BOT〉の王。光も届かぬ闇の奥底で一人、無意味な生産を続ける彼の目的は、一体何なのか。


 ……やっぱり、気になる。

 見物するくらいなら、いいだろう。

 パーティに入っていなければ、討伐隊と見なされることもないはずだ。あくまで中立の立場なら理不尽な〈垢BAN〉の対象にはならない……、と思う。

 グランドクロス城、最深部。地下墓地や地下水路を抜けた先にあるのは、何て事のない、洞穴だ。今は魔物の巣窟となったこの城を統治していたかつての王が、志しなかばにして放置した城の奥の奥。現れるモンスターもダンゴムシやコウモリなどの小物がほとんどで、よっぽどの好事家でも無い限り冒険者達も近づかない領域である。

 グランドクロス城の深部はワープ禁止だから、苦戦しそうなモンスターが出るフロアを避けながら進む。まだモンスタースキルが実装されていないから、BOSSにでも遭遇しない限りやられることはないだろうが、慎重を期すにこしたことはない。DEADになってしまったら、ひとりでは帰れないのだ。

 先を進む討伐隊が、崖の下に見えた。場に似合わぬ一次職と次々と交戦し、これを倒している。

 あれが今回、討伐隊が闘う〈BOT〉なのだろう。討伐隊は全員が熟練、というわけではなさそうだが、さすがに単体で出てくる一次職に負ける事はなさそうだ。見たところ、一次職〈BOT〉たちは装備も皮鎧にハンドナイフとか、粗末なものである。

 遠巻きながら、討伐隊の士気が弛緩している事に気付く。

 〈BOT〉という絶対的な〈悪〉を、はるか高レベルのキャラクターで駆逐する喜び。第三者的にはどちらが〈悪〉かわからない。というより、弱い者いじめにしか見えない。

「シェバさんは、この状況をどう思ってるんでしょうか?」

 仕方がないとか、……それでも自分は正義なんだ、とか。

 ……俺には、なんとなく分かる。

 多分、青臭いことを考えている。これは必要悪だとかなんだとか。

 何せ、シェバは俺なのだから。





 統制が、とれなくなってきた。

 血気盛んな自警団達は、シェバの制止も聞かず、我先にと功を争うように〈BOT〉を〈駆除〉しは続けている。

 もしこの自警団達がノーマナー行為で処罰されるとしたら、一番重い責を負うのはシェバ。

 何せ彼は、リーダーなのだ。

 もしそうなったら……。シェバは心を傷つけられて、この世界を去るだろう。

 それは、俺の望みでもある。

 イングリッドさん。

「何でしょう……か」

 イングリッドさんの望みは、この世界の繁栄だよね。

「そうです」

 ……この場合、どうするのがいいと思う?

 まさか〈BOT〉を助けるわけにはいかない。。

 だけど、このまま自警団を野放しにするのも違うような気がする。

「……戦いを、なんとかやめさせる……、とか」

 それが無理だと分かって、イングリッドさんは答える。

 確かに、この世界で実装されていない俺が持つ三次職の力を使えば、彼らを無双して武力で追い払う事はできるかもしれない。

 だけど、それは彼ら自警団が今〈BOT〉たちにしている理不尽な暴力と同じだ。

 ……ほら、力の差をことさら実感した自警団が、今度は〈BOT〉たちを嬲り始めた。あえて低レベルのスキルで、混乱させたり、睡眠させたりと思うさまだ。

 見ていて、気分が悪くなる。

「あんまり、深く考えるなよ、ノブナガ」

 ?

 誰だ?

 振り向くと、どこかで見覚えのある女騎士が立っている。

 赤いポニーテールをなびかせ槍を翻し、その女騎士は崖を飛び降りていった。




 赤い髪を翻して、崖下に飛び降りていく女騎士。顔にはマスク・オブ・ゾロよろしく黒い仮面を付けているから素顔は分からないが、なんだかどこかで会ったような気がする。

 崖下に飛び降りると、

「お、お前も〈BOT〉狩りの仲間に入りたいのかい?」

 なんて顔で討伐隊が女騎士に振り向いた。そして下卑た笑みで右手を差し出す。

 仲間なら、よろしくやろうぜ、という感じだ。

「ははっ、誰が?」

 その右腕を、槍一閃切り落とす女騎士。

 うろたえた討伐隊の一人が、肩を抑えて叫ぶ。

「はっ、何だ!? お前〈PK〉か!?」

 PK=プレイヤーキラー。

 血に飢えプレイヤーを狩る悪徳プレイヤー。多くのMMORPGで忌み嫌われる存在である。

「フン、ドッチがじゃん?」

 間髪入れず、首を跳ねる女騎士。

「!? お前、何をやってるのか分かってるのか!?」

 他の一員が女騎士を怒鳴りつける。女騎士は答える。

「あん? 正義の美少女騎士様が〈PK〉を排除しにやってきたのさ」

「何……」

 美少女とか自分で言うかあの女騎士……。どうやら相当いい性格の持ち主のようだ。

 女騎士は続けて討伐隊に問う。

「確か、この討伐隊のリーダーはシェバさんだったな」

「……お前、シェバさんの知り合いか?」

「あ……、いや、知り合いじゃないんだが、風のウワサでそう聞いてな」

 風のウワサ……。どうやらシェバはすでに結構な有名人のようだ。さすが10年前の俺である。

「シェバさんを呼んでくれるか」

 討伐隊を名乗るからには、それなりに腕に覚えのあるプレイヤーが集まっているはずだ。そのプレイヤーを、あっという間に葬り去った女騎士が、リーダーを呼んでいる。

「……僕がシェバですが」

「フン、いつ見てもイケメンだな」

「は?」

 二人の間に、気まずい空気が流れる。

「いや、何でもない。ごばくだ」

「あ、はぁ、そうですか」

 この世界では、たいていの失言は「ごばく」といえば許される。それを知っているとは、あの女騎士、腕だけでなく頭も相当な切れ者だ。

「……」

「……」

「シェバさん」

「はい」

「これが、君の望んだ世界なのか?」

「……」

「人形を殺戮して、何が楽しい?」

「……楽しいわけでは……、ありません」

「そうか? 少なくとも君の仲間達はとても楽しそうだったけど」

 討伐隊の隊員達は、バツが悪そうに目を伏せる。皆、正義というお題目に酔っていた事は、自覚しているらしい。

「大体、〈BOT〉達は無限に湧くんだろ? それをいちいち駆除したからと言って、何か意味があるのか? ほんとうにやる気なら、殺り・・・が違うだろう」

 確かに、女騎士の言うとおりだ。所詮〈BOT〉は人が操る人形だ。その大本を止めないと、たいした意味はない。

「ま、いいさ」

「?」

「だからな、そもそもお前達の目的は、〈黒騎士〉の駆除じゃなかったのか?」

「……その通りです」

「大体な、〈黒騎士〉なんて本当に存在するのか? 〈BOT〉を産み出すキャラクターなんて、居るのかね」

「だから、それを調べに……」

「じゃ、行こうぜ」

「え?」

「だから、その〈黒騎士〉とやらが本当に居るのか調べるんだよ。そいつが本当に居て、倒せば〈BOT〉たちの増殖が止まるっていうなら、やる価値はあるだろ。くだらねーことに時間を使うもんじゃないんだぜ」

 もしかしたら女騎士は、シェバたちを……、いやシェバを助けに来たのか?この無意味な戦いから彼を遠ざける為に。

 そう、シェバは下手をすると、何らかの責任を取らされるかもしれないのだ。

 しかし、この女騎士は、何の目的でシェバたちを助けるんだろう?


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