ノブナガを襲う姦計
◇
いつの間にか、フレデリカ城前でシェバを囲むようになっていた俺とひとみん。
「それじゃ、またね☆ シェバさん」
「ああ。またいつでも遊びに来て下さいね!」
ひとみんが帰って行く。彼女が作った廃人ギルドに戻れば、またいつものような男勝りで振る舞うのだろう。
それじゃ、今日は俺も戻るわ。
「うん。あ、ギルド入りの事、考えといて下さいね」
わかった、わかった。
イングリッドさんとともに、いつもの宿屋に帰る。
街中の宿屋なのに、相変わらず立ち寄る冒険者はほとんど居ない。
イングリッドさん、居る?
「はぁい」俺の呼びかけに応じ、小さなイングリッドさんが現界する
そういえばさ、イングリッドさんは、俺にこの世界を救って欲しいんだよね。
「救って欲しいというか……。よりよい世界にして欲しいというか……」
そうか。
「え、まさかやっとその気になってくれたんですかっ!?」
いや全然。
「オゥ」
でも俺、この世界でやりたいこと見つけたかもしれない。
「おおおお、ノブナガ様らしからぬ前向き発言!?」
うむ。
率直に言うと、俺は、シェバを引退させたい。
シェバを引退させたい。
シェバを引退させたい。
シェバを引退させたい。
シェバを引退させたい。
シェバを引退させたい。
「ちょ……。一体どういうことだってばよ……」
だからさ、シェバには俺とは違う人生を、歩んで欲しいな、なんて。
「まっとうに働いて、結婚して、みたいな」
そうそう。
「ふーむ」
なんだよ。
「まあ、いいんじゃないんですか?」
あれ、意外。絶対止められるかと思ったんだけど。
「内容はどうあれ、この世界でやりたい事ができたってのはよいことですから」
そんなものかね。
「でも」
ん?
「でも、それはシェバさんが望む人生なんですか?」
……。
そうだね。
それは、もしかしたら違うかもしれない。
というか、違うと思う。
シェバは本気で、この世界を良いものにしようとしている。
誰の為でもなく。それが自分の為すべき事だと思い込んでる。
かつての俺がそうだったように……。
「複雑そうですね、ノブナガ様」
うーん……。
「そういえば、ヒトミさんはどうするんですか? 明らかにシェバさんのこと、好きですよね。シェバさんがこの世界から居なくなったら、すごく悲しみそうですけど」
う。
「そもそも、ノブナガ様はヒトミさんのこと、覚えてないんですか?」
う、うーん……。でも少なくとも、関係のあった子って騎士さんは居なかったはずなんだけどなぁ。
「関係のあった子って、もう少しマシな言い方ないんですか……」
ああいや。でも覚えがないんだよね。まぁそもそも、この世界ってオレが元居た世界とは違うんだろう? そもそも俺やひとみんみたいな存在が居るわけだし。
「確かに、同じ、とは言えませんね。そもそも同じにならないようにノブナガ様はここに居るわけなんだし……」
むむむ。
「あっ、そうだ」
お?
「もしかしたら、シェバさんが納得するくらいこの世界が良いものになったら、逆に引退するんじゃないんですか?」
うお、逆説的だな。
「押してもだめなら引いてみな、っていうか、北風と太陽、っていうか。シェバさんって、こうやれ、って言われると逆のことをやりたがるフシがありません? それこそノブナガ様みたいに」
あー、それ分かる気がするわー。
「具体的に言うと、シェバさんのギルドに入って……、シェバさんが必要ないくらいギルドを楽しくすれば、彼は身を引くと思うんですよね」
……あああああー。
なんかそれ、すっげーありそうな話……。
あ、そうだ。
……イングリッドさんさ、俺、気付いたんだけど。
「お、何ですか?」
なんかさっきから、ヤケに発言が恣意的じゃないか……? 俺にこの世界で楽しませよう、そしてあわよくば救わせようって方向に何とか持って行こうとしてるような気がするんだけど。
「ぎくんぽ」
あ、危ない危ない。シェバを真人間にするという本来の目的を危うく忘れるところだったぜ……。
「そそそう言わずに、この世界を救うという本来の目的を果たしましょうよぅ」