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勇者になろう

◇◆◇◆◇◆◇◆


[この電話番号は、現在使われておりません]


 最悪な気分だった。吐き気がする。

 そうだ、俺はずっと勘違いをしていた。

 心の中で、ひとみんはずっと、20歳くらいだと思っていた。

 シェバに初恋したのが小学生の頃だって言ってたから、そこから俺と同じ10年を過ごしたんだと思ってた。

 もっと話をすれば良かったのに。

 一日だけ、一緒に居ようだなんて言わずに。

 自分の都合の良い時だけ呼び出さないで、何日でも、一緒に居れば良かったのに。

 お互いの事、もっと話をすれば良かったのに。

 恋人ごっこなんか、しないで。

 目から涙があふれる。


 現実世界に戻って、二日目の朝が来た。

 気がついたのは、携帯電話だった。

 一生分の記憶力をと念じて覚えておいた、ひとみんの携帯番号。

「おかけになった電話は、現在使われておりません」

 なぜだ、そんな。

 まさか、ひとみんが嘘をついたのか。ばかな。どうして。

 ああ、そうか。違う、彼女は嘘なんかついてない。

 生まれた時代が違うんだ。カインは15年前。俺は10年前。そしてひとみんは……。

 行くか、石川県に。いや手がかりなんて、何もない。

 そもそも、もうこの時代では死んでしまってるかもしれない。

 俺は、無力だ。

 なんだよ、結局、何も変わらないじゃないか。

 彼女はきっと、いくら待っても来ない俺に絶望したことだろう。


「あなたは、人生をやり直したくはありませんか」

 悲嘆にくれた俺の前に、天使が現れる。

 青白く光り、小さく羽ばたいている。

「例えば、10年前に戻って、すてきな恋をしてみたり」

 ああ、そうだね、天使イングリッド。

「なぜボクの名前を?」

 あれだ、輪廻ってヤツじゃないのか。俺は、前世の記憶を持っているのさ。

 君は、俺のことを世界を救う勇者にしたいんだろう?

「ご存じでしたか。それでは……」

 ああ、いいぜ。

 俺は君の世界を救う勇者になろう。



◇◆◇◆◇◆◇◆

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