銀髪の友と風に吹かれて
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そよ風。
銀髪の暗殺者と肩を並べて風に吹かれている。
「俺さ、『ドラサガ』引退しようと思うんだ」
なんだ、唐突だな。
「あれ、意外と驚かないんだな」
別に、驚かないさ。
誰にだって、別れはある。
「なんていうか、達観してるよな、ノブナガは。本当に幾つなんだよって感じ」
なんだよ、そういうシェバこそ、もう、いいおっさんだろうが。
「そうだなー。びっくりだ。大人になったらもっと格好良くなるもんだと思ってたけど」
あんまり変わらないよな。実際。
「そうそう。変わらない。なんだか不思議な感じだよな」
結婚するのか?
「お」
顔に出たな?
「ふうー。まぁ、そういうこと」
いろいろ、面倒くさそうだな。
「そう! 驚いたよ! 結婚がこんなに面倒くさいことだなんて!」
だろうなぁ。
「でも、楽しいよ。いろいろケンカもするけどさ」
そうか。うらやましいな。
相手は、小龍か?
「は」
また顔に出たし。
「かなわないな、ノブナガには」
いやそれはみんな分かってると思うぞ。ことさら話題にしないだけで。
「そうなのか」
そりゃ、そうだよ。小龍が女プリーストに作り直してきた時、みんな「ああ」って思ったもん。
「うへ」
まったく、鈍感というか、何というか。
ま、いいさ。楽しくやれよ。
「ありがとう、な」
なんだよ急に。
「今から引退するのに変な話かもしれないけどさ、俺がこんなに長くこのゲームを遊べたのは、お前のおかげだと思ってる」
ははは。そんな、大袈裟な。
「みんな、そう思ってる。どんな時も、お前が俺たちを導いてくれた気がするよ」
お人好しなだけだよ。
「いや、俺たちにとっちゃ、勇者さ」
勇者、ね。
月並みだけど、また遊びに来いよ『ドラサガ』に。
どうせ人知れずギルド解体とかするんだろ。
「あれ、もしかして小龍に何か聞いてた?」
いや聞いてない。シェバのことだから、何となくそうしそうだなって思った。
「そうか。ノブナガってなんか他人の気がしないよな」
そうだな、俺もだよ。
だけど、淋しくなるな。
「そうなのか?」
俺を何だと思ってるんだよ。人が居なくなれば、淋しいものだろう。
「そか。なんだか嬉しいような、申し訳ないような」
ここはMMORPG『ドラゴンサーガ』の世界。
人はここで出会ったり、別れたり。
楽しんだり、笑いあったり、いがみあったり、競い合ったり。
山を越え、砂漠を越え、廃墟を探索し、巨大な敵に立ち向かったり。
愛し合ったり。
だけど、すべてはいつか消えてしまう。
人にはいつしか、必ず別れが訪れる。
だけど、希望はある。
ここはゲームの世界。
もしかしたら、この世界には希望しかないのかもしれない。
物じゃなくて、あるのはただ希望だけ。
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