勇者になろう
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[この電話番号は、現在使われておりません]
最悪な気分だった。吐き気がする。
そうだ、俺はずっと勘違いをしていた。
心の中で、ひとみんはずっと、20歳くらいだと思っていた。
シェバに初恋したのが小学生の頃だって言ってたから、そこから俺と同じ10年を過ごしたんだと思ってた。
もっと話をすれば良かったのに。
一日だけ、一緒に居ようだなんて言わずに。
自分の都合の良い時だけ呼び出さないで、何日でも、一緒に居れば良かったのに。
お互いの事、もっと話をすれば良かったのに。
恋人ごっこなんか、しないで。
目から涙があふれる。
現実世界に戻って、二日目の朝が来た。
気がついたのは、携帯電話だった。
一生分の記憶力をと念じて覚えておいた、ひとみんの携帯番号。
「おかけになった電話は、現在使われておりません」
なぜだ、そんな。
まさか、ひとみんが嘘をついたのか。ばかな。どうして。
ああ、そうか。違う、彼女は嘘なんかついてない。
生まれた時代が違うんだ。カインは15年前。俺は10年前。そしてひとみんは……。
行くか、石川県に。いや手がかりなんて、何もない。
そもそも、もうこの時代では死んでしまってるかもしれない。
俺は、無力だ。
なんだよ、結局、何も変わらないじゃないか。
彼女はきっと、いくら待っても来ない俺に絶望したことだろう。
「あなたは、人生をやり直したくはありませんか」
悲嘆にくれた俺の前に、天使が現れる。
青白く光り、小さく羽ばたいている。
「例えば、10年前に戻って、すてきな恋をしてみたり」
ああ、そうだね、天使イングリッド。
「なぜボクの名前を?」
あれだ、輪廻ってヤツじゃないのか。俺は、前世の記憶を持っているのさ。
君は、俺のことを世界を救う勇者にしたいんだろう?
「ご存じでしたか。それでは……」
ああ、いいぜ。
俺は君の世界を救う勇者になろう。
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